逆引き
現代語から引く
アキレス腱、オデッセイ、メンター、サイレン。日常の言葉から、元になった神話の人物へ。
日本語で使われている言葉 105
- アキレス腱(弱点の意) → アキレウス「強力な者が持っているただ一か所の弱点」を指す比喩。英語 Achilles' heel も同じ発想で、英語でこの比喩が見えるのは1810年から。いずれも、母に踵をつかまれてステュクス川に浸され、踵だけが弱点として残ったという伝承に基づくが、語源辞典によればこの話はホメロスには無く、紀元1世紀より前には見当たらない。『イリアス』では、アキレウスはアステロパイオスの槍で右の前腕をかすられ、黒い血を流している。近現代広辞苑ホメロスイリアス近現代精選版 日本国語大辞典近現代オンライン語源辞典
- トロイの木馬(マルウェア) → トロイアの木馬無害な顔をして侵入し内部から加害するプログラムの総称。内に隠れた者が中から襲う罠のたとえとしては、すでにローマ時代にラテン語で「トロイアの馬」と言われていた。英語の Trojan horse は1570年代から見え、コンピュータ用語としての用例は1982年から記録される。Trojan は「トロイアの」という意味だが、『オデュッセイア』によれば、木馬を作ったのはギリシャ方のエペイオスで、アテナの助けを借りたという。近現代オンライン語源辞典ホメロスオデュッセイア
- パンドラの箱 → パンドラの壺(箱)「さまざまな災いを引き起こす原因となるもの」のたとえ。ヘシオドス『仕事と日』では pithos(大甕)で、これが「箱」になったのはエラスムスがラテン語で語り直した際に pyxis(小箱)の語を用いたためとされる(パノフスキー夫妻の研究による)。日本語の辞典も「パンドラの箱」を見出しにして、「本来は壺」と書き添えている。詳しくは読み物「パンドラの箱とパンドラの壺」に。古拙期仕事と日中世〜格言集(アダギア)近現代パンドラの箱 ― ある神話的象徴の変容近現代故事成語を知る辞典近現代デジタル大辞泉
- サイレン / siren → セイレーン警報装置のサイレン。歌で船乗りを惑わせたセイレーンの名から。英語 siren は14世紀半ばに神話上の海の精として入り、1580年代に「魅惑する女性」の比喩、警報音を出す装置の意味は1879年(汽船について)から記録される。日本語の「サイレン」はこの装置の意味を英語から受け取ったもの。近現代オンライン語源辞典近現代精選版 日本国語大辞典
- おひつじ座 / Aries → 金羊毛星占いでおなじみのおひつじ座(牡羊座)の羊は、ただの羊ではない。ローマ時代の星座の本、ヒュギヌスの『天文譜』によれば、命をねらわれた兄妹を背に乗せて空を逃げた、金の毛皮の雄羊である。妹は途中で海に落ちて死に、その海峡は彼女の名からヘレスポントスと呼ばれるようになった。兄はコルキスにたどり着き、羊をゼウスに捧げ、金の毛皮を神殿に掛けた。のちにイアソンとアルゴ船の英雄たちが取りに行く金羊毛が、これである。羊の姿は、兄妹の母が星のあいだに置いたという。星の本はもう一つ別の伝えも書き留めている。羊は自分で金の毛皮を脱いで少年に形見として渡し、自分だけが星になった。だからこの星座は暗く見えるのだ、と。英語の Aries はラテン語で「雄羊」の意味で、星座の名としては古英語の終わりごろから使われている。ローマ期天文譜ローマ期神話集(ファブラエ)近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- おうし座 / Taurus → エウロペおうし座(牡牛座)の牡牛の正体は、ゼウスである。オウィディウスの『祭暦』によれば、ゼウスは牡牛に化けて海辺の王女エウロペを背に乗せ、海を渡った。王女は片手でたてがみをつかみ、もう片方の手で風にあおられる衣を押さえていた。向こう岸に着くと、牡牛は角のない神の姿に戻っていた。こうして牡牛は天に上り、王女の名は大地の三分の一に付けられた、と詩は結ぶ。ヨーロッパのことである。同じ詩は、これはエジプトの雌牛だという別の説も書き添えている。ヒュギヌスの『天文譜』も、エウリピデスの説として、エウロペを無事にクレタ島まで運んだ牡牛だとする。英語の Taurus はラテン語で「牡牛」で、ギリシャ語の tauros と同じ根に遡る。牛頭の怪物ミノタウロスの名も、ミノス王の名にこの tauros を合わせたものである。ローマ期祭暦ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ふたご座 / Gemini → カストルふたご座(双子座)の双子は、「ゼウスの息子たち」と呼ばれたカストルとポリュデウケス(ラテン語でポルックス)の兄弟である。二人の名は、この星座でいちばん明るい二つの星の名としても残っている。ヒュギヌスの『天文譜』は、なぜこの二人が星になったのかを、仲の良さで説明する。どの兄弟よりも互いを大事にし、どちらが上かを争うこともなく、何をするにも二人で相談して決めた。その心がけに報いて、ゼウスが二人をよく目立つ星にした。海の神ポセイドンも、乗る馬と、難破した人を救う力を二人に与えた。さらに同じ本は、ポルックスが自分の命の半分を兄弟に分けたので、二人は一日おきに輝くのだと、ホメロスの名を挙げて書き添えている。ただしこの星座を、ヘラクレスとアポロンの組とする説もあった。英語の Gemini はラテン語で「双子」の意味で、古英語の終わりごろから使われている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- かに座 / Cancer → ヒュドラかに座(蟹座)の蟹は、ヘラクレスの足に噛みついた蟹である。ヒュギヌスの『天文譜』によれば、ヘラクレスが沼で怪物ヒュドラと戦っていたとき、沼から出てきた蟹が彼の足をはさんだ。怒ったヘラクレスは蟹を殺してしまう。けれども女神ヘラがその蟹を星のあいだに置き、太陽の通り道に並ぶ十二の星座の仲間に入れた。英雄の足をはさんだだけで殺された小さな蟹が、星占いの12星座の一つとして残ったわけである。英語の cancer はラテン語で「蟹」。これが病気の「がん」の名にもなった。語源辞典によれば、ギリシャ語の karkinos も蟹・腫瘍・星座の三つの意味を持ち、古代の医者ヒッポクラテスやガレノスらが、血管が浮き出て腫れた腫瘍を蟹に似ていると書き残している。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- しし座 / Leo → ネメアの獅子しし座(獅子座)のライオンは、ヘラクレスが素手で倒したネメアの獅子とされる。もっとも、ヒュギヌスの『天文譜』が最初に挙げる理由はもっと単純で、あらゆる獣の王と考えられていたからゼウスが星にした、というものだ。そのうえで、これはヘラクレスの最初の戦いの相手で、彼が武器を持たずに殺したからだ、とまで言う人々もいる、と書き添え、何人もの詩人がこの話を書いたと述べている。英語の Leo はラテン語で「ライオン」の意味で、星座の名としては古英語の終わりごろから使われている。11月中旬に見ごろを迎えるしし座流星群(英語で Leonid)の名は1868年から。語源辞典によれば、流れ星がとりわけ多く降るのはおよそ33年ごとで、テンペル・タットル彗星と結びついていると考えられている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- おとめ座 / Virgo → 人間の五つの時代おとめ座(乙女座)の乙女は、人間に愛想を尽かして天へ去った女神だ、という話がある。紀元前3世紀のアラトスが星座を題材に書いた詩『星辰譜』によれば、この女神はむかし地上で人間とともに暮らし、広場や大通りに長老たちを集めては、人々のためになる裁きを説いていた。人々は彼女を「正義」と呼んだ。争いも戦もなく、船で遠くへ出る者もいない金の時代のことである。銀の時代になると、女神は夕方に山からひとりで下りてきて、人々の悪い行いを叱るだけになった。そして青銅の時代、人間が初めて悪事のための剣を鍛え、畑を耕す牛まで食べるようになったとき、女神はこの種族を嫌って天へ飛び去った。いまも夜空に見える乙女がその姿だという。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』もこの話を紹介しつつ、同じ星座を実りの女神ケレス(デメテル)や幸運の女神とする人もいて意見が合わない、それは乙女の頭のあたりの星が暗すぎるからだ、と書いている。英語の Virgo はラテン語で「乙女」の意味で、1000年ごろから使われている。ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- てんびん座 / Libra → オリオン星占いの12星座を並べてみると、てんびん座(天秤座)だけが、動物でも人でもない道具の星座だと気づく。わけがある。古代ギリシャには、この星座は無かった。語源辞典によれば、ギリシャではこのあたりの星は、となりのサソリの「はさみ」と呼ばれていた。狩人オリオンを刺し殺した、あのさそり座のサソリである。それをローマ人が天秤の星座として独り立ちさせた。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』も、サソリは体が大きすぎるので二つの星座に分けられ、その片方を「われわれは天秤と呼んだ」と書いている。十二の星座の帯を指す英語 zodiac は、もとはギリシャ語で「小さな動物たちの輪」という意味だ。ギリシャ人の数え方ではサソリとそのはさみで一組だったから、天秤が混じっていても困らなかったわけである。英語の Libra はラテン語で「天秤」で、重さの単位「ポンド」も意味した。星座の名としては古英語の終わりごろから使われている。近現代オンライン語源辞典ローマ期天文譜近現代国立天文台 公式サイト
- さそり座 / Scorpius(Scorpio) → オリオンさそり座(蠍座)のサソリは、狩人オリオンを刺し殺したサソリである。ヒュギヌスの『天文譜』によれば、狩りの腕に自信を持ったオリオンは、女神アルテミスとその母に向かって、大地から生まれるものなら何でも仕留めてみせると言い放った。怒った大地がサソリを送り、オリオンは殺される。ゼウスはこのサソリを星にした。自分の力を過信するなという、人間への戒めである。オリオンもアルテミスの願いで星になったが、サソリが昇るとオリオンが沈むように置かれた。紀元前3世紀のアラトスの詩『星辰譜』では、話が少し違う。オリオンがアルテミスの衣に手をかけたので、女神が島の丘を裂いてサソリを呼び出したのだという。どちらの話も、サソリが東から昇るころオリオンが西へ逃げるように沈む、という空の動きの説明で終わる。英語の Scorpio はラテン語で「サソリ」の意味で、14世紀後半から。語源辞典によれば、1922年から国際天文学連合の正式な学名は Scorpius になり、Scorpio のほうは星占いの言葉として残った。ローマ期天文譜ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- いて座 / Sagittarius → ケンタウロス族いて座(射手座)は、弓を引くケンタウロス(上半身が人、下半身が馬の種族)の姿で描かれる。ところがローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、これをケンタウロスとする人が多い一方で、反対する人もいた。ケンタウロスで弓矢を使った者などいない、というのがその理由である。では、なぜ馬の脚とサテュロスのような尾を持っているのか。ある人々はこう説明する。この射手は、ムーサたちの乳母の息子で、ムーサたちの山に住み、狩りの名人でもあった者だった。森では誰よりも速く、芸事では誰よりも鋭い。ムーサたちの願いでゼウスが彼を星にするとき、その腕前をひとつの体に表そうとして、よく乗っていた馬の脚と、鋭さと速さのしるしである矢を付けた。ちなみに、賢いケンタウロスとして名高いケイロンは、同じ本では南の別の星座、ケンタウルス座のほうである。語源辞典も、ケンタウルス座は古代からいて座と取り違えられてきたと書いている。英語の Sagittarius はラテン語で「射手」、もとは「矢の」という意味で、古英語の終わりごろから使われている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- やぎ座 / Capricornus(Capricorn) → パンやぎ座(山羊座)の山羊は、上半身が山羊、下半身が魚という不思議な姿で描かれる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』は、この姿の由来を二つ伝える。一つめは、ゼウスと一緒に育った山羊の脚の神の姿だという話である。ゼウスは、自分を育てた雌山羊を星にしたように、この幼なじみも星にした。彼はゼウスがティタン族と戦ったとき、敵に真っ先に恐怖を投げつけた者でもあり、その恐怖は「パンの恐れ」と呼ばれた。英語の panic(パニック)の元になった言葉である。石の代わりに貝を敵に投げつけたので、下半身が魚なのだともいう。二つめはエジプトの神官たちの伝えで、神々のもとに怪物テュポンが突然現れたとき、神々は鳥や猫に化けて逃げた。牧神パンは川に飛び込み、体の後ろ半分を魚に、前半分を山羊に変えて逃げのびた。ゼウスはその機転に感心して、その姿を星にしたという。英語の Capricorn はラテン語で「山羊の角を持つもの」の意味で、ギリシャ語の星座名「角のある山羊」を訳した言葉。古英語の終わりごろから使われている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- みずがめ座 / Aquarius → ガニュメデスみずがめ座(水瓶座)で水瓶から水を注いでいるのは、ゼウスにさらわれた美少年ガニュメデスだとする人が多い。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、ゼウスはその美しさゆえに少年を両親のもとから連れ去り、神々に仕える給仕にした。だから星座でも、水瓶から水を注ぐ姿をしているのだという。すぐそばには、少年をさらってゼウスのもとへ運んだ鷲の星座、わし座が、水瓶を持つ少年の上を飛んでいる。ただし、この星座については別の説もあった。天から大量の水が降り注いだ大洪水の時代の王だとする説や、ぶどう酒が人間に伝わる前、神々への供え物に水を使っていた大昔のアテナイの王だとする説である。英語の Aquarius はラテン語で「水を運ぶ人」の意味で、ギリシャ語の古い星座名「水を注ぐ人」を訳したもの。古英語の終わりごろから使われている。1967年のロックの歌「Age of Aquarius」で広まったとされる「水瓶座の時代」は、20世紀に始まるとされた星占いの時代区分である。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- うお座 / Pisces → アプロディテうお座(魚座)は、尾をひもで結ばれた二匹の魚の姿で描かれる。この二匹は、愛の女神アプロディテとその息子エロスにまつわる魚だという。オウィディウスの『祭暦』によれば、ゼウスが天を守るために武器を取っていたころ、女神は怪物テュポンに追われ、幼い息子を連れて逃げて、ユーフラテス川のほとりに身を隠した。風が林をざわめかせると、女神は敵が来たと思って青ざめ、息子を胸に抱いて川へ飛び込んだ。そのとき二匹の魚が下にもぐりこみ、二人を背に乗せて救った。この魚が星の名になり、そのあたりの人々は罰当たりだとして魚を食べないのだという。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』は少し違い、母子が自分で魚の姿に変わって難を逃れたと書く。英語の Pisces はラテン語 piscis「魚」の複数形で、古英語の終わりごろから使われている。ローマ期祭暦ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- アポロチョコ / 明治「アポロ」 → アポロン三角形のチョコ菓子「アポロ」は、1969年8月7日に明治から発売された。あの形は、同じ年の7月に人類初の月面着陸を果たした宇宙船アポロ11号をかたどったものだと、明治は公式に説明している。ところが名前は宇宙船から取ったのではない。明治がお菓子の名前として「アポロ」を登録したのは月面着陸より前で、由来はギリシャ神話の神アポロンだという。形は宇宙船、名前は神様。宇宙計画のほうもアポロンにちなんで名付けられているので、行き着く先は同じ神になる。近現代アポロ(株式会社明治 公式サイト)近現代NASA公式サイト
- イージス艦 / Aegis → アイギスイージス艦は、多数の航空機やミサイルを同時に追いかけて迎え撃てる「イージス・システム」を積んだ軍艦のこと。システムを開発した米ロッキード・マーティン社によれば、艦対空ミサイル・システムの計画は、ゼウスの魔法の盾にちなんで AEGIS と名前を改め、1969年に始まった。ところが日本の百科事典は、イージスを「女神アテナの盾」と書いている。どちらが正しいのか。『イリアス』によれば、アイギスは鍛冶の神ヘパイストスがゼウスに与えた防具で、アテナもこれを肩にかけて戦場に出る。つまり両方とも神話のとおりである。海上自衛隊の最初のイージス艦「こんごう」は1993年に完成した。英語の aegis は1793年から、比喩として「保護」の意味でも使われている。近現代AEGIS, Shield of the Fleet(ロッキード・マーティン社の沿革記事)近現代日本大百科全書(ニッポニカ)ホメロスイリアス近現代オンライン語源辞典
- オリンパス / OLYMPUS(社名) → オリュンポス山顕微鏡や胃カメラで知られるオリンパスは、ギリシャ神話で神々が住む山、オリンポス山の英語読みを名乗っている。会社は1919年に「高千穂製作所」として生まれた。日本神話で神々がいる高天原は高千穂の峰にあるとされることから、それに当たる西洋の神々の山としてオリンポスを選び、創業のころから商標にしていたと、会社が公式に説明している。社名そのものがオリンパスになったのは1949年(オリンパス光学工業)で、2003年に今のオリンパス株式会社になった。近現代創業の精神(オリンパス 企業情報・沿革)
- キヤノン EOS(イオス) → エオスキヤノンのカメラ「EOS(イオス)」は、1987年3月発売の EOS 650 から始まった。キヤノンは公式に、EOS は「Electro Optical System」(電子光学システム)の頭文字であり、同時にギリシャ神話の「曙の女神」の名でもある、と説明している。技術の略語と女神の名を重ねた名前である。ギリシャ語の eos はそのまま「夜明け」という意味の言葉でもあり、ローマの曙の女神アウロラ(オーロラの語源)とは、名前の根っこが同じだと語源辞典は説明している。近現代キヤノンの「EOS SYSTEM」が誕生35周年(ニュースリリース)近現代オンライン語源辞典
- エディプス・コンプレックス(Oedipus complex) → オイディプス男の子が、同性の親である父を憎み、母を慕う無意識の傾向。フロイトの用語で、英語 Oedipus complex は1910年から記録がある(形容詞 Oedipal は1939年から)。知らずに父を殺し母と結婚したテーバイ王オイディプスにちなむ。日本語の辞典では、神話の人名表記「オイディプス」ではなく「エディプス」の形で載っている。オイディプスの名は、ギリシャ語の oidan(腫れる)と pous(足)からなり、「腫れた足」の意味である。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- アリアドネの糸 → アリアドネ「アリアドネの糸」は、とても難しい状況から抜け出すときの道しるべになるもののたとえ。故事成語の辞典は、1951年のある文章から「アリアドネの糸をたどって」という使い方を例に挙げている。もとは、怪物ミノタウロスを退治するために、一度入ったら出られない迷宮に入る英雄テセウスの話。クレタの王女アリアドネは、自分をアテネに連れ帰って妻にすると誓わせたうえで、迷宮を造った職人に抜け出す方法を尋ね、その助言どおり糸玉をテセウスに渡した。テセウスは糸をたどって無事に戻ってきた。ところがアリアドネは、帰り道に立ち寄った島でテセウスと別れることになる。置き去りにされたとも、酒の神ディオニュソスに連れ去られたとも伝わる。近現代故事成語を知る辞典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)ローマ期変身物語
- アキレスと亀 → アキレウス「アキレスと亀」は、おかしいと分かっていても、なかなか言い負かせない主張のたとえ。もとは古代ギリシャの哲学者ゼノンが出した逆説で、アリストテレスが『自然学』で紹介している。足の速いアキレスが、先を行く亀を追いかける。亀がいた地点にアキレスが着いたとき、亀は少し先に進んでいる。その地点に着くと、亀はまた少し先にいる。こう考えると、アキレスはいつまでも亀に追いつけないことになる。ここで追いかける役に選ばれたのは、『イリアス』で「足の速い」という決まり文句を何度も添えられる英雄アキレウスである。近現代故事成語を知る辞典ホメロスイリアス
- テセウスの船 / Ship of Theseus → テセウス古くなった部品を一つずつ新しいものに取り替えていき、最後に元の部品が一つも残らなくなったら、それはまだ同じものと言えるのか。哲学でよく知られたこの問いは「テセウスの船」と呼ばれる。もとになった船は実在すると信じられていた。プルタルコスの『テセウス伝』によれば、英雄テセウスが若者たちを連れてクレタ島へ渡り、無事に帰ってきた三十本櫂の船を、アテナイの人々は紀元前4世紀の終わりごろまで保存していた。古い木材を取り外しては新しい丈夫な木材に替えていたため、この船は、成長するものは同じか否かを論じる哲学者たちの格好の例になり、同じ船だと言う者と、もう別の船だと言う者に分かれた、という。プラトンの『パイドン』にも、この船が出てくる。アテナイは、テセウスたちが生きて帰れたらと神アポロンに誓い、その船を毎年デロス島へ送り出していた。船が戻るまでは死刑を行えない決まりで、そのためにソクラテスの処刑が延びたのだという。いまの哲学の百科事典は、外した古い板で別にもう一隻組み立てたら、どちらが元の船か、という形にまで広げて論じている。ローマ期対比列伝(英雄伝)古典期パイドン近現代スタンフォード哲学百科事典「時間を通じた同一性」
- こと座 / Lyra → オルペウス七夕の織り姫星として知られるベガは、こと座(琴座)の1等星である。その琴は、ギリシャ神話では竪琴の名手オルペウスの竪琴だ。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、この竪琴はヘルメスが亀の甲羅から作ったもので、やがてオルペウスの手に渡った。オルペウスはその音色で獣まで引き寄せ、亡くなった妻を追って冥界にまで下った。ところが冥界で神々をたたえて歌ったとき、酒の神ディオニュソスだけをほめ忘れた。のちにこの神は信女たちをけしかけ、オルペウスは引き裂かれて死ぬ。ムーサたちがその体を集めて葬り、アポロンとゼウスの許しを得て、竪琴を星のあいだに置いた。英語で Lyra が星座の名として見えるのは1650年代から。ベガの名はアラビア語から来ていて、「砂漠の鷲」とも「舞い降りるハゲワシ」とも訳される。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- はくちょう座 / Cygnus → ゼウスはくちょう座(白鳥座)の白鳥は、ゼウスが化けた姿である。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、ゼウスは女神ネメシスに恋をしたが、相手にされなかった。そこで一計を案じ、アプロディテに鷲の姿で自分を追わせ、自分は白鳥になって、鷲から逃げるふりをしてネメシスのもとへ飛び込んだ。女神は白鳥を抱きかかえたまま眠ってしまい、ゼウスは思いを遂げて飛び去った。ゼウスはこの話が作り話と言われないように、飛ぶ白鳥と、それを追う鷲を、そのまま空に置いたという。やがてネメシスは卵を産み、ヘルメスがそれをスパルタへ運び、座っていたレダのひざに投げ入れた。そこから生まれたのが、のちの絶世の美女ヘレネである。ただし同じ本は、白鳥になったゼウスと結ばれたのはレダ自身だ、という説もあると書き添えている。星座の学名 Cygnus はラテン語で「白鳥」の意味で、ギリシャ語の kyknos から来ている。星座でいちばん明るい星デネブの名は、アラビア語で「めんどりの尾」の意味である。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- カシオペヤ座 / Cassiopeia → カシオペイア北の空でW字(裏返せばM字)に並ぶカシオペヤ座は、椅子に腰かけた王妃の姿とされる。空の上では、いつも北斗七星の反対側にいる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、この王妃は、自分の美しさは海の女神たちにまさると自慢した。その罰当たりのせいで、天がめぐるにつれて、椅子に座ったまま頭を下にして運ばれていくのだという。紀元前3世紀のアラトスの詩『星辰譜』も、西へ沈むときの王妃は、玉座の上で行儀よく輝くどころか、飛び込む人のように真っ逆さまになる、海の女神たちと張り合った報いだ、と書いている。語源辞典によれば、名前の意味は分かっていない。1572年にこの星座に現れた新星は金星よりも明るく輝き、天文学者ティコ・ブラーエらが観測して、天文学の考え方を一変させる一因になった。ローマ期天文譜ヘレニズム星辰譜(パイノメナ)近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ペルセウス座 / アルゴル → ペルセウス北の空には、怪物メドゥーサを退治した英雄ペルセウスの星座もある。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』は、彼が星になった理由を、家柄の尊さと、ふつうではない生まれ方のためだと書き、退治の道具立てを数え上げる。ヘルメスからもらった翼のあるサンダルと帽子、そしてかぶると姿が見えなくなる兜。現代の星座の絵では、ペルセウスは切り取ったメドゥーサの首を手に下げていて、その首にあたるのがアルゴルという星だ。アルゴルはアラビア語で「悪魔」の意味で、英語では14世紀後半から見える。ただし語源辞典は、そう呼ばれたのはおそらく首の絵のせいではなく、3日ごとに目に見えて明るさが変わるという、ほかの明るい星にはない性質のためだろうと書いている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- アテネ(Athens) → アテナイギリシャの首都アテネは、古くはアテナイと呼ばれた。いくつもの地区から成る町だったので、複数形の名になっている。語源辞典によれば、この名は昔から女神アテナにちなむと説明されてきたが、実際には、ギリシャ語より前の言葉の、今は失われた名がもとになっているらしい。女神の名アテナも、ギリシャ語より前の言葉だとみられている。神話の側は、町の名を女神の勝利の話として語る。アポロドーロスによれば、この地をめぐって海の神ポセイドンとアテナが争った。ポセイドンは三叉の矛でアクロポリスを打って海水の泉を湧かせ、アテナはオリーブの木を植えた。神々の裁きで土地はアテナのものと決まり、女神は町に自分の名を付けた。怒ったポセイドンは、近くの平野を海の水で沈めたという。近現代オンライン語源辞典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- アポロステーション / 出光のアポロマーク → アポロン出光興産は2020年6月、ガソリンスタンドの名前を2021年4月から「apollostation(アポロステーション)」にそろえる、と発表した。出光興産の発表によると、会社とスタンドに共通のアイコンは、ギリシャ・ローマ神話の太陽神アポロをモチーフにしている。アポロには「理想の人の姿」という意味合いがあり、「人が中心の経営」を掲げる会社の目指す姿に合うから、というのが公式の説明である。道路沿いで毎日のように目にする看板のマークは、ギリシャの神様だった。近現代当社ブランド(コーポレート及びSS)を刷新(ニュースリリース)
