ホメロスではニンフたちは「アイギスを持つゼウスの娘たち」と呼ばれる。山のニンフたちは、アキレウスに殺されたエエティオンの墓のまわりに楡の木を植え、ナイアスたちはイタケの洞窟で石の機を織る。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

Νύμφαι神
森の泉に集うニンフたち。ブグローの絵。 『ニンフの泉』 ウィリアム・アドルフ・ブグロー 1878年Public domain
「ニンフ」という言葉は、英語では、美しい乙女の姿をした精霊を指すほか、虫の幼虫と成虫のあいだの時期、つまり若虫の呼び名にもなっている。もとのギリシャ語は、「花嫁」や「若い妻」を意味する言葉だった。
ニンフは、山や泉や川や木に宿る、若い女の姿をした女神たちである。『イリアス』や『オデュッセイア』は、彼女たちを「アイギスを持つゼウスの娘たち」と呼ぶ。英雄アキレウスに殺された王の墓のまわりに、山のニンフたちが楡の木を植えた、と『イリアス』は語る。
ところが、ヘシオドスの『神統記』では、生まれがまったく違う。天空の神が息子に傷つけられたとき、飛び散った血を大地が受け、やがて復讐の女神たちや巨人たちとともに、トネリコの木のニンフたちを産んだ。
ホメロス風讃歌と呼ばれる古い讃歌集の『アプロディテ讃歌』は、山のニンフの命について不思議なことを語っている。彼女たちは人間でも神でもない。長く生きて、神々の食べ物を口にし、踊りの輪に加わる。そしてニンフが生まれるとき、樅や樫の木も一緒に大地から生えてくる。その木が枯れるとき、ニンフの命もまた、日の光を離れていく。
ニンフたちは、神々や英雄の物語にもしばしば姿を見せる。狩りの女神アルテミスとともに野山を駆け回る。英雄オデュッセウスを7年引き留めた女神カリュプソも、『オデュッセイア』ではニンフと呼ばれている。一つ目の巨人の母も、海の神の娘のニンフだった。

ニンフに連れ去られた若者もいる。神話集を書いたアポロドーロスによれば、金の羊毛を求めるアルゴ船の旅の途中、英雄ヘラクレスに仕える少年ヒュラスが、水を汲みに行かされた。少年はその美しさゆえに、泉のニンフたちにさらわれてしまう。叫び声を聞いた仲間が、盗賊にさらわれたと思って剣を抜いて追いかけ、ヘラクレスと二人で少年を探しているうちに、船は二人を残して海へ出てしまったという。

オデュッセウスの故郷イタケにも、ニンフたちの洞窟があった。港の奥のオリーブの木のそばにあり、中には石の甕や石の機が並び、ニンフたちが海の紫に染めた布を織っている。入口は二つあって、北の入口は人間のため、南の入口は神々のためのものだった。20年ぶりに眠ったまま浜に降ろされたオデュッセウスは、この洞窟にパイエケス人からの贈り物を隠し、ニンフたちに祈った。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
ホメロスではニンフたちは「アイギスを持つゼウスの娘たち」と呼ばれる。山のニンフたちは、アキレウスに殺されたエエティオンの墓のまわりに楡の木を植え、ナイアスたちはイタケの洞窟で石の機を織る。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ヘシオドスでは、クロノスがウラノスを傷つけたとき、飛び散った血の滴を大地ガイアが受け、時が経ってエリニュスたちと巨人ギガース、そして「メリアイ」と呼ばれるトネリコのニンフたちを産む。ホメロスの「ゼウスの娘」とは違う出自。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
英語 nymph は14世紀後半から使われ、ギリシャ語 nymphē は元は「花嫁、若妻」、のちに「美しい若い女」、そして「美しい乙女の姿をした半神的な存在」を意味するようになった。英語では1570年代から、昆虫の幼虫と成虫のあいだの段階(若虫)も指す。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
アルゴナウタイの航海の途中、ヘラクレスの寵愛を受けたテイオダマスの子ヒュラスは水を汲みに遣わされ、その美しさのためにニンフたちにさらわれた。叫び声を聞いたポリュペモス(キュクロプスとは別人)が盗賊の仕業と思って剣を抜いて追い、ヘラクレスとともに探すうちに船は出航した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オデュッセウスが眠ったままイタケに降ろされた港の奥には、ナイアスと呼ばれるニンフたちの聖なる洞窟がある。中には石の甕と機があり、北の入口は人間用、南の入口は神々専用。オデュッセウスはかつてここで何度も供え物をしていた。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
『アプロディテ讃歌』によれば、山のニンフは人間にも神々にも属さず、長く生きて神々の食べ物を口にする。生まれるときに樅や樫の木が一緒に生え、その木が枯れるとき、ニンフの命も同時に日の光を離れる。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
ニンフが英雄や怪物の母になる例もある。『オデュッセイア』では、一つ目の巨人ポリュペモスの母トオサは海の神ポルキュスの娘であるニンフで、ポセイドンと交わって彼を産んだ。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
イタケに帰り着いたオデュッセウスは、ニンフの洞窟にパイエケス人からの贈り物を隠し、ニンフたちに祈った。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
『神統記』183-187 メリアイはウラノスの血から生まれる
『アプロディテ讃歌』262-263 シレノスたちが洞窟でニンフと交わる
『神統記』187 同じ血の滴からトネリコのニンフ(メリアイ)も生まれる
Met. 4.289 イダ山の洞窟でナイアス(泉のニンフ)たちが育てた
Met. 1.704 川の姉妹たちに姿を変えてくれるよう祈る
パウサニアス10.32.7、『変身物語』1.320 コリュキオンのニンフ
ニンフ / nymph英語 nymph は14世紀後半から見られ、古フランス語とラテン語を経てギリシャ語 nymphē から来ている。nymphē は元は「花嫁、若妻」の意味で、のちに「美しい若い女」、さらに「美しい乙女の姿をした半神的な存在」を指すようになった。英語では1570年代から、昆虫の幼虫と成虫のあいだの段階(若虫)の意味でも使われる。