アテナイの守護神の座をアテナと争い、アクロポリスに塩水の泉を湧かせたが、オリーブの木を生やしたアテナに敗れた。ホメロスやヘシオドスには見えない話である。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

Ποσειδῶν神
メロス島で見つかったポセイドンの大理石像。上げた右手には、三叉の矛を持っていたとされる。 『メロス島のポセイドン』 作者不詳 前125〜前100年(コモンズの記載) アテネ国立考古学博物館。写真 George E. Koronaios(2018年)CC0
神々の兄弟三人が、くじを引いて世界を分けた。天空を引いたのがゼウス、暗い闇の世界を引いたのがハデス。そして、果てしない灰色の海を引き当てたのが、ポセイドンだった。
惑星の海王星の英語名ネプチューンは、ローマの神ネプトゥヌスの名から来ている。この神は、古くはむしろ地上を流れる水を治める神だった。ギリシャのポセイドンと重ねられて、海の神とみなされるようになったのである。
ギリシャの詩が語るポセイドンは、海の神というだけでは収まらない。
ゼウスの兄弟で、父は、ティタンと呼ばれる古い神々の王クロノス。『神統記』によれば、クロノスは自分の子に王座を奪われると聞かされ、生まれる子を次々に呑み込んだ。ポセイドンもその一人だった。末っ子のゼウスだけが母にかくまわれ、やがて父に子どもたちを吐き出させる。
『イリアス』でポセイドン自身が語るところでは、兄弟たちはくじを引いて世界を分けた。ポセイドンは灰色の海を、ハデスは暗い闇の世界を、ゼウスは天空を。大地とオリュンポスは三人の共有だという。だから自分は、ゼウスの言いなりになる筋合いはない。戦場への口出しを止められたとき、ポセイドンはそう言い返している。
海の神であり、大地を揺らす神でもある。そして馬の神でもあった。『神統記』によれば、蛇の髪の怪物メドゥサはポセイドンと交わっており、英雄ペルセウスにその首を斬られたとき、首から天馬ペガソスが飛び出した。ギリシャ南部のアルカディア地方には、もっと生々しい話が残る。娘を探してさまよう女神デメテルに言い寄ったポセイドンから逃れようと、デメテルは牝馬に化けた。ポセイドンは牡馬となって追いつき、二人のあいだには一頭の名馬と、名を口外してはならない娘が生まれたという。
トロイア戦争では、ポセイドンはギリシャ軍の側に立つ。トロイアには古い恨みがあった。昔、ポセイドンとアポロンはゼウスの命で人間の姿となり、当時のトロイアの王に1年間雇われた。ポセイドンは城壁を築き、アポロンは牛を飼った。ところが約束の期限が来ると、王は報酬を踏み倒し、二人を縛って遠い島に売り飛ばすとまで脅した。その恨みを、ポセイドンは『イリアス』の中でアポロンに向かってぶちまけている。
ゼウスがよそ見をしているすきに、ポセイドンは戦場に乗り込む。海に浮かぶ島の山頂から戦を眺めていた彼は、押されるギリシャ軍を哀れみ、三歩で山を下り、四歩目で海の底の宮殿に着いた。黄金のたてがみの馬を戦車につなぎ、波の上を走らせると、海の獣たちが主人に気づいて跳ね回り、海は喜んで道を開けたという。

それでも、トロイア方の英雄アイネイアスがアキレウスに討たれそうになったときには、霧で包んで救い出している。アイネイアスの一族は、いずれトロイア人を治めると定められているからだ。
戦が終わると、ポセイドンの怒りは一人の男に向かう。オデュッセウスである。
帰り道、オデュッセウスは一つ目の巨人ポリュペモスの目を焼いて逃げた。ポリュペモスはポセイドンの息子だった。巨人は父に祈る。あの男を故郷に帰さないでくれ。帰すとしても遅く、仲間を失い、他人の船で帰り、家では災いに遭うように。ポセイドンはこの願いを聞き入れた。
『オデュッセイア』の冒頭で、神々はみなオデュッセウスを哀れんでいる。ただポセイドンだけが、いつまでも怒り続けていた。そのポセイドンが遠くエチオピア人のもとへ出かけているすきに、神々は彼を帰す相談をまとめてしまう。
戻ってきたポセイドンは、筏で海を渡るオデュッセウスを遠くの山から見つけた。自分のいない間に神々は考えを変えたらしい、だがまだ苦しめてやれる。そう言って三叉の矛で海をかき回し、四方の風をいっせいに吹かせた。筏は砕け、オデュッセウスは二日二晩海を漂うことになる。
