ギリシャ神話の地図
ゼウス祖父アキレウス息子イアソン仲間プリアモス重なった父ケイロン命の恩人パトロクロス養い子ペレウスとテティスの婚礼婚礼アタランテ力比べの相手
ペレウスとテティスの婚礼の宴に集まった神々。ヨアヒム・ウテワールの作。

ペレウス

Πηλεύς英雄

ペレウスとテティスの婚礼の宴に集まった神々。ヨアヒム・ウテワールの作。 『ペレウスとテティスの婚礼』 ヨアヒム・ウテワール 1612年 クラーク美術館Public domain

トロイア戦争のそもそもの始まりは、一人の人間の男の結婚式だった。神々が招かれたその宴の席で、争いの女神がりんごを投げ入れ、三女神の美くらべが起きた。花婿の名はペレウス。のちにギリシャ最強の戦士アキレウスの父となる男である。

では、女神を妻にした数少ない人間であるペレウスの一生を、はじめからたどってみよう。

ペレウスは、ゼウスの息子にあたる敬虔な王の子として、アイギナ島に生まれた。その人生は、罪と逃亡から始まる。腹違いの弟が競技に秀でていたのをねたみ、ペレウスはもう一人の兄弟と、その弟を殺す相談をした。兄弟が円盤を弟の頭に投げつけて殺し、ペレウスは死体を森に隠すのを手伝った。罪は露見し、二人は父に島を追われた。

ギリシャ北部の国に逃れたペレウスは、そこの王に罪を清めてもらい、王の娘と国の三分の一を与えられた。ところが、王とともに名高い大猪狩りに出かけたとき、猪に投げた槍が王に当たってしまう。二度目の逃亡だった。

次に身を寄せた別の王のもとでは、王妃に言い寄られた。ペレウスが拒むと、王妃は逆に、ペレウスに乱暴されかけたと夫に訴えた。王は、自分が罪を清めてやった男を手にかけるわけにはいかず、ペリオン山への狩りに誘い出す。山で眠り込んだペレウスを置き去りにし、剣を牛の糞の中に隠して帰ってしまった。目を覚まして剣を探すペレウスを、荒くれ者の半人半馬、ケンタウロスたちが捕まえる。命を救ったのは、同じケンタウロスでも賢者として知られるケイロンだった。

やがて、ペレウスに思いもよらない縁談が回ってくる。海の女神テティスである。もとはゼウスとポセイドンが彼女を妻にしようと争っていた。ところが掟の女神が予言した。テティスが産む子は、父よりも強くなる。神々の王の座をおびやかす子が生まれては困る。二柱の神は手を引き、テティスは人間に嫁がされることになった。

ケイロンはペレウスに教えた。女神をつかまえたら、どんな姿に変わっても離すな。ペレウスは機会をうかがってテティスを捕らえた。女神は火になり、水になり、獣になって逃れようとしたが、ペレウスは手を離さず、とうとう女神はもとの姿に戻った。婚礼はペリオン山で挙げられ、神々が集まって宴を開き、歌を歌った。ケイロンはトネリコの槍を、ポセイドンは不死の馬2頭を贈った。『イリアス』では、神々から贈られた武具も、のちに息子アキレウスが身につけることになる。

姿を変えて逃れようとする海の女神に組みつくペレウス。
姿を変えて逃れようとする海の女神に組みつくペレウス。『レキュトス(油壺)』 前480年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

子が生まれると、テティスは我が子を不死にしようとした。夜ごと夫に隠れて赤子を火の中に入れ、父から受けた死すべき部分を焼き払い、昼には神々の香油を塗った。ある夜、それを見てしまったペレウスは、火の中で身をよじる我が子に思わず叫び声を上げた。邪魔をされたテティスは赤子を置いて、海の姉妹たちのもとへ帰っていった。ペレウスは赤子をケイロンに預けた。その子がアキレウスである。

『イリアス』の中に、ペレウス本人は一度も姿を見せない。彼はいつも、息子が遠い戦場から思い出す、故郷で老いていく父として語られる。アキレウスは、息子ヘクトルの遺体を返してほしいと頼みに来たトロイアの老王プリアモスに、こう話した。神々は父にあらゆる幸いを与え、女神を妻にさえ与えた。だが一つだけ災いも与えた。跡を継ぐ息子を、たった一人しか授けなかった。その一人も、父の老いを世話することなく、遠いトロイアの地にいる。

『イリアス』は、妻となった女神が、この結婚をどう思っていたかも伝えている。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

テティスは夜ごと赤子を火にかざして死すべき部分を焼き、昼はアンブロシアを塗っていたが、それを見たペレウスが叫んだため、赤子を残してネレイデスのもとへ去った。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

テティスとの結婚は求婚ではなく力ずくだったという伝承がある。姿を変えて逃げようとするテティスを掴んで離さず、ついに屈服させたというもの。ホメロスはこの経緯を語らない。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ペレウスとテラモンは、競技に秀でた異母弟ポコスをねたみ、くじに当たったテラモンが円盤を投げて殺し、ペレウスが死体を森に隠すのを手伝った。露見して二人はアイアコスにアイギナを追われた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ペレウスはプティアのエウリュティオンに清められて娘と国の三分の一を得たが、カリュドンの猪狩りで槍が誤ってエウリュティオンに当たり、イオルコスのアカストスのもとへ逃れた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

アカストスの妻アステュダメイアは言い寄って拒まれるとペレウスを讒言した。アカストスはペリオン山の狩りでペレウスを眠らせたまま置き去りにし、剣を牛糞に隠した。ケンタウロスたちに殺されかけたペレウスをケイロンが救い、剣も返した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

女神テティスを妻に迎えた人間。『イリアス』はその婚礼を直接描かないが、「神々がペレウスに贈った武具」「神々が列席した婚礼」として何度も前提にする。この婚礼の席の諍いがトロイア戦争の発端(パリスの審判)につながる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

神々からの婚礼の贈り物がそのままアキレウスの装備になっている。不死の馬クサントスとバリオス、ヘファイストス作の武具、そしてケイロンが贈ったペリオンのトネリコの槍。ただし槍だけはアキレウス以外には扱えず、パトロクロスは持っていかなかった。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

『イリアス』のペレウスは登場しない。彼は常に「故郷で老いていく父」として言及される。24巻でアキレウスはプリアモスに、自分の父も同じように老い、たった一人の息子も帰らないのだと語る。敵の父と自分の父が重なるこの場面が『イリアス』の終わり方を決めている。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

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アルゴナウタイの一人として数えられる。アポロニオス『アルゴナウティカ』では、海のニンフに助けられる場面で妻テティスとの関係が語られる。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀

テティスは「父より優れた子を産む」と予言されていたため、神々が人間に嫁がせたとされる。アポロドーロスはゼウスとポセイドンが彼女を争ったが、テミスの予言を聞いて手を引いたとする。ピンダロスでは、テミスが神々の前で「雷霆や三叉戟に勝る武器を持つ子が生まれる」と告げ、人間の寝所を与えてペレウスに嫁がせよと勧める。

ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ほかのつながり(7人)

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このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』
  4. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  5. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  8. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』