- アポロン的・ディオニュソス的(Apollonian, Dionysian) → アポロンニーチェが『悲劇の誕生』で説いた、芸術を動かす二つの衝動の呼び名。アポロン的は、知的で静か、秩序と調和のとれたまとまりを目ざすさま。対になるディオニュソス的は、陶酔的で激情的、ものを生み出す力にあふれたさまをいう。神託と音楽の神アポロンと、葡萄酒と熱狂の神ディオニュソスの名から。国語辞典では「アポロ的」「ディオニュソス的」の見出しで載る。英語の形容詞 Apollonian は1660年代、Dionysian は1600年ごろから、もとは「その神に関わる」という意味で記録がある。近現代デジタル大辞泉近現代オンライン語源辞典
- からす座・コップ座・うみへび座 / Corvus, Crater, Hydra → アポロン国立天文台の一覧で、88星座の中でいちばん面積が大きいのは、長い体の水蛇をかたどったうみへび座である。その背中の上に、からす座(烏座)とコップ座が乗っている。この三つは一つの話でつながっている。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、アポロンがいけにえを捧げるとき、自分が目をかけていたカラスを、清い水を汲みに泉へやった。ところがカラスは途中で、まだ青いイチジクの木を見つけ、熟すのを待って枝にとまりこんだ。何日もたって実が熟し、それを食べてから、ようやく水の入った鉢を持って急いで戻ってきた。待たされたアポロンは別の水を使うはめになり、罰として、イチジクが熟すあいだカラスが水を飲めないようにした。そのカラスの渇きを示すために、アポロンは鉢と、カラスを鉢に近づけまいとする水蛇を星にした、という。コップ座の Crater はギリシャ語でぶどう酒を水で割るための大きな鉢のことで、語源辞典によれば、火山の噴火口や月の表面の穴を「クレーター」と呼ぶのも、この言葉から来ている。同じ本は、カラスはもとは白かったが、アポロンの恋人の浮気を告げ口して、黒くされたという話も伝えている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ミネルヴァ書房 / ミネルヴァ(Minerva) → アテナ京都の学術書の出版社ミネルヴァ書房は1948年の創業。会社は公式に、社名の由来はローマ神話の知恵や教養の女神ミネルヴァで、女神のかたわらにいるフクロウをトレードマークにしている、と説明している。ミネルヴァは、ユピテル、ユノと並ぶローマの三大神の一柱で、技芸と学問、知恵の女神。のちにギリシャのアテナと同じ女神とみなされた。名前は「考える」「覚えている」を意味する古い語根にさかのぼり、英語の mind(心)とも親戚にあたると語源辞典は説明する。近現代こんにちは、ミネルヴァ書房です。今日からnoteをはじめます近現代オンライン語源辞典
- ヘレスポントス(ヘレの海) → ヘレスポントスエーゲ海とマルマラ海を結ぶ海峡、今のダーダネルス海峡の古名。アポロドーロスによれば、金毛の雄羊に乗って逃げたヘレが、シゲイオンとケルソネソスの間の海で落ちて溺れたため、その海がヘレスポントス(ヘレの海)と呼ばれるようになった。金羊毛の物語が地名に残っている例。ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- アキレス腱 → アキレウス踵の骨とふくらはぎの筋肉をつなぐ腱の名。母テティスが踵をつかんでステュクスに浸したため踵だけが弱点として残った、という伝承にちなむ。解剖学用語としては1693年にオランダの解剖学者フィリップ・フェルヘイエンが chorda Achillis(アキレスの腱)と呼び、今の tendo Achillis の名は、ドイツの外科医ローレンツ・ハイスターが最初に使った。近現代広辞苑近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- トロヤ群(木星のトロヤ群小惑星、Trojan asteroids) → トロイア戦争木星と同じ軌道で太陽のまわりを回る小惑星の群れ。1906年2月22日、天文学者マックス・ヴォルフが、木星の前を進む最初の一つを見つけ、アキレスと名づけられた。オーストリアの天文学者パリサが、『イリアス』の人物からアキレス、パトロクロス、ヘクトルの名を提案したのが始まりで、以後この群れの小惑星にはトロイア戦争の英雄の名が付けられ、「トロヤ群」と呼ばれるようになった。木星の前を行く群れは「ギリシャ陣営」、後ろを行く群れは「トロイア陣営」とされ、それぞれの側の人物の名を付けるのが決まりになった。ただ最初の命名のせいで、ギリシャ方のパトロクロスがトロイア陣営に、トロイアの王子ヘクトルがギリシャ陣営に入っている。NASAの探査機ルーシーは2021年10月に打ち上げられ、このトロヤ群の小惑星を次々に訪ねる予定である。近現代NASA公式サイト
- スパルタ教育 → スパルタとても厳しい教育のたとえ。古代ギリシャの都市国家スパルタが、兵士を育てるために幼いころから課した厳しい訓練と教育から、転じて厳格な教育法全般をいうようになった。いまでは体罰を含む厳しさの代名詞として使われることもある。一方、神話の中のスパルタは、メネラオスとヘレネの王宮がある国として登場する。都の名前の由来も神話にある。パウサニアスによれば、ゼウスの子とされるこの地の王が、国と民には自分の名を付け、新しく築いた都には妻スパルタの名を付けた。その名が今も続いている、と彼は書いている。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ローマ期ギリシア案内記ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- メルカリ(社名) → ヘルメスフリマアプリ「メルカリ」の名は、ラテン語の動詞 mercari「取引する、商いする」と同じ形で、ラテン語研究者の本もこの語の例に挙げている。mercari は merx「商品」から出た語で、英語の market もここから来ている。商人の神メルクリウス(ギリシャのヘルメスと同一視)も同じ系統の名とされる。会社の公式サイトには、名前の由来の説明は見当たらなかった。近現代東洋経済オンライン「「メルカリ」も「ベネッセ」も実はラテン語だった!」近現代オンライン語源辞典
- 加硫(vulcanization、バルカナイズ) → ヘパイストス生ゴムに硫黄などを混ぜて熱し、ゴムの弾性を増す方法。1839年にアメリカのグッドイヤーが見つけた。英語では加硫を vulcanization、加硫することを vulcanize という。この語は1846年から記録があり、ローマの火と鍛冶の神ウルカヌスの名から作られた。火で鍛えることを受け持つ神の名を、熱を加えてゴムを強くする方法に当てたのである。ウルカヌスは、ギリシャの鍛冶の神ヘパイストスにあたる。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代オンライン語源辞典
- 小惑星ベスタ(4 Vesta) → ヘスティア小惑星帯(メインベルト)で、2番目に重い天体。1807年3月29日、ドイツのブレーメンでオルバースが見つけ、数学者ガウスが、ローマ神話のかまどと家庭の女神ウェスタの名を付けた。アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機ドーンは、2011年7月16日から2012年9月5日までベスタのまわりを回り、そのあと準惑星ケレスへ向かった。ウェスタは、ギリシャのかまどの女神ヘスティアにあたる。近現代NASA公式サイト近現代デジタル大辞泉
- ホンダ「オデッセイ」 → オデュッセウスホンダのミニバンの車名。Honda公式のQ&Aは、ODYSSEY は「長い冒険旅行」の意で、語源は古代ギリシャの長編叙事詩 Odysseia(主人公オデュッセウスが体験する10年間の冒険物語)だと明記している。家族や仲間と、長い道のりでも快適に安全に冒険旅行を楽しめる車に、という思いを込めた命名だという。近現代Honda公式Q&A「オデッセイの名前の由来を教えて」
- ヘラクレスオオカブト / Hercules beetle → ヘラクレス世界最大級のカブトムシ、ヘラクレスオオカブトは中南米にすむ。学名は Dynastes hercules で、もとは1758年にリンネが名付けた。奈良県の橿原市昆虫館は、この名前はギリシャ神話で最大の英雄ヘラクレスに由来すると説明している。英語でも Hercules beetle と呼ばれ、辞書は雄が5インチ(約13センチ)を超え、現生の昆虫でおそらく最大だと説明している。近現代【橿原市昆虫館だより】世界最大級のカブトムシ「へラクレスオオカブト」近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)近現代Merriam-Webster英語辞典
- ヘラクレスの柱 / Pillars of Hercules → ヘラクレス地中海から大西洋へ抜ける出口、ジブラルタル海峡の入口に向かい合う二つの岬は、ギリシャの時代に「ヘラクレスの柱」と呼ばれていた。アポロドーロスによれば、西の果てにすむ怪物ゲリュオンの牛を奪いに行く旅の途中、ヘラクレスはヨーロッパとリビア(アフリカ)の境に、旅のしるしとして向かい合う二本の柱を建てた。紀元前5世紀のピンダロスは、競技で勝った人の栄光を「ヘラクレスの柱に届いた」とたたえ、その先へは賢い者も進めない、と詩の中で述べる。柱は、人が行ける世界の果てのしるしだった。英語で Hercules の名が現れるのは1200年ごろで、最初はこの柱を指す言い方の中でだったという。近現代改訂新版 世界大百科事典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)古典期祝勝歌集近現代オンライン語源辞典
- ヘルクレス座 → ヘラクレス北天の星座。日本語の「ヘルクレス」は、ラテン語の Hercules を写した名で、デジタル大辞泉・世界大百科事典とも、名はギリシャ神話のヘラクレスにちなむとする。英語で Hercules と呼ばれるのは1670年代から(etymonline)。オウィディウスはこの星座を名で呼ばず「膝をつく者」(Nixus genu)と言い、アリアドネの冠(かんむり座)がこの「膝をつく者」と「蛇を持つ者」の間に置かれたと書く。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- や座 / Sagitta → プロメテウスや座(矢座)は一本の矢の形をした星座で、国立天文台の一覧では、88星座の中で3番目に面積が小さい。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、これは英雄ヘラクレスの矢の一本で、人間に火を与えた罰としてカウカソスの山に鎖でつながれたプロメテウスの肝臓を、毎日ついばみに来ていた鷲を射落とした矢だという。同じ章には、プロメテウスが解き放たれたあとの話も書かれている。ゼウスは、プロメテウスを決して自由にしないと誓っていたので、その誓いを忘れないよう、石と鉄で彼の指を縛らせた。人々はそれにならって、石を鉄で包んだ指輪をはめるようになったという。指輪の始まりを語る話である。一方で、この矢はアポロンが、ゼウスの雷を作ったキュクロプスたちを射た矢だ、という説も紹介されている。学名の Sagitta はラテン語で「矢」の意味で、語源辞典によれば英語では1704年から星座の名として見える。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- 小惑星エロス(433 Eros) → エロス地球の近くまでやって来る小惑星の一つ。1898年8月13日、ベルリンのウラニア天文台のヴィットと、フランスのニースのシャルロワが、同じ日にそれぞれ見つけた。名前は、ギリシャ神話の愛の神エロスから。男の神の名を付けたのは、当時の小惑星の名づけの慣例から外れていた。アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機ニア・シューメーカーは、2000年のバレンタインデーにこの小惑星のまわりを回りはじめ、2001年2月12日に人類で初めて小惑星への着陸を果たした。愛の神の名をもつ星を回りはじめたのは、恋人たちの日だったことになる。近現代NASA公式サイト
- ペルセウス座流星群 → ペルセウス毎年8月12〜13日ごろに極大を迎える流星群で、放射点がペルセウス座にあることからの名。英語 Perseid は1867年から見られ、イタリアの天文学者スキアパレッリが1866年に用いたラテン語 Perseides(「ペルセウスの娘たち」の形)に由来する。母天体はスイフト・タットル彗星。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典
- へびつかい座 / Ophiuchus → アスクレピオスへびつかい座は、蛇を両手で抱える男の姿の星座で、その男は医術の神アスクレピオスだとする星の学者が多かった。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、アスクレピオスは人間の中で並ぶ者のない名医だったが、痛みを和らげるだけでは満足できず、ついには死んだ人まで生き返らせた。継母の企みと父の思い違いで命を落とした若者を治したのが、その最後だったという。ゼウスはこれを罪として雷で彼の家を焼いたが、その技と父アポロンに免じて、蛇を持つ姿で星のあいだに置いた。なぜ蛇を持っているのかについて、同じ本はこんな話も伝える。クレタ王ミノスの死んだ息子を治すよう命じられ、杖を手に考え込んでいると、蛇が杖に這い寄ってきた。杖で打ち殺すと、もう一匹の蛇が薬草をくわえて現れ、死んだ蛇の頭にのせた。すると二匹とも逃げていった。その草で、彼は少年を生き返らせた。こうして蛇はアスクレピオスに守られる生き物として星にもなり、医者が蛇を使う習わしもそこから始まったという。ただし、この星座をヘラクレスなど別の人物とする説も並べられている。英語の Ophiuchus はギリシャ語で「蛇を持つ者」の意味で、1650年代から。語源辞典によれば、この星座は今の境界では黄道の帯に入り込んでいて、太陽は11月30日ごろから12月18日ごろまでここを通る。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ミケーネ文明(Mycenaean civilization) → ミュケナイ前16世紀から前12世紀にかけて、ギリシャ本土のミケーネ(ミュケナイ)を中心に栄えた青銅器時代の文明。シュリーマンによって再発見された。名前のもとになったミュケナイは、『イリアス』でギリシャ軍の総大将アガメムノンが治める「黄金に富む」都。この町を開いたのは英雄ペルセウスだとギリシャ人は知っている、とパウサニアスは書き、町の名の由来を二つ伝えている。一つは、ペルセウスの剣の鞘の先の飾り(ミュケス)がそこに落ち、ここに町を築けというしるしと受け取ったから。もう一つは、喉の渇いたペルセウスが地面のキノコ(これもミュケス)を引き抜くと水が湧き出し、喜んでそれを飲んだから、という話である。近現代デジタル大辞泉ホメロスイリアスローマ期ギリシア案内記
- 冥王星の衛星ケルベロスとヒドラ → ケルベロス冥王星の第3衛星ヒドラ(ヒュドラ)と第4衛星ケルベロスは、どちらもギリシャ神話の怪物にちなむ名で、ハッブル宇宙望遠鏡によってそれぞれ2005年と2011年に発見された。冥界の番犬と、ヘラクレスが倒した水蛇が、同じ星のまわりを回っている。近現代デジタル大辞泉
- ガイア理論 / ガイア仮説 → ガイア地球全体を自己調節する一つの生命系として捉えるジェームズ・ラヴロックの仮説(1970年代)。名称は原初の大地の女神ガイアから採られ、ラヴロック自身が、近所に住む作家ウィリアム・ゴールディングの提案によるものだと記している。近現代地球生命圏——ガイアの科学
- オリンピックの聖火 → オリュンピアオリンピックの会場で燃え続ける聖火は、古代ギリシャのオリンピックでゼウスの祭壇に燃えていた聖なる火にならって、1928年の第9回アムステルダム大会から採り入れられた。1936年の第11回ベルリン大会からは、ギリシャのオリンピアでとった火を会場までリレーで運ぶ聖火リレーが始まり、1952年のヘルシンキ大会からはオリンピック憲章で決まりになった。聖火の種火は、凹面鏡で日の光を集めてとる。オリンピアは、ギリシャ神話の神々の王ゼウスの神域として知られる土地で、最高の女神ヘラを祀った前7世紀の神殿の跡も残っている。近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典近現代デジタル大辞泉
- アマゾン川 → アマゾン族南米の大河。スペイン人探検家フランシスコ・デ・オレリャーナが1541年、流域で女戦士(あるいは髭のない長髪の男たち)と戦ったことから、ギリシャ神話の女戦士アマゾンにちなんで名づけ直したとされる(もとはサンタ・マリア・デ・ラ・マル・ドゥルセ川)。一方で、先住民のトゥピ語・グアラニ語で「波」を意味する語がなまったとする説もある。デジタル大辞泉も、流域に女だけの部族がいると伝えられたことからの名とする。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- プロクルステスの寝台 / Procrustean bed → テセウス「プロクルステスの寝台」は、杓子定規に物事を型へ押し込むこと、容赦のない無理強いのたとえ。もとはアテネへ向かう街道にいた追いはぎの話である。旅人をもてなすふりをして寝台に寝かせ、背が足りなければ叩いて引き延ばし、はみ出せば切り落とした。アポロドーロスでは寝台は大小二つあり、背の低い者を大きい寝台に、高い者を小さい寝台に寝かせたので、だれ一人ぴったり合うことはなかった。この男を、同じやり方で退治したのがアテネの王子テセウスである。名前はギリシャ語で「引き延ばす者」の意味。英語の形容詞 Procrustean は1822年から比喩として使われている。近現代改訂新版 世界大百科事典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)近現代オンライン語源辞典
- 冥王星の衛星ニクス(Nix) → ニュクス冥王星のまわりを回る小さな衛星。2005年6月、ハッブル宇宙望遠鏡を使った天文学者たちが見つけた。NASAによれば、名前は、闇と夜のギリシャの女神ニュクスにちなむ。冥王星のいちばん大きな衛星カロンの名は冥界の渡し守から取られていて、NASAはニュクスをそのカロンの母と説明している。ギリシャ語の Nyx の名はすでに小惑星3908番が持っていたため、国際天文学連合は、同じ女神のエジプトでの呼び名にあたる Nix を使うことにした。探査機ニュー・ホライズンズは、この衛星の表面に赤みがかった斑点を写している。近現代NASA公式サイト
- IKAROS(イカロス) → イカロスJAXA の太陽帆(ソーラーセイル)実証機。正式名 Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun の頭文字を並べると、神話の少年と同じ IKAROS になる。2010年に金星探査機あかつきとともに打ち上げられ、太陽光の圧力で進む太陽帆の技術実証に世界で初めて成功した。太陽に近づきすぎて落ちた少年の名を、太陽の光で進む帆が名乗っている。近現代デジタル大辞泉
- アンドロメダ銀河 → アンドロメダアンドロメダ座にある渦巻銀河で、晴れた暗い夜には肉眼でも見える。デジタル大辞泉によれば距離は約230万光年、規模は銀河系と同等(アンドロメダ星雲とも)。星座アンドロメダの英語での記録は1667年からで、名は「夫を思う者」と説明される。近現代デジタル大辞泉近現代オンライン語源辞典
- イカリア島・イカリア海 → イカロスエーゲ海のイカリア島と周りの海の名は、古代からイカロスが落ちた(あるいは流れ着いた)場所として説明されてきた。アポロドーロスは落ちた海が彼の名でイカリア海と呼ばれたとし、オウィディウスは海と葬った土地の両方が彼の名を取ったと書き、パウサニアスはサモス沖の島に遺体が流れ着いてヘラクレスが葬ったと伝える。ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)ローマ期変身物語ローマ期ギリシア案内記
- キメラ(生物学) → キマイラ生物学で、遺伝子型の異なる細胞が一つの個体の中に共存している状態、またその個体。ライオン・山羊・蛇を継ぎ合わせた怪物キマイラにちなむ。平凡社『世界大百科事典』によれば、1916年にウィンクラーがトマトとイヌホオズキの接ぎ木で作った個体をキメラと呼んだのが学術用語としての始まり。動物では異なる系統の初期胚を融合させたキメラマウスなどがある。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- くじら座 / Cetus → アンドロメダくじら座(鯨座)は日本語では「くじら」だが、もとは鯨ではなく海の怪物である。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、海の神ポセイドンが王女アンドロメダを殺させるために送り込んだ怪物で、英雄ペルセウスに退治されたあと、その体の途方もない大きさと、倒したペルセウスの勇気をたたえて星にされた。同じ空には、岩につながれたアンドロメダも、救ったペルセウスも、王女の両親も、みな星座になっている。学名の Cetus はギリシャ語の kētos から来ていて、語源辞典によれば「鯨」とも「海の怪物」とも訳される、由来の分からない言葉である。この言葉は生物学にも残っていて、鯨の仲間をまとめた分類の学名 Cetacea(1795年から)は、ラテン語 cetus「大きな海の生き物」を経て、この kētos から作られた。怪物の名が、いまは鯨の仲間全体の名前になっているわけだ。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ケフェウス座 / ケフェイド変光星 → アンドロメダ北の空のケフェウス座は、エチオピアの王の姿で、王妃カシオペイアの夫、王女アンドロメダの父にあたる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、娘アンドロメダが英雄ペルセウスに救われて妻になったので、一家がそろっていつまでも残るように、父の王も星のあいだに数えられた。英語では15世紀半ばから星座の名として見える。語源辞典が「暗い」と書く目立たない星座だが、その名は天文学の用語に残っている。明るさが変わる星(変光星)の一種を、英語で Cepheid(ケフェイド)と呼ぶ。この種の星で最初に見つかったのが、ケフェウス座のデルタ星だったからで、1904年からの言葉である。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- 正義の女神像と天秤(テミス像) → テミス西洋の裁判所には天秤が置かれている。百科事典によれば、天秤で量ることには人の勝手な手加減が入る余地がないので、天秤は正しいか邪であるかを量る神の道具とされた。このため、正義の女神とされるアストライアやテミスの像は天秤を掲げている。テミスは「掟」という意味の名をもつギリシャ神話の女神で、正義と秩序をつかさどる。ゼウスの二番目の妻となって、季節の女神たちや運命の女神たちを産み、アポロンに代わるまではデルポイの神託の主だったとも伝えられる。近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典