オデュッセウスが船で送り届けられて故郷に着くと、最後の仕返しは送り届けた側に向けられた。航海の民の船である。帰りの船が港の目の前まで来たとき、ポセイドンはそれを手のひらで打ち、船ごと岩に変えて海の底に根づかせた。『オデュッセイア』でのポセイドンの出番は、これが最後になる。
ポセイドンは女神たちへの求婚でも知られる。かまどの女神ヘスティアには、アポロンとともに求婚して断られた。海の女神テティスをゼウスと争ったこともあるが、彼女の子は父より強くなるという予言を聞いて、二人とも手を引いた。
アテナイでは、女神アテナと土地の守り神の座を争って敗れた。アクロポリスに湧かせた海水の泉は、オリーブの木に及ばなかった。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、『オックスフォード古典学辞典』、ブリタニカ・ジャパン『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』
アテナイの守護神の座をアテナと争い、アクロポリスに塩水の泉を湧かせたが、オリーブの木を生やしたアテナに敗れた。ホメロスやヘシオドスには見えない話である。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
ローマ名ネプトゥヌスは本来は淡水(泉や川)の神で、海神としての性格はギリシャのポセイドンとの同一視によるとされる。祭日ネプトゥナリアが一年で最も水の乏しい7月23日に置かれていることも、水源の神としての出自を示すものと解される。海王星 Neptune の名もここから。語源の節も参照。
『オックスフォード古典学辞典』 第4版 2012年
「我らは三兄弟、くじを引いて私は灰色の海を、ハデスは暗い闇を、ゼウスは天を得た。大地とオリュンポスは共有だ」と語り、ゼウスに従う筋合いは無いと主張する。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
かつてアポロンと共に人間の姿でラオメドン王に一年仕え、トロイアの城壁を築いたが報酬を踏み倒された。ポセイドンのトロイア憎悪はここに由来する、とポセイドン自身がアポロンに向かって語る。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
ギリシャ側に立ちながら、アキレウスに討たれそうになったトロイアのアイネイアスを救う。「アイネイアスの一族はトロイア人を治めるべく定められている」という定めのため。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
『オデュッセイア』では物語冒頭から、ポセイドンだけがオデュッセウスの帰郷に反対している存在として提示される。理由は息子ポリュペモスの失明。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
オデュッセウスを送り届けたパイエケス人の船を石に変える。古い予言どおりの報復で、これが『オデュッセイア』でのポセイドン最後の行動。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ヘシオドスではメドゥサと「柔らかな草原で」交わり、その首が斬られたときに天馬ペガソスと黄金の剣のクリュサオルが飛び出したとされる。ポセイドンと馬の結びつきの一つ。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ゼウスが戦場から目を離したすきに、サモトラケ島の山頂から三歩で山を下り、四歩目で海底の宮殿アイガイに着く。黄金の馬に引かせた戦車で波の上を走り、ギリシャ軍を助けに向かう。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
エチオピア人のもとから戻る途中、筏で海を渡るオデュッセウスを見つけ、三叉の矛で海をかき回して嵐を起こし、筏を砕く。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
アポロドーロス2.1.4、3.1.1、ヒュギヌス157。母はエパポスの娘リビュエ
