パリスの審判が行われた場所。ヘルメスに導かれた三女神が、羊を飼うパリスの前に現れる。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ἴδη場所
トロイア戦争の始まりから終わりまで、いつもそばにそびえていた山がある。トロイアの町を見下ろすイダ山だ。
では、この山でどんな出来事が起きたのか、順に見ていこう。
戦争の種がまかれたのは、この山だった。アポロドーロスによれば、トロイアの王子パリスは、国を滅ぼすという夢のお告げのせいで、生まれてすぐイダ山に捨てられた。熊に乳をもらって生き延び、羊飼いとして育った。山のニンフの娘を妻にしたのも、この山でのことだった。
ある日、羊を飼う若者の前に、神ヘルメスに導かれて三人の女神が現れる。ヘラ、アテナ、アプロディテ。誰がいちばん美しいか決めてほしい。パリスは、絶世の美女を与えると約束したアプロディテを選んだ。その褒美が、スパルタの王妃ヘレネだった。

アプロディテ自身も、この山に深い縁がある。神々をたたえる古代の詩『アプロディテ讃歌』によれば、女神は、イダ山で牛を飼っていたトロイアの王族の若者に恋をし、人間の娘のふりをして山小屋を訪れた。二人のあいだに生まれたのが、英雄アイネイアスである。
戦争が始まると、イダ山は神々の王の見物席になった。『イリアス』で、ゼウスは戦車をイダ山の頂へ走らせ、そこに腰を下ろして、トロイアの町とギリシャ軍の船を見下ろした。
その同じ頂で、ゼウスは妻にだまされたこともある。ギリシャ軍を助けたい女神ヘラは、美しく装ってイダ山に上り、夫を誘った。ゼウスが妻を抱き寄せると、大地は二人の下に若草と、露にぬれた花々を咲かせた。二人は黄金の雲に包まれ、ゼウスはそのまま眠り込んでしまう。そのすきに、海の神ポセイドンがギリシャ軍に加勢した。

そして戦争の終わり近く、パリスは矢に射られて深手を負い、かつての妻が暮らすイダ山へ運ばれてくる。自分なら傷を治せると、彼女は以前に言っていた。けれども、ヘレネのもとへ去った夫を恨む彼女は、治療を拒んだ。パリスはトロイアへ運び戻されて死んだ。後悔した妻は薬を持って駆けつけたが、夫はもう息絶えていた。彼女は自ら命を絶った。
ちなみに、ギリシャ神話にはもう一つ、クレタ島のイダ山がある。幼いゼウスが隠されて育った山とされるのは、こちらのほうだ。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、『オックスフォード古典学辞典』
パリスの審判が行われた場所。ヘルメスに導かれた三女神が、羊を飼うパリスの前に現れる。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
捨てられたパリスが羊飼いとして育った山でもある。ニンフのオイノネと暮らしたのもここで、後に死にかけて運ばれてくるのもこの山である。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
同名のイダ山がクレタ島にもあり、幼いゼウスが隠されて育った山とされる。ただしクレタでの養育地がイダかディクテかは古代でも割れており、アポロドーロスはディクテの洞窟とし、カリマコスやオウィディウスはイダとする。ギリシャ神話で「イダ山」と言うとき、トロイアのイダかクレタのイダかで話が全く違うので注意がいる。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、『オックスフォード古典学辞典』 第4版 2012年
ガニュメデスが連れ去られたのもイダ山とされる。トロイア王家と神々が接触する場所が一貫してこの山に集まっている。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『イリアス』でゼウスがオリュンポスを離れて座り、戦況を眺める場所。神々の介入を禁じたときも、ヘラに騙されて眠り込むときも、舞台はイダ山の頂ガルガロンである。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
アプロディテがアンキセスと交わり、アイネイアスが生まれた場所。ホメロス風讃歌第5番では、牛の群れと山中の小屋が具体的に描かれる。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
ヘラがイダ山頂ガルガロンでゼウスと交わると、大地は二人の下に若草と露にぬれたロートス、クロッカス、ヒヤシンスを生やし、二人は黄金の雲に包まれ、ゼウスは眠り込んだ。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
讃歌5でアプロディテがイダ山でアンキセスと交わり、この子を産む
3.12.2 イダ山から連れ去られたとされる
8.47-52 ゼウスがここから戦いを見守る