出典 · 近現代の翻案・映像化
オンライン語源辞典
ダグラス・ハーパー · 2001年〜(2026年9月閲覧) · Online Etymology Dictionary
英語の語源辞典。OED等を典拠に語義ごとの初出年を示す。語源の記述ではこの初出年を必ず添える。
この出典が語っていること
アドニス
- 英語 Adonis が「美青年」を意味するようになったのは1620年代から。語源はフェニキア語 adon(主)で、ヘブライ語で神の名の代わりに唱えられる Adonai と同系とされる。植物では、日本の春の花フクジュソウ(福寿草)が同じ名の属 Adonis(キンポウゲ科)に分類される。 (etymonline の Adonis の項 / GBIF: Adonis ramosa Franch.、Adonis amurensis Regel & Radde(Ranunculaceae、和名フクジュソウ)。語源記事 etymologies/adonis-beauty も参照)
アイギス
- 英語 aegis の「庇護」の意味は1793年から。ギリシャ語 aigis はヘロドトスが山羊(aix)と結びつけた語で、山羊革の盾だったからとされる。アテナのアイギスは、ゴルゴンの首を付け、蛇で縁取った短い山羊革の肩掛けで、正確な使い方は分かっていないという。 (etymonline「aegis」)
アイテル
- 英語 ether は、ギリシャ語 aithēr「上層の澄んだ空気、空」から来ていて、元は「燃える、輝く」を意味する aithein に結びつく。英語では14世紀後半に「天の上層」の意味で使われ始め、化学物質の名としては18世紀から。麻酔作用がはっきり確かめられたのは1842年。 (etymonline「ether」)
人間の五つの時代
- 英語 golden age「過ぎ去った完全な時代」は1550年代から見え、ギリシャ・ラテンの作家たちの考えに由来する。 (etymonline「golden」)
アルキュオネ
- オウィディウスは、冬の穏やかな7日間、アルキュオネが海に浮かぶ巣で卵を温め、そのあいだ父アイオロスが風を外に出さず、孫たちのために海を凪がせる、と結ぶ。英語の halcyon days は、冬至のころの14日間の凪をいう言い方で、実際のカワセミの習性とは関係がない。オウィディウスより前、前3世紀のテオクリトスも、カワセミは波と南風と東風を鎮める鳥で、海のネレイデスに最も愛された鳥だと歌っている。 (Met. 11.744-748 / etymonline の halcyon の項 /『牧歌』7.57-60。日数は出典で違い、オウィディウスは7日、英語の成句は14日とする。語源記事 etymologies/halcyon-days も参照)
アマルテイア
- 英語 cornucopia(1590年代)は、後期ラテン語 cornucopia、古典ラテン語 cornu copiae「豊かさの角」から。もとは赤子のゼウスを育てた山羊アマルテイアの角を指した。 (etymonline「cornucopia」)
アマゾン族
- 「アマゾン」は a-(無い)+ mazos(乳房)で「乳の無い者」と説明されることがあるが、etymonline もデジタル大辞泉もこれを通俗語源(民間語源)として扱う。乳房を取る話そのものが、この語呂合わせから生まれた可能性が指摘されている。 (etymonline「Amazon」、デジタル大辞泉「アマゾン」補説)
- 語源としては、ギリシャ語以外の語から来たとみる説や、イラン系の「ともに戦う者」にあたる複合語とみる説(ワトキンズ)が挙げられている。確定はしていない。 (etymonline「Amazon」)
アンブロシアとネクタル
- ambrosia はギリシャ語 ambrosios「神々の」、おそらく「不死の者たちの」(a-「否」+ mbrotos「死すべき」)から。nectar は語源不明だが、「死」と「打ち勝つ」を合わせた古い詩語とする説がある。ネクタリン(nectarine)は「ネクタルのような」から。 (etymonline「ambrosia」「nectar」)
アンドロメダ
- アンドロメダは北天の星座の名で、英語での記録は1667年から。etymonline は「(縛られた)岩を除いて一家そろって天に移された」とまとめている。アンドロメダ座にある渦巻銀河が、肉眼でも見えるアンドロメダ銀河。 (etymonline「Andromeda」、デジタル大辞泉「アンドロメダ銀河」)
アプロディテ
- ヘシオドスは名を ἀφρός(泡)から説明する。語源辞典によれば、古代人はこの名を「泡」から説明したが、むしろフェニキア語など東方の言葉から来た名かもしれず、ビークスもキプロスのフェニキア語から入った可能性を挙げる。 (195-198。語源の学説については辞典での確認が必要)
アラクネ
- クモやサソリ、ダニを含む節足動物の「クモ綱(クモガタ類)」の学名 Arachnida、英語の arachnid は、ギリシャ語 ἀράχνη(クモ、クモの巣)から作られた。ラテン語 aranea(クモ)と同系か借用とされ、それ以前の語源は不明。 (etymonline の arachnid の項。語源記事 etymologies/arachnida も参照)
アルゴ船
- 名の由来は二通りに説明される。造り手アルゴスの名を取ったとするアポロドーロスの説と、形容詞 argos(速い、きらめく)から「速き船」とする説(etymonline)。 (アポロドーロス 1.9.16、etymonline「Argonaut」)
アテナ
- 神名 Ἀθήνη と都市名 Ἀθῆναι(複数形)のどちらが先かは古代から論じられてきた。現在は「神が都市にちなむ」とする見方が優勢で、語尾 -ene が地名には多く人名には稀であることが根拠とされる。都市名 Ἀθῆναι 自体はギリシャ語以前の言語に遡る可能性が高いとされる。 (ブルケルト『ギリシャの宗教』139頁(古代にも両説があったこと、-ene の語尾から都市名由来説を採ること)。etymonline『Athens』の項は「伝統的には Athena に由来するとされるが、おそらく失われた先ギリシャ語の名が同化したもの」とする)
アトランティス
- プラトンの王アトラスはポセイドンとクレイトの子で、ヘシオドスが語る、イアペトスの子で天を支える巨人アトラスとは別人である。大西洋(Atlantic)の名を、北アフリカのアトラス山にちなむ「アトラスの海」とする説明もある。 (『クリティアス』114a、『神統記』507-520、ヘロドトス1.202.4、etymonline「Atlantic」)
アウゲイアス
- 英語の形容詞 Augean(ひどく汚い)は1590年代から使われ、ヘラクレスの難業の「アウゲイアスの家畜小屋」に由来する。etymonline は、小屋には3,000頭の牛がいて30年間掃除されていなかったとし、名はおそらく auge(輝き、日の光)からと説明する。アポロドーロスとパウサニアスの話には、この頭数と年数は出てこない。 (etymonline「Augean」(2026年9月閲覧)、アポロドーロス2.5.5、パウサニアス5.1.9-10)