- ヒドラ(淡水の小動物) → ヒュドラ池や沼の水草などに付着して暮らす、体長1センチほどの刺胞動物。体を切ってもそこから再生する力が強く、首を切ると新しい首が生えた多頭の水蛇ヒュドラにちなんで名づけられた。属名としては1798年から記録があり、etymonline はリンネが再生力からこう名づけたと伝える。近現代デジタル大辞泉近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代オンライン語源辞典
- ガニメデ(木星の衛星) → ガニュメデス太陽系最大の衛星。ゼウスにさらわれて神々の酌人となったトロイアの若者ガニュメデスの名から。1610年代にラテン語で提案された名だが、広く使われるようになったのは1847年以降で、それまでは「木星I・II…」と番号で呼ばれていた。木星の衛星にゼウスの愛人・子孫の名を付ける慣行の代表例。近現代オンライン語源辞典近現代NASA公式サイト
- パリ(フランスの首都)——似ているが無関係 → パリスフランスの首都パリの名は、この地に住んだガリアの部族パリシイ(Parisii)に由来し、ガロ・ラテン語の Lutetia Parisorum が元。トロイアの王子パリスとは、綴りが同じでも語源上の関係は無い。近現代オンライン語源辞典
- わし座 / Aquila → ガニュメデス七夕の彦星アルタイルは、わし座(鷲座)の1等星である。その鷲は、ギリシャ神話ではガニュメデスをさらった鷲だ。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、この鷲はガニュメデスをさらって、彼に恋したゼウスのもとへ届けた。ゼウスが鳥の中で真っ先に自分の鳥として選んだのも鷲で、昇る朝日の光に向かって飛べる、ただ一つの鳥だと伝えられていた。星空でも、鷲はみずがめ座の上を飛んでいる。みずがめ座の人物をガニュメデスだとする者が多かったからだ。同じ本は、ゼウスがティタン族との戦いに出る前、いけにえを捧げていると鷲が現れ、吉兆と受け取ったゼウスがその鷲を星にした、という別の話も伝えている。アルタイルの名はアラビア語で「飛ぶ鷲」の意味で、英語では16世紀から見える。わし座の学名 Aquila はラテン語で「鷲」で、古代ギリシャでもふつう鷲の姿で描かれていたらしい、と語源辞典は書く。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- イサカ(ニューヨーク州) → イタケニューヨーク州中部の都市。1795年に測量長官サイモン・デウィットがオデュッセウス(ラテン名ウリクセス、英語ユリシーズ)の故郷にちなんで命名した。周囲の軍用地には Ulysses, Homer, Hector など古典古代の地名が並ぶ。カヴァフィスの詩「イタケ」(1911年)は、帰り着くべき島イタケを、旅そのものに意味があるという主題で歌い直した。近現代測量長官サイモン・デウィット——ニューヨーク州のギリシャ地名をつくった男近現代イタケ
- カサンドラ(誰にも信じられない予言者) → カッサンドラ正しいことを言っているのに誰にも信じてもらえない人、の比喩。アポロンから予言の力を与えられたが、彼を裏切ったため「真実を語っても誰も信じない」という条件を付け加えられた、という伝承による。英語での比喩的用法は1660年代から。近現代オンライン語源辞典
- パンフルート(パンパイプ) → パン長さの違う何本かの管を束ねたり、いかだのように並べたりして、切り口を吹いて鳴らす笛。材料は葦、竹、木、粘土、金属などで、いまもルーマニアやボリビアなどでよく使われる。名前は、ギリシャ神話の牧畜の神パンが使ったといわれるところから来ていて、シリンクス(シュリンクス)とも呼ばれる。ローマの詩人オウィディウスによれば、パンに言い寄られたニンフが逃げ、川に行く手をふさがれて葦に姿を変えた。パンは長さの違う葦を蝋でつなぎ、娘の名で呼ばれる笛を作ったという。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)ローマ期変身物語
- ファウナ(動物相 fauna) → パンある場所や同じ環境にすむ動物の全種類(動物相)を、ファウナという。植物相を指すフローラと対になる語。もとは、ローマの田園の豊穣の女神ファウナの名で、森と野の神ファウヌスの妻とも妹とも娘ともされる。リンネが1746年に、スウェーデンの動物を一覧にした本の題を『スウェーデン動物誌』(Fauna Suecica)とし、植物を一覧にした『スウェーデン植物誌』(Flora Suecica)と対にしたことから広まった。英語では1771年から記録がある。ファウヌスは、ギリシャの牧神パンにあたる神である。近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代オンライン語源辞典
- マラソン(marathon) → パン紀元前490年、アテナイの軍がマラトンの戦いでペルシャの大軍を破ったとき、一人の兵士が戦場のマラトンからアテナイまでの約40キロを走って勝利を告げ、そのまま息絶えた、という故事にちなむ競技。1896年、アテネでの第1回近代オリンピックに向けて、フランスの言語学者ブレアルがこの故事にならってマラソンを種目に入れるよう提案した。この戦いには、神話の神も顔を出す。歴史家ヘロドトスによれば、ペルシャ勢の上陸を知らせにスパルタへ走った伝令は、途中の山中で牧神パンに呼び止められた。アテナイ人に好意を寄せている自分を、なぜ彼らは祀らないのか、とパンは言ったという。マラトンで勝ったあと、アテナイ人はアクロポリスの下にパンの聖域を設けた。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典古典期歴史
- 天国と地獄(オッフェンバック『地獄のオルフェ』) → オルペウスオッフェンバックが作曲した全二幕のオペレッタ。1858年にパリで初演された。原題は「地獄のオルフェ」で、ギリシャ神話の歌い手オルフェウス(オルペウス)が、死んだ妻を取り戻しに冥界へ下る悲しい話を、笑いの劇に仕立て直したもの。日本では1914年(大正3年)に東京の帝国劇場で初めて上演されて以来、『天国と地獄』の題で親しまれている。最後を飾るにぎやかな踊りの音楽は、フレンチ・カンカンの音楽として世界に広まり、無声映画の大活劇の伴奏にもよく使われた。近現代デジタル大辞泉近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- いるか座 / Delphinus → アンピトリテ小さな星座いるか座のイルカは、海の神ポセイドンの縁結びをしたイルカである。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、ポセイドンがアンピトリテを妻にしようとしたとき、彼女は結婚を嫌って、アトラスのもとまで逃げてしまった。ポセイドンは大勢に彼女を探させた。その中に「イルカ(デルピン)」という名の者がいて、島々を回った末に彼女を見つけ、ポセイドンの妻になるよう説き伏せて、婚礼まで取り仕切った。そのお礼に、ポセイドンはイルカの姿を星のあいだに置いた。ポセイドンの像を作る人が、神の手や足もとにイルカを添えるのも、それが神のお気に入りだからだという。同じ本は、酒の神ディオニュソスをさらおうとして海に飛び込み、イルカに変えられた船乗りたちの一人だとする説や、海に投げ出された竪琴弾きを背に乗せて岸まで運んだイルカだとする説も伝えている。英語の dolphin はギリシャ語 delphis から来ていて、星座の名としては15世紀初めから使われている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- エレクトラ・コンプレックス → エレクトラ娘が父に愛着を持ち母に敵意を向けるとされる心的構図。1913年にユングがフロイトのエディプス・コンプレックスの女性版として名付けた。アガメムノンとクリュタイムネストラの娘で、母を殺すオレステスに力を貸したエレクトラにちなむ。近現代オンライン語源辞典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- テチス海 / Tethys Sea → テテュステチス海は、はるか昔、北の大陸と南の大陸のあいだに広がっていた海の名である。辞書によると、古生代の終わりから新生代にかけて存在し、今の地中海のあたりからヒマラヤを経て東南アジアまで続いていた。アルプスやヒマラヤの山々の地層からは、そのころの生き物の化石が出る。名付けたのはドイツの地質学者ジュースで、1893年のこと。海の神オケアノスの姉妹であり妻でもある、ギリシャ神話の海の女神テテュスの名を借りた。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- カロン(冥王星の衛星) → カロン冥王星の最大の衛星。1978年6月、アメリカ海軍天文台(アリゾナ州フラッグスタッフ)のジェームズ・クリスティーとロバート・ハリントンが発見した。クリスティーが選んだ名は、死者を冥界へ渡す渡し守カロンで、冥王プルートの星にふさわしいうえ、最初の4文字が妻シャーリーン(Charlene)と一致していた、とNASAは紹介している。近現代NASA公式サイト
- コルチカム(イヌサフラン)・コルヒチン → コルキス秋に花を咲かせる球根植物コルチカム(和名イヌサフラン)の属名は、ギリシャ語の「コルキスの」から。黒海の東の古い土地コルキスに生えていたことにちなむ。コルキスは、英雄イアソンがアルゴ号で金の羊毛を取りに行った国で、魔女メデイアの故郷でもある。球根や種にはコルヒチンという成分が含まれ、もとは毒をもつ植物だが、少量を痛風の薬として使ってきた。植物の品種改良にも使われる。古代ギリシャの医者ディオスコリデスは、コルチカムを毒キノコと同じ、毒のある植物として扱っていた。近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代デジタル大辞泉
- かんむり座 / Corona Borealis → アリアドネかんむり座(冠座)の冠は、クレタの王女アリアドネの冠である。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、酒の神ディオニュソスがアリアドネと結婚したとき、神々がこぞって贈り物をし、アリアドネはアプロディテと季節の女神たちからこの冠を受け取った。のちにディオニュソスが、この冠を星のあいだに置いた。同じ本には、こんな伝えもある。冠は鍛冶の神ヘパイストスが金とインドの宝石で作ったもので、英雄テセウスは、暗闇の中で光を放つこの冠の輝きのおかげで、迷宮の闇から外へ出られたのだという。迷宮を抜け出す道しるべといえば「アリアドネの糸」が有名だが、糸ではなく冠だったとする話もあったわけである。語源辞典によれば、この星座はほかの星座よりずっと名前どおりの形をしていて、ギリシャ人は「花の冠」と呼び、ローマ時代からは「アリアドネの冠」と呼ばれた。ラテン語の corona は「冠」の意味で、皆既日食のとき太陽のまわりに見える光の輪「コロナ」も、1809年からこの言葉で呼ばれている。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- アトロピン(atropine)・ベラドンナ → モイラ目の検査で瞳を開かせる散瞳剤や、鎮痙剤、止汗剤に使われる薬。ベラドンナやチョウセンアサガオ、ハシリドコロなど、ナス科の植物の根や葉に含まれる。名前は、ベラドンナの属名 Atropa から来ていて、英語では1831年から記録がある。その Atropa は、運命の女神たちの一人アトロポスの名から付けられた。アトロポスは「向きを変えられない、曲げられない者」という意味で、人の命の糸を断つ女神である。ベラドンナは、毒性の強い植物として知られている。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代オンライン語源辞典
- りゅう座 / Draco → ヘスペリデス北の空で、おおぐま座とこぐま座のあいだに長い体をくねらせているのが、りゅう座(竜座)の竜である。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、この竜は、黄金のりんごを守っていた竜だ。ゼウスとヘラの結婚のとき、大地の女神が黄金のりんごを枝ごと贈り、ヘラはそれを、アトラス山のあたりまで広がる自分の庭に植えさせた。ところがアトラスの娘たちがたびたび実をもいでしまうので、ヘラはこの竜を見張りに置いた。英雄ヘラクレスがりんごを取りに来て竜を倒すと、ヘラは竜を星のあいだに置いた。空で竜のすぐ上に、ひざをついたヘラクレスの星座が見えるのがその証拠だ、と同じ本は言う。巨人族との戦いでアテナに投げつけられた竜を、アテナがつかんで天の軸に放り上げたのだという説も紹介されている。学名の Draco はラテン語で「大蛇、竜」の意味で、語源辞典によれば古代から竜の姿とされてきた星座である。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- イオ(木星の衛星) → イオ太陽系で最も火山活動が活発な天体。1610年1月8日にガリレオが発見した。ガリレオは木星の4つの衛星を番号とメディチ家の名で呼び、神話の名前は17世紀に提案されたものの、広く使われるようになったのは19世紀半ば。1845年の天文書には、4衛星を「ヘベ、ガニメデ、テミス、メティス」と呼ぶ案も載っていた。牝牛に変えられたゼウスの恋人イオの名。近現代NASA公式サイト近現代オンライン語源辞典
- キロン(2060 Chiron) → ケイロン1977年10月18日、パロマー天文台でチャールズ・コワルが見つけた天体。小惑星センター(IAU)の命名理由は「ケンタウロスのうち最も賢く最も正しい者、クロノスとオケアノスのニンフ、ピリュラの子。アポロンとディアナに愛されて植物学・音楽・天文・占い・医術を学び、今度は自らギリシャの英雄たちの師となった」と記す(Minor Planet Circular 4359)。木星と海王星のあいだを回る同じような天体の一群は「ケンタウルス族」と呼ばれ、IAU の小天体命名作業部会の規則は、この一群に神話のケンタウロスの名を付けると定めている。語源辞典によれば、薬草センタウリーの名も、プリニウスが伝えるところでは、ケイロンがその薬効を見つけたことから付いたという。近現代小惑星センター(IAU)近現代NASA公式サイト近現代オンライン語源辞典近現代IAU小天体命名作業部会「彗星以外の太陽系小天体の命名規則と指針」
- ケンタウルス座 / アルファ・ケンタウリ → ケイロン太陽系にいちばん近い恒星のある星座が、ケンタウルス座だ。NASAによれば、地球にいちばん近い恒星系はこの星座のアルファ・ケンタウリで、距離は4.3光年。A星とB星の二つの星に、プロキシマ・ケンタウリとも呼ばれる暗い赤色矮星のC星を加えた三つの星から成る。この星座の半人半馬の姿は、賢いケンタウロスのケイロンだとされる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、ケイロンはほかのケンタウロスばかりか人間よりも正しい心を持ち、医術の神アスクレピオスや英雄アキレウスを育てた。ある日ケイロンのもとに立ち寄ったヘラクレスと並んで矢を眺めていたとき、その一本がケイロンの足に落ち、それがもとで死んでしまう。こんな小さな矢で大きなケンタウロスたちを倒せるのかと不思議に思ったケイロンが、自分で弓を引こうとして矢を取り落とした、という話もある。ゼウスはケイロンを哀れみ、星のあいだに置いた。語源辞典によれば、この星座はギリシャ人にもケンタウロスとして知られていたが、古代から、同じく半人半馬で描かれるいて座とよく取り違えられてきた。近現代NASA公式サイトローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- カリプソ(音楽) → カリュプソトリニダード島で育った歌・音楽のジャンル名。語源辞典は、この音楽の意味での初出を1934年とし、名の由来ははっきりしないとして、『オデュッセイア』の女神カリュプソとの関係には触れていない。精選版日本国語大辞典も、音楽のカリプソ(スペイン語由来とする)と、女神カリュプソの英語名としてのカリプソを、別の項目に分けて載せている。女神の名 Καλυψώ は、kalyptein「覆い隠す」から「隠す者」の意とされる。近現代オンライン語源辞典近現代精選版 日本国語大辞典
- スキュラとカリュブディスの間 → スキュラ英語の成句 between Scylla and Charybdis は「同じくらい危ない二つの道のあいだ」を言い、1739年から見える(Merriam-Webster)。『オデュッセイア』第12歌で、キルケはオデュッセウスに、渦潮カリュブディスで船ごと失うより六つ首の怪物スキュラに六人を取られる方がましだと助言する。成句では二つの危険は同じ重さだが、原典のキルケは、どちらかといえばスキュラの側を通れと勧めている。ホメロスオデュッセイア近現代オンライン語源辞典近現代Merriam-Webster英語辞典
- エーゲ海 / Aegean Sea → アイゲウスヒュギヌス(43)は、テセウスが黒い帆を白に替え忘れたため、息子が死んだと思ったアイゲウスが海に身を投げ、そこからその海が Aegeum pelagus(アイゲウスの海)と呼ばれた、と説明する。ただしアポロドーロス(摘要 1.10)では、アイゲウスが身を投げたのは海ではなくアクロポリスから。etymonline も英語 Aegean(1570年代〜)について、アイゲウス由来の説を伝えつつ、ギリシャ語 aiges(波)から来たのかもしれない、と留保をつけている。確定した語源ではない。ローマ期神話集(ファブラエ)ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)近現代オンライン語源辞典
- 小惑星フェートン(3200 Phaethon)/ フェートン型馬車(phaeton) → パエトンふたご座流星群のもとになる小惑星(3200)Phaethon は、1983年10月11日に赤外線天文衛星 IRAS が発見した。太陽に大きく近づく軌道から、太陽神の車を御したパエトンの名が付いた(NASA)。JAXA は探査計画 DESTINY+ の目標天体としてこれを「フェートン」と表記している。英語の普通名詞 phaeton は、1590年代に「向こう見ずな御者」、1742年から軽快な四輪の馬車を指した(etymonline)。近現代NASA公式サイト近現代深宇宙探査技術実証機 DESTINY+(JAXA宇宙科学研究所)近現代オンライン語源辞典
- すばる / SUBARU → プレイアデスおうし座のプレアデス星団の和名。辞書は、星々が一か所に統べ集まっているので「統ばる」と呼んだと説明する。平凡社の百科事典は、上代の人が髪や手首に着けた玉飾り「すまるの玉」の名をこの星団に付け、「すまる」が「すばる」になったとみている。平安時代の『和名類聚抄』に星の名として現れ、『枕草子』の「星はすばる」で知られる。自動車メーカーSUBARUはこの星団名を社名にしている。前身の富士重工業が5社の出資で設立されたことから、6つの星の星団の名を選んだと公式に説明している。ギリシャ神話のプレイアデス(アトラスの7人の娘)とは別に付いた名前で、同じ星団を東西で別々に呼んでいた例。近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代デジタル大辞泉近現代株式会社SUBARU 公式サイト(よくある質問・SUBARUトリビア)近現代改訂新版 世界大百科事典
- 月桂冠(laurel wreath) → ダプネ葉のついた月桂樹の枝を輪にした冠。古代ギリシャでは、競技の優勝者に名誉のしるしとして与えられた。月桂樹がこうした木になったいきさつを、オウィディウスの『変身物語』が語っている。光の神アポロンに追われた娘ダプネが、逃げ切れずに月桂樹に姿を変えられると、アポロンはこの木を自分の聖なる木とし、勝利者に与える冠をその枝で作ることにした、という話である。近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ローマ期変身物語
- うしかい座・アルクトゥルス(Boötes, Arcturus) → カリスト大熊(おおぐま座)の後ろに続く星座がうしかい座。そのいちばん明るいオレンジ色の星がアルクトゥルスで、ギリシャ語で「熊の番人」という意味になる。語源辞典によれば、大熊の後を追うこの星座は、「熊の番人」とも「牛飼い」(ボーテス)とも呼ばれた。英語のアルクトゥルスは14世紀後半から記録がある。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』は、この星座の人物を、熊に変えられたカリストとゼウスのあいだの子アルカスだとする伝えを挙げる。熊になった母の後ろに、息子が番人として続いていることになる。別の人々は、正しく信心深かったので酒の神から葡萄の木と葡萄酒を授かった男だと言った、とも書いている。近現代オンライン語源辞典ローマ期天文譜
- おおぐま座・こぐま座(北斗七星と北極星) → カリスト国立天文台によれば、北斗七星はそれ自体では88星座に数えられず、もっと広いおおぐま座の一部である。そのおおぐま座の熊は、熊に変えられた娘カリストだ。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、カリストは女神アルテミスに仕える狩りの娘だったが、ゼウスに身ごもらされ、熊の姿に変えられた。変えたのはアルテミスだとも、ヘラだとも、ゼウス自身だとも伝えられる。のちに成長した息子が、それと知らずに母の熊を追いつめたとき、ゼウスが二人を哀れんで星にした。この星座は一年中沈まない。同じ本によれば、それはヘラの育ての親である海の女神テテュスが、夫の浮気相手を海に迎え入れようとしないからだという。こぐま座のほうは、幼いゼウスを育てたニンフの一人だとする説があり、その名キュノスラは、ギリシャ語で「犬のしっぽ」の意味にもなる。語源辞典によれば、英語の cynosure(人の目を集めるもの、注目の的)はこの星座の古い名から来ていて、1590年代から使われている。しっぽの先に、航海の目印になる北極星があるからである。もっとも、古代にはこの星はまだ北極星ではなかった。ヒュギヌスによれば、こぐま座は、それを頼りに航海するフェニキア人にちなんで「フェニキアの熊」とも呼ばれた。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ラオコーン像 → ラオコオン1506年にローマのエスクイリーノの丘で発見され、大プリニウスが『博物誌』で称えたロドス島の彫刻家たちの傑作と同定された大理石像。木馬を受け入れるなと警告して蛇に絞め殺されるラオコーンと息子たちを表す。教皇ユリウス2世がすぐに買い取り、彫像の中庭に置いて収集の中心に据えた。近現代バチカン美術館 公式解説
- ピグマリオン効果(Pygmalion effect) → ピュグマリオン他人から期待をかけられると成果が上がる、とする心理学の用語。1968年にローゼンタールとジェイコブソンが、教師の期待で児童の成績が伸びたとする研究を『教室のピグマリオン』として発表したことで広まった。自分の理想の像に恋し、願いによって像が生きた女性になった彫刻家ピュグマリオン(オウィディウス『変身物語』10.243-297)になぞらえた名。元の研究は方法に批判が多く、その後の追試では効果は小さく一時的とされる。近現代教室のピグマリオンローマ期変身物語
- ペロポネソス半島 → ペロプスギリシャ南部の半島名。後半は nēsos「島」で、前半はタンタロスの息子ペロプスの名だと説明されてきた。ただし語源辞典は、この人名と半島名の結びつけはおそらく民間語源だとする。近現代オンライン語源辞典
- フローラ(植物相 flora) → ゼピュロスある地域や時代に生えている植物の全体(植物相)を、フローラという。もとはローマ神話の、花と豊穣と春の女神の名。英語では1500年ごろから女神の名として、1777年から「ある地域や時代の植物」の意味で使われている。植物を一覧にした本の題としては1640年代から使われ、1745年にリンネが『スウェーデン植物誌』(Flora Suecica)の題にしたことで広まった。オウィディウスの『祭暦』によれば、この女神はもとはギリシャのニンフ、クロリスで、西風の神ゼピュロスにさらわれてその妻となり、夫から花をつかさどる役目を与えられたという。近現代デジタル大辞泉近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代オンライン語源辞典
