まずカオスが生じ、次に「広い胸の」ガイアが生まれた。不死なる者たちの揺るぎない座として、タルタロスとエロスと並ぶ最初の存在の一つとされる。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃

Γαῖα神
大地の女神ガイア。フォイエルバッハの天井画。 『ガイア』 アンゼルム・フォイエルバッハ 1875年 ウィーン美術アカデミーの天井画Public domain
地球全体を、自分で調子を整える一つの生き物のようにとらえる「ガイア理論」。1970年代に唱えられたこの説の名前は、ギリシャ神話の大地の女神から取られた。
ギリシャの神々の王座は、三度入れ替わる。そのたびに陰で筋書きを描いていたのが、大地の女神ガイアだった。
『神統記』によれば、世界の初めにまず生じたのは、何もない裂け目カオスだった。次に、胸の広い大地ガイアが生まれた。神々がいつまでも揺るがず座っていられる土台として。
ガイアは、伴侶もなしに、自分と同じ大きさの星をちりばめた天ウラノスを産んだ。自分を隅々まで覆わせるためだった。さらに山々と、海を産む。やがて自分の産んだ天と交わり、ティタンと呼ばれる神々を次々に産んだ。末っ子が、たくらみ深いクロノスである。一つ目の巨人たちや、百の腕を持つ巨人たちも、ガイアの子だった。
ところが父ウラノスは、生まれた子を憎み、生まれるそばから大地の奥へ押し込めて、光の下に出さなかった。子を腹の中に詰め込まれたガイアは、うめいた。そして一つの計略を思いつく。灰色の石で大きな鎌をこしらえ、子どもたちに言った。父の非道に報いたいなら、私に従いなさい、と。
子どもたちは怖じ気づいて、誰も口を開かなかった。応じたのは末っ子のクロノスだけだった。ガイアは喜んで息子を物陰に潜ませ、鎌を手渡す。夜とともにウラノスが大地に覆いかぶさってきたとき、クロノスは鎌を振るって父を傷つけ、その体の一部を切り落として投げ捨てた。

飛び散った血を、大地は受け止めた。季節がめぐると、そこから復讐の女神たちと、輝く鎧の巨人族と、トネリコの精たちが生まれた。海に落ちたものからは白い泡が広がり、その中から女神アプロディテが生まれたという。

こうして王座はクロノスのものになった。けれども今度はクロノス自身が、息子に王座を奪われると聞かされ、生まれた子を次々に呑み込むようになる。苦しんだ妻が相談したのは、やはり母ガイアだった。ガイアは末っ子ゼウスをクレタ島に隠す手はずを整え、クロノスには赤子の代わりに、産着でくるんだ石が渡された。成長したゼウスが父に子どもたちを吐き出させたのも、ガイアの知恵によるという。
ゼウスとティタンの神々の戦いでも、ガイアは勝ち方を教えた。地下に閉じ込められていた百の腕を持つ巨人たちを、光の下に連れ戻しなさい。ゼウスがその助言に従うと、戦いは決着した。ゼウスが最初の妻である知恵の女神を呑み込んだのも、ガイアと天の忠告を聞いたからだった。