ボレアス
- 英語の boreal(北の)は、ラテン語 Boreas を経て、この北風の神の名から来ている。「オーロラ・ボレアリス(北極光、直訳すると『北の曙』)」も同じ語を含む。 (「boreal」「aurora borealis」の項)
カドゥケウス
- ラテン語 caduceus は、ドリス方言のギリシャ語 karykeion「伝令の杖」(kēryx「伝令」から)がなまったもの。平和の使節のしるしで、もとはオリーブの枝だったとされる。 (etymonline「caduceus」)
- 近代にはカドゥケウスは商業のしるしとなった(ヘルメス=メルクリウスが商業の神であるため)。医療のしるしとして使われることもあるが、これは蛇が1匹のアスクレピオスの杖との混同によるものとされる。 (etymonline「caduceus」)
カリスト
- ギリシャ語 ἄρκτος は「熊」で、同時に大熊座と北の方角も指した。そこから「熊座の」を意味する arktikos が生まれ、英語 arctic(北極の)になった(14世紀後半から)。木星の衛星カリストもこの娘の名で、17世紀に付けられたが広く使われたのは19世紀半ばから。 (etymonline の arctic と Callisto の項 / NASA「Callisto」(1610年ガリレオ発見)。語源記事 etymologies/callisto-arctic も参照)
カルタゴ
- 名前はフェニキア語で「新しい町」を意味する語から来ている。ラテン語 Carthago を経て英語の Carthage になった。 (Online Etymology Dictionary「Carthage」)
カストル
- ふたご座の二つの明るい星のうち、α星がカストル、β星がポルックス(ポリュデウケス)と呼ばれる。航海の守護は古く、『ホメロス讃歌』33 は嵐の海で船乗りが二人を呼ぶと、翼で翔け下りて風と波を鎮めると歌う。プリニウスは帆桁に灯る火を二つ見えれば吉、一つなら凶とし、二つのそれを「カストルとポルックス」と呼ぶと記す。のちの聖エルモの火にあたる。 (『ホメロス讃歌』33.6-17 / プリニウス『博物誌』2.101 / etymonline の Castor・Pollux の項(α星・β星の名))
ケンタウロス族
- 語源辞典は、初期のギリシャ文学ではケンタウロスはテッサリアの野蛮な騎馬の部族で、のちに半人半馬の怪物になったとする。語源ははっきりしない。 (etymonline「centaur」)
- 南天のケンタウルス座は、ローマ人にもその名で知られ、ギリシャ人にもケンタウロスとして知られていた。古代から射手座としばしば混同されてきた。 (etymonline「centaur」「Sagittarius」)
カオス
- ヘシオドスのカオスは「空隙・深淵」で、後の場面でも場所として扱われる。ティタン戦争ではゼウスの雷の熱が「カオスをとらえ」(700)、敗れたティタンたちは「暗いカオスの向こう」に住む(814)。語源的にも「ぽっかり口を開けたもの」を意味する。 (『神統記』700, 814。語源は etymonline「chaos」)
- ローマの詩人オウィディウスは『変身物語』の冒頭で、世界が形を取る前の状態を「人々がカオスと呼んだ、粗野で整理されていない塊」と描く。英語 chaos が「混乱・無秩序」の意味を持つのは、この「秩序(コスモス)の反対」という理解と、その後のラテン語訳聖書での用法による。 (Met. 1.5-9(1.7 rudis indigestaque moles)。意味の変化は etymonline「chaos」)
カリス
- 英語 charisma は、ギリシャ語 kharisma「好意、神の賜物」から来ていて、その元の kharis(優美・好意)はカリスたちの名と同じ語。一方、似た綴りの charity(慈善)はラテン語 caritas(大切にすること)から来ていて、カリスとは関係がない。 (etymonline「charisma」「charity」)
カリュブディス
- 「スキュラとカリュブディスの間」は、二つの危険のどちらを避けても他方に近づく状況を表す言い回しとして現代語に残る。ホメロス自身はこの表現を使わないが、キルケが「船ごと全員を失うより六人を取られる方がましだ」と助言する場面がもとになっている。ラテン語の成句としてはエラスムス『格言集』に収められて広まった。語源の節も参照。 (『オデュッセイア』12.108-110(スキュラの岩に寄せて漕ぎ抜けよ、仲間全員を失うより六人を嘆く方がずっとよい)、12.234-243(実際に通過する場面)を本文で確認。語源ファイル scylla-and-charybdis も参照。成句としての英語初出年は未確認)
キマイラ
- 『イリアス』は「神の生まれで人の類ではない、前は獅子、後ろは竜、真ん中は山羊(キマイラ)、燃える火の恐ろしい息を吐く」と描く。名前がそのまま「山羊」の意でもあるので、真ん中の部分が名になっている。 (『イリアス』6.179-182、etymonline「chimera」)
- 古代から火山を表したものと考えられていた、あるいは冬の嵐の象徴だった、という解釈を etymonline は紹介している。 (etymonline「chimera」)
- 複数の動物を継ぎ合わせたこの怪物の名は、英語で「ありえない空想」の意味(1580年代〜)になり、20世紀には生物学で遺伝的に異なる細胞が一個体に同居する状態を指す用語になった。 (etymonline「chimera」、世界大百科事典「キメラ」(1916年ウィンクラーの命名))
クリュティエ
- オウィディウスは花の名を書いていない。太陽の動きに合わせて向きを変える草は、ギリシャ語で「太陽(ヘリオス)に向く(トレペイン)」を意味するヘリオトロピオンと呼ばれた。1世紀のプリニウスは、この草が曇りの日でも太陽とともに回り、「それほど星(太陽)を愛している」ので夜には恋しがるように青い花を閉じる、と書いている。プリニウスはクリュティエの名は出していない。 (プリニウス『博物誌』2.109、22.57 / etymonline の heliotrope の項。語源記事 etymologies/heliotrope も参照)
クレタ島
- 島の青銅器時代の文明は、伝説の王ミノスの名から「ミノア文明」と呼ばれる(クレタ文明とも)。名づけたのは考古学者アーサー・エヴァンズで、英語 Minoan の初出は1894年。 (etymonline「Minoan」(1894)、デジタル大辞泉「ミノア文明」)
キュパリッソス
- 変わった木を見て、アポロンは「お前は私に悼まれ、他の者を悼み、嘆く人々のそばにいるだろう」と告げる。糸杉が喪の木、墓地の木とされることの由来譚になっている。英語の辞書も、糸杉の枝が葬儀に使われ、死者を悼むしるしとされたことを記している。 (Met. 10.141-142 / etymonline の cypress の項。語源記事 etymologies/cypress も参照)
