乗組員の顔ぶれは資料ごとに違う。アポロドーロスの名簿には、テセウス、オデュッセウスの父ラエルテス、女狩人アタランテ、メレアグロス、さらにヘラクレスが家畜小屋を掃除することになるアウゲイアスまで入っている。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ἀργοναῦται出来事
宇宙飛行士を英語でアストロノートという。後ろ半分は、ギリシャ語の「船乗り」から来ている。1848年、カリフォルニアのゴールドラッシュで金を求めて西へ向かった人々は、アルゴノートと呼ばれた。こちらは、アルゴという船の船乗りという意味だ。黄金の羊の毛皮を求めて海を渡った、ギリシャ神話の英雄たちの名である。
旅の発端は、一足のサンダルだった。アポロドーロスによれば、ギリシャ北部のある町の王は、片方だけサンダルを履いた男に気をつけよ、という神託を受けていた。やがて王が海の神ポセイドンに犠牲を捧げる日、川を渡る途中でサンダルを片方なくした若者がやって来る。王の甥にあたるイアソンだった。
王は若者に尋ねた。もしお前が、ある市民に殺されるという神託を受けたら、どうする。イアソンは答えた。その男に、金の羊毛を取ってこいと命じます。王はその言葉どおり、彼を金羊毛の旅へ送り出した。
金の羊毛は、はるか黒海の奥のコルキスの国にあった。軍神アレスの森の樫の木に掛けられ、眠らない竜が番をしている。女神アテナの助言で50の櫂を持つ船が造られ、ギリシャじゅうから英雄たちが集まった。

その顔ぶれがすごい。怪力の英雄ヘラクレス。竪琴で木や石まで動かした楽人オルペウス。ふたご座の二つの星に名を残す、ゼウスの息子のカストルとポリュデウケス。アキレウスの父と、オデュッセウスの父の名まである。トロイア戦争の英雄たちの、一つ前の世代が一隻の船に乗り合わせていた。出航を見送る岸辺では、赤ん坊のアキレウスが抱き上げられて父に見せられていたと、この旅を長い詩にまとめたアポロニオスは書いている。
最初に寄ったのは、男のいない島だった。女たちが夫と父を皆殺しにしてしまったのだ。英雄たちはここで女たちと交わり、イアソンは女王とのあいだに子をもうけた。
次の土地では、親切に迎えてくれた王と、夜の闇の中で敵と取り違えて戦い、王を殺してしまう。夜が明けて事情を知った一同は、髪を切って嘆き、手厚く葬った。
その次の岸で、船は最大の英雄を失う。水をくみに行ったヘラクレスの美少年の従者が、泉のニンフたちにさらわれた。ヘラクレスが探し回っているあいだに、船は出てしまった。

乱暴な王が旅人に拳闘を挑んでは殺している国では、ポリュデウケスが相手を一撃で倒した。
そして盲目の予言者の住む土地に着く。予言者は、食事のたびに翼のある怪物ハルピュイアたちに食べ物を奪われ、残りも汚されて苦しんでいた。北風の神の翼ある息子たちが怪物を空へ追い払うと、予言者は礼に、この先の航路を教えた。

最大の難所は、打ち合う岩だった。海の入口で二つの巨大な岩がぶつかり合い、鳥さえ通れない。予言者の教えどおり、まず鳩を放すと、鳩は尾の先だけを挟まれて抜けた。岩が開いた瞬間、英雄たちは力いっぱい櫂をこぎ、女神ヘラの助けも得て、船尾の飾りを削られただけで通り抜けた。それ以来、岩は動かなくなったという。
コルキスに着いたイアソンに、王は条件を出す。青銅の足を持ち火を吐く二頭の牡牛にくびきをかけ、竜の牙を畑にまけ。そこへ現れたのが、王の娘で魔法を操るメデイアだった。イアソンに恋をした彼女は、妻にしてギリシャへ連れて行くと誓わせたうえで、火にも鉄にも一日だけ傷つかない薬を渡した。牙をまくと土から武装した男たちが生えてくる。そのときは遠くから石を投げ込め、とも教えた。

イアソンは言われたとおりに牛を御し、生えてきた戦士たちが石を投げ合って同士討ちするのを待って、一人ずつ倒した。それでも王は羊毛を渡さず、船を焼こうとする。その前にメデイアはイアソンを夜の森へ導き、薬で竜を眠らせて、羊毛を手に入れた。
追ってくる父の船から逃れるため、メデイアは連れてきた幼い弟を殺し、体を切り刻んで海に投げた。父が子の手足を拾い集めているあいだに、船は遠ざかった。怒ったゼウスは嵐を送り、船は人の声でしゃべって、魔女キルケに清めてもらえと告げた。