それでも大地の女神は、いつまでも新しい王の味方ではなかった。ティタンの神々が地の底へ追いやられたあと、ガイアは地の底の奈落の神と交わり、最後の子、怪物テュポンを産む。肩から百の蛇の頭が生え、目から火を噴く怪物である。ゼウスの支配に向けられた、最後にして最大の挑戦だった。
王を立て、王を倒させ、また次の王に知恵を授ける。ガイアは神々の系図のほとんどすべての出発点にいる。
ところが『イリアス』や『オデュッセイア』では、この大地の女神はほとんど物語に姿を見せない。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ジェームズ・ラヴロック『地球生命圏——ガイアの科学』
まずカオスが生じ、次に「広い胸の」ガイアが生まれた。不死なる者たちの揺るぎない座として、タルタロスとエロスと並ぶ最初の存在の一つとされる。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
伴侶なしに、自分と等しい大きさの星をちりばめた天ウラノスを産み、自分を覆わせた。次いで山々とポントス(海)を産む。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ウラノスが生まれた子を次々と大地の内に押し隠したため、ガイアは苦しんで灰色の燧石から大鎌を作り、子らに父への復讐を持ちかけた。応じたのは末子クロノスだけだった。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
切り落とされたウラノスの血を受けて、復讐の女神エリニュエス、ギガンテス(巨人族)、トネリコの精メリアイを産んだ。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
子を呑み込むクロノスに苦しむレアに助言し、末子ゼウスをクレタに隠させ、クロノスには石を呑ませた。さらにクロノスに子らを吐き出させる知恵も授ける。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ティタン神族が敗れた後、タルタロスとの間に最後の子テュポエウスを産んだ。ゼウスの支配に対する最後の反乱となる。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ホメロスの叙事詩ではガイアは物語の登場人物としてはほとんど現れず、誓いの証人として天・太陽・川と並べて呼ばれる存在にとどまる。創世の物語はホメロスには無い。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ティタン神族との戦いで、ゼウスらはガイアの助言に従い、ウラノスに地下へ閉じ込められていた百手の巨人たちを光の下に連れ戻す。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ゼウスがメティスを呑み込んだのは、ガイアとウラノスの忠告による。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
切り落とされたウラノスの体は海に落ち、そこから広がった泡の中からアプロディテが生まれた。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アポロドーロス2.5.11 大地に触れると強くなるので大地の子と言う者もいた。ヒュギヌス31「大地の子アンタイオス」
アポロドーロス 3.14.1「大地から生まれ、人と蛇の混じった体をもつ」。ヒュギヌス 48「大地(テラ)の子ケクロプス」
『神統記』133-134
『神統記』133-134
『神統記』139-146(ヘシオドスのキュクロプス)
1.1.3
2.1.2 タルタロスとガイアの娘
『イリアス』2.547-548「穀物を与える大地が産んだ」。ヘロドトス 8.55「大地から生まれたと言われるエレクテウス」。後代の系図ではパンディオンの子(アポロドーロス 3.14.8)
3.14.6。アテナが拭って捨てた種が大地に落ち、そこから生まれた
209-210。プロメテウスは母を「テミス、またの名をガイア」と呼ぶ。ヘシオドス(『神統記』507-511)では母はクリュメネで、系図が食い違う
132-134
132-134
132-135
『神統記』183-187 ウラノスの血の滴を受けたガイアが、エリニュス、ギガースとともにトネリコのニンフ(メリアイ)を産む
132-133
1.4.3「大地から生まれた巨人だという」
『神統記』133-136
『神統記』131-132 ガイアが「愛の交わりなしに」産む
ヒュギヌス序文・140「大地の子」、『変身物語』1.434-440 大地が産む
132-136
『神統記』133-136 ウラノスと交わったガイアの子の一人
132-135
『神統記』132-138、アポロドーロス1.1.3
820-822 ガイアがタルタロスと交わってテュポエウスを生む。原初の神としてのタルタロス
3.276-280。誓いの証人としてゼウス・大地・川とともに並べて呼ばれる
203 追われたダプネの祈りを大地の女神が聞き入れ、月桂樹に変える
『慈しみの女神たち』1-2、パウサニアス10.5.5 最初の預言者
1.6.1 ティタンのことで怒ってギガースを産み、人間の手でも死なない薬草を探す
『神統記』626-628 百手の巨人を味方にすれば勝てると神々に教える。アポロドロス 1.2.1
ガイア理論 / ガイア仮説地球全体を自己調節する一つの生命系として捉えるジェームズ・ラヴロックの仮説(1970年代)。名称は原初の大地の女神ガイアから採られ、ラヴロック自身が、近所に住む作家ウィリアム・ゴールディングの提案によるものだと記している。