ダイダロス
- ギリシャ語の daidalos は形容詞としても「巧みに作られた」の意で、英語にも daedal(巧妙な)という語が残る。 (etymonline「Daedalus」「daedal」)
ダプネ
- 意外な行き違い: 植物学の属名 Daphne(ジンチョウゲ属)は、ジンチョウゲ科の低木の仲間で、月桂樹(ゲッケイジュ、学名 Laurus nobilis、クスノキ科)とは別の植物。春に香る沈丁花の学名は Daphne odora である。ギリシャ語 δάφνη 自体は月桂樹を指し、ラテン語 laurus と関係があるとされ、ギリシャ語以前の地中海の言語に由来するとみられている。 (GBIF: Daphne odora Thunb.(Thymelaeaceae、和名 ジンチョウゲ/沈丁花)、属名 Daphne Tourn. ex L.、Laurus nobilis L.(Lauraceae)。etymonline の daphne の項。語源記事 etymologies/daphne-genus も参照)
デメテル
- ローマの対応神ケレスの名は英語 cereal(穀物・シリアル)の語源。ラテン語 Cerealis「ケレスの」から。語源の節も参照。 (etymonline『cereal』の項。形容詞1818年、名詞1832年、朝食用加工食品の意は1899年のアメリカ英語)
エキドナ
- オーストラリアのハリモグラを英語で echidna と呼ぶのは1810年からで、キュヴィエが名づけたと言われる。ギリシャ語 ekhidna「蛇、蝮」から来た語で、etymonline は、哺乳類か両生類かと迷わせた混じり合った特徴から、上半身が女・下半身が蛇の神話のエキドナにちなんだ可能性を挙げる。ラテン語 echinus(ウニ、ハリネズミ)との関係を考える説もある。 (etymonline「echidna」)
エコー
- 英語 echo は14世紀半ばから。ラテン語 echo を経てギリシャ語 ἠχώ に遡り、ἠχή(音)、ἠχεῖν(鳴り響く)と同系とされる。語源辞典も「ナルキッソスに恋い焦がれて声しか残らなかった山のニンフ」としての擬人化に触れている。 (etymonline の echo (n.) の項。語源記事 etymologies/echo-word も参照)
エレクトラ
- 精神分析の用語「エレクトラ・コンプレックス」は彼女の名に由来する。1913年にユングが、フロイトのエディプス・コンプレックスの女性版として名づけた(フロイト自身はこの呼称を有用と認めなかった)。語源の節も参照。 (etymonline の Electra complex の項。語源記事 etymologies/electra-complex も参照)
エリュシオン
- ギリシャ語 Ἠλύσιον の語源は不明で、ギリシャ語以前の地中海の言語から入った可能性があるとされる。英語 Elysian は1570年代、Elysium は1590年代から使われ、「この上ない幸福の状態」の比喩にもなった。 (etymonline の Elysium の項)
エオス
- ローマの曙の女神アウロラ(Aurora)とギリシャ語の ēōs(曙)は、「輝く」を意味する同じ印欧祖語の語根にさかのぼるとされる。北極光を指す aurora borealis(「北の曙」)という語は、17世紀のフランスの哲学者ガッサンディが作ったと言われる。 (etymonline「aurora」「eo-」)
エピメテウス
- プロメテウスの名は古くから「前もって考える者」と解されてきた(ただし民間語源とする見方もある)。エピメテウスはその反対の「あとで考える者」で、兄弟の名そのものが物語の筋になっている。 (etymonline「Prometheus」。『仕事と日』89 の「災いを手にしてから気づいた」)
エリニュス
- ローマ人はエリニュスをラテン語でフリアエ(Furiae)と訳した。英語の fury は14世紀後半からラテン語 furia「激しい情念、怒り、狂気」を経て使われ、同じ時期から「復讐の女神の一人」の意味でも使われている。 (etymonline「fury」)
エウアンドルス
- 英語 palace(宮殿)はラテン語 palatium「パラティヌスの丘」から来ている。アウグストゥスの住まいがこの丘にあったため。ただし語源辞典は丘の名そのものの由来を、「杭(palus)」、羊飼いの女神パレス、「口蓋(palatum)」など別の候補で説明し、パランテウムには触れない。 (Online Etymology Dictionary「palace」)
ガニュメデス
- 酌をする者という役から水瓶座(アクエリアス)と結びつけられた。木星の衛星「ガニメデ」は1610年にガリレオが発見した四大衛星の一つで、名を与えたのはシモン・マリウスだが、番号ではなく神話名で呼ぶ習慣が定着したのは19世紀半ば以降である。太陽系最大の衛星。語源の節も参照。 (OCD「Ganymede」の項。衛星名については語源ファイル ganymede-moon(etymonline / NASA)と同じ確認による。発見は1610年だが命名の定着は1847年以降)
- ラテン語形 Catamitus から英語の catamite(年長の男の相手をさせられる少年)という語が生まれた。Catamitus は Ganymedes の訛った形で、英語では1590年代から使われる。神話の名が近代語の語彙として残った例の一つ。 (etymonline「catamite」の項(ラテン語 Catamitus は Ganymedes の崩れた形、英語初出1590年代)で確認。OED / Merriam-Webster の catamite の項も同じ語源を立てる)
ギガース
- 英語 giant は1300年頃から見られ、ギリシャ語 Gigas(複数 Gigantes)がラテン語 gigas、古フランス語 geant を経て入った語。etymonline は、ギリシャ語の Gigas を gēgenēs「大地から生まれた」から導く説は支持できないとしている。形容詞 gigantic は1610年代から。 (etymonline「giant」)
黄金の林檎
- 「不和の林檎(apple of discord)」は、争いの種そのものを指す慣用句として近代語に定着した。英語では1400年頃から見え、ペレウスとテティスの婚礼にエリスが投げ込んだ林檎の話として説明される。 (etymonline「discord」の項が Apple of Discord を1400年頃とし、婚礼に投げ込まれた話として説明する。OED の apple of discord の項も同じ)
ハデス
