わし座の神話
美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
ゼウスの鳥
ローマ時代のヒュギヌスの星座の本『天文譜』が最初に挙げるのは、ガニュメデスの話である。この鷲が美しい少年をさらい、少年に心を奪われていたゼウスに差し出したのだという。ゼウスが鳥たちの中から最初に自分の鳥として選んだのも、この鷲だった。のぼってくる朝日の光に逆らって飛べるのは、鳥の中で鷲だけだと言い伝えられていた。
ローマ期天文譜
水瓶を持つ男をガニュメデスと見る人が多かったので、鷲の星座は、みずがめ座の真上あたりを飛ぶ形になっている。
ローマ期天文譜
忘れるために鳥になった王
サンダルを運んだ鷲
こんな話もある。ヘルメスは、アプロディテの美しさに恋をしたが、相手にしてもらえず、すっかり気落ちしてしまった。これを気の毒に思ったゼウスは、アプロディテがアケロオス川で水浴びをしているすきに鷲を送り、彼女のサンダルをエジプトまでくわえて行かせて、ヘルメスに渡させた。
ローマ期天文譜
サンダルを追いかけたアプロディテは、自分を恋しがっていたヘルメスのもとにたどり着く。思いがかなったヘルメスは、そのお礼に、鷲を空に置いたのだという。恋をしたのはヘルメスではなく、アナプラデスという者だったとも言われる。
ローマ期天文譜
七夕の彦星
わし座のアルタイルは、日本では七夕の彦星として知られている。こと座のベガ、織り姫星とは、天の川をはさんで向き合う星である。
この話の項目
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
- ガニュメデストロイア王家の若者で、人間の中で最も美しいとされた。神々に連れ去られ、ゼウスの酌をする者として不死を与えられる。トロイア戦争の主要人物ではないが、トロイア王家の系譜と、ラオメドンの名馬の由来に関わる。
- ヘラゼウスの正妻にして姉。結婚の守護者でありながら、夫の浮気相手とその子を執拗に苦しめる。トロイア戦争では一貫してギリシャ側に立ち、その動機は『イリアス』末尾で一度だけパリスの審判に結び付けられる。
- アルテミスゼウスとレトの娘でアポロンの双子の姉妹。狩りと野獣、処女性を司る。女性の突然死は彼女の矢によるとされた。トロイア戦争ではトロイア側に立つが、『イリアス』では神々の中でも弱い存在として描かれる。
- ペルセポネデメテルとゼウスの娘で、ハデスに攫われて冥界の女王となった。ザクロの種を口にしたため一年の一部を地下で過ごすことになり、その往復が季節の循環と結びつけられる。ホメロスでは誘拐譚を欠いたまま、すでに厳然たる冥界の女王として現れる。
- ヘルメス神々の伝令であり、境界と旅人と盗人と商人の神。生まれたその日に竪琴を発明し、アポロンの牛を盗んだ。魂を冥界へ導く役目も担い、生と死、神と人の境を行き来する神として描かれる。
- アプロディテ愛と欲望の女神。出自には二つのまったく異なる伝えがあり、ヘシオドスではウラノスの切り取られた性器の泡から生まれた原初的な存在、ホメロスではゼウスとディオネの娘である。トロイア戦争の原因を作り、戦場ではパリスとアイネイアスを守る。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- こぐま座北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。