ギリシャ神話の地図
ポセイドン父アンピトリテ母アルゴナウタイの遠征導いた英雄たちアテナ育てた女神パラディオン娘の像デウカリオンの洪水鎮めた洪水
魚の尾を持つ海の神トリトン。

トリトン

Τρίτων神

魚の尾を持つ海の神トリトン。 『トリトンとネレイス』 作者不詳Public domain

海王星がはじめて見つかったのは1846年。そのわずか17日後に、海王星をめぐる衛星も見つかった。付けられた名はトリトン。ローマで海王ネプトゥヌスと呼ばれた海の神ポセイドンの、息子の名である。

『神統記』によれば、トリトンは海の神ポセイドンと、その妃である海の女神アンピトリテの子で、力強く、大きく、恐ろしい神だった。母と、王である父とともに、海の底の黄金の館に住んでいる。

その姿を詳しく描いたのは、英雄たちの船旅を描いた叙事詩『アルゴナウティカ』である。頭から腰までは神々に似ているが、腰から下は、二股に分かれた海の怪物の長い尾になっている、という。

腰から下が長い尾になった海の神トリトン。その背に、海の娘が乗っている。
腰から下が長い尾になった海の神トリトン。その背に、海の娘が乗っている。『トリトンに乗るネレイスを刻んだ大理石の半円浮彫』 2世紀前半 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

アルゴ船の英雄たちは、帰り道に北アフリカのリビアでトリトン湖に迷い込み、海へ出る道を見失っていた。そこへ一人の若者が現れ、旅人への贈り物として、ひとかたまりの土を差し出した。若者の姿をしていたのがトリトンである。やがて神は本来の姿を現し、船をつかんで海まで押し出してやった。

トリトンといえば、ほら貝である。ローマの詩人オウィディウスは、大洪水を終わらせる場面にトリトンを登場させている。海の神が、貝殻に覆われた肩を海面から出した青いトリトンを呼び、ほら貝を吹いて波と川に退けと合図するよう命じた。トリトンがほら貝を吹くと、その音は日の昇るところから沈むところまで、あらゆる岸に響き渡り、水はみるみる引いていった。

そのほら貝の腕前を競おうとして、命を落とした人間もいる。ローマの詩人ウェルギリウスの『アエネイス』では、英雄アイネイアスのラッパ手が、ほら貝で海を鳴り響かせて神々に腕比べを挑んだ。嫉妬したトリトンは、泡立つ岩のあいだに彼を沈めてしまったという。もっとも詩人は、信じてよいものなら、と一歩引いた言い方をしている。

後の神話集には、女神アテナがトリトンに育てられた、という話もある。アテナはトリトンの娘と一緒に武芸を練習していたが、あるとき争いになり、誤ってその娘を死なせてしまった。悲しんだアテナは、娘の姿をかたどった木の像を作った。トロイアの守り神として名高い像は、こうして生まれたのだという。

不思議なことに、『イリアス』や『オデュッセイア』には、トリトンという神は一度も出てこない。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、ウェルギリウス『アエネイス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』

この物語の人々

ローマ以後の語り

オウィディウス『変身物語』では、大洪水を終わらせるとき、海の支配者ネプトゥヌスが、貝殻に覆われた肩を海から出した青いトリトンを呼び、ほら貝を吹いて波と川に退くよう合図させる。その音は東から西までの海岸に響き渡る。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

ウェルギリウス『アエネイス』では、アイネイアスのラッパ手ミセヌスが、ほら貝で海を鳴らして神々に腕比べを挑んだため、嫉妬したトリトンに泡立つ岩のあいだで海に沈められた、と語られる。語り手は「信じてよいなら」と一歩引いている。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

アポロドロスが伝えるパラディオン(アテナの木像)の由来では、生まれたアテナはトリトンに育てられ、トリトンの娘パラスと一緒に武芸を練習していた。あるとき争いになり、アテナは誤ってパラスを死なせ、悲しんでその姿の像を作ったという。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

海王星の衛星トリトンは、1846年10月10日、海王星の発見からわずか17日後にイギリスの天文学者ウィリアム・ラッセルが発見した。NASA は、ポセイドン(ローマのネプトゥヌス)の息子にちなむ名と説明している。

アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』 1958年〜(2026年9月閲覧)

もっと詳しく

『神統記』では、アンピトリテと大地を揺るがすポセイドンのあいだに生まれた、力強く大いなる恐ろしい神。母と王である父とともに、海の底の黄金の館に住む。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ホメロスの二つの叙事詩にトリトンは出てこない。アテナの添え名「トリトゲネイア」は出てくるが、この名とトリトン(神やトリトン川・湖)との関係ははっきりしない。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃

アポロニオス『アルゴナウティカ』では、リビュアのトリトン湖で出口を見失ったアルゴー船の前に、トリトンが若者の姿で現れ、客人への贈り物として土くれを差し出す。やがて本来の姿を現して船を海へ押し出す。その体は頭から腰までは神々に似ているが、腰から下は二股に分かれた海の怪物の長い尾になっていた。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀

今の言葉に残る

海王星の衛星トリトン / Triton海王星の衛星トリトンは、1846年10月10日、海王星そのものの発見からわずか17日後に、イギリスの天文学者ウィリアム・ラッセルが発見した。NASA は、ポセイドン(ローマのネプトゥヌスにあたる神)の息子にちなむ名だと説明している。海の神ネプトゥヌスの名を持つ惑星のまわりを、その息子の名の衛星が回っている。

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このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  5. 前19年頃ウェルギリウス『アエネイス』
  6. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  7. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  8. 1958年〜(2026年9月閲覧)アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』