- 「プルトン(富める者)」という呼び名は、死の神の名を直接口にするのを避けた婉曲表現とされ、地下から生じる富(プルトス)に重ねられた。この説明は古代人自身のもので、プラトン『クラテュロス』が、人々はハデスの名を恐れるので、地下から上がってくる富にちなんでプルトンと呼ぶのだ、と述べている。ローマの Dis Pater(dis「富める」)も同じ発想。 (403a。「富(プルトス)は地の下から上がってくるので、それを与える者としてプルトンと名づけられた」「ハデスは『見えざるもの(アイデース)』の名だと多くの者は思っており、恐れてプルトンと呼ぶ」)
ハルモニア
- 名前は普通名詞と同じ: ハルモニアはギリシャ語で「つなぎ合わせる手段、一致、音の調和」を意味する普通名詞でもあり、英語 harmony(ハーモニー)の語源。女神の名から普通名詞が生まれたのではなく、同じ一語が抽象概念としても女神の名としても使われた。 (etymonline の harmony の項 /『神統記』937。語源記事 etymologies/harmony も参照)
ハルピュイア
- 名前はギリシャ語で「ひったくる者たち」の意味で、「ひったくる」を意味する動詞と関係があるとみられる。英語 harpy は14世紀後半から怪物の名として、1400年頃から「強欲な人」の意味でも使われる。 (Online Etymology Dictionary「harpy」)
ヘベ
- 英語 hebephrenia(破瓜病、破瓜型統合失調症)は、ギリシャ語 hēbē「青春」と phrēn「心」を組み合わせた近代ラテン語で、1871年にドイツの精神科医が作った語。英語では1886年から見られる。女神ヘベの名と同じ語が使われている。 (etymonline「hebephrenia」)
ヘレン
- アポロドーロスによれば、それまでグライコイと呼ばれていた人々を、ヘレンが自分の名にちなんでヘレネスと呼ぶようにした。英語 Greek は、この「前の名」の側、ラテン語 Graeci(ギリシャ語 Graikoi)から来ている。ヘシオドスの名で伝わる断片には、デウカリオンの娘パンドラがゼウスとの間にグライコスを産んだという系譜もある。 (アポロドーロス 1.7.3。etymonline「Greek」(ラテン語 Graeci ← ギリシャ語 Graikoi)。ヘシオドス断片 M-W fr. 5 / Evelyn-White fr. 2(パンドラとグライコス))
- 男性名ヘレン(Hellēn)とトロイアのヘレネ(Helenē)は、日本語では一字違いだが別の名。ギリシャ語では子音(-ll- と -l-)も母音の並びも違い、神話上のつながりもない。 (etymonline「Hellene」は Hellēn の語源を「不明」とし、ヘレネとは結びつけていない)
ヘメラ
- 英語 ephemeral は、ギリシャ語 ephēmeros「その日かぎりの」から来ていて、epi「〜の上に」と hēmera「日」を組み合わせた語。英語では1560年代に、もとは病気や寿命について「一日しか続かない」の意味で使われ、1630年代から「はかない、つかの間の」へ広がった。 (etymonline「ephemeral」)
ヘパイストス
- 英語 volcano(火山)はローマ名ウルカヌスに由来する。イタリア語 vulcano「燃える山」を経た語で、ローマ人はエトナ山をウルカヌスの鍛冶場と考えた。語源の節も参照。 (etymonline『volcano』の項。英語での初出は1610年代)
ヘラ
- ローマの対応神ユノは結婚と成人女性の守護神で、6月 June の名はユノに由来するとされる。語源の節も参照。 (etymonline『June』の項。ラテン語 Iunius (mensis) を Iunonius「ユノに捧げられた」の短縮形とする説を採る)
ヘラクレス
- 名はギリシャ語で「ヘラの栄光」と解される(ヘラ+kleos「名声」)。自分を憎んだ女神の名を背負っている。アポロドーロスは、もとはアルケイデスと呼ばれ、デルポイの巫女が初めてヘラクレスと呼んだとする。 (etymonline「Hercules」、アポロドーロス 2.4.12)
ヘルマプロディトス
- 英語 hermaphrodite は14世紀後半から(最初の綴りは harmofroditus)。ラテン語 hermaphroditus、ギリシャ語 hermaphroditos から来ており、「両性の性質を分け持つ者」の意味。中英語では「二つの役職を不当に兼ねる者」という比喩でも使われた。 (etymonline の hermaphrodite の項。語源記事 etymologies/hermaphrodite も参照)
ヘルメス
- ローマ名メルクリウスはラテン語 merx(商品)・mercari(商う)と同語根で、英語 market も同系。ギリシャのヘルメスとの同一視より前から、商人と盗人の神という性格を持っていた。語源の節も参照。 (etymonline「Mercury」の項(merx との関係、商人と盗人の神))
ヘスペリデス
- etymonline が引く19世紀の神話便覧は、西方の地理が知られるにつれて、この楽園がどんどん西の大洋の先へ移されていったと述べる。 (etymonline「Hesperides」(Alexander Murray, Manual of Mythology, 1888 の引用))
ホーラ
- 英語 hour はラテン語 hora を経てギリシャ語 hōra から来ている。hōra は一年・一月・一日の中の区切られた時を広く指し、「季節」の意味にもなった。英語には1200年頃、教会の定時の祈りの意味で入った。 (etymonline「hour」)
ヒュアキントス
- 神話の「ヒュアキントス」の花は、今のヒヤシンス(Hyacinthus 属)とは限らない。古代のこの語は紫か濃い赤の花を指すが、どの花かは分かっておらず、グラジオラス、アイリス、ヒエンソウなどが候補に挙がる。今の植物の属名として使われ始めたのは1570年代。「花びらに文字がある」という言い方は、オウィディウスより前、前3世紀のテオクリトスの「文字の書かれたヒュアキントス」に見える。 (etymonline の hyacinth の項 / テオクリトス『牧歌』10.28 γραπτὰ ὑάκινθος。語源記事 etymologies/hyacinth も参照)
ヒュギエイア
- 英語 hygiene は、フランス語 hygiène を経て、ギリシャ語 hygieinē technē「健康の技」から来ている。元の形容詞 hygiēs(健やかな)を神格化したのがヒュギエイアで、女神の名と衛生という語は同じ根から出た兄弟にあたる。 (etymonline「hygiene」)
ヒュプノス
- 眠りの神の息子モルペウスの名は、1816年ごろドイツの薬剤師ゼルチュルナーが、眠りを誘う作用からアヘンの主成分を「モルフィン(morphine)」と名づけるのに使われた。オウィディウスが夢の神に付けた名が、麻酔薬の名として残った。 (etymonline「morphine」。『変身物語』11.633-638)
イオ