アポロドーロス2.5.11、『イストミア祝勝歌』4.54(父ポセイドンの神殿)、ヒュギヌス157(ネプトゥヌスの子の列)
2.5.5 ポセイドンの子とする説
『神統記』278-279(「黒髪の神」)、アポロドーロス2.4.2、ヒュギヌス151
10.12.1 「ポセイドンの娘ラミア」。子をさらう女王と同じ存在かは書かれていない
1.4.3 ペレキュデスの説としてポセイドンとエウリュアレの子。ポセイドンから海の上を歩く力を授かる
2.3.2「メドゥサとポセイドンの子」、2.4.2
『オデュッセイア』11.241-257、アポロドーロス1.9.8 母はテュロ
2.5.9 トロネでヘラクレスに殺されたポリュゴノスとテレゴノスを「ポセイドンの子プロテウスの子」と書く
3.15.7 アイゲウスが母アイトラと交わった同じ夜にポセイドンも交わった。3.16.1 ではアイゲウスの子
『神統記』930-933、アポロドロス 1.4.5
456
『神統記』930-933、アポロドロス 1.4.5
2.1.4-5 姉妹の一人アミュモネがポセイドンと交わり、ナウプリオスを生む(ナウプリオスはパラメデスの父)
2.20(Aries)。海に落ちたヘレをネプトゥヌスが抱き、パイオン(またはエドノス)を産んだという説
『オリュンピア祝勝歌』1.25-27, 1.71-78。ポセイドンが彼を見初めてさらったとする
ケライノとアルキュオネ。アポロドーロス 3.10.1 /『祭暦』4.173
453-456
Met. 10.605-606「父はオンケストスのメガレウス、その祖父がネプトゥヌス。私は海の王の曾孫だ」
『神統記』817-819 ポセイドンが娘キュモポレイアをブリアレオスに嫁がせる
8.564-571、13.125-187 送り届けた船を石に変えられ、都を山で囲まれると予言されていた
2.4.3 ネレイスたちの怒りに与したポセイドンが洪水と海の怪物を送る
3.1.3-4 海から送られた牡牛を捧げると約束して惜しみ、ポセイドンの怒りを買う
2.4.3 アンドロメダを狙った海の怪物は、ネレイスたちの怒りに与したポセイドンが送ったもの
4.499-511。ギュライの岩を三叉の矛で砕かれて海に沈む
3.15.4。ポセイドンの子エウモルポスを討ったため、ポセイドンがエレクテウスとその家を滅ぼした
テセウスの願いでポセイドンが海から牡牛を送る。『ヒッポリュトス』1214-1215、摘要 1.19、『変身物語』15.497-529
4.385-386 「ポセイドンに仕える者」
1.26.5 海水の井戸と三叉の矛の跡
2.15.5 土地をめぐってヘラと争った
アポロドーロス 3.14.1 アクロポリスに三叉の矛を打ちつけて海水の泉を湧かせた。敗れてトリアシオン平野を水浸しにする。パウサニアス 1.26.5(矛の跡と海水)
3.14.1
7.129
エンニウスの詩句(アプレイウス『ソクラテスの神霊について』2)とリウィウス22.10.9 のローマの十二柱。ギリシャの神に対応させた
113c くじで島を得る
2.1.6 地峡はポセイドンのもの
10.5.6 大地の女神と共有し、カラウレイア島と引き換えにアポロンへ渡した
『イリアス』12.27、『オデュッセイア』4.506、5.292、アポロドーロス1.2.1
1.274-284。「青い兄弟」ネプトゥヌスが波で加勢し、川を溢れさせる
1.6.2 コス島の一部(ニシュロス)を割り取ってポリュボテスに投げつける
『オデュッセイア』4.505-511 三叉の矛で岩を割り、小アイアスを海に落とす。アポロドロス『摘要』6.6
『神統記』732-733 タルタロスに青銅の門を据える。アポロドロス 1.2.1 キュクロプスから三叉の鉾を贈られる
2.4.3 ネレイスの怒りに加わったポセイドンが洪水と怪物を送る。『神話集』64 ではネプトゥヌスがアンドロメダを求める
アポロドーロス3.1.4、ディオドロス4.77.2。怒りの対象はミノスで、罰として王妃に牡牛への恋を吹き込む
ネプチューン / 海王星ローマの海神ネプトゥヌスはポセイドンと同一視される。惑星は1846年にガレが発見し、位置を予測したル・ヴェリエが命名を提案した。周期表でウランの次に来る元素ネプツニウム(1941年)も、海王星が天王星の次に来ることにちなむ。