- 要確認ナウシカ(『風の谷のナウシカ』) → ナウシカア宮崎駿の漫画・アニメ映画の主人公名。『オデュッセイア』でスケリア島に流れ着いたオデュッセウスを助ける、パイエケス人の王女ナウシカアにちなむ。宮崎は漫画版第1巻(徳間書店、1982)の後書きで、名前を探して事典をめくるうち、バーナード・エヴスリンの神話事典でこの名を見つけたと書いている。ホメロスの本文より先に、エヴスリンの紹介を通してこの王女を知ったことになる。近現代風の谷のナウシカ 第1巻(後書き)ホメロスオデュッセイア
- イオニア式(Ionic order) → ヘレン古代ギリシャ建築の柱の様式の一つ。ドリス式とコリント式のあいだの時期に生まれ、柱の下に台があり、柱頭に渦巻きの飾りがつく。前5世紀後半からの約1世紀が盛りで、アテネのアクロポリスのエレクテイオンが代表例。名前は、この様式が生まれたイオニア地方から。そのイオニア人の名についても、神話は祖先の名を挙げる。アポロドーロスによれば、ギリシャ人を自分の名からヘレネスと呼ばせたヘレンの息子の一人に、二人の子がいて、その子たちの名からアカイア人とイオニア人の名が出たという。イオニア人の名のもとになった孫が、イオンである。近現代デジタル大辞泉近現代旺文社世界史事典 三訂版近現代山川 世界史小辞典 改訂新版ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- コリント式(Corinthian order) → コリントス古代ギリシャ建築の柱の様式の一つで、アカンサスの葉を飾った華やかな柱頭が目印。ドリス式・イオニア式より後に生まれ、ヘレニズム時代とローマ時代に栄えた。名前は、シシュポスが開きベレロポンが天馬ペガサスを得た町、コリントスから。起こりについては、ローマの建築家ウィトルウィウスが言い伝えを書き残している。コリントスで、嫁ぐ年ごろの娘が病で亡くなった。乳母は娘が好んだ品を籠に集めて墓へ運び、瓦でふたをした。籠の下にあったアカンサスが春に芽を出し、葉が籠を包んで瓦の角で渦を巻いた。その腕と趣味のよさをアテナイ人にたたえられていた職人が通りかかってこれに目を留め、この形を手本に、コリントスのあたりで新しい様式の柱を建てたという。近現代デジタル大辞泉近現代旺文社世界史事典 三訂版ローマ期建築書ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)古典期祝勝歌集
- ドーリア式(Doric order) → ヘレン古代ギリシャ建築の柱の様式で、三つの様式のうちいちばん早く、前6〜前5世紀に使われた。柱は太く、中ほどのふくらみ(エンタシス)が強く、柱の下に台を置かない。柱頭は簡素な形で、アテネのパルテノンが代表例。名前は、ギリシャ人の一派ドーリス人から来ている。そのドーリス人の名の起こりを、神話はこう語る。アポロドーロスによれば、ギリシャ人を自分の名にちなんでヘレネスと呼ばせたヘレンには三人の息子がいた。その一人ドーロスが、ペロポネソス半島の向かいの土地を治め、住む人々を自分の名からドーリス人と呼んだという。イオニア人とアカイア人は別の息子の子たちの名から、アイオリス人は三人目の息子の名から出たとされる。近現代旺文社世界史事典 三訂版近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- メムノンの巨像 → メムノンエジプトのテーベ(今のルクソール)のナイル川西岸にある、アメンホテプ3世の座像とされる一対の巨像の通称。パウサニアスは、多くの人はこれをメムノンと呼ぶがテーバイの人々はパメノフという土地の人物の像だと言う、と記し、像が日の出ごとに弦の切れた竪琴のような音を出したこと、カンビュセスによって壊されたと伝えられることを述べる。デジタル大辞泉は、この名がプトレマイオス朝の時代に、トロイア戦争でアキレウスに討たれたメムノンにちなんで付いたとする。ブリタニカ国際大百科事典は、暁に鳴る音が、メムノンが毎朝母エオスを慕って漏らす声だと言われるようになった、と書く。ローマ期ギリシア案内記近現代デジタル大辞泉近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
- りゅうこつ座・とも座・ほ座・らしんばん座(もとのアルゴ座) → アルゴ船南の空にある、りゅうこつ座(竜骨座)・とも座(船尾座)・ほ座(帆座)・らしんばん座(羅針盤座)の四つは、もとは一つの巨大な星座だった。金の羊毛を求めてイアソンと英雄たちが乗り込んだ船、アルゴ船をかたどった「アルゴ座」である。平凡社の世界大百科事典によれば、あまりに広すぎるので、1752年にフランスの天文学者ラカイユが、竜骨・船尾・帆・羅針盤の四つに分けた。いまはアルゴ座という名は使われない。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』は、この船が星になった理由を、海に出た最初の船だったからだと多くの人が言っている、と書く。そして、空には船の全体ではなく、船尾から帆柱までしか描かれていない、それは船が壊れても人々がおびえないように、という意味だ、という説明も添えている。アルゴという船の名は、語源辞典によればギリシャ語で「速いもの」の意味である。近現代改訂新版 世界大百科事典近現代デジタル大辞泉ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- ぎょしゃ座・カペラ / Auriga, Capella → エリクトニオスぎょしゃ座(馭者座)の馭者は、馬車を操る人のことで、アテナイの伝説の人物エリクトニオスだとされる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、エリクトニオスは人間で初めて四頭の馬を馬車につないだ。太陽神が天で四頭立ての馬車を走らせるのを、人の知恵でまねてみせたことにゼウスが感心して、星にしたのだという。彼は、鍛冶の神ヘパイストスがアテナに言い寄って退けられたときに、大地から生まれた子で、アテナがひそかに育て、のちにアテナイの丘に彼女の神殿を初めて建てた。この星座でいちばん明るい星カペラは、ラテン語で「小さな雌山羊」の意味である。同じ本によれば、馭者は左肩に雌山羊を、左手に二匹の子山羊を乗せた姿で描かれ、この雌山羊は、幼いゼウスに乳を飲ませて育てた山羊アマルテイアだとする説がある。ゼウスは育ての恩に報いて、山羊とその子どもたちを星にしたという。ぎょしゃ座の学名 Auriga は、ラテン語でそのまま「馭者」の意味である。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
- エレクテイオン / Erechtheion → エレクテウスアテナイのアクロポリスに建つ神殿の名。伝説の王エレクテウスにちなむ。パウサニアスは「エレクテイオンと呼ばれる建物」の中にポセイドンの祭壇があり、神託に従ってエレクテウスにも犠牲を捧げると記す。中には海水の井戸と岩に残る三叉の矛の跡があり、アテナとの土地争いでポセイドンが残した証とされた(1.26.5)。ヘロドトスも同じ場所を「大地から生まれたエレクテウスの社」と呼び、争いの証のオリーブと海水があると書く(8.55)。ローマ期ギリシア案内記古典期歴史
- エピゴーネン(epigone) → エピゴノイのテーバイ攻め思想・文学・芸術などで、先人をまねるばかりで独創性のない追随者・亜流を指す語。日本語へはドイツ語 Epigonen から入り、精選版日本国語大辞典は芥川龍之介の1927年の文章を用例に挙げる。英語 epigone は1865年から。もとはギリシャ語 epigonos「後に生まれた者」で、複数形エピゴノイは古典では特に、テーバイと戦った七将の息子たちを指した。父祖の偉業の後に生まれた者、という意味合いが「亜流」へと転じた。近現代デジタル大辞泉近現代オンライン語源辞典近現代精選版 日本国語大辞典
- おおいぬ座・シリウス / Canis Major, Sirius → プロクリス夜空でいちばん明るい恒星シリウスを持つおおいぬ座の犬は、どんな獲物も逃さない犬だった。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、この犬はもともとゼウスがエウロペの番犬に付けたもので、やがてクレタ王ミノスのもとに来た。ミノスの病を治したお礼に、狩りの好きなプロクリスがこの犬を贈られ、彼女の死後は夫のケパロスが連れ歩いた。ところがテーバイには、どんな犬からも逃げおおせる狐がいた。絶対に捕まえる犬と、絶対に捕まらない狐が出会ってしまい、どうしていいか分からなくなったゼウスは、両方を石に変えたという。同じ本は、狩人オリオンの犬だとする説も紹介している。シリウスの名はギリシャ語で「焼き焦がすもの」の意味と言われ、語源辞典によれば、夏の暑さと結びつけられたのは、夜明け前にこの星が昇ってくる時期が真夏にあたったからである。英語で真夏のうだるような時期を dog days(犬の日々)と呼ぶのも、このためだ。こいぬ座の明るい星プロキオンは、ギリシャ語で「犬の前」の意味で、シリウスより少し先に昇ってくることからの名である。ローマ期天文譜近現代オンライン語源辞典近現代国立天文台 公式サイト
英語の言葉 187
- ナルシシズム / ナルシスト(narcissism, narcissist) → ナルキッソス自己愛を指す精神医学の用語。1899年にドイツの精神科医パウル・ネッケが Narzissismus として作り、その前年の1898年にハヴロック・エリスが、自分の姿に恋したナルキッソス(オウィディウス『変身物語』3.339-510)になぞらえたのが下地になった。英語 narcissism の初出は1905年、narcissistic は1912年、narcissist は1919年。近現代オンライン語源辞典
- パニック / panic → パン英語 panic はフランス語 panique を経て、ギリシャ語 panikon「パンの(ものである)」から来ている。森や野の神パンは、群れや人々に理由のない恐怖を伝染させる不思議な音の出どころとされ、そうした恐怖を panikon deima「パンの恐れ」と呼んだ。名詞として「集団の突然の恐怖」の意味で使われるのは1708年から、金融の「恐慌」の意味は1757年から。近現代オンライン語源辞典
- エコー / echo(こだま・反響) → エコー英語 echo は14世紀半ばから使われる。ラテン語 echo を経てギリシャ語 ἠχώ に遡り、ἠχή(音)、ἠχεῖν(鳴り響く)と同系とされる。この普通名詞を擬人化したのがニンフのエコーで、語源辞典も「ナルキッソスに恋い焦がれて声しか残らなかった山のニンフ」として触れている。近現代オンライン語源辞典
- odyssey(英語の一般名詞) → オデュッセウス英語で「長く波乱に富んだ旅」を意味する一般名詞。1600年頃にホメロスの叙事詩の題名(ギリシャ語 Odysseia、ラテン語 Odyssea)として英語に入り、比喩としての一般名詞用法は1889年から記録される。デジタル大辞泉も、日本語の「オデッセイ」を『オデュッセイア』の英語名として載せている。近現代Merriam-Webster英語辞典近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- メンター / mentor → メントル「経験の浅い者を導く助言者」の意。『オデュッセイア』でオデュッセウスが家を託した友メントル(Mentor)の名から。名詞としての英語初出は1750年で、ホメロスよりメントルに大きな役を与えた後代の物語を通じて広まったとみられる。作中で実際に助言するのは多くの場合メントルの姿を借りたアテナである。近現代オンライン語源辞典ホメロスオデュッセイア
- オリンピック / Olympic → オリュンピア英語 Olympic は、ギリシャのエリス地方の聖地オリュンピアを指して使われる形容詞でもある。ここではオリュンポスのゼウスをたたえる競技が、前776年から4年ごとに開かれた。語はギリシャ語 Olympikos から、さらに山の名 Olympos から来ており、Olympos という名のもとの意味は分かっていない。Olympics は Olympic games の略で1630年代から見え、近代オリンピックは1896年に始まった復活である。近現代オンライン語源辞典
- ナイキ / Nike → ニケスポーツ用品会社ナイキは、公式サイトで「社名はギリシャの勝利の女神から取った」と説明している。女神ニケの名 Nike が、そのまま社名になっている。近現代Nike 公式サイト
- Amazon(アマゾン・ドットコム) → アマゾン族米国の通販・IT企業。同社の公式サイトによれば、ジェフ・ベゾスは1995年に書店としてこの会社を始め、地球上でいちばん多くの本をそろえることを目指した。社名はそこから来ていて、アマゾン川のように広大な品ぞろえを思い描いたのだという。川の名はギリシャ神話の女だけの部族アマゾンに由来するので、たどれば神話の女戦士に行き着く。近現代Amazon公式サイト「Books are in our DNA」近現代デジタル大辞泉
- タイタニック / titanic → ティタノマキア形容詞 titanic「巨大な、ティタンのような」は1709年から英語に見える。1912年4月15日に沈んだ英国客船タイタニック号の名はこの語で、以来「沈まないはずのものの破滅」の象徴にもなった。近現代オンライン語源辞典
- スターバックスのロゴのセイレーン → セイレーンコーヒーチェーンのスターバックスのロゴに描かれた女性は、セイレーン(英語でサイレン)。同社の公式サイトによれば、1971年、シアトルがピュージェット湾に面していることと、コーヒー交易が海と結びついていることから、創業者の仕事仲間だったデザイナーのテリー・ヘクラーが古い海の本を探し、ある挿絵のセイレーンを見つけた。同社はセイレーンを「ギリシャ神話の、二股の尾をもつ魅惑的な人魚で、美しい歌で船乗りを破滅に誘う」と説明している。ただし古代の書き物では姿が違う。ホメロスの『オデュッセイア』はセイレーンの姿にまったく触れず、アポロドーロスは「腿から下は鳥の姿」とし、アポロニオスも半ば鳥、半ば乙女とする。魚の尾をもつ人魚の姿は、これらの古代の書き物には出てこない。近現代スターバックス公式サイト「The Story of the Siren」ホメロスオデュッセイアローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)ヘレニズムアルゴナウティカ
- アポロ計画 / Apollo program → アポロンNASAの有人月飛行計画。1960年、NASAのエイブ・シルヴァースタインがこの名を提案した。ギリシャ神話の神の名で響きがよく、神話の神や英雄の名を宇宙計画に付ける前例も、神々の使者の名を採ったマーキュリー計画でできていたからだという。NASAの年表は、アポロが太陽の神で、金の戦車で毎日太陽を引いて天を渡ったと書き添えている。近現代NASAグレン研究センター「Silverstein on Apollo Naming (1962)」近現代この新しき大洋 ― マーキュリー計画の歴史(NASA SP-4201)近現代NASA公式サイト
- ヴェルサーチェのメドゥーサ / Versace Medusa → メドゥサイタリアのブランド、ヴェルサーチェ(ヴェルサーチ)のブランドの印になっている女性の顔は、見た者を石に変えるギリシャ神話の怪物メドゥーサである。公式サイトはメドゥーサを「ブランドの象徴」「ブランドのミューズ」と呼び、看板のバッグに付く金具は、ミラノの最初の本社の扉にあった飾り板と同じ意匠だと紹介している。看板の柄についても、ギリシャ風の文様と、古代ギリシャ人が南イタリアに築いた植民都市の装飾が、真ん中のメドゥーサを囲む柄だと説明する。ただし、なぜメドゥーサを選んだのかは、この2つの公式ページでは語られていない。近現代Versace 公式サイト
- ギガ(ギガバイト・ギガヘルツ)/ giga- → ギガーススマートフォンの容量やデータ通信量でおなじみの「ギガ」は、10億倍を表す国際単位系の接頭語で、記号は G。この言葉は、ギリシャ語で「巨人」を意味する gigas から来ている。デジタル大辞泉もそう説明し、ブリタニカ国際大百科事典はさらに、ギリシャ神話の巨人族ギガスに由来すると書いている。大地の女神ガイアから生まれ、オリュンポスの神々と戦って滅ぼされた荒々しい巨人たちである。英語の語源辞典によれば、giga- は1947年に、巨人を意味するこの言葉から、ほぼ思いつきで作られた。ギガバイトという言葉は1982年から使われている。英語では「ジガ」「ジャイガ」と読むことが多い、と百科事典は添えている。近現代デジタル大辞泉近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典近現代オンライン語源辞典
- ネクター / nectar → アンブロシアとネクタル不二家の果実飲料「ネクター」は、1964年(昭和39年)発売のロングセラーである。不二家は公式のよくある質問で、名前は古代ギリシャ神話のネクタル、つまり神々の生命の酒・不老不死の霊薬から来たと言われている、と答えている。英語の nectar も同じ語で、1550年代から英語に見え、はじめは神々の飲み物の名だった。「おいしい飲み物」の意味は1580年代、花の蜜の意味は1600年ごろから。表面がつるりとした桃の仲間ネクタリンも、「ネクターのような」という意味の言葉から名付けられている。ギリシャ語のもとの形は、「死」と「乗り越える」を組み合わせた古い詩の言葉かもしれない、と語源辞典は説明している。近現代「ネクター」の名前の由来は何ですか?(不二家 よくあるご質問)近現代オンライン語源辞典
- 要確認地図帳 / atlas → アトラス地図を一冊にまとめた本を atlas と呼ぶのは、16世紀のフランドルの地理学者メルカトルの地図集『アトラス』(1595年)の題名に始まる。etymonline は、この種の初期の地図集の扉絵に世界を担ぐティタンのアトラスが描かれていたと説明する。一方、競売会社サザビーズの解説は、メルカトルが名を借りたのは天球儀を初めて作ったとされる伝説のマウレタニア王アトラスで、1595年版の扉絵もこの王であり、ティタンの姿になったのは後の版からだとする。どちらのアトラスを指したのかは典拠によって説明が分かれる。近現代オンライン語源辞典近現代Gerard Mercator – Inventing the Atlas
- オーシャン / ocean → オケアノス英語 ocean は古フランス語・ラテン語 oceanus を経て、ギリシャ語 ōkeanos から来ている。ōkeanos は大地の円盤を取り巻いて流れる大河で、地中海とは区別された外側の海だった。これを神格化したのがオケアノス。語そのものの由来は不明で、ギリシャ語以前の言葉とする説がある。個々の大洋を ocean と呼ぶ用法は14世紀から。近現代オンライン語源辞典
- 博物館・美術館 / museum → ムーサ英語 museum はラテン語 museum を経て、ギリシャ語 mouseion「ムーサたちの神殿」から来ている。英語に入った1610年代には、アレクサンドリアの学術施設(ムセイオン)を指した。展示物を収める建物の意味で使われるのは1680年代から。近現代オンライン語源辞典
- 音楽 / music → ムーサ英語 music はラテン語 musica を経て、ギリシャ語 mousikē (technē)「ムーサたちの(技)」から来ている。古代ギリシャでは、ムーサが司るあらゆる技芸、特に音楽と抒情詩を指した。今の綴りは1630年代から。近現代オンライン語源辞典
- 台風 / typhoon → テュポン英語 typhoon の成り立ちは複雑で、etymonline は複数の源が重なったと説明する。ギリシャ語 typhōn「つむじ風」は風の父である巨人テュポンの名でもあり、英語では1550年代から「激しい嵐」の意味で使われた。一方、東インドの大嵐を指す用法は16世紀半ばのポルトガル語に始まり、アラビア語・ペルシャ語・ヒンディー語で大嵐を表す tufan から来たとみられる。広東語の「大風」が形や意味に影響した可能性もあるという。tufan 自体がギリシャ語から来たとする説と、純粋にセム語だとする説がある。近現代オンライン語源辞典
- カオス / chaos → カオス英語 chaos は14世紀後半に「ぽっかり開いた空虚・計り知れない空間」の意味で入った語で、ギリシャ語 khaos「口を開けた深淵」から来ている。「無秩序・大混乱」の意味は1600年ごろからで、ラテン語訳聖書の天地創造の場面での用法と、オウィディウスが混沌(カオス)を秩序ある宇宙(コスモス)の反対に置いたことに根がある。数学の「カオス理論」の用例は1977年ごろから。近現代オンライン語源辞典
- 催眠 / hypnosis・hypnotism → ヒュプノス催眠術を指す hypnotism は、1843年にマンチェスターの医師ジェイムズ・ブレイドが neuro-hypnotism(1842年)を縮めて作った語で、hypnosis は1850年にその代わりの語として作られた。どちらもギリシャ語 hypnos(眠り)から作られた接頭辞 hypno- を使っている。近現代オンライン語源辞典
- モルヒネ / morphine → ヒュプノスアヘンの主成分モルヒネは、1816年ごろドイツの薬剤師ゼルチュルナーが、眠りを誘う作用から夢の神モルペウス(Morpheus)の名をとって名づけた。モルペウスはオウィディウス『変身物語』で眠りの神ソムヌス(ヒュプノス)の息子として登場する夢の神で、名はギリシャ語 morphē(姿・形)から来ている。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- 心理学 / psychology → プシュケ英語 psychology は近代ラテン語 psychologia から来ている。16世紀半ばにドイツでメランヒトンが、ギリシャ語 psykhē「息・魂」に -logia「学」をつけて作ったと考えられている。psykhē はクピド(エロス)の恋人プシュケの名でもあり、古代では魂が蝶の姿で表されることがあった。今の行動科学としての意味は1890年代から。近現代オンライン語源辞典
- 衛生 / hygiene → ヒュギエイア英語 hygiene は1670年代にフランス語 hygiène から入った語で、元はギリシャ語 hygieinē technē「健康の技」。その元の形容詞 hygiēs「健やかな」を神格化したのが女神ヒュギエイアである。女神の名が直接の語源というより、同じ言葉から女神の名と衛生の語が分かれ出た関係。近現代オンライン語源辞典
- シリアル / cereal → デメテル穀物・穀物加工食品を指す語。ローマの穀物の女神ケレス(デメテルと同一視)に由来するラテン語 Cerealis「ケレスの」から。英語では形容詞が1818年、名詞が1832年、朝食用の加工食品の意は1899年のアメリカ英語から。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- ヨーロッパ(Europe)/ エウロパ(木星の衛星) → エウロペ木星の衛星エウロパは、ゼウスにさらわれたフェニキアの王女エウロペの名(NASA)。一方、大陸名ヨーロッパの由来ははっきりしない。語源辞典は、ギリシャ語 eurys(広い)+ ops(顔)とする説、アッカド語 erebu(沈む、日が沈む=西)などセム語系とする説を挙げ、いずれも不確かとし、王女エウロペとの結びつきは「伝統的に」言われてきたものとする。前5世紀のヘロドトスも、エウロペはアジア生まれでヨーロッパには来ていないとして、大陸名がどこから来たかは分からないと書いている(『歴史』4.45.4-5)。近現代NASA公式サイト近現代オンライン語源辞典古典期歴史
- アジア / Asia → プロメテウスアジアという地名にも、神話がからんでいる。紀元前5世紀のヘロドトスは『歴史』で、ギリシャ人の多くは、アジアはプロメテウスの妻アシアの名から来たと言っている、と書き留めた。ただし小アジアのリュディア人はこれに異を唱え、自分たちの祖先の一人の男の名から来たのだと主張していたという。ヘロドトス自身は、世界を分けて名前を付けたのがだれで、その名をどこから取ったのかは分からない、と正直に書き、結局は慣れた呼び方を使うことにした。一方、今の語源辞典は、アッカド語の「(日が)昇る」から来た「日の出の国」という推測を紹介している。古いギリシャ人はのちに小アジアと呼ばれる地域をこう呼び、大陸全体を指すようになったのはローマのプリニウスからである。古典期歴史近現代オンライン語源辞典