- 木星の衛星イオは、1610年1月8日にガリレオが発見した。ガリレオ自身は番号とメディチ家の名で呼び、神話の名前が正式に使われるようになったのは19世紀半ば。ゼウスの恋の相手の名を付ける流れの一つで、同時に見つかった4つの衛星はイオ・エウロパ・ガニメデ・カリストとなった。 (NASA「Io: Facts」/ etymonline の Io の項。語源記事 etymologies/io-moon も参照)
クノッソス
- クレタの青銅器時代の文明は、伝説の王ミノスの名から「ミノア文明」と呼ばれる。名づけたのは考古学者アーサー・エヴァンズで、英語 Minoan の初出は1894年。 (etymonline「Minoan」、デジタル大辞泉「ミノア文明」)
クロノス
- 神名クロノス Κρόνος と「時間」を意味する Χρόνος は、語源辞典によれば民間語源を除いて関係の無い別語(κ と χ で頭音が違う)。それでも両者を重ねる解釈は古代からあり、キケロはストア派の寓意として「ギリシャ人の言うクロノスは χρόνος すなわち時間の広がりのことであり、子を呑むとは時が年月を喰らうことだ」と説明する。これがローマのサトゥルヌスに引き継がれ、「時を司り、わが子を喰らう老人」という西洋美術の図像を生んだ。語源の節も参照。 (キケロ『神々の本性について』2.64(サトゥルヌスは季節と時の巡りを司る者、Κρόνος は χρόνος すなわち spatium temporis、saturaretur annis の語呂合わせ)。両語が別語であることは etymonline『Cronus』の項「起源不詳だが、民間語源を除けばおそらく時間の擬人 Khronos とは関係が無い」)
ラビュリントス
- オウィディウスは、行きつ戻りつ自分の流れに出会うマイアンドロス川(「蛇行」meander の語源)にたとえ、造ったダイダロス自身も入口に戻るのがやっとだったと書く。 (『変身物語』8.159-168、etymonline「meander」(カリアの蛇行する川マイアンドロスの名から))
- 語源はギリシャ語以前の言葉とみられる。リュディア語の labrys(両刃の斧、王権の象徴)と結びつけて「両刃斧の宮殿」、つまりクノッソス宮殿そのものを指したとする説が古くからあるが、言語学者ビークスはこれを「推測にすぎない」とし、狭い路地を意味する laura との比較を示している。 (etymonline「labyrinth」)
ラティヌス
- 英語の Latin(ラテン語、ラテンの)は、ラテン語 Latinus「ラティウムの」から来ている。王の名ラティヌスと同じ語。 (Online Etymology Dictionary「Latin」。リウィウス 1.2.4 ではアイネイアスが両民族を「ラテン人」と呼ぶ)
ラティウム
- ウェルギリウスは地名の由来を、ユピテルに追われたサトゥルヌスがこの地に「隠れた(latere)」ことに求める。語源辞典はこれを古い説として紹介しつつ、本当の由来ははっきりせず、「平らな土地」を意味する語根から来た可能性を挙げる。 (『アエネイス』8.319-323。Online Etymology Dictionary「Latin」)
レテ
- ギリシャ語 λήθη(忘却)は「隠れている」を意味する動詞 λανθάνειν と同じ語根から。英語 lethargy(無気力、昏睡)は λήθη と ἀργός(怠惰な)から成る λήθαργος(忘れっぽい)に由来する。また「真理」を意味するギリシャ語 ἀλήθεια は、否定の a- と λήθη からなり、「隠されていないこと」と分析される。 (etymonline の Lethe、lethargy の項。語源記事 etymologies/lethargy-aletheia も参照)
マイア
- 英語 May(12世紀初め)は古フランス語 mai とラテン語 Maius(マイウスの月)から。語源辞典は、その元をローマの大地の女神マイア(ウルカヌスの妻とされる)とし、名の起こりは不明、印欧祖語の「大きい」の語根から来た可能性がある、と説明する。プレイアデスのマイアと同じ女神かどうかには触れていない。 (etymonline「May」(2026年9月閲覧))
メントル
- 現代語の「メンター(助言者・指導者)」はこの人物名に由来する。英語の名詞としての初出は1750年で、語源辞典によれば、ホメロスよりメントルに大きな役を与えた後代の物語を通じて広まったとみられる。ホメロスでは、作中で助言するのは多くの場合メントルの姿を借りたアテナである。詳細は語源の節を参照。 (etymonline「mentor」の項(英語初出1750年、「ホメロスより大きな役を与えた後代の物語を通じて」)。フェヌロンの名は語源辞典に無いので書かない(2026-09-30 照らし直し))
ミダス
- 英語の the Midas touch(何をしても儲けに変える才)は1883年から記録がある。人名 Midas 自体は1560年代から英語に現れ、同じ頃からアポロンにロバの耳を付けられた話でも知られていた。 (etymonline の Midas の項。語源記事 etymologies/midas-touch も参照)
ミノス
- 考古学者アーサー・エヴァンズは、クレタで発掘した青銅器時代の文明を、この王の名にちなんで「ミノア文明」と呼んだ(英語 Minoan の初出は1894年)。 (etymonline「Minoan」、デジタル大辞泉「ミノア文明」)
オリュンポス山
- オリンピック(競技会)の名はこの山ではなく、ペロポネソス半島西部エリスの聖域オリュンピア。前776年から競技が行われたゼウスの神域で、テッサリアの山とは別の場所である。語源辞典の Olympic の項は山と聖域の両方を挙げ、どちらの名ももとの意味は分からないとする。日本語では表記が似ているため紛らわしい。 (etymonline『Olympic』の項は「テッサリアのオリュンポス山に関する」意と「エリスの町・地区オリュンピアに関する」意を並べ、競技が行われたのは後者だとする。『Olympus』の項はテッサリアの山を指す)
ムーサ
- 英語の music はギリシャ語 mousikē(technē)「ムーサたちの(技)」から、museum は mouseion「ムーサたちの神殿・学問の場」から来ている。museum は最初、アレクサンドリアの学術施設を指す語として英語に入った。 (etymonline「music」「museum」)
ミュケナイ
- 青銅器時代のギリシャ本土の文明を「ミケーネ文明」と呼ぶのは、この遺跡の名に由来する。英語 Mycenaean は1590年代から「ミュケナイの」の意で使われていたが、エーゲ海の青銅器文明を指す用法が生まれるのは発掘後の1890年代。神話の都市名が、そのまま一つの時代区分の名前になっている。 (etymonline の Mycenaean の項(地名形容詞は1590年代、文明名としては1890年代))
ミュルミドン人
