『神統記』では、ガイアがウラノスと交わって、オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、テイア、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュス、末子クロノスの12柱を産む。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃

Τιτᾶνες神
天から投げ落とされるティタンたち。コルネリス・ファン・ハールレムの絵。 『ティタンたちの墜落』 コルネリス・ファン・ハールレム 1588〜1590年Public domain
土星のいちばん大きな衛星は、タイタンという。英語では、並外れて大きなものや力を持つ大物を、小文字の titan で呼ぶこともある。どちらの名前も、ギリシャ神話で世界の最初の支配者だった神々、ティタンから来ている。

ヘシオドスの『神統記』によれば、ティタンは天空の神ウラノスと大地の女神ガイアの子どもたちである。息子が6人、娘が6人。世界の果てをめぐる大河の神オケアノス、のちにゼウスを産む母レア、掟の女神テミス、記憶の女神ムネモシュネ。そして末っ子が、ずる賢く、兄弟の中でいちばん恐ろしいクロノスだった。
父の天空の神は子どもたちを憎み、大地の奥に閉じ込めて光のもとへ出さなかった。大地の女神にそそのかされたクロノスが、大きな鎌で父を傷つけて王座を奪う。のちの神話集によれば、このとき父に立ち向かわなかったのは、兄弟の中でオケアノスひとりだけだった。

「ティタン」という名は、この事件から付いた。父は恨みをこめて子らをそう呼んだ。手を伸ばして大それたことをしでかした者ども、いずれ報いを受けるだろう、と。
ティタンたちは、きょうだい同士で結ばれて子をもうけ、その子どもたちが世界の姿を形づくっていく。光の神とその妹からは、太陽と月と曙の女神が生まれた。オケアノスと妹の間には、世界じゅうの川と、3000人もの海の娘たちが生まれた。別の夫婦の娘は女神レトで、のちにゼウスとの間にアポロンとアルテミスを産む。天を支える巨人アトラスや、人間に火を与えるプロメテウスも、ティタンの息子だ。そしてクロノスとレアの子が、ゼウス、ヘラ、ポセイドン、ハデス、デメテル、ヘスティア。オリュンポスの神々は、ティタンの子と孫だったのである。

父から奪った王座を、今度はクロノスが子に奪われることになる。わが子に倒されると予言されたクロノスは、生まれた子を次々に呑み込んだが、末っ子のゼウスだけは母の機転で助かった。成長したゼウスは兄や姉を取り戻し、父の世代に戦いを挑む。戦いは10年続き、敗れたティタンたちは、地の底のさらに下、タルタロスの暗闇へ落とされた。天から落とした青銅の金床が9日9晩で地上に届き、地上からさらに9日9晩落ちてようやく届く深さである。海の神ポセイドンが青銅の門を据え、百の腕を持つ巨人たちが番をした。

ただし、ティタンのすべてが闇に落とされたわけではない。オケアノスは、娘のステュクスにいち早くゼウスの側へつくよう知恵を授けた。掟の女神テミスは季節の女神たちと運命の女神たちを、記憶の女神ムネモシュネは9人のムーサを、ゼウスとの間に産んでいる。敵と味方は、世代の線ではっきり分かれていたわけではなかった。

『イリアス』でも、ティタンは地の底の神々として登場する。女神ヘラが最も重い誓いを立てるとき、証人として名を呼んだのが、タルタロスの下にいる「ティタンと呼ばれる神々」だった。ゼウスはヘラに向かって、お前が大地と海の果て、クロノスとその兄弟イアペトスが太陽の光も風も知らずにいるところまで行こうとかまわない、と言い放っている。
のちの時代になると、クロノスには別の居場所も与えられた。詩人ピンダロスは、正しく生きた魂がたどり着く「幸いな者たちの島」に、クロノスの塔が立つと書いている。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
『神統記』では、ガイアがウラノスと交わって、オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、テイア、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュス、末子クロノスの12柱を産む。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アポロドーロスは男6柱(オケアノス、コイオス、ヒュペリオン、クレイオス、イアペトス、クロノス)に、女のティタン(ティタニデス)としてテテュス、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、ディオネ、テイアの7柱を挙げ、ディオネを加えている。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヘシオドスは「ティタン」の名を、ウラノスが子らを非難して付けた呼び名とし、「手を伸ばして(張りつめて)大それたことをした者たち、その報いはいずれ来る」という意味の語呂合わせで説明する。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
現代の語源辞典は、Titan の語源を「太陽・日」を意味する titō に結びつける説を挙げ、小アジアの言語からの借用だろうとしている。確かではない。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
アポロドーロスでは、タルタロスに投げ込まれた子らを嘆いたガイアがティタンたちを父に立ち向かわせ、オケアノスを除く全員が攻めかかった。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
パウサニアスによれば、ホメロスからティタンの名を借りたオノマクリトスは、ディオニュソスのための秘儀の詩で、ティタンたちをこの神の受難の張本人にした。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
英語の Titan は15世紀初めには太陽の呼び名として現れ、小文字で「並外れて大きなもの・力のある人」を指す用法は1828年までに見える。土星最大の衛星がタイタンと名づけられたのは1831年で、ティタンの長クロノスがローマのサトゥルヌス(土星)にあたることによる。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
ティタン同士の子から、世界の多くの神々が出る。ヒュペリオンとテイアから太陽ヘリオス・月セレネ・曙エオス、オケアノスとテテュスから川の神々と3000人のオケアニデス、コイオスとポイベからレト、イアペトスからアトラス・プロメテウス・エピメテウス・メノイティオス、クロノスとレアからゼウスたちオリュンポスの神々。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
敗れたティタンたちはタルタロスに閉じ込められた。天から落とした青銅の金床が9日9夜で地に着き、さらに9日9夜で届く深さで、ポセイドンが青銅の門を据え、百腕の巨人たちが番をする。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ホメロスでは、ティタンはタルタロスの下にいる神々として、ヘラの誓いの証人に呼び出される。ゼウスは、イアペトスとクロノスが太陽の光も風も知らず、深いタルタロスに囲まれて大地と海の果てにいると言う。パウサニアスは、ティタンを詩に最初に登場させたのはホメロスだとする。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
すべてのティタンが敵だったわけではない。ステュクスは父オケアノスの知恵で真っ先にゼウスの側につき、テミスとムネモシュネは戦後ゼウスの妻となってホライ・モイライとムーサたちを産んだ。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ピンダロスでは、三度の生を正しく生き抜いた魂がたどる「ゼウスの道」の先、幸いな者たちの島にクロノスの塔があり、ラダマンテュスがレアの夫(クロノス)の傍らで裁きを助けている。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
タイタン(土星の衛星)/ Titan土星でいちばん大きな衛星タイタンは、1655年にオランダの天文学者が見つけ、はじめはラテン語で「土星の月」とだけ呼ばれていた。今の名を付けたのは、天文学者ジョン・ハーシェル。土星の英語名サターン(サトゥルヌス)はギリシャ神話のクロノスにあたり、クロノスはティタンと呼ばれる古い神々の一人である。ハーシェルは土星の衛星の名前について、「サトゥルヌスは自分の子を呑み込んでしまったので、家族を周りに集められない。だから兄弟姉妹のティタンたちから選んだ」と書いている。子どもを呑んだ父の神話が、衛星の名付けの決まりになった。