帰り道は、のちのオデュッセウスの旅と重なっていく。歌で船乗りを誘うセイレンの海では、オルペウスが対抗する歌を奏でて仲間を引き止めた。怪物スキュラと渦潮カリュブディスの海峡は、海の女神テティスたちが船を導いて抜けた。途中の国ではコルキスの追っ手がメデイアの引き渡しを迫ったが、その国の王妃が先回りして、二人を結婚させてしまった。
最後にクレタ島では、島を一日に三度駆け回る青銅の巨人が石を投げつけてきた。この巨人も、メデイアの魔法の前に倒れた。こうして英雄たちは、4か月の航海を終えて故郷に帰り着いた。
『オデュッセイア』の中で、魔女キルケはこの船のことを、誰もが知っている船として口にしている。
この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
乗組員の顔ぶれは資料ごとに違う。アポロドーロスの名簿には、テセウス、オデュッセウスの父ラエルテス、女狩人アタランテ、メレアグロス、さらにヘラクレスが家畜小屋を掃除することになるアウゲイアスまで入っている。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロニオスはテセウスについて「冥界に囚われていて来られなかった」とわざわざ断り、名簿から外す。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀
ローマのウァレリウス・フラックスは、アポロニオスにもアポロドーロスにもいない若きネストルを乗せる。のちにトロイア戦争の長老となる人物を、一世代前の遠征に乗り合わせさせた形。
ウァレリウス・フラックス『アルゴナウティカ(ウァレリウス・フラックス)』 1世紀後半
アポロドーロスは、往復の航海全体を4か月で終えたとする。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
予言者ピネウスの教えで、打ち合う岩の間にまず鳩を放つ。鳩は尾の先だけを挟まれて抜け、アルゴ船も船尾の飾りを削られただけで通り抜けた。以後、岩は動かなくなった。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
盲目の予言者ピネウスは、ハルピュイアに食事を奪われ汚されていた。北風の神の息子ゼテスとカライスが翼で追い払い、ピネウスは礼に航路を教えた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
最初に寄ったレムノス島は、女たちが父と夫を殺して男のいない島になっていた。イアソンは女王ヒュプシピュレとのあいだに子をもうける。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ドリオネス人の王キュジコスに歓待されたが、夜に吹き戻されて再上陸し、敵と取り違えた戦いで王を殺してしまう。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
クレタ島では、一日三度島を駆け回る青銅の巨人タロスが石を投げて上陸を阻んだが、メデイアの計略で倒れた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
追ってくるアイエテスから逃れるため、メデイアは弟アプシュルトスを殺して切り刻み、海に投げた。これに怒ったゼウスが嵐を送り、船はキルケに清めてもらえと声を発した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ホメロスはこの遠征を、すでに誰もが知る話として扱う。キルケはオデュッセウスに、打ち合う岩をすり抜けられた船はアイエテスのもとから帰る「万人の関心の的のアルゴ」だけだった、と語る。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
まとまった形で残る早い語りの一つがピンダロス『ピュティア祝勝歌』第4歌で、片方のサンダルの神託、ケイロンに育てられたイアソン、火を吐く牡牛、金羊毛、レムノスの女たちまでを歌う。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
遠征の全体を一つの叙事詩にしたのが、前3世紀のアポロニオス『アルゴナウティカ』全4巻。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀
アポロニオスでは、ヘラクレスは序盤でミュシアに置き去りにされる。愛する従者ヒュラスが泉のニンフにさらわれ、探しに行ったあいだに船が出てしまった。海神グラウコスが現れ、ヘラクレスはエウリュステウスのもとで十二の難業を果たす定めだと告げて一同をなだめる。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
出航を見送るケイロンの妻の腕には幼いアキレウスがいる。アルゴ船の英雄たちはトロイア戦争の英雄たちの父の世代にあたり、ペレウスとアキレウス、ラエルテスとオデュッセウスのように親子で二つの物語がつながる。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
1.9.23 アルゴ船を焼いて乗組員を殺そうとたくらむ
『アルゴナウティカ』2.1030-1089(アレスの島の鳥)、ヒュギヌス20「ステュンパリデス」
アポロドーロス1.9.16 イアソンに羊毛を取ってくるよう命じる。『アルゴナウティカ』1.1-17 ペリアスの命で船出する
1.9.23
アポロニオス 4.1638-1688 青銅の巨人タロスに上陸を阻まれる。アポロドーロス 1.9.26
1.9.17
アポロニオス1.172-175、3.197、3.440、アポロドーロス1.9.16
1.9.16「ペライのペレスの子アドメトス」
1.9.16 アルゴナウタイの名簿に「オイクレスの子アンピアラオス」
1.9.16 名簿に「アルケイシオスの子ラエルテス」。オデュッセウスの父
1.9.16 名簿には入るが、アポロニオス 1.101-104 は不参加とする
1.380 ウァレリウス・フラックスは若きネストルを乗組員に加える。アポロニオスとアポロドーロスの名簿には無い
1.553-558 出航を海辺で見送る。妻は幼いアキレウスを抱いて父ペレウスに見せる
1.9.25 テティスとネレイスたちがヘラの呼びかけで船を導く
1.9.25
1.9.25 パイアケス人の島でコルキス人がメデイアの引き渡しを求める
1.9.16 アルゴナウタイの名簿に「スコイネウスの娘アタランテ」。アポロニオス『アルゴナウティカ』1.769-773 では、同行を望んだがイアソンが断ったとされる
1.1310-1328 ヘラクレスを置き去りにしたと争うアルゴー船の前に現れ、神意を告げる
『アルゴナウティカ』1.190-201 まだ少年で、叔父イピクロスが付き添う / 1.9.16
アポロニオス 4.930-963 テティスと姉妹たちがアルゴー船をさまよう岩のあいだで導く。アポロドロス 1.9.25
4.1551-1622 トリトン湖で迷ったアルゴー船を海へ導く
アポロニオス 4.1638-1688、アポロドーロス 1.9.26 青銅の番人タロス
Argonaut(アルゴノート)英語 Argonaut は「アルゴ船の船乗り」(Argo + ギリシャ語 nautēs 船乗り)で、英語での記録は1580年代から。1848年のカリフォルニアのゴールドラッシュで金を求めて西へ向かった人々は、金羊毛を求めた英雄になぞらえて argonauts と呼ばれた。nautēs は astronaut(宇宙飛行士)や nautical と同じ語根。