- 英語 myrmidon は1400年ごろからアキレウスに率いられたテッサリアの民の意味で使われ、1600年ごろから「忠実で無批判な手下」(しばしば手段を選ばない含み)の意味になる。ギリシャ語 myrmex(蟻)から来たとよく言われるが、定説ではない、と語源辞典は注記する。 (etymonline「myrmidon」(2026年9月閲覧))
ミュラ
- 没薬(英語 myrrh)はアラビアやエチオピアの植物から出る香り高い樹脂で、香や香料に使われた。語はラテン語 myrrha、ギリシャ語 myrrha を経て、アッカド語 murru、ヘブライ語 mor、アラビア語 murr などセム語の「苦い」を意味する語根にさかのぼる。ミュラ(スミュルナ)の神話は、東方から入ってきたこの香料の由来譚になっている。 (etymonline の myrrh の項 / Met. 10.307-310、10.500-502。語源記事 etymologies/myrrh も参照)
ナルキッソス
- 精神医学の用語 Narzissismus(ナルシシズム)は1899年にドイツの精神科医パウル・ネッケが作った。前年の1898年にハヴロック・エリスがオウィディウスのナルキッソスになぞらえたのが下地。英語 narcissism の初出は1905年、narcissist は1919年。 (etymonline の narcissism / narcissist の項。語源記事 etymologies/narcissism も参照)
ネレイス
- 英語 nereid はラテン語を経てギリシャ語 Nēreis(海神ネレウスの娘)から来ていて、14世紀後半から「海のニンフ」の意味で使われる。1840年からは動物学でゴカイの仲間を指す語にもなった。1949年に見つかった海王星の衛星ネレイドも、発見者カイパーがこの海の女神たちにちなんで名づけた。 (etymonline「nereid」。NASA Science「Nereid」)
ギリシャ勢の帰国(ノストイ)
- νόστος(帰郷)は英語 nostalgia(郷愁)の前半の語。1688年に、故郷に帰りたいと願う病を指す医学用語として作られた。 (Online Etymology Dictionary「nostalgia」)
ニンフ
- 英語 nymph は14世紀後半から使われ、ギリシャ語 nymphē は元は「花嫁、若妻」、のちに「美しい若い女」、そして「美しい乙女の姿をした半神的な存在」を意味するようになった。英語では1570年代から、昆虫の幼虫と成虫のあいだの段階(若虫)も指す。 (etymonline「nymph」)
オイディプス
- 名前は「腫れた足」と解された。生まれて3日目に、ライオスが赤子のくるぶしを留め金で貫いて山に捨てさせたため、とソポクレスもアポロドーロスも説明する。コリントス王ポリュボスの妃がこの子を引き取り、足の腫れからオイディプスと名付けた。 (OT 717-719, 1032-1036 / 3.5.7 / etymonline の Oedipus の項(oidan「腫れる」+ pous「足」))
- フロイトは、男児が母に愛着を持ち父を競争相手とみなす心の構図を、この物語にちなんで名付けた。英語 Oedipus complex の初出は1910年、形容詞 Oedipal は1939年から。日本語では英語読みの「エディプス・コンプレックス」が定着し、神話の人物名「オイディプス」とは別の表記になった。娘の場合の「エレクトラ・コンプレックス」は、1913年にユングが名付けた対の用語。 (etymonline の Oedipus の項。語源記事 etymologies/oedipus-complex、etymologies/electra-complex も参照)
オリュンピア
- 英語 Olympic は、ゼウスの神殿があり、オリュンポスのゼウスをたたえる競技が前776年から4年ごとに開かれたエリスの地オリュンピアを指す形容詞でもある。ギリシャ語 Olympikos から、さらに Olympos から来ており、その語源は山の名でも地名でも分かっていない。近代オリンピックは1896年に始まった復活である。 (etymonline「Olympic」)
オリオン
- 星座名オリオンの語源は分かっていない。アッカド語の「天の光」Uru-anna と結びつける推測もあるが確証はない。英語での初出は14世紀後半。ボイオティアのタナグラにはオリオンの墓があるとパウサニアスは記す。 (etymonline の Orion の項 / パウサニアス 9.20.3。語源記事 etymologies/orion-constellation も参照)
パラディオン
- 英語 palladium は1600年頃から「守り神、安全を保障するもの」の比喩でも使われる。金属元素パラジウムは、1803年に化学者ウォラストンが、前年に見つかって女神の名を付けられた小惑星パラスにちなんで名づけたもの。 (Online Etymology Dictionary「palladium」)
パンダロス
- 英語の pander(男女の仲を取り持つ者、転じて情欲に迎合する)は、この名から生まれた。ただし語源になったのはホメロスの弓兵ではなく、中世のトロイア物語で逢瀬を取り持つ役に変えられたパンダルスのほうで、辞書はボッカッチョからチョーサーへ受け継がれた人物像を典拠に挙げる。名詞は1520年代、動詞は1600年頃から。語源の節も参照。 (etymonline「pander」の項で確認(中英語 Pandare は14世紀末、チョーサーがボッカッチョ『フィロストラト』から取ったもので「物語も名も中世の作り物」。名詞1520年代、動詞1600年頃)。OED / Merriam-Webster の pander の項も同じ系統)
ペガソス
- ヘシオドス自身が名の由来を述べていて、「オケアノスの泉(pēgai)のほとりで生まれたからその名がある」とする。etymonline はこの説明を民間語源の可能性があるとし、語尾はギリシャ語らしくないと指摘する。 (『神統記』282-283、etymonline「Pegasus」)
- etymonline は近年の研究として、アナトリアのルウィ語の雷の神ピハッサッシの名とよく似ており、ゼウスの雷を運ぶペガソスはその神の姿を受け継いだものだという見方を紹介している。 (etymonline「Pegasus」(Mouton ほか編 Luwian Identities, 2013 の引用))
ペロプス
- ペロポネソス半島(「ペロプスの島」)の名は彼に由来するとされる。ただし語源辞典は、この人名と地名の結びつけはおそらく民間語源だとする。語源の節も参照。 (etymonline の Peloponnesus の項。語源記事 etymologies/peloponnese も参照)
ペルセポネ
- 名の語源は古代から不明とされ、ギリシャ語内でも綴りが大きく揺れた。語源辞典は前5世紀のアッティカの壺絵に現れる Persophatta を本来の形とみて、「麦束を打つ女」の意に解く説を挙げる。 (etymonline『Persephone』の項。「この名は常に不明とされてきた」としたうえで、前5世紀アッティカ壺絵の *persophatta を原形とし、第一要素をサンスクリット parsa-「麦束」、第二要素を印欧祖語 *gwhen-「打つ」に結びつける説を紹介する)