- キューピッド / Cupid → エロス英語 Cupid(14世紀後半)は、ローマの恋の神クピド(Cupido)の名から。ラテン語 cupido は「欲望・恋・情熱」を意味する普通名詞で、動詞 cupere「欲する」から来ている。クピドはギリシャのエロスと同じ神とみなされた。日本の辞書は、キューピッドをウェヌス(ビーナス)の子で、弓矢を持つ裸の有翼の少年、その矢に当たった者は恋心を起こす、と説明する。人形のキューピー(Kewpie、1909年)は、イラストレーターのローズ・オニールが Cupid の愛称形を崩して作った名。唇の形をいう「キューピッドの弓(Cupid's bow)」は1858年から。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- ヴィーナス / 金星 / Venus → アプロディテローマの愛と美の女神ウェヌスはアフロディテと同一視される。名はラテン語 venus「愛、欲望、美しさ」そのもので、惑星金星の名は英語で13世紀末から。古英語では金星を morgensteorra / æfensteorra(明けの星・宵の星)と呼んでいた。近現代オンライン語源辞典
- マーズ / 火星 / 3月(March) → アレスローマの軍神マルスはアレスと同一視される。惑星火星の名はその血のような色から付けられ、英語では1300年頃。3月 March は、ローマ人がマルスに捧げた月マルティウス(Martius)から来ている。マルスの祭りは、戦いの時期が始まる3月と終わる10月に集まっていた。近現代オンライン語源辞典近現代改訂新版 世界大百科事典
- 6月 / June → ヘラ月名 June はラテン語 Iunius (mensis) から。おそらく Iunonius「ユノに捧げられた」の短縮形で、ヘラと同一視されるローマの女神ユノにちなむ。ユノは成人女性と結婚を司る神で、ユピテル(ゼウス)の姉妹で妻。英語での June は1300年頃から。近現代オンライン語源辞典
- マーキュリー / 水星 / 水銀 → ヘルメスローマの神メルクリウスはヘルメスと同一視されるが、名はラテン語 merx「商品」から来たとされ(エトルリア語から来たとする説もある)、もとは商人と盗人の神だった。天を速く駆けるこの使者の名は、太陽系のいちばん内側を速く回る惑星(水星)に与えられた。中世には金属を惑星に対応させたので、水銀もこの名で呼ばれるようになった。日本語の「水銀」は、ラテン語のもう一つの名 hydrargyrum(ギリシャ語の「水」と「銀」)と同じ組み立てで、メルクリウスとのつながりは無い。近現代オンライン語源辞典近現代改訂新版 世界大百科事典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- パイソン / python(ニシキヘビ・プログラミング言語) → ピュトン大きなヘビを指す英語の python(パイソン)は、デルポイの近くでアポロンに退治された伝説の大蛇ピュトンの名から来ている。英語では1580年代にまずこの伝説の蛇の名として現れ、やがて「とても大きな蛇」一般をゆるく指すようになり、1836年からは熱帯にすむ毒のない大蛇(ニシキヘビの仲間)を指す動物学の名前にもなった。名前はデルポイの古い呼び名ピュトーと関係があるらしい。一方、プログラミング言語の Python は蛇とも神話とも関係がない。公式のよくある質問によれば、作者が実装を始めたころ、1970年代のBBCのコメディ番組「空飛ぶモンティ・パイソン」の台本を読んでいて、短くて少し謎めいた名前として選んだという。近現代オンライン語源辞典近現代Python よくある質問(一般)「なぜ Python という名前なのか」
- labyrinth(ラビリンス・迷路) → ラビュリントス「迷路・迷宮」を意味する英語。ラテン語 labyrinthus、ギリシャ語 labyrinthos を経て15世紀初めに英語に入り、1540年代には「込み入った状況」の比喩にもなった。1690年代からは耳の奥の器官「内耳迷路」の名でもある。語源はギリシャ語以前の言葉とみられ、両刃の斧 labrys と結びつける伝統的な説を、言語学者ビークスは推測的だとしている。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- ミダス・タッチ(the Midas touch) → ミダス手がけることを何でも儲けや成功に変えてしまう才覚を指す英語の成句。1883年から記録がある。触れるものすべてを黄金に変える力を願ったミダス王の話(オウィディウス『変身物語』11.85-145)から。元の話では、その力のせいで食べ物まで黄金になり飢えに苦しむので、成句の明るい意味とは裏腹に、話そのものは欲の戒めである。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- アカデミー / academy → ヘレネアカデミー(academy)は、プラトンが学園を開いたアテネ郊外の森の名から来ている。森はアカデメイアと呼ばれ、トロイア戦争の時代の伝説の人物アカデモスが、もとの持ち主だったとされる。プルタルコスの『テセウス伝』によれば、英雄テセウスがヘレネをさらって隠したとき、探しに来た兄たちに隠し場所を教えたのがこのアカデモスだった。そのおかげで、のちにスパルタ軍がアテネの周りを荒らしたときも、アカデメイアだけは手を付けられずに残ったという。英語では15世紀半ばに「プラトンの学園」の意味で現れ、1540年代には学問の場一般を指すようになった。近現代オンライン語源辞典ローマ期対比列伝(英雄伝)
- カリスマ / charisma → カリス英語 charisma(1875年)は、ギリシャ語 kharisma「好意、神の賜物」から来ている。元の kharis は「優美・好意」で、アプロディテに付き従う優美の女神カリスの名と同じ語。「指導者の人を惹きつける力」の意味は、1922年にマックス・ヴェーバーがドイツ語で使ったことから広まり、英語では1930年ごろから。近現代オンライン語源辞典
- ハーモニー(harmony) → ハルモニア英語 harmony(14世紀後半から「耳に快い音の組み合わせ」)は、ギリシャ語 harmonia「一致、音の調和」から。harmonia のもとの意味は「つなぎ合わせる手段」で、船板の接合などに使われ、harmos「継ぎ目、関節」にさかのぼる。カドモスの妻ハルモニア(アレスとアプロディテの娘)は、この普通名詞と同じ語を名に持つ女神で、ギリシャでは音楽の擬人化としても扱われた。「女神の名から harmony が生まれた」のではなく、同じ一語が普通名詞としても神の名としても使われた、という関係。近現代オンライン語源辞典古拙期神統記
- エロチック / erotic → エロス英語 erotic(1650年代)は、フランス語 érotique を経て、ギリシャ語 erōtikos「情熱的な愛による」から来ている。元は eros(属格 erotos)「性愛」で、これを神格化したのがエロス。フロイト派の「エロス(生の欲動)」の意味は1922年から。近現代オンライン語源辞典
- ネメシス / nemesis → ネメシス英語 nemesis は1570年代に女神の名として入り、1590年代から小文字で「因果応報・天罰」の意味で使われるようになった。「どうしても勝てない相手・宿敵」の意味は1930年ごろから。元のギリシャ語 nemesis は「正当な憤り」で、文字どおりには「(当然の分の)配分」を意味し、動詞 nemein「割り当てる」と関係がある。近現代オンライン語源辞典
- 虹彩 / iris → イリス眼球の色のついた輪(虹彩)。ギリシャ語 iris は虹・アヤメ・眼の虹彩のすべてを指し、オリュンポスの神々(特にヘラ)の使者イリスは虹そのものとして表された。英語では14世紀末にアヤメ、15世紀初めに眼の虹彩の意で現れる。形容詞 iridescent(1784年)も同語源。近現代オンライン語源辞典
- 火山 / volcano → ヘパイストス英語 volcano(1610年代)はイタリア語 vulcano「燃える山」から、さらにローマの火と鍛冶の神ウルカヌス(ヘファイストスと同一視)に遡る。ローマ人はエトナ山をウルカヌスの鍛冶場と考えた。近現代オンライン語源辞典
- boreal / オーロラ・ボレアリス(北極光) → ボレアス英語 boreal(北の)は15世紀後半からの語で、後期ラテン語 borealis を経て、北風の神ボレアス(Boreas)の名から来ている。aurora borealis は直訳すると「北の曙」で、1620年代からの語。etymonline は、1621年9月2日にフランスで見えた壮大なオーロラを受けて哲学者ガッサンディが名づけたとされる、と伝える(「とされる」の留保つき)。ギリシャ語 Boreas 自体の語源ははっきりしない。近現代オンライン語源辞典
- 銅(copper)・元素記号 Cu → キュプロス島英語で銅を copper、元素記号で Cu と書くのは、キプロス島の名から。ローマ人は、銅がよく採れたこの島にちなんで銅を「キプロスの金属」(aes Cyprium)と呼び、それが縮まって後期ラテン語の cuprum になった。英語 copper、ドイツ語 Kupfer、記号の Cu は、みなここから出ている。キプロスは、海の泡から生まれた女神アプロディテが上がった島。ローマのプリニウスは『博物誌』で、銅が最初に見つかったのはキプロスだとし、ものの発明者を並べた箇所でも、銅の鉱山が最初に見つかった場所としてこの島を挙げている。近現代オンライン語源辞典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代改訂新版 世界大百科事典ローマ期博物誌
- jovial(陽気な) / 木星 Jupiter → ゼウスローマのユピテル(Jove)はゼウスと同一視され、太陽系最大の惑星の名になっている。英語 jovial(1580年代)が「陽気な」を意味するのは、木星の下に生まれた者は快活な気質になるという占星術の考えによる。ユピテルの Iu- とゼウス Zeus は同じ印欧語根 *dyeu-「輝く、天」に遡る。近現代オンライン語源辞典
- アンモナイト / ammonite → ゼウス化石でおなじみのアンモナイトは、中世ラテン語の「アモンの角」から名付けられた。アモンはエジプトの神で、雄羊の角を持つ姿で表され、ぐるぐる巻いた化石がその角に似ていたからである。似ていることには古代の人も気づいていたという。そしてこのアモンを、ギリシャ人はゼウスと同じ神と考えた。ヘロドトスは『歴史』で、エジプト人はゼウスをアモンと呼ぶと書き、ゼウスの像が雄羊の頭をしている理由として、こんな話を伝える。ゼウスにどうしても会いたがったヘラクレスに、姿を見せたくないゼウスは、雄羊の頭を切って皮をかぶり、その姿で現れた、と。英語の ammonite は1758年から見える。近現代オンライン語源辞典古典期歴史
- アンモニア / ammonia → ゼウスつんとくる匂いの気体アンモニアの名は、「アモンの塩」から来ている。この塩はリビアにあった「ユピテル・アモン」の神殿、つまりローマ人がユピテル(ゼウス)と同じ神とみなしたエジプトの神アモンの聖所の近くで採れたとされる。1782年にスウェーデンの化学者ベリマンが、この塩から得られる気体をラテン語でこう名付け、英語では1799年から見える。神殿は、アウグストゥスの時代にはすでに古い聖所だったという。ギリシャ人もアモンをゼウスと重ねていて、ヘロドトスは「エジプト人はゼウスをアモンと呼ぶ」と書いている。近現代オンライン語源辞典古典期歴史
- シャクヤク・ボタン / peony → アポロンシャクヤクやボタンの仲間を英語でピオニー(peony)と呼び、学名もパエオニア(Paeonia)という。語源辞典によれば、ラテン語 paeonia、ギリシャ語 paiōnia から来た言葉で、おそらく神々の医者パイエオン(癒やし手としてのアポロンの呼び名でもある)の名にちなむ。根や花や種が薬として使われていたことから付いた名だという。『イリアス』には、この神々の医者が、ヘラクレスの矢を肩に受けた冥界の王ハデスや、戦場で傷を負った軍神アレスの傷に、痛みを鎮める薬草を塗って治す場面がある。近現代オンライン語源辞典ホメロスイリアス
- リセ / ライシーアム / lycée・lyceum → アポロンフランスの高校にあたる学校をリセ(lycée)と呼ぶ。フランス語を経てラテン語の Lyceum にさかのぼる言葉で、英語でも「リセ」の意味では1865年から使われている。そのもとは古代アテネの東の郊外にあった木立と運動場の名リュケイオンで、アリストテレスはここで教えた。場所の名は、近くに神殿があったアポロンの呼び名「リュケイオス」から取られている。この呼び名はおそらく「狼の」という意味、あるいはそう受け取られていた言葉で、なぜアポロンが狼と結びつくのかについての言い伝えは、はっきりしなくなっているという。英語の lyceum は1580年代から見え、19世紀には文学協会や、公開講座を開く施設の名にもなった。プラトンの学園がアカデミーの語源になったのと、ちょうど対になる話である。近現代オンライン語源辞典近現代Merriam-Webster英語辞典
- 媚薬 / aphrodisiac → アプロディテ性的欲求を高めるとされる薬・食べ物。ギリシャ語 aphrodisios「アフロディテに属する」から。英語では名詞が1719年、形容詞が1775年。近現代オンライン語源辞典
- トロイオンス / troy ounce(トロイアとは無関係) → トロイア金の値段でよく見る単位トロイオンス。「トロイ」と聞くとトロイの木馬のトロイアを思い浮かべるが、関係はない。語源辞典によれば、このトロイはフランスの町トロワ(Troyes)のことで、中世にこの町で開かれた大きな市で使われた重さの決まりが「トロワの重さ」と呼ばれた。中世の大きな町はそれぞれ自前の重さの基準を持っていて、その一部が他の土地の商人にも広く使われるようになったという。英語では14世紀後半から宝石や貴金属を量る単位として使われ、1トロイポンドは12トロイオンスに分けられる。トロワの町の名も、古代にそこに住んだ人々の部族名から来ていて、トロイアとはつながらない。近現代オンライン語源辞典
- カルタゴ / Carthage、ポエニ(Punic) → カルタゴ英語 Carthage はラテン語 Carthago から来ており、そのもとはフェニキア語で「新しい町」を意味する名。形容詞は Carthaginian。カルタゴやその人々に関わることを表す Punic(ポエニの)はラテン語 Punicus から来ていて、前264年から前146年にかけてローマとカルタゴが戦った「ポエニ戦争(Punic Wars)」の名に残る。近現代オンライン語源辞典
- ギャラクシー / galaxy・ミルキーウェイ(天の川) → ヘラ英語の galaxy(銀河)は、ギリシャ語で天の川を指した「乳の輪」から来ている。「乳」を意味する gala がもとで、英語の Milky Way(乳の道)もラテン語の「乳の道」を訳した言葉である。夜空の白い帯を、古代の人は乳にたとえた。ではだれの乳か。ヒュギヌスの『天文譜』は説をいくつも並べる。ヘラが知らずに赤ん坊のヘルメスに乳を与え、別の女性が産んだ子だと気づいて突き放したときにこぼれた、という説。眠っているヘラの胸に赤ん坊のヘラクレスがあてがわれた、という説。ヘラクレスが欲ばって飲みすぎ、口からあふれた、という説。さらに、ゼウスの代わりに石を夫クロノスに渡したレアが乳を搾ったとき、という説まである。英語で galaxy が天文学の「銀河」の意味になったのは1848年ごろから。近現代オンライン語源辞典ローマ期天文譜
- ネプチューン / 海王星 → ポセイドンローマの海神ネプトゥヌスはポセイドンと同一視される。惑星は1846年にガレが発見し、位置を予測したル・ヴェリエが命名を提案した。周期表でウランの次に来る元素ネプツニウム(1941年)も、海王星が天王星の次に来ることにちなむ。近現代オンライン語源辞典
- 木星探査機ジュノー / Juno → ヘラ2011年8月に打ち上げられ、2016年から木星を回っているNASAの探査機ジュノーは、ゼウスの妻ヘラのローマ名ユノ(英語読みでジュノー)から名付けられた。NASAの子ども向けサイトは、その理由を神話で説明している。木星の名のもとになった神ユピテル(ゼウス)は、自分のいたずらを隠すために雲のベールをまとったが、妻のユノは雲を見通して夫の正体を暴いた。探査機も同じように、木星の分厚い雲の下をのぞき込む、というわけだ。もとになった場面は、オウィディウスの『変身物語』にある。ゼウスはイオという娘に言い寄り、逃げる彼女を捕まえるために、広い土地を闇で覆い隠した。空から見下ろしたヘラは、晴れた昼間にそこだけ夜のような雲がかかっているのを不審に思う。川から立つ霧でもない。夫が天にいないと分かると、「思い違いか、それとも裏切られているのか」と地上へ降り、雲を退かせた。ゼウスは妻が来るのを察して、イオを雌牛に変えていた。近現代NASA公式サイトローマ期変身物語
- アルテミス計画 / Artemis program → アルテミスNASAの現行の有人月探査計画。NASAの説明によれば、アルテミスはギリシャ神話でアポロの双子の姉妹にあたる月の女神で、太陽の神の名を採ったアポロ計画に続いて、宇宙飛行士を再び月へ送る取り組みの名になった。近現代NASA公式サイト
- オリンポス山(火星)/ Olympus Mons → オリュンポス山火星の巨大な火山は、オリンポス山(Olympus Mons)と呼ばれる。NASAの教材は、この名前はギリシャの神々が住むという伝説の山にちなむと説明し、ふもとの差し渡しは300マイル(約480キロ)を超え、高さは17マイル(約27キロ)、アメリカのアリゾナ州をすっぽり覆い、エベレストも小さく見えるほどだと紹介している。惑星の地名を管理する国際天文学連合の地名集では、この名は1973年に正式に認められ、古くから望遠鏡で見えていた模様に付けられた古典的な呼び名を受け継いだもの、とされている。神々の山の名は、地球のギリシャの山から、はるかに大きな火星の火山にまで渡ったことになる。近現代NASA公式サイト近現代惑星命名法地名集(Gazetteer of Planetary Nomenclature)
- ハーメチック / hermetic(密閉した) → ヘルメス「完全に密閉した」を意味する英語 hermetic(ハーメチック)は、神々の使者ヘルメスの名から来ている。ただし直接の由来は、ギリシャの神そのものではない。語源辞典によれば、新プラトン主義者や神秘家、錬金術師は、ヘルメスをエジプトの神トトと重ね合わせて「三倍偉大なヘルメス(ヘルメス・トリスメギストス)」と呼び、この人物が秘密の封を使ってガラス管を気密に閉じる錬金術の技を編み出したと考えた。そこから「すっかり封じた」という意味が生まれ、1600年ごろには hermetically sealed(ぴったり密封された)という言い方の中に現れる。神秘学・錬金術に関わるという意味の hermetic は1630年代から。近現代オンライン語源辞典
- マーキュリー計画 / Project Mercury → ヘルメスアメリカが初めて人間を宇宙へ送った計画が、マーキュリー計画である。NASAの公式の歴史によると、名前を決めるとき、現場の責任者は宇宙飛行士の存在を前に出す「プロジェクト・アストロノート」を推したが、乗る人の個性ばかりが注目されかねないとして退けられた。代わりにNASAのシルバースタインが推したのが、神々の使者メルクリウス、つまりギリシャのヘルメスだった。ゼウスの息子で、翼のあるサンダルと兜と杖を持つこの神は、アメリカ人にいちばんなじみのあるオリュンポスの神で、象徴としてこれ以上ない、と考えられた。1958年11月26日に名前が決まり、ライト兄弟の初飛行から55年目の12月17日に発表された。同じ本は、神話にくわしい人に相談していたら、この神が盗みの名人で商売の神でもあることが笑い話になって、名前は通らなかったかもしれない、とも書いている。さらに、神々の伝令としての役目を果たしてくれるのか、それとも死者を冥界へ送る役目のほうなのかとギリシャ人なら気をもむところだが、アメリカ人はそんな心配はしないだろう、と冗談めかしている。近現代この新しき大洋 ― マーキュリー計画の歴史(NASA SP-4201)
- リリック・歌詞(lyric, lyrics) → ヘルメス歌の歌詞を英語で lyrics という。もとは lyric で、ギリシャ語の lyrikos「竪琴(リュラ)に合わせて歌う」から来ている。英語では1580年代から、歌うのにふさわしい叙情的な詩を指し、流行歌の歌詞の意味は1876年から記録がある。その竪琴を最初に作ったのは、生まれたばかりの神ヘルメスだった。『ヘルメス讃歌』によれば、赤ん坊のヘルメスはゆりかごを抜け出して一匹の亀を見つけ、甲羅に葦を差し、牛の皮を張り、羊の腸で弦を張って竪琴に仕立てた。のちにこの竪琴は兄のアポロンに贈られる。近現代オンライン語源辞典古拙期ホメロス風讃歌
- プルート / 冥王星 / プルトニウム → ハデスハデスのもう一つの名プルトン(「富める者」)のラテン語形プルトが、1930年発見の天体の名になった。1942年に命名されたプルトニウムは、周期表でネプツニウムの次に来ることが海王星の次に冥王星が来る順序と重なることによる。日本語の「冥王星」は、星の随筆家として知られる野尻抱影が和名として提案し、広まった名である。近現代オンライン語源辞典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- セリウム / cerium → デメテル元素セリウム(記号 Ce)の名は、2段階を経て女神にたどり着く。1801年に最初の小惑星が見つかり、ローマの農業の女神ケレスの名が付いた。ケレスはギリシャのデメテルと同じ女神とされる。その2年後の1803年、ベルセリウスらが新しい物質を見つけ、当時の大発見だったこの小惑星にちなんでセリアと呼んだ。そこから取り出された金属がセリウムで、純粋な形で取り出されたのは1875年。近現代オンライン語源辞典
- バッカナール / bacchanal → ディオニュソス酒宴・乱痴気騒ぎ、またそれを描いた音楽や絵画。ディオニュソスの別名バッコス(ラテン語 Bacchus)から。英語では名詞が1530年代、Bacchanalia(バッコス祭)が1630年代。ローマ元老院は前186年にこの祭を禁じている。近現代オンライン語源辞典
- マーシャルアーツ / martial arts → アレス格闘技を指すマーシャルアーツ(martial arts)の martial は、「軍神マルスの」という意味のラテン語から来ている。マルスはローマの戦の神で、ギリシャのアレスと同一視された神である。英語の martial は14世紀後半から「戦いの、戦争にかかわる」の意味で使われ、「戒厳令」を意味する martial law は1530年代、「軍法会議」の court-martial もこの流れにある。面白いのは martial arts という言葉の生まれで、語源辞典によれば1909年に、日本やその周辺の格闘技をまとめて呼ぶ名として、日本語の「武術」を英語に訳したのが始まりだという。日本の武術が英語に入るとき、ギリシャ・ローマの戦の神の名を借りた言葉になったわけである。近現代オンライン語源辞典
- ミステリー(mystery) → デメテル英語の mystery は、ギリシャ語の mystērion から来ている。語源辞典によれば、もとは「入信した者だけが知り、行う秘密の儀式や教え」のことで、「入信した者」を指す mystēs、さらに「閉じる」という意味の myein にさかのぼる。閉じるのは、秘密を守る唇とも、入信者しか神聖な儀式を見てはならない目とも考えられている。英語では14世紀前半から使われ、推理小説の意味は1908年から記録がある。古代ギリシャの秘儀の一つに、エレウシスの秘儀がある。『デメテル讃歌』によれば、娘を取り戻した穀物の女神デメテルが、エレウシスの王たちに自分の祭儀を教えた。それは口外が許されないもので、その儀式を見た者は幸いだと讃歌は語っている。近現代オンライン語源辞典古拙期ホメロス風讃歌
- ウェスタの処女 / vestal → ヘスティアローマの炉の女神ウェスタに仕え聖火を絶やさぬよう守った巫女。ウェスタはヘスティアと同一視され、語源辞典は、両者の名は「住まう」を意味する同じ印欧語根に遡るのかもしれない、と書く。英語 vestal は15世紀半ばから、1580年代には広く「貞潔な女性」の意で使われる。近現代オンライン語源辞典
- タイタン(土星の衛星)/ Titan → ティタン族土星でいちばん大きな衛星タイタンは、1655年にオランダの天文学者が見つけ、はじめはラテン語で「土星の月」とだけ呼ばれていた。今の名を付けたのは、天文学者ジョン・ハーシェル。土星の英語名サターン(サトゥルヌス)はギリシャ神話のクロノスにあたり、クロノスはティタンと呼ばれる古い神々の一人である。ハーシェルは土星の衛星の名前について、「サトゥルヌスは自分の子を呑み込んでしまったので、家族を周りに集められない。だから兄弟姉妹のティタンたちから選んだ」と書いている。子どもを呑んだ父の神話が、衛星の名付けの決まりになった。近現代NASA公式サイト
- Herculean(ハーキュリアン) → ヘラクレス英語で「並外れて大きい・強い」、また「きわめて困難な」を表す形容詞。英語での記録は1590年代からで、ヘラクレス(ラテン語形 Hercules)の難業にちなむ。a Herculean task は「とてつもない大仕事」。ラテン語形 Hercules はエトルリア語の Hercle を経た形で、ローマ人の「メ・ヘルクレ!(me Hercule! 誓って!)」という感嘆詞にもなった。近現代オンライン語源辞典
