こぐま座の神話
北極星をしっぽの先にもつ小さな熊は、クレタ島の洞窟で幼いゼウスを育てた乳母だという。フェニキアの船乗りは、この熊を頼りに海を渡った。
北極星をもつ熊
北の空で方角の目印になる北極星は、こぐま座のアルファ星である。
近現代デジタル大辞泉
幼いゼウスを育てた二頭
前3世紀の詩人アラトスは、星座の詩『星辰譜』を、この二頭の熊から歌い始める。天の軸の北の端をかこんで、大きな熊と小さな熊がいっしょに回っている。二頭はいつも、頭を相手のわき腹に向け、肩を互い違いにして運ばれていく。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
言い伝えが本当なら、二頭はクレタ島からゼウスの意思で天に昇ったのだ、とアラトスは言う。昔、幼いゼウスがイデ山に近いディクテで遊んでいたころ、二頭は彼を洞窟にかくまい、一年のあいだ育てた。そのあいだ、ディクテのクレテスたちが、父クロノスの目をあざむいていたのである。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
船乗りが頼った熊
アラトスによれば、ギリシャの人々は大きな熊ヘリケを見て、船の進む向きを決めた。宵のうちから大きく明るく見えて、すぐに見つかるからだ。一方フェニキアの人々は、小さな熊キュノスラを頼りに海を渡った。こちらは小さいが、星の回る輪がせまいので、船乗りにはかえって役に立つ。シドンの船乗りは、この熊に導かれて、いちばんまっすぐに船を進めるのだという。
ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)
ヒュギヌスは、その理由を人の縁から説明している。この小さな熊を最初に熊と名づけたのは、ミレトスのタレスで、ヘロドトスによれば、タレスはフェニキアの血を引く人だった。だからペロポネソスの人々は大きな熊を使い、フェニキアの人々は、自分たちの祖先が見つけたこちらの熊を、念入りに見守って航海するのだという。
ローマ期天文譜
この話の項目
- ゼウスオリュンポスの神々の王。クロノスとレアの末子で、父を倒して天を得た。多くの女神・人間の女性との間に子をもうけ、神々と英雄の多くの父になった。トロイア戦争では人間の側に肩入れしつつ、最後は運命の側に立つ。
- クロノスティタン神族の末子で、父ウラノスを倒して世界を支配した神。自分も子に倒されると知って生まれる子を呑み込み続けたが、末子ゼウスに同じ運命をたどらされる。一方で彼が治めた時代は「黄金の種族」の時代として理想化される。
- クレタ島エーゲ海の南にある大きな島。ゼウスが隠されて育った島であり、ミノス王の都クノッソス、ダイダロスの迷宮、ミノタウロスの舞台でもある。『イリアス』では百の都市、『オデュッセイア』では九十の都市をもつ島と歌われる。
ほかの星座の話
- おひつじ座金の毛の雄羊が、兄と妹を背に乗せて海を越えた。砂漠で軍勢を水場へ導いた羊だという話もある。
- おうし座王女を背に乗せて海を渡った牡牛は、ゼウスの化けた姿だった。牝牛にされた娘イオだという話もある。
- ふたご座どちらが上かを争わなかった双子の兄弟が、二人並んで星になった。ヘラクレスとアポロンだという説もある。
- かに座怪物ヒュドラと戦うヘラクレスの足に、沼から出てきた蟹がかみついた。その甲羅の上には、ろばと呼ばれる星もある。
- しし座獣の王だから、ゼウスが星にした。ヘラクレスが素手で倒した、最初の仕事の獅子だともいう。
- おとめ座人間に愛想をつかして天へ去った正義の女神。父の亡骸を見つけて死んだ娘エリゴネだという話もある。
- てんびん座古いギリシャでは、この星たちはさそり座のはさみだった。天秤と呼んだのはローマの人々である。
- さそり座思い上がった狩人オリオンを刺し殺したさそり。だから今も、さそりが昇るとオリオンは沈んでいく。
- いて座弓を引く、馬の脚の射手は誰なのか。弓を使うケンタウロスはいない、と言う人たちもいた。芸術の女神ムーサたちの友の姿だ、という説もある。
- やぎ座怪物テュポンに襲われた神々は、動物に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、半分だけ魚になった。
- みずがめ座瓶から水を注ぐ男は、ゼウスにさらわれた美少年か、大洪水を生き延びた男か。古い星座の本は三つの答えを並べる。
- うお座怪物テュポンから逃げるアプロディテとエロスが、川に飛び込んだ。二人を背に受けたのが、二匹の魚だった。
- へびつかい座太陽の通り道にかかりながら、十二の星座には数えられない星座。蛇を抱えた男は、医術の神とも、麦の種をまく若者を襲った王ともいう。
- オリオン座女神アルテミスは、沖に浮かぶ黒い点を射抜いた。それは、愛した狩人オリオンの頭だった。
- カシオペヤ座海の女神たちより美しいと言い放った王妃は、椅子に座ったまま、頭を下にして空を回り続ける。
- アンドロメダ座英雄ペルセウスに救われた王女は、空の上でも両腕を広げたまま、鎖につながれている。
- ペルセウス座怪物メドゥーサを討った英雄は、見張りの目を奪って湖へ投げ込んだ。空では今も、ちりにまみれて大またに歩いている。
- ペガスス座蹄で泉を開いた天馬は、乗り手が地に落ちたあと、ひとり空へ昇った。この馬は、馬に変えられたケイロンの娘だという話もある。
- こと座赤ん坊のヘルメスが亀の甲羅で作った竪琴は、やがて名手オルペウスの手に渡り、その死のあと空に上げられた。
- はくちょう座鷲に追われるふりをして、女神のひざに飛び込んだ白鳥。その正体はゼウスで、女神の産んだ卵から絶世の美女ヘレネが生まれた。
- おおぐま座北斗七星をふくむ大きな熊は、熊に変えられた娘カリスト。けれども、いちばん初めに星を見た人たちは、これを熊ではなく車だと見ていた。
- わし座美少年ガニュメデスをさらった、ゼウスの鷲。妻を失った王が、忘れられるように鷲にされたのだという話もある。
- ケフェウス座王女アンドロメダの父、エチオピアの王。婚礼に武器を持って乗り込んできた実の弟を、王は必死にいさめた。
- うしかい座熊を追いかける牛飼い。熊にされた母を知らずに追った息子とも、世界で初めて荷車を作った男ともいう。
- くじら座名前はくじらだが、もとは王女アンドロメダを襲った海の怪物。空の上でも王女に迫り、その父王に押し返されている。