ペルセウス
- 毎年8月に極大となるペルセウス座流星群は、放射点がペルセウス座にあることからの名。 (語源の節「ペルセウス座流星群」を参照)
パエトン
- オウィディウスが「琥珀」に使った electrum はギリシャ語 ēlektron(琥珀)から来た語。1600年にウィリアム・ギルバートが、こすると物を引きつける琥珀の性質からラテン語 electricus を作り、英語 electric(電気の)が生まれた。パエトンの姉妹の涙から電気まで、一本の語でつながっている。 (Met. 2.365 / etymonline の electric の項)
- 英語 phaeton は1590年代に「向こう見ずな御者」の意味で使われ、1742年からは軽快な四輪の馬車の名になった。天文学では、ふたご座流星群のもとになる小惑星(3200)Phaethon が、太陽に大きく近づく軌道からこの名を付けられた。1983年に赤外線天文衛星 IRAS が発見し、JAXA は探査機 DESTINY+ でこの天体を「フェートン」の表記で目指している。 (etymonline の phaeton の項 / NASA「Geminids」/ JAXA 宇宙科学研究所 DESTINY+ ページ。語源記事 etymologies/phaethon-asteroid も参照)
ピロメラ
- ラテン語の伝えでは、ピロメラがナイチンゲールになる。ヒュギヌスは、ピロメラはナイチンゲール、プロクネはツバメ、テレウスはタカになったとする。英語の詩語 Philomel(1570年代〜)がナイチンゲールを指すのも、この組み合わせと一致する。 (ヒュギヌス 45。etymonline「philomel」)
- etymonline は名の意味を「おそらく『歌を愛する者』(philos + melos)」とし、「林檎を愛する者」(mela)の可能性も挙げている。確定した語源ではない。 (「philomel」の項)
ポボスとデイモス
- ギリシャ語 phobos の原義は「逃げ出すこと」で、ホメロスではこの意味でしか使われない。のちに「恐れ、恐慌、恐怖の対象」の意味になった。動詞 phobein は「敗走させる、おびえさせる」。英訳の『イリアス』(マリー訳)は、神としてのポボスを Rout(敗走)、デイモスを Terror と訳している。 (etymonline「phobia」。英訳は『イリアス』4.440、11.37、15.119 の訳語)
- 火星の二つの衛星は、1877年にアサフ・ホールが発見した(ダイモスが8月11日、フォボスが8月17日)。ホールはこれを、ローマのマルスにあたるギリシャの軍神アレスの息子たちの名で呼んだ。NASA はフォボスを「恐れ」、ダイモスを「おののき(dread)」の意と説明する。 (NASA「Phobos」「Deimos」の頁(2026年9月閲覧)、etymonline「phobia」)
プレイアデス
- 名前の由来は二説ある。「鳩たち」(peleiades)の短い形とする説と、この星の明け方の出が航海の季節の始まりを告げるので「航海する」(plein)から来たとする説。英語での初出は14世紀後半。肉眼では多くの人に6つ、よく晴れた夜なら9つほど見え、望遠鏡では少なくとも500個の星がある。 (etymonline の Pleiades の項。語源記事 etymologies/pleiades-subaru も参照)
プルトス
- 英語 plutocracy(富裕層による支配、金権政治)は1650年代から使われ、ギリシャ語 ploutokratia(富の、または富める者の支配)から。ploutos は「富」。 (etymonline「plutocracy」(2026年9月閲覧))
ポリュデウケス
- ラテン語形ポルックス(Pollux)は、ふたご座のβ星の名として現在も使われている。英語での星名としての用例は1520年代から。β星でありながら、α星のカストルよりわずかに明るい。 (etymonline の Pollux の項)
プリアポス
- 英語の医学用語 priapism(病的に続く勃起)は1620年代から使われ、後期ラテン語 priapismus、ギリシャ語 priapismos を経て、男性の生殖力の神プリアポスの名にさかのぼる。etymonline は、プリアポスの名そのものの由来は不明とする。 (etymonline「priapism」「priapic」(2026年9月閲覧))
プロクネ
- ラテン語の伝えでは逆になる。ヒュギヌスは、プロクネはツバメ、ピロメラはナイチンゲール、テレウスはタカに変わったとする。英語の詩語「フィロメル」がナイチンゲールを指すのも、この組み合わせと一致する。 (ヒュギヌス 45。etymonline「philomel」(1570年代〜、詩語でナイチンゲール))
プロテウス
- 英語の形容詞 protean(変幻自在な)は1590年代から見られ、姿を自在に変える海神プロテウスの名に由来する。1989年にボイジャー2号が見つけた海王星の衛星プロテウスも、NASA によれば「姿を変える海の神」にちなむ名。 (etymonline「protean」。NASA Science「Proteus」)
プシュケ
- プシュケはギリシャ語で「息・魂」を意味する普通名詞で、古代ギリシャでは死者の魂が翼のあるもの、蝶や蛾の姿で表されることがあった。英語 psychology(心理学)も同じ語から作られた。 (etymonline「psyche」「psychology」)
ピュトン
- 英語の python は1580年代から神話の大蛇の名として使われ、熱帯の大型の無毒のヘビを指す動物学上の名になったのは1836年(もとはフランス語)とされる。 (etymonline「python」)
アスクレピオスの杖
- ヘルメスのカドゥケウスには2匹の蛇が絡むが、アスクレピオスの杖の蛇は1匹。カドゥケウスが医療のしるしとして使われることがあるのは、両者の混同によるとされる。 (etymonline「caduceus」)
サテュロス
- 語源辞典によれば、ローマ以前のギリシャ美術ではサテュロスは馬の尾と耳を持つ人間に似た姿で描かれ、山羊の半身を持つ姿はローマの彫刻家が土地のファウヌスと同化させたことによる。語源は分かっていない。 (etymonline「satyr」)
- 英語の satire(風刺)は、ラテン語の satura(「いろいろ盛った皿」)から来ており、satyr とは語源が別である。 (etymonline「satyr」「satire」)
セレネ
- 元素セレン(selenium)は、1818年にベルセリウスがギリシャ語の selēnē(月)から名づけた。先に見つかっていた、地球にちなんで名づけられたテルル(tellurium)と取り違えられていたため、対になる「月」の名を選んだ。 (etymonline「selenium」)