- スフィンクス / sphincter(括約筋) → スフィンクスギリシャ語 Sphinx は「締めつける者」の意と解され、σφίγγειν(締める、縛る)から作られたとされる。同じ動詞から、筋肉の輪で管を締める「括約筋」を指す sphincter ができた。英語 sphinx はテーバイの怪物の意味で15世紀初めから、エジプトの像の意味で1570年代から、ギザの大スフィンクスについては1610年代から使われ、「正体の知れない謎めいた人」の比喩は1600年頃から。近現代オンライン語源辞典
- プロメチウム / promethium → プロメテウス原子番号61の元素。マンハッタン計画のウラン核分裂生成物から見つかり、1948年にプロメテウスにちなんで命名された。命名者たちは、人類が核分裂という火を手にしたことと、その罰の危険を同時に象徴する名だと説明している。近現代オンライン語源辞典
- プロメテウス(土星の衛星)/ Prometheus → プロメテウス土星の衛星プロメテウスは、1980年に探査機ボイジャー1号の画像から見つかった、じゃがいものような形の小さな衛星である。土星の細い環(F環)の内側を回り、環の粒が内へ広がらないように押さえる「羊飼い衛星」の役目をしている。名は、神々から火を盗んで人間に与えたプロメテウスから。すぐ外側には、同じ年に見つかった衛星パンドラが回っている。近現代NASA公式サイト
- クロノグラフ / クロノロジー(神クロノスとは別の言葉) → クロノスストップウォッチ付きの時計クロノグラフ(1831年から英語に見える)や、年代順を意味するクロノロジーの「クロノ」は、ギリシャ語で「時」を表す khronos から来ている。一方、ゼウスの父で、ティタンの神々の長だったクロノスは綴りが Kronos で、語源辞典によれば名の由来ははっきりせず、「時」の khronos とはおそらく関係がない。音がほとんど同じなので二つを結びつける解釈もあるが、語源辞典はそれを民間語源、つまり俗説として扱っている。わが子を呑み込む神と、時計の針。つい重ねたくなるが、別の言葉である。近現代オンライン語源辞典
- 土星 / 土曜日(Saturday) → クロノスローマのサトゥルヌスはクロノスと同一視され、土星の名になった。英語 Saturday は古英語 sæterdæg「サトゥルヌスの日」で、ラテン語 Saturni dies、さらにギリシャ語 kronou hēmera「クロノスの日」の翻訳にあたる。なお神名クロノス Kronos と時間を意味する Chronos は、語源辞典によれば民間語源を除いて関係が無いとされる別語で、日本語ではどちらも「クロノス」になるため混同が起きやすい。近現代オンライン語源辞典
- ウラン / uranium → ウラノス元素ウラン。1789年にドイツの化学者クラプロートが、その8年前(1781年)に発見されたばかりの惑星ウラヌスにちなんで命名した。のちのネプツニウム(1941年)・プルトニウム(1942年)も、周期表でウランの次に来る順序が海王星・冥王星の順序と重なることから命名されている。近現代オンライン語源辞典
- フェニックス / phoenix(不死鳥) → フェニックス英語の phoenix(フェニックス)は、古英語の時代から見える古い言葉で、ラテン語・ギリシャ語の phoinix にさかのぼる。9世紀ごろの古英語の詩にも、美しい羽の鳥「フェニックス」が登場する。何百年も生きたあと香料の薪に自ら火をつけて焼け、灰の中から若返ってよみがえる鳥、という姿から、1590年代には「滅んだものの灰の中からよみがえるもの」のたとえになった。アメリカ・アリゾナ州の都市フェニックスも、1867年に古い先住民の集落の跡に築かれたことからこの名が付いたという。夜空のほうおう座(英語名 Phoenix)は、南半球の探検が始まった1610年代に、フランドルの地図製作者が付け加えた星座である。なお、似た音の「フェニキア」とは関係がないらしい。近現代オンライン語源辞典
- 天王星 / Uranus → ウラノス1781年にハーシェルが発見した惑星。ハーシェル自身は国王ジョージ3世にちなむ「ジョージの星」を提案したが、ドイツの天文学者ボーデが、ほかの惑星の名とそろう Uranus を提案し、イギリスでも1809年までにこちらが好まれるようになった。Uranus はギリシャ語 Ouranos(「天」)のラテン語形で、天空を神にしたウラノスは大地ガイアの夫、ティタンたちの父にあたる。土星の名になったサトゥルヌス(クロノス)もティタンの一人である。近現代オンライン語源辞典
- 楽しませる / amuse(ムーサとは無関係) → ムーサamuse(楽しませる)や amusement(娯楽・アミューズメント)はムーサと関係がありそうに見えるが、実際には関係がない。古フランス語 amuser「気をそらす、だます」から来ていて、元になった muser は「ぼんやり見つめる、考えにふける」という意味の別の語である。英語での最初の意味は「欺く」で、今の「楽しませる」の意味は1630年代から。ギリシャ語 amousos は「ムーサのいない」つまり「無教養な」の意味で、これも別物。近現代オンライン語源辞典
- medusa(クラゲ) → メドゥサ英語 medusa は「クラゲ」。1758年にリンネが属名として用いたのが始まりで、垂れ下がる長い触手をメドゥサの蛇の髪に見立てたもの。メドゥサの名自体は「守る者・治める者」の意。近現代オンライン語源辞典
- ゴルゴンゾーラ / Gorgonzola(ゴルゴンとは無関係) → メドゥサ青かびのチーズ、ゴルゴンゾーラ。頭に「ゴルゴン」が付いているので、見た者を石に変える怪物ゴルゴン(メドゥーサたち三姉妹)を思い浮かべたくなるが、関係はない。辞書は、名前はイタリアの地名ゴルゴンゾーラから来ていると説明している。その土地のチーズ、というだけの名前である。英語に入ったのは1878年。近現代Merriam-Webster英語辞典
- Pegasus(ペガサス) → ペガソスペガソスは古代から北天の星座の名でもある(etymonline)。英語読みの「ペガサス」は、デジタル大辞泉ではペガソスの英語名とされ、スマートフォンを標的にするスパイウェアの名にもなっている。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉
- ミント / mint(ハッカ) → ペルセポネハーブのミント(mint)は、古英語の時代からある古い言葉で、ラテン語 menta を経て、ギリシャ語の minthē にさかのぼる。語源辞典によれば、このギリシャ語は、冥界の女王ペルセポネ(ローマのプロセルピナ)に草へ変えられたニンフの名としても語られた。オウィディウスの『変身物語』でも、恋人アドニスを亡くした女神アプロディテが「ペルセポネよ、あなたは昔、女の体を香りのよいミントに変えることを許されたではないか」と言い、自分も恋人を花に変えようとする。ギリシャ語の名そのものは、地中海の今は失われた言葉から借りたものらしい。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- アスクレピオスの杖 / WHOの紋章 → アスクレピオス蛇が一匹巻きついた杖は、医神アスクレピオスにちなむ医療の象徴である。WHOは1948年の第1回世界保健総会でエンブレムを定め、国連の紋章の上に蛇の巻きついた杖を置いた。WHOはこの杖と蛇を「古代ギリシャで癒やしの神と崇められたアスクレピオスの物語に由来する」と説明している。オウィディウスは、アスクレピオスが夢の中で「杖に巻きつくこの蛇」を見せ、その蛇の姿でローマに渡ったと語る。近現代WHOのロゴとエンブレムローマ期変身物語
- アトラス(土星の衛星)/ Atlas → アトラス土星の衛星アトラスは、1980年に探査機ボイジャー1号の画像から見つかった小さな衛星で、赤道をぐるりと取り巻く盛り上がりのせいで、空飛ぶ円盤のような形をしている。土星の主な環の一つ、A環の外側の縁のすぐそばを回る。名は、ティタンの戦いに敗れたあと、天を支え続ける役目を負わされたアトラスから。土星には、アトラスの父イアペトス、兄弟のプロメテウスとエピメテウスの名を持つ衛星もあり、一家がそろっている。近現代NASA公式サイト古拙期神統記
- パナシア / panacea(万能薬) → アスクレピオス英語の panacea(パナシア)は「どんな病も治す薬」、つまり万能薬のこと。1540年代から英語に見え、ギリシャ語の「すべてを癒やすもの」がもとになっている。同じ言葉は、医神アスクレピオスの娘の名前でもあった。古代の讃歌の碑文は、健康の女神ヒュギエイアと並んでパナケイアをアスクレピオスの子に数え、「ヒポクラテスの誓い」では、医師がアポロン、アスクレピオス、ヒュギエイア、パナケイアの名にかけて誓う。近現代オンライン語源辞典近現代Theoi Greek Mythology(Webサイト)古典期ヒポクラテスの誓い
- 大西洋 / Atlantic → アトラスAtlantic はギリシャ語 Atlantikos「アトラスの」から来ている。もとは北アフリカ西部のアトラス山(天を支える巨人アトラスと重ねられた山)の沖の海を指した。ヘロドトスはすでに前5世紀に「ヘラクレスの柱の外の海は、アトラスの海(アトランティス)と呼ばれる」と書いている。ヨーロッパ・アフリカとアメリカ大陸のあいだの大洋全体を指すようになったのは1600年ごろから。近現代オンライン語源辞典古典期歴史
- Kerberos(ケルベロス認証) → ケルベロスMIT が開発したネットワーク認証の仕組み。利用者は鍵を管理するサーバーにアクセスして認証を受ける。MIT の Kerberos 公式サイトで公開されている解説対話劇(1988年)では、設計中のシステムを最初は冥界の渡し守の名でカロンと呼び、最後に女神アテナが「ギリシャの番犬だから、Kで始まる Kerberos」と改名する筋立てになっている。冥界の門番の名が、ネットワークの門番に使われた。近現代認証システムの設計:四場の対話近現代デジタル大辞泉
- グリフォン(griffin、gryphon) → グリュプス鷲の頭と翼に、獅子の体を持つ空想の生き物。英語の griffin は、古いフランス語やラテン語を経て、ギリシャ語の gryps(グリュプス)から来ていて、もとは「曲がった、かぎ鼻の」という意味で、くちばしの形を指したらしい。英語では1200年ごろから人の姓として記録がある。語源辞典によれば、ギリシャ神話ではスキュティアに住み、その地の金を守る生き物とされた。紀元前5世紀の歴史家ヘロドトスも、ヨーロッパの北の果てで金を守る獣として書き留めている。近現代オンライン語源辞典古典期歴史
- トリカブト / aconite → ケルベロス猛毒の草トリカブトは、英語でアコニット(aconite)という。ギリシャ語 akoniton から来た言葉で、語源辞典はもとの意味は分からないとしている。この毒草の生まれを語るのが、オウィディウスの『変身物語』である。ヘラクレスが冥界の番犬ケルベロスを地上へ引きずり出したとき、日の光を嫌がって暴れた犬は、三つの口で吠えながら白い泡を野に飛び散らせた。その泡が固まって、毒の力を持つ草になったという。硬い岩の上に根づいて生きるので、田舎の人はこれをアコニタと呼ぶ、とも詩は言う。この毒を使って、魔女メデイアはアテネに着いたばかりの若者テセウスを殺そうとし、父王が剣の柄の紋で息子と気づいて杯を払い落とした。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- ニンフ / nymph → ニンフ英語 nymph は14世紀後半から見られ、古フランス語とラテン語を経てギリシャ語 nymphē から来ている。nymphē は元は「花嫁、若妻」の意味で、のちに「美しい若い女」、さらに「美しい乙女の姿をした半神的な存在」を指すようになった。英語では1570年代から、昆虫の幼虫と成虫のあいだの段階(若虫)の意味でも使われる。近現代オンライン語源辞典
- レア(土星の衛星)/ Rhea → レア土星で2番目に大きい衛星レアは、1672年に天文学者カッシーニが見つけた。名は、クロノスの妻でゼウスの母にあたるティタンの女神レアから。土星の衛星をクロノスの兄弟姉妹の名で呼ぶという、天文学者ジョン・ハーシェルの提案による。表面の地形には、主に世界各地の天地創造の神話に出てくる人物や場所の名が付けられている。近現代NASA公式サイト
- サイクロン / cyclone(キュクロプスの親戚の言葉) → キュクロプス族中心のまわりを風が渦を巻いて吹く大嵐サイクロン(cyclone)と、ひとつ目の巨人キュクロプス(英語でサイクロプス)は、名前の頭がよく似ている。どちらもギリシャ語で「円」を意味する kyklos から来た言葉で、キュクロプスは字義どおりには「丸い目」、額の真ん中に丸い目がひとつあることからの名である。一方サイクロンは、1789年12月にインドを襲った大嵐を記述するために、イギリス東インド会社の役人が1848年に作った言葉で、「円を描いて回る」という意味のギリシャ語から形を整えた。巨人から取った名ではないが、同じ「円」から生まれた、いわば遠い親戚である。近現代オンライン語源辞典
- セレン / selenium → セレネ元素セレン(selenium)は1818年にスウェーデンの化学者ベルセリウスが、ギリシャ語 selēnē(月)から名づけた。最初は、地球にちなんで名づけられていたテルル(tellurium)と取り違えられていたため、地球に対して月の名を選んだ。語尾は -ium だが金属ではない。近現代オンライン語源辞典
- ヘリウム / helium → ヘリオス元素ヘリウム。1868年の皆既日食で太陽のスペクトルに未知の線が見つかり、ロッキャーとフランクランドがギリシャ語 hēlios(太陽)にちなんで命名した。地上で単離されたのは1895年。金属元素と思われていたため語尾が -ium になっている。近現代オンライン語源辞典
- ヘリオトロープ / heliotrope → ヘリオス太陽の方を向いて花や葉を回すとされた植物の名。ギリシャ語 hēlios(太陽)と tropos(向きを変えること)から。英語では1620年代。同じ語形成の英語 turnsole(1570年代)はラテン語で同じ意味を作った言い換え。近現代オンライン語源辞典
- シーシュポスの岩 / Sisyphean(果てしない徒労) → シシュポス英語の形容詞 Sisyphean は「シシュポスの終わりなく報われない労苦のような」の意で、1630年代から使われる(Sisyphian の形は1590年代)。冥界で岩を丘の上へ押し上げるたびに転がり落ちる罰(『オデュッセイア』11.593-600)に由来する。カミュは随筆『シーシュポスの神話』(1942)で、岩を押し上げ続けるシーシュポスを不条理の英雄として描いた。近現代オンライン語源辞典ホメロスオデュッセイア近現代シーシュポスの神話
- ミノア文明(Minoan) → ミノスクレタ島の青銅器時代の文明を指す呼び名。英語 Minoan は1894年から見られ、考古学者アーサー・エヴァンズが伝説のクレタ王ミノスにちなんで用いた。日本語では「クレタ文明」の別称として「ミノア文明」「ミノス文明」が使われる。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉近現代改訂新版 世界大百科事典
- パンドラ(土星の衛星)/ Pandora → パンドラ土星の衛星パンドラは、1980年に探査機ボイジャー1号の画像から見つかった小さな衛星で、細かな氷の塵にすっぽり覆われている。土星の細い環(F環)の外側を回り、内側のプロメテウスと一緒に、この環をはさむ位置にいる。NASAの説明では、プロメテウスが環を保つのに対して、パンドラは環をかき乱しがちだという。神々が災いの贈り物として人間に送り込んだ女性の名にふさわしい働きである。近現代NASA公式サイト古拙期仕事と日
- ジェイソン(Jason) → イアソン英語圏の男子名ジェイソン。語源辞典によれば、この名には二つの流れがある。一つは、ヘレニズム期のユダヤ人に多かった、ヘブライ語ヨシュアを写したギリシャ語の名。もう一つは、アルゴ船の英雄を率いたギリシャ神話のイアソン(Iasōn、「癒やす」iasthai と関係するかとされる)。二つの名は、キリスト教のギリシャ語の中でいくらか重なった。近現代オンライン語源辞典
- タルタル(Tartar=タタール人の旧称) → タルタロス英語の Tartar(タタール人)は14世紀後半から見え、中世ラテン語 Tartarus を経て、13世紀にチンギス・ハンの軍勢を指したペルシャ語 Tatar から来ている。語源辞典によれば、西ヨーロッパの言葉での形は、はじめから地獄を意味するラテン語 Tartarus との連想に影響されていた。1270年にフランス王ルイ9世のものとされる手紙には、「タタール人を、彼らが来たタルタロスへ押し返すか、さもなくば彼らが我々を皆天国へ送るかだ」という言葉遊びがある。近現代オンライン語源辞典
- 始新世 / Eocene・eo- → エオス地質時代の「始新世(Eocene)」は、1831年にウィリアム・ヒューエルがライエルへの手紙で提案した語で、ギリシャ語 ēōs(曙)と kainos(新しい)を組み合わせた「新しい時代の夜明け」の意味。以後、地学で「最初期の」を表す接頭辞 eo- が広まった。ēōs は曙の女神エオスの名でもある。近現代オンライン語源辞典
- Argonaut(アルゴノート) → アルゴナウタイの遠征英語 Argonaut は「アルゴ船の船乗り」(Argo + ギリシャ語 nautēs 船乗り)で、英語での記録は1580年代から。1848年のカリフォルニアのゴールドラッシュで金を求めて西へ向かった人々は、金羊毛を求めた英雄になぞらえて argonauts と呼ばれた。nautēs は astronaut(宇宙飛行士)や nautical と同じ語根。近現代オンライン語源辞典
- hector(威張る・いじめる) → ヘクトル「いばり散らす、脅しつける」意の英語動詞(1650年代)。もとは「粋がって威張る男」を指す俗語の名詞で、『イリアス』のヘクトルが味方を叱咤して戦わせる姿の描写に由来するとされる。それより前、14世紀後期の英語では、Hector は「勇敢な戦士」の代名詞として使われていた。近現代オンライン語源辞典ホメロスイリアス
- アドニス(美青年のたとえ)/ フクジュソウ属 Adonis → アドニス英語で Adonis を「美青年」の意味で使うのは1620年代から。フランス語 Adonis を経て、アプロディテに愛された少年の名に由来する。その名はさらにフェニキア語 adon(主)にさかのぼるとされ、ヘブライ語 Adonai と同系。植物の属名 Adonis(キンポウゲ科)もこの名で、日本のフクジュソウ(Adonis ramosa ほか)はこの属に入る。オウィディウスではアドニスの血から咲く花は、風に散らされるはかない赤い花とされる(『変身物語』10.735-739)。近現代オンライン語源辞典近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)ローマ期変身物語
- アネモネ / anemone → アドニス春の花アネモネの名は、ギリシャ語で「風の娘」、つまり風の花という意味になる。語源辞典は、風が吹くときだけ開くと考えられたからという説明を紹介している。この花の名と風とを結びつけて語ったのが、オウィディウスの『変身物語』である。猪に突かれて死んだ美少年アドニスの血に、女神アプロディテが神々の飲み物ネクタルを注ぐと、ザクロの実のような色の花が咲いた。けれどもその花は長くはもたない。茎にしっかり付いていないうえに軽すぎて、名前を与えている当の風に散らされてしまう、と詩は結ばれる。英語では1550年代から見え、18世紀には海のイソギンチャク(sea anemone)にも使われるようになった。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- ニーモニック / mnemonic → ムネモシュネ英語 mnemonic(記憶を助ける、1753年)は、ギリシャ語 mnēmonikos「記憶の」から来ている。元の mnēmē(記憶)は、記憶の女神ムネモシュネの名と同じ「覚えている」という語根に属する。女神の名から作られた語というより、同じ根から出た親戚にあたる。近現代オンライン語源辞典
- オリオン座 / Orion → オリオン星座名はギリシャ語 Ōriōn(ヘシオドスでは Ōariōn)から。語源は分かっておらず、アッカド語の Uru-anna(天の光)と結びつける推測がある程度。英語では14世紀後半から。『イリアス』では、アキレウスの盾にもすでに「オリオンの力」が刻まれている。オウィディウスは「尿」にちなむ元の名ウリオンが変わったものだと言葉遊びで語るが、これは詩の上の由来譚。近現代オンライン語源辞典ホメロスイリアスローマ期祭暦
- ジェミニ計画 / Project Gemini → カストルアポロ計画の前に、アメリカが二人乗りの宇宙船で行ったのがジェミニ計画である。NASAの公式の歴史によると、計画は最初「マーキュリー・マークII」などと呼ばれていたが、NASA本部の命名委員会が「ジェミニ」を選んだ。黄道十二星座の一つ、ふたご座のラテン語名で、意味は「双子」。名付け親は職員のアレックス・ネイギーで、賞品にスコッチを1本もらった。ネイギーは、二人乗りであること、宇宙船どうしのランデブーを目指すこと、先行のマーキュリー計画とのつながりに、この名がうまく合うと考えたという。ふたご座の双子は、ゼウスの息子たちと呼ばれたカストルとポリュデウケス(ラテン語でポルックス)で、星座の二つの明るい星にもその名が付いている。近現代オン・ザ・ショルダーズ・オブ・タイタンズ ジェミニ計画の歴史(NASA SP-4203)近現代オンライン語源辞典
- 風刺 / satire(サテュロスとは別の言葉) → サテュロス英語の satire(風刺)は、半人半獣の森の精サテュロス(satyr)と綴りも音も似ているが、もとは別の言葉である。語源辞典によれば、ラテン語の satura がもとで、「いろいろな果物を盛った皿」、字義どおりには「満ち足りた皿」を指した。ローマの詩人がさまざまな韻律と話題の詩を集めたものをこう呼んだのが、文学の意味の始まりである。ところがラテン語の中で、この言葉は綴りを変えていった。風刺詩はギリシャの「サテュロス劇」と関係があるという誤った思い込みから、サテュロスに引きずられた形になったのだという。別の言葉だったのに、似ているせいで本当に似せられてしまった例である。英語では1500年ごろから見える。近現代オンライン語源辞典
- スティジアン / Stygian → ステュクス英語の形容詞 Stygian は「ステュクス川の」、広く「冥界の」を意味する。1560年代から見られ、ラテン語 Stygius、ギリシャ語 Stygios(Styx の属格 Stygos から)を経ている。近現代オンライン語源辞典
- パンデミック・パノラマの「パン」(牧神パンとは別の言葉) → パンパンデミック(世界的な大流行)、パノラマ、パンアメリカンの「パン」は、ギリシャ語で「すべての」を表す言葉から来た接頭辞で、上半身が人、下半身が山羊の牧神パンとは本来別の言葉である。語源辞典によれば、パンの名はインドの古い神と同じ根をもつという説もあるが、疑う人もいて定まっていない。ところが古代の人々自身が、この二つを結びつけていた。『ホメロス風讃歌』の「パン讃歌」では、生まれたばかりの山羊の足の赤ん坊を父ヘルメスが神々に見せると、みな心から喜んだので、神々はこの子を「パン」と名付けた、と語られる。「すべて」の神々を喜ばせたから、という言葉遊びである。後の時代にも、この似た音のせいで、パンは自然のすべてを体現する神と見なされるようになったという。一方「パニック」は本当にパンの名から来ている。近現代オンライン語源辞典古拙期ホメロス風讃歌
- daedal / Daedalian → ダイダロス英語の形容詞 daedal(1580年代〜)は「巧妙な、精巧に作られた」。ラテン語 daedalus、ギリシャ語 daidalos(巧みに作られた)から来ており、名工ダイダロスの名そのものが「巧みな細工師」を意味する。形容詞 Daedalian もこの名から出ている。近現代オンライン語源辞典
- テティス(土星の衛星)/ Tethys → テテュス土星の衛星テティス(テテュス)は、1684年に天文学者カッシーニが見つけた。名は、海の神オケアノスの妻で、世界の川の母とされるティタンの女神テテュスから。アキレウスの母テティスとは別の女神である。表面の地形には、主に『オデュッセイア』の人物や場所の名が付けられている。さらにこの衛星には、同じ軌道を前後に60度ずつ離れて回る小さな衛星が2つあり、後ろを追うほうには、オデュッセウスを島に引き留めた女神カリュプソの名が付いている。近現代NASA公式サイトホメロスオデュッセイア
- ペネロペの織物 / Penelope's web → ペネロペイア「一方の手で作ったものを、もう一方の手で壊してしまう無駄骨」の比喩。語源辞典が引く英語の神話の手引き書『パンテオン』(トゥーク)は、「ペネロペの織物を織る」をこの意味のことわざとして挙げる。夫の帰りを待つ間、舅の経帷子を織り終えたら求婚者の一人を選ぶと言いながら、昼に織った分を夜ほどいて三年間引き延ばした話から。英語では1580年から、Penelope が貞節な妻の代名詞として使われる。近現代オンライン語源辞典ホメロスオデュッセイア
