オウィディウス『変身物語』では、大洪水を終わらせるとき、海の支配者ネプトゥヌスが、貝殻に覆われた肩を海から出した青いトリトンを呼び、ほら貝を吹いて波と川に退くよう合図させる。その音は東から西までの海岸に響き渡る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃

Τρίτων神
魚の尾を持つ海の神トリトン。 『トリトンとネレイス』 作者不詳Public domain
海王星がはじめて見つかったのは1846年。そのわずか17日後に、海王星をめぐる衛星も見つかった。付けられた名はトリトン。ローマで海王ネプトゥヌスと呼ばれた海の神ポセイドンの、息子の名である。
『神統記』によれば、トリトンは海の神ポセイドンと、その妃である海の女神アンピトリテの子で、力強く、大きく、恐ろしい神だった。母と、王である父とともに、海の底の黄金の館に住んでいる。
その姿を詳しく描いたのは、英雄たちの船旅を描いた叙事詩『アルゴナウティカ』である。頭から腰までは神々に似ているが、腰から下は、二股に分かれた海の怪物の長い尾になっている、という。

アルゴ船の英雄たちは、帰り道に北アフリカのリビアでトリトン湖に迷い込み、海へ出る道を見失っていた。そこへ一人の若者が現れ、旅人への贈り物として、ひとかたまりの土を差し出した。若者の姿をしていたのがトリトンである。やがて神は本来の姿を現し、船をつかんで海まで押し出してやった。
トリトンといえば、ほら貝である。ローマの詩人オウィディウスは、大洪水を終わらせる場面にトリトンを登場させている。海の神が、貝殻に覆われた肩を海面から出した青いトリトンを呼び、ほら貝を吹いて波と川に退けと合図するよう命じた。トリトンがほら貝を吹くと、その音は日の昇るところから沈むところまで、あらゆる岸に響き渡り、水はみるみる引いていった。
そのほら貝の腕前を競おうとして、命を落とした人間もいる。ローマの詩人ウェルギリウスの『アエネイス』では、英雄アイネイアスのラッパ手が、ほら貝で海を鳴り響かせて神々に腕比べを挑んだ。嫉妬したトリトンは、泡立つ岩のあいだに彼を沈めてしまったという。もっとも詩人は、信じてよいものなら、と一歩引いた言い方をしている。
後の神話集には、女神アテナがトリトンに育てられた、という話もある。アテナはトリトンの娘と一緒に武芸を練習していたが、あるとき争いになり、誤ってその娘を死なせてしまった。悲しんだアテナは、娘の姿をかたどった木の像を作った。トロイアの守り神として名高い像は、こうして生まれたのだという。
不思議なことに、『イリアス』や『オデュッセイア』には、トリトンという神は一度も出てこない。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、ウェルギリウス『アエネイス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』
オウィディウス『変身物語』では、大洪水を終わらせるとき、海の支配者ネプトゥヌスが、貝殻に覆われた肩を海から出した青いトリトンを呼び、ほら貝を吹いて波と川に退くよう合図させる。その音は東から西までの海岸に響き渡る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ウェルギリウス『アエネイス』では、アイネイアスのラッパ手ミセヌスが、ほら貝で海を鳴らして神々に腕比べを挑んだため、嫉妬したトリトンに泡立つ岩のあいだで海に沈められた、と語られる。語り手は「信じてよいなら」と一歩引いている。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
アポロドロスが伝えるパラディオン(アテナの木像)の由来では、生まれたアテナはトリトンに育てられ、トリトンの娘パラスと一緒に武芸を練習していた。あるとき争いになり、アテナは誤ってパラスを死なせ、悲しんでその姿の像を作ったという。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
海王星の衛星トリトンは、1846年10月10日、海王星の発見からわずか17日後にイギリスの天文学者ウィリアム・ラッセルが発見した。NASA は、ポセイドン(ローマのネプトゥヌス)の息子にちなむ名と説明している。
アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』 1958年〜(2026年9月閲覧)
『神統記』では、アンピトリテと大地を揺るがすポセイドンのあいだに生まれた、力強く大いなる恐ろしい神。母と王である父とともに、海の底の黄金の館に住む。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ホメロスの二つの叙事詩にトリトンは出てこない。アテナの添え名「トリトゲネイア」は出てくるが、この名とトリトン(神やトリトン川・湖)との関係ははっきりしない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アポロニオス『アルゴナウティカ』では、リビュアのトリトン湖で出口を見失ったアルゴー船の前に、トリトンが若者の姿で現れ、客人への贈り物として土くれを差し出す。やがて本来の姿を現して船を海へ押し出す。その体は頭から腰までは神々に似ているが、腰から下は二股に分かれた海の怪物の長い尾になっていた。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀
海王星の衛星トリトン / Triton海王星の衛星トリトンは、1846年10月10日、海王星そのものの発見からわずか17日後に、イギリスの天文学者ウィリアム・ラッセルが発見した。NASA は、ポセイドン(ローマのネプトゥヌスにあたる神)の息子にちなむ名だと説明している。海の神ネプトゥヌスの名を持つ惑星のまわりを、その息子の名の衛星が回っている。