ギリシャ神話の地図
ゼウス支配者クロノス囚われ人ガイア妻テュポン息子ヘカトンケイル門番冥界上の階ティタノマキア戦いイクシオン罪人

タルタロス

Τάρταρος場所

天から青銅の金床を落とすと、9日9晩落ち続けて、10日目に地上に着く。そこからさらに9日9晩落ちて、10日目にようやく着く場所。それがタルタロスだ、とヘシオドスの『神統記』は語る。

ギリシャ神話には死者の国がある。冥界の王ハデスが治める館で、死んだ人間の魂はそこへ行く。タルタロスは、そのさらに下にある。『イリアス』では、神々の王ゼウスが神々を脅してこう言う。命令に背く者は、暗いタルタロスへ投げ込んでやる。鉄の門と青銅の敷居を持つ深い淵で、冥界からの距離は、天と地の距離と同じだけある、と。

つまりタルタロスは、もともと人間の罪人の行く所ではなかった。神々を閉じ込める牢獄だったのである。

ゼウスに王座を奪われた父クロノスも、ここにいる。ゼウスの一族と、父の世代のティタン族との10年に及ぶ戦いが終わると、敗れた神々は鎖につながれてタルタロスへ落とされた。周りは青銅の垣で囲まれ、夜が首飾りのように三重に取り巻いている。その上に、大地と海の根が張っている。門の番をするのは、百の手を持つ巨人たちだ。

戦いに敗れ、天から地の底へ落とされていくティタン族。
戦いに敗れ、天から地の底へ落とされていくティタン族。『ティタン族の墜落』 コルネリス・コルネリスゾーン・ファン・ハールレム 1588〜1590年 デンマーク国立美術館Public domain

『神統記』では、タルタロスは場所であると同時に、神でもある。世界の始まりに、混沌のカオス、大地のガイアに続いて生まれた最古の存在のひとつだった。のちに大地の女神ガイアはタルタロスと交わり、神々に最後の戦いを挑む怪物テュポンを産む。そのテュポンも、ゼウスに打ち負かされると、怒りにまかせて広いタルタロスへ投げ込まれた。自分の父である深みへ、子が落とされたことになる。

雷を構えるゼウスと、翼と蛇の下半身を持つ怪物テュポン。前550年ごろの水がめの絵。
雷を構えるゼウスと、翼と蛇の下半身を持つ怪物テュポン。前550年ごろの水がめの絵。『ゼウスとテュポン(ヒュドリア〈水がめ〉の絵)』 前550年ごろ ミュンヘン国立古代美術博物館Public domain

時代が下ると、タルタロスは罪人が罰を受ける場所としても語られるようになる。ローマの詩人ウェルギリウスが描いた冥界では、道が二手に分かれる。右は善人の行く楽園エリュシオン、左がタルタロスだ。その深さは、地上から天の高みを見上げる距離の倍もあるという。ティタン族のほか、神々に逆らった人間たちが、ここで永遠の罰を受けている。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、ウェルギリウス『アエネイス』

この物語の人々

ローマ以後の語り

ウェルギリウスでは、タルタロスは罪人が罰を受ける場所としてはっきり描かれる。深さはホメロスの倍で、天からオリュンポスを見上げる高さの二倍も真っ逆さまに落ち込む。ティタンの一族、アロアダイ、サルモネウス、ティテュオス、ラピタイ族のイクシオンとペイリトオスらがここにいる。善人の行くエリュシオンとは道が二手に分かれている。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

英語の Tartar(タタール人)は、13世紀にチンギス・ハンの軍勢を指したペルシャ語 Tatar から来ている。語源辞典によれば、西ヨーロッパの言葉での形には、はじめから地獄を意味するタルタロス(Tartarus)との連想が働いていて、r が入った。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

『アエネイス』では、冥界の道が二手に分かれ、右がエリュシオン、左が罪人の罰を受けるタルタロスへ通じる。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

もっと詳しく

『イリアス』で、ゼウスは命令に背く神を「暗いタルタロスへ投げ込む」と脅す。そこは鉄の門と青銅の敷居をもつ深い淵で、ハデスの下にあり、天が地から離れているのと同じだけ地の下にあるという。つまりホメロスのタルタロスは、死んだ人間の行く所ではなく、神々を閉じ込める場所。クロノスとイアペトスもそこにいるとされる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ヘシオドスは深さを具体的に示す。青銅の金床を天から落とすと9日9夜かかって10日目に地に着き、地から落とすとさらに9日9夜で10日目にタルタロスに着く。周りは青銅の垣で囲まれ、夜が首飾りのように三重に取り巻き、その上に大地と海の根がある。ティタンたちはここに閉じ込められ、百の手をもつ巨人たちが見張る。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ヘシオドスでは、タルタロスは場所であると同時に、カオス、ガイア、エロスと並んで最初に生じた存在の一つでもある。のちにガイアはタルタロスと交わって怪物テュポエウス(テュポン)を生む。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ほかのつながり(2人)

家族・恋愛

出来事・場所・物

今の言葉に残る

タルタル(Tartar=タタール人の旧称)英語の Tartar(タタール人)は14世紀後半から見え、中世ラテン語 Tartarus を経て、13世紀にチンギス・ハンの軍勢を指したペルシャ語 Tatar から来ている。語源辞典によれば、西ヨーロッパの言葉での形は、はじめから地獄を意味するラテン語 Tartarus との連想に影響されていた。1270年にフランス王ルイ9世のものとされる手紙には、「タタール人を、彼らが来たタルタロスへ押し返すか、さもなくば彼らが我々を皆天国へ送るかだ」という言葉遊びがある。

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このページの出典(5件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 前19年頃ウェルギリウス『アエネイス』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』