- 破瓜病 / hebephrenia → ヘベ英語 hebephrenia(破瓜病、破瓜型統合失調症)は、1871年にドイツの精神科医が近代ラテン語で作った語で、英語では1886年から見られる。ギリシャ語 hēbē「青春、若さ」と phrēn「心」に、病名を作る -ia を付けたもの。hēbē は青春の女神ヘベの名と同じ語で、etymonline は「力、若さ」を表す印欧祖語の語根に結びつける。phrēn はもとは「横隔膜」も指し、胸が心の座と考えられていたことを示す。近現代オンライン語源辞典
- 海王星の衛星トリトン / Triton → トリトン海王星の衛星トリトンは、1846年10月10日、海王星そのものの発見からわずか17日後に、イギリスの天文学者ウィリアム・ラッセルが発見した。NASA は、ポセイドン(ローマのネプトゥヌスにあたる神)の息子にちなむ名だと説明している。海の神ネプトゥヌスの名を持つ惑星のまわりを、その息子の名の衛星が回っている。近現代NASA公式サイト
- 月をつくった天体テイア / Theia → テイア月の成り立ちにはいくつかの説があるが、NASAによれば、そのほとんどに共通するのは、太陽系ができたころ、火星ほどの大きさの天体(あるいはいくつもの天体)が若い地球にぶつかり、飛び散った物質から月ができたという考えである。NASA は、この衝突した天体が、月の女神セレネの母であるティタンの女神にちなんで「テイア」と名づけられていると説明している。近現代NASA公式サイト
- 準惑星エリス / Eris → エリス2005年に確認された準惑星。2006年9月に国際天文学連合が「不和と争いの女神エリス」にちなんで命名した。この天体の発見が惑星の定義の見直しを促し、冥王星の準惑星への変更につながった、という経緯自体が名前と響き合っている。衛星ディスノミア(無法)はエリスの娘の名。近現代NASA公式サイト
- アリアン(ロケット)/ Ariane → アリアドネヨーロッパのロケット「アリアン」の名は、迷宮から抜け出す糸をテセウスに渡した王女アリアドネのフランス語形である。欧州宇宙機関(ESA)の歴史記事によると、名前が決まるまでにはひと騒動あった。1973年、長ったらしい仮の名前に代わる名を各国の代表が出し合ったところ、いちばん票を集めたのは星の名「ベガ」だった。ところが正式に決める段になって、フランスが「ベガはフランスのビールの名前だ」と反対し、代わりに「ペネロペ」「フェニックス」「アリアン」の3つを示した。フェニックス(不死鳥)には、「前の計画(ELDO)の灰がまだ熱い」とドイツが反対し、ペネロペもふさわしくないとされて、アリアンに決まった。それから30年ほどたって、ESAの小型ロケットには結局「ベガ」の名が付いた。近現代Naming Ariane(ESAの歴史)
- イアペトゥス(土星の衛星)/ Iapetus → イアペトス土星の衛星イアペトゥスは、進む向きの側が石炭のように黒く、反対側は明るいという、二色に塗り分けられたような星である。1671年に天文学者カッシーニが見つけ、最初はルイ14世にちなむ「ルイの星」の一つとされていた。のちに土星の衛星をクロノスの兄弟姉妹の名で呼ぶことになり、ティタンの神イアペトスの名が付いた。アトラスとプロメテウスの父にあたる神で、土星にはこの二人の名を持つ小さな衛星もある。近現代NASA公式サイト
- ハーピー / harpy、オウギワシ(Harpy Eagle) → ハルピュイア英語 harpy は14世紀後半から神話の翼ある怪物の意味で使われ、1400年頃には「ひどく強欲な人」の意味にも広がった。古フランス語、ラテン語を経てギリシャ語 Harpyia(複数形)にさかのぼり、文字どおりには「ひったくる者たち」で、「ひったくる」を意味する harpazein と関係するとみられる。中南米の森にすむ大型の猛禽オウギワシは、英名が Harpy Eagle、学名が Harpia harpyja(属名 Harpia はヴィエイヨ1816年、種はリンネ1758年)で、ドイツ語名は Harpyie。名前にこの怪物の名が入っている。近現代オンライン語源辞典近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)
- ヒペリオン(土星の衛星)/ Hyperion → ヒュペリオン土星の衛星ヒペリオンは、スポンジや蜂の巣のような穴だらけの姿で知られる。軌道がゆがんでいるうえに、内側を回る大きな衛星タイタンの引力に揺さぶられて、予測できない向きに転がるように自転している。1848年に見つかり、名は太陽ヘリオス・月セレネ・曙エオスの父にあたるティタンの神ヒュペリオンから。土星の衛星をクロノスの兄弟姉妹の名で呼ぶという提案に沿っている。近現代NASA公式サイト
- 土星の衛星フェーベ / Phoebe → ポイベ土星の衛星フェーベ(ポイベ)は、1898年8月にアメリカの天文学者ウィリアム・ピッカリングが発見した。NASA は、土星の衛星はもともとギリシャ・ローマ神話のティタンとその子孫にちなんで名づけられたと説明しているが、フェーベそのものについては、ティタンの女神ポイベではなく「ギリシャ人がアルテミス、ローマ人がディアナと呼んだ女神の別名」と説明している。ヘシオドス『神統記』では、ティタンのポイベはレトの母で、アルテミスから見ると祖母にあたる。近現代NASA公式サイト古拙期神統記
- 要確認クリオ賞 / Clio Awards → クレイオクリオ賞は、世界の広告の創造性を称えるために1959年に創設された賞(公式サイト)。名は、歴史のムーサ、クレイオのラテン語・英語形 Clio と同じで、主催者は自分たちの読み物サイトにも「Muse by Clios」と名づけている。ただし公式の紹介ページには、賞の名の由来そのものの説明は無い。近現代クリオ賞 公式サイト
- エピメテウス(土星の衛星)/ Epimetheus → エピメテウス土星の衛星エピメテウスは、1966年に観測されたとき、同じ軌道にもう一つの衛星ヤヌスがいることに誰も気づかず、1つの星だと思われていた。2つの天体がほとんど同じ軌道を分け合っていると分かったのは1978年で、1980年に探査機ボイジャー1号が確かめた。名は、兄弟プロメテウスの忠告を聞かずに、神々から贈られたパンドラを受け入れたエピメテウスから。土星にはプロメテウスとパンドラの名を持つ衛星もあり、神話の三人が同じ星のまわりにそろっている。近現代NASA公式サイト古拙期仕事と日
- ネレイド / nereid → ネレイス英語 nereid はラテン語を経て、ギリシャ語 Nēreis(属格 Nēreidos)「海の老神ネレウスの娘」から来ている。英語では14世紀後半から「海のニンフ」の意味で使われ、動物学では1840年からゴカイの仲間を指す。海王星の衛星ネレイドは1949年5月1日にジェラルド・カイパーが地上の望遠鏡で発見し、発見を報告したときに本人がこの名を提案した。近現代オンライン語源辞典近現代NASA公式サイト
- 激怒 / fury → エリニュス英語 fury はラテン語 furia「激しい情念、怒り、狂気」から来ている。英語ではまず14世紀後半に神話の「フリアエの一人、復讐の霊」の意味で見え、「激しい怒り」の意味は15世紀初めから。ローマ人はギリシャ語のエリニュスを Furiae と訳しており、英語の the Furies(復讐の女神たち)もここから来ている。近現代オンライン語源辞典
- 要確認アヤックス / Ajax → 大アイアスAjax はギリシャ語 Aias のラテン語形。オランダのサッカークラブ AFCアヤックス(1900年創設)の公式サイトは、クラブ紋章に描かれているのが「力・決意・戦士の精神を象徴するギリシャの英雄」であることを明記するが、クラブ名そのものの由来には触れていない。家庭用洗剤 Ajax(コルゲート・パーモリーブ、1947年発売)も公式の沿革に発売年を記すだけで、命名の理由の説明は見当たらない。Web技術の Ajax は Asynchronous JavaScript and XML の頭字語で、英雄とは無関係の同綴り。近現代オンライン語源辞典近現代AFCアヤックス公式サイト近現代コルゲート・パーモリーブ公式サイト「Our History」
- イリジウム / iridium → イリス元素イリジウム(1804年命名)。発見者のテナントが、塩酸に溶かすときにさまざまな色を見せることから、ギリシャ語 iris(虹)にちなんで名づけた。虹を神にしたのが、神々の使者イリスである。近現代オンライン語源辞典
- ハリモグラ / echidna → エキドナ卵を産むオーストラリアの哺乳類ハリモグラを英語で echidna と呼ぶのは1810年からで、キュヴィエが名づけたと言われる。ギリシャ語 ekhidna「蛇、蝮」から来ている。etymonline は、哺乳類か両生類かと初期の博物学者を迷わせた混じり合った特徴から、上半身が女で下半身が蛇という神話の怪物エキドナにちなんだ見方をより有力とする一方、ラテン語 echinus・ギリシャ語 ekhinos(ウニ、ハリネズミ)と結びつける説にも触れ、蛇を意味する語がこの動物に使われた理由ははっきりしないとしている。近現代オンライン語源辞典
- エーテル / ether → アイテル英語 ether は古フランス語・ラテン語を経て、ギリシャ語 aithēr「上層の空気、澄んだ明るい空気、空」から来ている。元は「燃える、輝く」を意味する aithein に結びつく語。英語では14世紀後半から「天の上層」の意味で使われた。化学物質の名としては1730年頃に名づけられ(英語での使用は1757年までに見られる)、麻酔作用がはっきり確かめられたのは1842年。形容詞 ethereal(天上の、この世ならぬ)も同じ語から。近現代オンライン語源辞典
- 安楽死 / euthanasia → タナトス英語 euthanasia(1640年代)はギリシャ語 euthanasia「安らかな死」から来ていて、eu-「良い」と thanatos「死」を組み合わせた語。もとは「穏やかで楽な死」の意味で、法的に認められた安楽死の意味での用例は1869年から。近現代オンライン語源辞典
- イオニア海 / Ionian Sea → イオギリシャの西に広がるイオニア海の名も、雌牛に変えられた娘イオと結びつけて語られてきた。アイスキュロスの悲劇『縛られたプロメテウス』では、プロメテウスがイオに、あなたがアブに刺されて海辺の道を駆け抜けたので、その入り江はあなたの渡った記念として、いつまでもイオニアの名で呼ばれるだろうと告げる。一方で、古代ギリシャ人の一派イオニア人とその土地イオニアの名は、ギリシャ語より古い言葉から来た可能性があると語源辞典は言う。海の名を本当にイオから取ったかどうかではなく、そう語られてきた、という話である。古典期縛られたプロメテウス近現代オンライン語源辞典
- ボスポラス海峡 / Bosporus → イオ黒海とマルマラ海を結ぶボスポラス海峡の名は、ギリシャ語で「牛の渡し」という意味になる。この名は昔、いくつかの海峡に使われた呼び名で、とくにこの海峡を指した。牛と海峡を結びつけたのが、ゼウスに愛されたために雌牛に変えられ、各地をさまよった娘イオの話である。アイスキュロスの悲劇『縛られたプロメテウス』では、プロメテウスがイオに、あなたが渡った海峡は後の世までボスポロスと呼ばれるだろうと予言する。ただし劇の中の海峡は、黒海とアゾフ海を結ぶ別の海峡(キンメリアのボスポロス)で、いまのボスポラス海峡ではない。近現代オンライン語源辞典古典期縛られたプロメテウス
- レダ(木星の衛星)/ Leda → レダ木星の衛星レダは、1974年に見つかった半径10キロほどの小さな衛星である。見つけた天文学者は、そもそも衛星に名前を付けることに反対で、昔ながらの番号で呼ぶほうを支持していた。それでも名前を付けるならと出したのが「レダ」だった。白鳥の姿のゼウスと結ばれ、ヘレネたちの母になった女性である。木星の衛星には、ゼウスの恋人や子孫の名を付ける決まりがある。近現代NASA公式サイト
- 慈善 / charity(カリスとは無関係) → カリス綴りが似ている charity(慈善)は、カリス(kharis)とは別の語から来ている。古フランス語 charité を経て、ラテン語 caritas「高価なこと、敬愛」、さらに carus「大切な」にさかのぼる。charisma とは見た目が似ていても語源は別。近現代オンライン語源辞典
- カリオペ(蒸気オルガン) / calliope → カリオペ英語 calliope は1858年から、蒸気で鳴らすオルガン(蒸気オルガン)の名として使われている。ムーサの名 Kalliopē は kalli-(kallos「美」の結合形)と ops「声」からなり、文字どおりには「美しい声」。etymonline は、雄弁と叙事詩をつかさどるムーサの名を耳ざわりな機械の楽器に付けたことを「ちぐはぐ」だと評している。近現代オンライン語源辞典
- カリプソ(土星の衛星)/ Calypso → カリュプソ土星の衛星カリプソは、1980年に地上の望遠鏡で見つかった半径10キロほどの小さな衛星である。大きな衛星テティスと同じ軌道を、60度遅れて追いかけるように回っている。名は、オデュッセウスを島に7年引き留めた女神カリュプソから。『オデュッセイア』では、父は天を支えるアトラスで、土星にはアトラスの名を持つ衛星もある。前を行く衛星テティスの地形には『オデュッセイア』の人物や場所の名が付いていて、カリュプソは自分の物語の後ろを回っていることになる。近現代NASA公式サイトホメロスオデュッセイア
- メティス(木星の衛星)/ Metis → メティス木星の衛星メティスは、1979年に探査機ボイジャーの画像から見つかった、木星のいちばん内側を回る衛星の一つである。名は知恵の女神メティスから。ゼウスの最初の妻で、父より強い子を産むと予言されたため、身ごもったままゼウスに呑み込まれた。その子が、のちにゼウスの頭から生まれるアテナである。木星の衛星にはゼウスの恋人や子孫の名を付けるという決まりがあり、最初の妻の名もその中にある。近現代NASA公式サイト古拙期神統記
- はかない / ephemeral → ヘメラ英語 ephemeral は名詞 ephemera に -al を付けた語で、ギリシャ語 ephēmeros「毎日の、その日だけの」から来ている。epi「〜の上に」と hēmera「日」を組み合わせた語で、hēmera は、ヘシオドス『神統記』で夜から生まれる昼の女神ヘメラの名と同じ。英語では1560年代に、もとは病気や寿命について「一日しか続かない」の意味で使われ、1630年代から「つかの間の」という広い意味になった。近現代オンライン語源辞典古拙期神統記
- 舞踊の / terpsichorean → テルプシコレ英語の形容詞 terpsichorean は1869年から「舞踊の、踊りに関する」という意味で使われ、文字どおりには「テルプシコレの」。ムーサの名 Terpsikhorē は terpein「喜ばせる」と khoros「踊り、合唱」からなる。名詞として「(女性の)踊り子」の意味では1889年から見られる。近現代オンライン語源辞典
- tantalize(じらす) → タンタロス「目の前にちらつかせて焦らす」意の英語動詞。1590年代にラテン語 Tantalus + -ize で作られた。タンタロスは顎まで水に浸かりながら飲もうとすると水が引き、頭上の果実も手を伸ばすと逃げる罰を受けた、という伝承による。近現代オンライン語源辞典
- タンタル / tantalum → タンタロス元素タンタル。1802年にスウェーデンの化学者アンデシュ・エーケベリが命名。酸に浸しても酸を吸収しない(酸の中にいながら何も得られない)性質が、水に浸かりながら飲めないタンタロスの罰を思わせることによる。近現代オンライン語源辞典
- 時間 / hour → ホーラ英語 hour はラテン語 hora と古フランス語 ore / hore を経て、ギリシャ語 hōra から来ている。hōra は一年・一月・一日の中の限られた時を広く指す語で、詩では「季節」を意味することもあった。季節の女神ホーライの名はこの語の複数形。英語には1200年頃、教会の「定時課(一日七回の祈りの時)」の意味で入った。近現代オンライン語源辞典近現代改訂新版 世界大百科事典
- ディドの問題(等周問題)/ Dido's problem → ディド数学で、決まった長さの線と直線(海岸線)で囲める最大の面積の図形を求める問題を「ディドの問題」と呼ぶ。答えは半円。カルタゴを築いたディドが「牛の皮一枚で囲えるだけの土地」を買ったという『アエネイス』の逸話(1.365-368)から名づけられた。皮を細い紐に切って囲ったという部分はユスティヌス(18.5)で語られる。近現代マスワールドローマ期アエネイスローマ期ポンペイウス・トログス『フィリッポス史』抄録
- プリアピズム(持続勃起症) / priapism → プリアポス性的な興奮とは関係なく、長い時間勃起が続いてしまう病気を、医学の言葉で持続勃起症、英語で priapism という。多くは痛みを伴い、白血病や腫瘍などほかの病気の一症状として現れることも多い。この名は、庭や畑を守る豊穣の神プリアポスから来ている。プリアポスは大きな男根を持つ姿で表される神で、語源辞典によれば、ギリシャ語にはその名から作った「みだらにふるまう」という動詞まであり、そこから病名が生まれた。英語では1620年代から使われている。近現代オンライン語源辞典近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
- nestor(長老・賢明な助言者) → ネストル「集団の中で最も年長で経験豊かな人、経験に基づいて助言する人」を指す英語の普通名詞(1580年代から)。『イリアス』で三世代を生きた年老いた賢者、ピュロスの王ネストルの名から。メントル(mentor)と並ぶ、ホメロスの登場人物が普通名詞になった例。近現代オンライン語源辞典ホメロスイリアス
- エレクトリック・エレクトロン(electric、電気)と琥珀 → パエトン英語の electric(電気の)は、ギリシャ語の ēlektron「琥珀」から来ている。1600年、ウィリアム・ギルバートが、こすると物を引きつける琥珀のような力を、ラテン語で「琥珀のような」という意味の electricus と呼んだのが始まりで、英語では1640年代から electric、electricity が使われた。電気は、はじめ琥珀をこすって起こしたからである。その琥珀の起こりを、ローマの詩人オウィディウスは神話で語っている。太陽神の馬車を暴走させて命を落とした少年パエトンの姉妹は、弟の墓の前で何か月も嘆き続けるうちに木に変わった。木になっても流れ続けた涙は、枝から滴って日の光に固まり、琥珀になった。琥珀は川の流れに乗って遠くへ運ばれ、ラテンの女たちを飾ったという。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- ヒヤシンス / hyacinth → ヒュアキントス花の名。ギリシャ語 hyakinthos から。古代には青い宝石(サファイアか)と、紫か濃い赤の花の両方を指したが、どの花かは分かっていない。英語では宝石の意味(jacinth)が1200年頃、植物の意味が1550年代で、今の Hyacinthus 属に使われるのは1570年代から。ギリシャ語以前の地中海の言葉から来た語と考えられている。近現代オンライン語源辞典
- フォビア / 恐怖症 / phobia → ポボスとデイモス英語 phobia(単独の語としては1786年から)は、ギリシャ語 phobos から来ている。phobos は「恐れ、恐慌、恐怖の対象」を意味するが、もとの意味は「逃げ出すこと」で、ホメロスではこの意味でしか使われない。これを神格化したのが、軍神アレスの息子ポボス。日本語では「〜フォビア」がほかの語の後ろについて恐怖感や嫌悪感を表し、「コンピューターフォビア(コンピューター恐怖症)」のように使われる。火星の衛星フォボスも同じ神の名から。近現代オンライン語源辞典近現代デジタル大辞泉近現代NASA公式サイト古拙期神統記
- フォボスとダイモス(火星の衛星)/ Phobos, Deimos → ポボスとデイモス火星には、フォボスとダイモスという小さな衛星が二つある。NASAによれば、どちらも1877年8月にアメリカの天文学者アサフ・ホールが見つけ、火星の名のもとになったローマの軍神マルスにあたるギリシャの神アレスの、神話の息子たちの名を付けた。フォボスは「恐れ」、ダイモスは「おののき」の意味である。『イリアス』では、息子を殺されて怒ったアレスが、この二人に命じて自分の戦車に馬をつながせる。軍神の供をする二人が、そのまま火星のまわりを回っているわけだ。フォボスでいちばん目立つ大きなクレーターには、ホールの妻で数学者のクロエ・アンジェリーン・スティックニー・ホールの名が付いている。JAXAの火星衛星探査計画MMXは、このフォボスに降りて表面の試料を採り、地球へ持ち帰ることを目指している。近現代NASA公式サイトホメロスイリアス近現代火星衛星探査計画(MMX)(JAXA宇宙科学研究所)
- プロテイン / protein(プロテウスとは別の言葉) → プロテウスプロテイン(protein)は、姿を自在に変える海の神プロテウスと音がよく似ているが、プロテウスから付けた名前ではない。1838年にオランダの化学者ムルダーが作った言葉で、ギリシャ語の「第一の位の」がもとになっている。はじめは、食べ物に含まれていて生きるのに欠かせないと考えられた物質の名前だった。ところが語源辞典によれば、プロテウスの名前そのものも、字義どおりには「第一の」を意味する。二つは親子ではないが、同じ「第一」という言葉から別々に生まれた、いとこのような関係にある。近現代オンライン語源辞典
- ヘルマフロダイト(両性具有・雌雄同体) / hermaphrodite → ヘルマプロディトス英語では14世紀後半から(最初の綴りは harmofroditus)。ラテン語 hermaphroditus、ギリシャ語 hermaphroditos から来ており、ヘルメスとアプロディテの子ヘルマプロディトスの名がそのまま「両性の性質を分け持つ者」の意味になった。オウィディウスでは、ニンフのサルマキスの祈りで彼女と一つの体に溶け合う。形容詞としての用法は1600年頃から。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- 小惑星プシケと探査機サイキ / Psyche → プシュケ太陽から地球の約3倍の距離を回る小惑星プシケ(英語読みでサイキ)は、金属を多く含むとみられる小惑星で、NASAによれば、太陽系ができたころの小さな天体の中心核の名残かもしれない。2023年10月にNASAの探査機サイキが打ち上げられ、2029年8月にこの小惑星での本格的な観測を始める予定である。名前は、1852年3月17日にこの小惑星を見つけたイタリアの天文学者アンニーバレ・デ・ガスパリスが付けた。NASAは、魂の女神で、人間として生まれ、愛の神エロス(ローマのクピド)と結ばれたプシュケにちなむと説明している。16番目に見つかった小惑星なので「16プシケ」とも呼ばれる。金属を多く含むかもしれない星に、「魂」を意味する名が付いているわけである。近現代NASA公式サイト
- 変幻自在な / protean → プロテウス英語の形容詞 protean は1590年代から見られ、「海の神プロテウスの」という意味から、「さまざまな姿をたやすくとる、きわめて変わりやすい」という意味になった。プロテウス自身の名は、英語には1400年頃 Protheus の形で入っている。1989年にボイジャー2号が見つけた海王星の衛星プロテウスも、NASA によれば「姿を変える海の神」にちなむ。近現代オンライン語源辞典近現代NASA公式サイト
- エンケラドゥス(土星の衛星)/ Enceladus → ギガース土星の衛星エンケラドゥスでは、2005年に探査機カッシーニが、表面から氷の粒とガスが噴き出しているのを見つけた。噴き出した粒は土星の環の一つをつくっている。NASAはこの衛星の名を、ギリシャ神話の巨人から取ったと説明する。神々と巨人族の戦いで、逃げるこの巨人に、女神アテナがシチリア島を丸ごと投げつけたと伝えられる。島の下敷きになった巨人の名が、氷を噴き上げる衛星に付いている。近現代NASA公式サイトローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- プレアデス / Pleiades → プレイアデス星団名。ラテン語経由でギリシャ語 Pleiades(単数 Pleias)から。由来は二説あり、「鳩」peleias の複数 peleiades の短い形とする説と、明け方の出が航海の季節の始まりを告げることから「航海する」plein に結びつける説がある。神話ではアトラスとプレイオネの7人の娘の名。英語での初出は14世紀後半(Pliades)。近現代オンライン語源辞典