シシュポス
- 英語の Sisyphean(シシュポスのような、果てしなく報われない)は1630年代から(Sisyphian は1590年代)。名前 Sisyphos 自体の語源は不明で、「狡猾な者」を意味する語の重複形とする古い説は民間語源として退けられている。 (etymonline の Sisyphean の項。語源記事 etymologies/sisyphean も参照)
スフィンクス
- エジプトの「スフィンクス」はギリシャ語の名を借りた呼び名で、姿は別物。ヘロドトスはサイスの神殿に並ぶエジプトの像を「男の頭のスフィンクス(アンドロスピンクス)」と呼び分けている。語源辞典も、エジプトの形はふつう男性で翼がない、とギリシャの翼ある雌の怪物と区別している。ギザの大スフィンクスを英語で Sphinx と呼ぶ例は1610年代から。 (ヘロドトス 2.175.1 / etymonline の sphinx の項)
- 名前は「締めつける者(絞め殺す者)」と解され、σφίγγειν(締める、縛る)から作られたとされる。同じ動詞から医学用語の sphincter(括約筋)ができた。英語で「謎めいた人」を sphinx と呼ぶのは1600年頃から。 (etymonline の sphinx の項。語源記事 etymologies/sphinx-sphincter も参照)
シュリンクス
- ギリシャ語 syrinx は「牧人の笛」「管」の意味で、動詞 syrizein(笛を吹く、口笛を吹く)と同じ語根。ここから後期ラテン語 syringa を経て、液体を吸って押し出す細い管、今の注射器 syringe(英語では15世紀初め)が生まれた。皮下注射の針を指すのは1884年から。鳥の発声器官「鳴管」も1872年から syrinx と呼ばれる。 (etymonline の syringe / syrinx の項。語源記事 etymologies/syringe も参照)
タンタロス
- 英語の tantalize(手が届きそうで届かないものを見せてじらす)は、この罰に由来する。1590年代にラテン語 Tantalus から作られた語。語源の節も参照。 (etymonline の tantalize の項(1590年代)。語源記事 etymologies/tantalize も参照)
タルタロス
- 英語の Tartar(タタール人)は、13世紀にチンギス・ハンの軍勢を指したペルシャ語 Tatar から来ている。語源辞典によれば、西ヨーロッパの言葉での形には、はじめから地獄を意味するタルタロス(Tartarus)との連想が働いていて、r が入った。 (etymonline「Tartar」の項(2026-09-30 確認)。1270年のルイ9世のものとされる手紙の言葉遊びも同じ項にある)
テルプシコレ
- 英語 terpsichorean は1869年から「舞踊の」という意味で使われ、文字どおりには「テルプシコレの」。名前は terpein「喜ばせる」と khoros「踊り、合唱」からなる。名詞として「踊り子」の意味でも1889年から使われる。 (etymonline「terpsichorean」)
タナトス
- タナトスという語は、20世紀の精神分析で「死の欲動」を指す用語として、生の欲動を表す「エロス」と対にして使われるようになった。英語での用例は1935年から。 (etymonline「Thanatos」)
ティタノマキア
- 「ティタン(Titan)」の名は現代語に広く残っている。元素チタン(titanium)は1795年にドイツの化学者クラプロートが「大地の息子たち」としてのティタンにちなんで名づけたもので、形容詞 titanic(巨大な)は1709年から英語に見え、1912年に沈んだ客船タイタニック号の名にもなった。 (etymonline「titanium」「titanic」)
ティタン族
- 現代の語源辞典は、Titan の語源を「太陽・日」を意味する titō に結びつける説を挙げ、小アジアの言語からの借用だろうとしている。確かではない。 (etymonline「Titan」)
- 英語の Titan は15世紀初めには太陽の呼び名として現れ、小文字で「並外れて大きなもの・力のある人」を指す用法は1828年までに見える。土星最大の衛星がタイタンと名づけられたのは1831年で、ティタンの長クロノスがローマのサトゥルヌス(土星)にあたることによる。 (etymonline「Titan」)
三叉の槍(トライデント)
- 英語 trident(15世紀半ば)は、ラテン語 tridens「三本の歯の」から。dens「歯」は dentist と同じ語根。1972年以降はアメリカの原子力潜水艦の艦級名にも使われた。 (etymonline「trident」)
トロイアの木馬
- 英語 Trojan horse は1570年代から「内部に仕掛けられた罠」の比喩として使われ、コンピュータ用語としては1982年からの用例が記録される。無害を装って持ち込まれ内部から加害するものの名。語源の節も参照。 (語源ファイル trojan-horse-malware と同じ確認(etymonline による1570年代・1982年の初出)。OED / Merriam-Webster の Trojan horse の項も同じ)
テュケ
- ローマではフォルトゥナがテュケにあたる。英語 fortune(1300年ごろ)は古フランス語を経てラテン語 fortuna「偶然、運命、幸運」(fors「偶然」から)に由来し、しばしば女神として擬人化され、その車輪は移ろいを表した。「財産」の意味はスペンサーに初出。 (theoi「Tyche」、etymonline「fortune」(2026年9月閲覧))
ウラノス
- 天王星 Uranus の名はこの神に由来し、ギリシャ神名がそのまま採用された唯一の惑星名(他はローマ名)。1781年にハーシェルが望遠鏡で発見し、国王ジョージ3世にちなむ命名を提案したが受け入れられず、ヨハン・ボーデの提案した Uranus が定着した。土星(サトゥルヌス=クロノス)の外側を回る星に、クロノスの父である天空神の名を充てた形になる。語源の節も参照。 (NASA の Uranus Facts(1781年ハーシェルによる発見、ジョージ3世案の不採用、ボーデによる Uranus の提案)。etymonline『Uranus』の項)
ゼウス
- ラテン語 Iuppiter は呼格「父なるゼウス」Ζεῦ πάτερ と同じ印欧語の形に遡り、ゼウスとユピテルは単なる「同一視」ではなく同語源とされる。語源の節も参照。 (etymonline『Jupiter』の項。ラテン語 Iupiter を印欧祖語 *dyeu-peter-(*deiw-os「神」+ peter「父」)とし、ギリシャ語 Zeus pater の呼格 Zeu pater と比較せよとする。『Jove』の項も Iovis を同じ語根 *dyeu- に遡らせる)