ギリシャ神話が語源の言葉

木星の衛星アナンケ

大聖堂の壁に刻まれた「アナンケ」の文字。ユゴーの小説の序文に添えられた、19世紀末の挿絵の原画。
大聖堂の壁に刻まれた「アナンケ」の文字。ユゴーの小説の序文に添えられた、19世紀末の挿絵の原画。リュック=オリヴィエ・メルソン『アナンケ(『ノートルダム・ド・パリ』1841年版序文の題の挿絵)』1888〜89年・CC0

木星の衛星アナンケは、1951年にアメリカのウィルソン山天文台で写真から見つかった、半径14kmほどの小さな衛星である。NASAによれば、もとは小惑星で、木星の引力につかまったあと何かとぶつかって砕け、そのかけらが、同じような軌道を回るほかの15個の衛星になったと考えられている。この群れはどれも、木星の自転とは逆向きに回っている。名前には決まりがあって、木星の衛星はゼウスの恋の相手や子孫の名で呼ばれ、外側を回る衛星のうち、順向きのものはおおむね名前が a で、逆向きのものは e で終わるようにしている。Ananke の最後が e なのはそのためだ。アナンケは、古代ギリシャの文学で「必然」を女神の姿にしたものである。

近現代NASA公式サイト

元になった神話

アナンケ逃れられない力「必然」を女神としたもの。ヘシオドスの神々の系譜には出てこないが、悲劇や哲学で、神々でさえ逆らえない力として語られる。アイスキュロスでは運命の女神たちと復讐の女神たちがその舵を取り、エウリピデスでは祭壇も像もない唯一の女神とされる。プラトン『国家』の死後の世界の物語では、宇宙の回転の軸となる紡錘を膝の上で回し、運命の女神たちの母とされる。ユゴー『ノートルダム・ド・パリ』は、大聖堂の壁に刻まれたこの一語から生まれた。