- ミマス(土星の衛星)/ Mimas → ギガース土星の衛星ミマスは、直径の3分の1に及ぶ巨大なクレーターがあるため、映画「スター・ウォーズ」の宇宙要塞デス・スターに似ていると言われる。1789年にウィリアム・ハーシェルが見つけ、名前は息子のジョン・ハーシェルが付けた。名のもとはギリシャ神話の巨人ミマス。アポロドロスの『ビブリオテーケー』では、神々と巨人族の戦いで、鍛冶の神ヘパイストスに真っ赤に焼けた金属の塊を投げつけられて倒れた巨人である。NASAの説明では、倒したのはローマの軍神マルスとされている。近現代NASA公式サイトローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- 巨人 / giant → ギガース英語 giant は1300年頃から見られる。ギリシャ語 Gigas(複数 Gigantes)がラテン語 gigas、俗ラテン語、古フランス語 geant / jaiant を経て英語に入った。ギリシャ語では、ガイアとウラノスの子で最後は神々に滅ぼされた荒々しく巨大な一族を指した。Gigas を gēgenēs「大地から生まれた」から説明する説は、etymonline によれば支持できないとされる。形容詞 gigantic は1610年代から。近現代オンライン語源辞典
- 5月 / May → マイア英語の May(5月)は、古フランス語を経て、ラテン語の「マイウスの月」から来ている。語源辞典は、そのもとをローマの大地の女神マイア(ウルカヌスの妻とされる)の名ではないか、と「かもしれない」の形で説明している。ローマの詩人オウィディウスは『祭暦』で、5月の名の由来を詩の女神たちに語らせた。答えは三つに割れ、「威厳」から、「年長者」から、そしてアトラスの娘でヘルメスの母マイアから、という説が並ぶ。最後の説では、ヘルメス(ローマのメルクリウス)が母の名を月に贈ったという。オウィディウス自身はどれが正しいか決めていない。近現代オンライン語源辞典ローマ期祭暦
- カリスト(木星の衛星)/ arctic(北極の) → カリスト木星の4大衛星の一つカリストは、1610年にガリレオが発見した(NASA)。名前は熊に変えられたカリストから取られ、17世紀に付けられたが、広く使われたのは19世紀半ばから(etymonline)。ヒュギヌス『天文譜』によれば、このカリストが星になったのが大熊座である。大熊座とのつながりは、北極を指す英語 arctic にも残る。ギリシャ語 arktos は「熊」で、同時に大熊座と北の方角も意味し、「熊座の」を表す arktikos が arctic の元になった(14世紀後半から)。近現代NASA公式サイト近現代オンライン語源辞典ローマ期天文譜
- フォーチュン(fortune、運・幸運) → テュケ英語の fortune(運、幸運、財産)は、ラテン語の fortuna「偶然、運命、幸運」から来ている。英語では1300年ごろから、人の世を動かす偶然の力の意味で使われ、財産の意味はのちにスペンサーの作品から現れた。語源辞典によれば、運はしばしば女神の姿で描かれ、人の世の移り変わりやすさを表す輪を持っていた。この女神がローマのフォルトゥナで、ギリシャの運と偶然の女神テュケにあたる。近現代オンライン語源辞典近現代改訂新版 世界大百科事典
- ディオネ(土星の衛星)/ Dione → ディオネ土星の衛星ディオネは、1684年に天文学者カッシーニが見つけた。名は、『イリアス』でアプロディテの母とされる女神ディオネから。土星の衛星をクロノスの兄弟姉妹の名で呼ぶという提案に沿った命名である。表面の地形には、主にウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』に出てくる人物や場所の名が付けられている。トロイアを逃れたアプロディテの息子の物語なので、母の名の星に、孫にあたる英雄の旅が刻まれていることになる。近現代NASA公式サイトホメロスイリアスローマ期アエネイス
- アマルテア(木星の衛星)/ Amalthea → アマルテイア木星の衛星アマルテアは、1892年9月9日に見つかった。ガリレオが見つけた4つの大きな衛星より内側を回る、いびつな形の小さな衛星で、NASAによれば太陽系でいちばん赤い天体であり、太陽から受け取るより多くの熱を出しているらしい。名前はフランスの天文学者フラマリオンの提案で、生まれたばかりのゼウスを育てた乳母アマルテイアから取られた。神話では、赤ん坊のゼウスに乳を与えた山羊とも、その山羊を飼うニンフとも語られる。木星(ジュピター)はゼウスにあたるので、そのすぐ近くを養い親の名を持つ星が回っていることになる。近現代NASA公式サイトローマ期祭暦ローマ期天文譜
- コルヌコピア / cornucopia(豊穣の角) → アマルテイア果物や花があふれ出る角の飾り、コルヌコピア(豊穣の角)。ラテン語の「豊かさの角」がもとで、実りと豊かさのしるしとして古くから使われ、英語には1590年代に入った。語源辞典によれば、もとは赤ん坊のゼウスを育てたアマルテイアの山羊の角のことだった。オウィディウスの『祭暦』では、アマルテイアはゼウスを隠して育てたニンフで、その飼っていた山羊が乳を与えた。山羊が木にぶつけて角を折ると、ニンフは角に果物を詰めてゼウスの口もとへ運んだ。のちに王となったゼウスは、乳母とその「実りの角」を星にしたという。近現代オンライン語源辞典ローマ期祭暦
- チタン / titanium → ティタノマキア元素チタン(titanium)は、1795年にドイツの化学者クラプロートが、ラテン語 Titan(ティタン)から名づけた。ティタンを「大地の息子たち」とみなす発想による命名で、クラプロートはその前にウラン(uranium)も命名している。純粋な金属として取り出されたのは1887年。近現代オンライン語源辞典
- ニオブ / niobium → ニオベ元素ニオブ(記号 Nb)は、テーバイの王妃ニオベの名から来ている。子の多さを自慢したために子どもたちをアポロンとアルテミスに殺され、嘆きながら石に変わった女性である。1844年にドイツの学者ハインリヒ・ローゼが、元素タンタルの採れる鉱石の中から見つけ、翌1845年に名付けた。選んだ理由は、ニオベがタンタロスの娘だったから。先に見つかっていたタンタル(タンタロスにちなむ名)と同じ鉱石から出てくる元素なので、神話の父と娘の関係を元素の名前に写したことになる。近現代オンライン語源辞典
- アナンケ(木星の衛星)/ Ananke → アナンケ木星の衛星アナンケは、1951年にアメリカのウィルソン山天文台で写真から見つかった、半径14kmほどの小さな衛星である。NASAによれば、もとは小惑星で、木星の引力につかまったあと何かとぶつかって砕け、そのかけらが、同じような軌道を回るほかの15個の衛星になったと考えられている。この群れはどれも、木星の自転とは逆向きに回っている。名前には決まりがあって、木星の衛星はゼウスの恋の相手や子孫の名で呼ばれ、外側を回る衛星のうち、順向きのものはおおむね名前が a で、逆向きのものは e で終わるようにしている。Ananke の最後が e なのはそのためだ。アナンケは、古代ギリシャの文学で「必然」を女神の姿にしたものである。近現代NASA公式サイト
- ゼファー / zephyr(そよ風) → ゼピュロス英語の zephyr(ゼファー)は「そよ風」のこと。もとは古代ギリシャの西風の神ゼピュロスの名で、語源辞典は、古典の世界で西風を人の姿にした神であり、森の神々の中でもいちばん穏やかでやさしい存在だと説明している。16世紀に英語の形になり、1610年代には、どんな柔らかな風にも使われるようになった。名前はギリシャ語で「西」「日の沈む暗い方角」を指す言葉と関係があるかもしれないという。近現代オンライン語源辞典
- プルトクラシー(金権政治) / plutocracy → プルトスお金を持つ者が政治を動かすことを、英語で plutocracy、日本語で金権政治という。平凡社の世界大百科事典によれば、もとは古代ギリシャで「富める者による支配」を指し、賢い者の支配や戦士の支配、貧しい大衆の支配と並べて論じられた政治の形の一つだった。語源辞典によれば、ギリシャ語の「富」ploutos に「支配」を表す -kratia を付けた言葉で、英語では1650年代から使われている。この ploutos は、富の神プルトスの名そのものである。つまり金権政治は、神の名から作られたというより、神と同じ「富」という言葉から作られた言葉である。冥界の王ハデスの別名プルトン(ローマではプルート)も、地下から金属や宝石という富が出ることから、同じ ploutos から来ている。近現代オンライン語源辞典近現代改訂新版 世界大百科事典
- カタクリズム / cataclysm → デウカリオンの洪水英語 cataclysm(大変動、大災害)は、ギリシャ語 kataklysmos(洪水、氾濫。kata「下へ」+ klyzein「洗う」)から来た語で、1630年代に英語に入ったときは「大洪水」、とくにノアの洪水を指した。ヒュギヌス(153)はデウカリオンとピュラの話を「我々が diluvium(洪水)と呼ぶ cataclysmus が起きたとき」と書き起こしており、ラテン語の神話便覧でもこのギリシャ語がデウカリオンの洪水に使われている。近現代オンライン語源辞典ローマ期神話集(ファブラエ)
- ラテン / Latin(ラテン語、ラテンアメリカ) → ラティウム英語 Latin は古英語の時代から使われ、ラテン語 Latinus「ラテンの、ローマの、ラテン語で」から来ている。文字どおりには「ラティウムに属する」という意味。ラティウムという地名の由来ははっきりせず、「広げる」を意味する印欧祖語の語根から「平らな土地」を指したとする説がある。ウェルギリウスはサトゥルヌスがこの地に「隠れた(latere)」からだと歌っており(『アエネイス』8.322-323)、語源辞典もこれを古い説として挙げる。「ラテンアメリカ」という言い方は、アメリカで1858年から使われている。近現代オンライン語源辞典ローマ期アエネイス
- ヘレネス / Hellenic・Hellenistic(ヘレニズム) → ヘレンギリシャ人の自称ヘレネス(Hellēnes)は、デウカリオンの子ヘレンが自分の名にちなんで人々をそう呼ぶようにした、というのが神話上の説明(アポロドーロス 1.7.3)。トゥキュディデス 1.3 も、ヘレンの子孫の勢力が広がるにつれて名が広まったと説く。英語の Hellene は1660年代、形容詞 Hellenic は1640年代から。Hellenistic は1706年の初出で、1870年代からアレクサンドロス以後の数世紀のギリシャ文化(ヘレニズム時代)を指すようになった。etymonline は Hellēn という名そのものの語源は不明としている。近現代オンライン語源辞典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)古典期戦史(ペロポネソス戦争史)
- アガベ(Agave、リュウゼツラン属) → アガウエ植物の属名 Agave は、ギリシャ語 agauē「高貴な、名高い」から。英語での使用は1797年から。オンライン語源辞典は、agauē が神話の人名、すなわちペンテウスの母アガウエでもあったことを添えている。属名の命名者は GBIF の学名表記では L.(リンネ)。語源辞典は、植物学者がこの名を属名に採ったのは、堂々とした花茎のためかもしれない、とも書く。近現代オンライン語源辞典近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)
- lotus-eater(ロートパゴス族/怠惰な享楽者) → ロートパゴイ(蓮を食う人々)「現実を忘れて心地よさに浸る人」の意の英語(1812年)。『オデュッセイア』第9歌で、その実を食べると帰郷を忘れてしまうロートス(lotos)を常食する人々 lotophagoi にちなむ。英語 lotophagi はすでに1600年頃に見える。近現代オンライン語源辞典ホメロスオデュッセイア
- フィロメル / philomel(ナイチンゲールの詩語) → ピロメラ英語の詩で「ナイチンゲール」を指す philomel は、1570年代からの語。それ以前は中世ラテン語 Philomena を経た Philomene の形で、チョーサーからスペンサーの頃まで使われた。元はパンディオンの娘ピロメラの名。ギリシャ語の伝え(アポロドーロス 3.14.8)ではピロメラはツバメになるが、ラテン語の伝え(ヒュギヌス 45)ではナイチンゲールになり、英語の詩語はこちらと一致する。名の意味は「おそらく歌を愛する者」とされる。近現代オンライン語源辞典ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)ローマ期神話集(ファブラエ)
- パラジウム(元素 Pd)/ palladium(守り神) → パラディオン英語 palladium は、まずトロイアを守ったパラス・アテナの神像パラディオンの意味で入り、1600年頃から「国や制度を守るもの」の比喩として使われた。元素のパラジウムは、化学者ウォラストンが1803年に名づけたもの。直接には、前年の1802年にドイツの天文学者オルバースが発見し、女神にちなんでパラスと名づけた小惑星から取っている。女神の像 → 小惑星 → 金属という順に名前が渡った。近現代オンライン語源辞典
- シリンジ(注射器)・鳴管 / syringe, syrinx → シュリンクスギリシャ語 syrinx は「牧人の笛、管」で、動詞 syrizein(笛を吹く、口笛を吹く)と同じ語根。その対格 syringa が後期ラテン語に入り、英語 syringe(15世紀初め、液体を吸い込んで押し出す細い管)になった。皮下注射の注射器を指すのは1884年から。鳥の発声器官「鳴管」を syrinx と呼ぶのは1872年から。オウィディウスはこの笛の名を、パンに追われて葦になったニンフ、シュリンクスの名の由来として語る。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- サイプレス(糸杉) / cypress → キュパリッソス英語 cypress は古フランス語 cipres、ラテン語 cupressus を経て、ギリシャ語 kyparissos に行き着く。ギリシャ語自体は、ギリシャ語以前の地中海の言葉から来たと考えられている。英語での初出は12世紀後半。枝が葬儀に使われ、死者を悼むしるしとされた木で、オウィディウスはその由来をアポロンに愛された少年キュパリッソスの変身として語る。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- パレス / palace(宮殿) → エウアンドルス英語 palace は13世紀初めから使われ、ラテン語 palatium「パラティヌスの丘」(複数形で「宮殿」)から来ている。ローマの七丘の一つであるこの丘に、アウグストゥスの住まいがあったため。丘の名の由来について、リウィウスは、エウアンドルスらアルカディア人の町パランテウムから「パランティウム」、さらに「パラティウム」になったと伝える(1.5.1)。語源辞典は別の候補として、杭(palus)、羊飼いの女神パレス、口蓋(palatum)を挙げていて、定まっていない。近現代オンライン語源辞典ローマ期ローマ建国以来の歴史
- シビュラ / sibyl(女予言者) → クマエのシビュラ英語 sibyl は「予言の力を持つとされる女性、女の占い師」の意味で1200年頃から使われる。古フランス語、ラテン語 Sibylla を経て、古代のギリシャ人やローマ人が神託を求めた何人もの予言者の女性を指すギリシャ語 Sibylla にさかのぼる。この語そのものの由来は分かっていない。教父ヒエロニムスは、「神の意志」を意味する語から来たと説明している。形容詞 sibylline(シビュラの、謎めいた)は1570年代から。近現代オンライン語源辞典
- ミルラ(没薬) / myrrh → ミュラアラビアやエチオピアの植物から出る香り高いゴム状の樹脂で、香や香料に使われた。英語 myrrh は古英語 myrre・古フランス語 mirre からで、ラテン語 myrrha、ギリシャ語 myrrha を経て、アッカド語 murru、ヘブライ語 mor、アラビア語 murr など「苦い」を意味するセム語の語根にさかのぼる。古典的な綴りに戻ったのは16世紀。ギリシャ神話では、父への恋の罰で木に変わったミュラ(スミュルナ)の涙がこの樹脂だとされる。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- ヒーロー(hero) → 人間の五つの時代英語の hero は、ギリシャ語の hērōs(半神)から来ている。語源辞典によれば、ギリシャ神話では神と人間のあいだに生まれた者、とくに人間のために働いた者を指した。英語では14世紀後半から「並外れた力や勇気をもつ男」の意味で使われ、1690年代からは劇や物語の主人公も指すようになった。ヘシオドスの『仕事と日』は、人間の種族の移り変わりを語る中で、いまの人間のひとつ前に「半神と呼ばれる、神のような英雄たちの種族」がいたと書く。七つの門のテーバイでの戦いや、ヘレネのためのトロイアの戦いで多くが死に、残りはゼウスによって大地の果て、大洋のほとりの至福の島々に住まわされたという。近現代オンライン語源辞典古拙期仕事と日
- ノスタルジア / nostalgia(郷愁) → ギリシャ勢の帰国(ノストイ)英語 nostalgia は1726年から記録される。もとは1688年にバーゼル大学のヨハネス・ホーファーが、ドイツ語 Heimweh(ホームシック)を言い換えるために作った近代ラテン語の医学用語で、「故郷に帰りたいと病的に願う、病気としての重いホームシック」を指した。ギリシャ語 nostos「帰郷」と algos「痛み、苦しみ」の組み合わせ。トロイアからの帰国を歌う叙事詩『ノストイ(帰国物語)』の nostos と同じ語。「過ぎた時代を懐かしむ気持ち」の意味は1920年までに見られ、フランス語の文学的な用法の影響とみられる。近現代オンライン語源辞典古拙期帰国物語(ノストイ)
- エオリアン・ハープ / aeolian harp → アイオロス風が弦を鳴らす楽器(1791年)。風を革袋に入れてオデュッセウスに渡した風の管理者アイオロス(Aeolus)の名から。形容詞 aeolian は1600年頃で、ギリシャ語 aiolos「すばやく動く、移ろいやすい」に遡る。近現代オンライン語源辞典ホメロスオデュッセイア
- ガス / gas → カオス「気体」を意味する gas は、17世紀のフランドルの化学者ファン・ヘルモントが作った人工語で、ギリシャ語 khaos(空虚)をオランダ語の発音で写したものとされる。ヘルモント自身が「これまで知られていなかったこの蒸気を、新しい名で gas と呼ぶ」と書いている。背景には、パラケルススが khaos を精気の元素のような特殊な意味で使っていたことがあると考えられる。近現代オンライン語源辞典
- lethargy(無気力)/ アレテイア(ἀλήθεια=真理) → レテ英語 lethargy は14世紀後半から(当初の綴りは litarge、-th- の綴りは1590年代から)。ギリシャ語 λήθαργος(忘れっぽい)に由来し、λήθη(忘却)と ἀργός(怠惰な)から成るとされ、「忘れて動かなくなる」状態を指した。同じ λήθη に否定の a- を付けた ἀλήθεια は「真理」を意味し、語源辞典によれば、もとの形容詞は文字どおりには「隠さない」の意味だという。冥界の忘却の川レテの名は、この普通名詞そのもの。近現代オンライン語源辞典
- ハルシオン・デイズ / halcyon days → アルキュオネ「穏やかで平和な日々」の意味で使われる成句。もとは冬至のころの14日間の凪をいい、伝説の鳥ハルキュオン(カワセミ)が波の上の巣で卵を温める期間とされた。halcyon は1540年代から英語にあり、ラテン語 halcyon / alcyon、ギリシャ語 halkyon(alkyon の別形、カワセミ)から。語源は分からず、hals(海)+ kyon(身ごもる)とする説は古代の民間語源と考えられている。神話では夫ケユクスを失ってカワセミに変わったアルキュオネに結びつき、オウィディウスは巣ごもりの期間を7日とする。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
その他 8
- スイセン属の学名 Narcissus(英 narcissus) → ナルキッソス英語 narcissus(スイセン)は1540年代から。ラテン語 narcissus、ギリシャ語 νάρκισσος から。古くからギリシャ語 νάρκη(しびれ)と結びつけて「麻痺させる花」と説明されてきたが、語源辞典は言語学者ビークスの見解を引いて、これを民間語源とし、語尾から見てギリシャ語以前の言語の語だとする。花の名と人名のどちらが先かについて、パウサニアス(9.31.9)は花のほうが古いと考えていた。近現代オンライン語源辞典ローマ期ギリシア案内記
- モンパルナス(Montparnasse) → パルナッソス山パリのセーヌ川の左岸、南部にある地区の名。名前は、もとこの地にあった、ギリシャのパルナッソス山の名を付けた丘にちなむ。パルナッソスは、アポロンの神託所デルポイの背後にそびえる山。19世紀の後半からはモンマルトルと並んで、エコール・ド・パリの画家たちの多くがここにアトリエを構え、20世紀に入ると前衛芸術家や亡命者の集まる街になった。近現代デジタル大辞泉近現代日本大百科全書(ニッポニカ)近現代ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
- アタランタ(イタリアのサッカークラブ) → アタランテベルガモのサッカークラブ、アタランタ・ベルガマスカ・カルチョは1907年創設で、愛称は「ラ・デア(女神)」、紋章は女性の横顔。クラブの公式サイトの記事(2019年)は、ギリシャ神話のヒロイン、アタランテ(ラテン語形 Atalanta)が1907年にクラブに名を与えたと書き、名前を勧めたのは当時の体育の教師だったらしい、と伝聞として添えている。近現代アタランタ(公式サイト)近現代アタランタ公式サイトの記事「Studenti Sarpi a Zingonia」
- クモ綱 Arachnida / アラクニド(arachnid) → アラクネクモ・サソリ・ダニなどを含む節足動物の分類名 Arachnida と英語 arachnid は、ギリシャ語 ἀράχνη(クモ、クモの巣)のラテン語化形から。英語 arachnid は1854年から、分類名 Arachnida は19世紀初めから使われる(etymonline は1815年とする)。オウィディウスが語る、クモに変えられた娘アラクネの名も、この「クモ」という語そのものである。近現代オンライン語源辞典ローマ期変身物語
- ジンチョウゲ属 Daphne(沈丁花 Daphne odora) → ダプネ植物の属名 Daphne(ジンチョウゲ科)は、ギリシャ語で月桂樹を指す δάφνη(月桂樹に変わったニンフ、ダプネの名と同じ語)を属名にしたもの。ところがこの属は月桂樹(Laurus nobilis、クスノキ科)とは別の植物で、日本の沈丁花の学名は Daphne odora になっている。δάφνη はラテン語 laurus と関係があり、ギリシャ語以前の地中海の言語に由来するとみられている。近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)近現代オンライン語源辞典
- Meleagris(シチメンチョウ属)/ Numida meleagris(ホロホロチョウ) → メレアグロスラテン語 meleagris はホロホロチョウの類を指す鳥の名で、ヒュギヌスは、メレアグロスの死を嘆いて鳥に変えられた姉妹たちを「メレアグリデス(ホロホロチョウ)」と呼ぶ。大プリニウスも、ボイオティアのメレアグリデスはアフリカ産の雌鶏の一種で、メレアグロスの墓がこの鳥を有名にしたと書く。リンネ(1758年)はこの語を、シチメンチョウの属名 Meleagris(七面鳥 Meleagris gallopavo)と、ホロホロチョウの種小名 Numida meleagris の両方に使った。新大陸の七面鳥の学名に、ギリシャ神話の英雄の姉妹の鳥が残っていることになる。ローマ期神話集(ファブラエ)ローマ期博物誌近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)
- 要確認Progne(ツバメ科の属名) → プロクネツバメ科の属 Progne(1826年、F. ボイエ命名。代表種 Progne subis は英名 Purple Martin)。Progne はプロクネのラテン語綴りで、ツバメになった王妃プロクネにちなむ命名とされる。ツバメになるのがプロクネだというのはラテン語の伝え(ヒュギヌス 45)の組み合わせで、ギリシャ語の伝え(アポロドーロス 3.14.8)ではプロクネはナイチンゲールになる。近現代GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)ローマ期神話集(ファブラエ)ローマ期ビブリオテーケー(ギリシア神話)
- シャンゼリゼ(Champs-Élysées) → エリュシオンパリの大通りの名は、フランス語で「エリュシオンの野(Élysées の野 champs)」、つまりギリシャ神話で英雄や善人が死後に住む楽園の名から来ている(平凡社『世界大百科事典』)。日本大百科全書によれば、1664年にコルベールの命で整地が始まり、1709年にシャンゼリゼ(楽園の原)と名づけられた。近現代改訂新版 世界大百科事典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)