ギリシャ神話の地図
アプロディテ呪いをかけた女神アレス恋の相手ヘリオス兄弟セレネ姉妹オリオンさらった相手ボレアス息子メムノン息子ティトノス夫
薄い衣をなびかせて夜明けを告げる「暁」。ブグローの絵。

エオス

Ἠώς神

薄い衣をなびかせて夜明けを告げる「暁」。ブグローの絵。 『暁』 ウィリアム・アドルフ・ブグロー 1881年Public domain

北極や南極の夜空にゆらめく光の幕「オーロラ」。この名は、ローマ神話の曙の女神アウロラから来ている。アウロラにあたるギリシャの女神が、エオスである。ギリシャ語で「エオス」はそのまま「夜明け」という意味の言葉でもあった。

エオスは、太陽の神ヘリオス、月の女神セレネと三人きょうだいで、『神統記』は、地上のすべてと天の神々を照らす女神だと書いている。『イリアス』や『オデュッセイア』では、夜が明ける場面の多くが「薔薇色の指をもつ曙が現れると」という決まり文句で始まる。朝焼けの空に、女神の指が薔薇色に広がっていくような言い方だ。

花をまきながら、馬車で進む神々の先頭を飛ぶ曙の女神。
花をまきながら、馬車で進む神々の先頭を飛ぶ曙の女神。『アウロラ』 グイド・レーニ 1612〜1614年Public domain

この女神は、恋多きことで知られていた。後の時代の神話集は、そのわけをこう説明する。エオスが軍神アレスと寝たことに、アレスの恋人である愛の女神アプロディテが腹を立てた。そして罰として、エオスが人間の男に次々と恋をせずにいられないようにしたのだ。

エオスは美しい若者を見つけては、さらっていった。狩人オリオンをさらったときには、神々にねたまれ、オリオンは女神アルテミスの矢で射殺された。『オデュッセイア』の中で、この話を神々の身勝手の例として持ち出すのは、オデュッセウスを島に引き留めていた女神である。

竪琴を持つ若者を追いかける、翼のある曙の女神。
竪琴を持つ若者を追いかける、翼のある曙の女神。『テラコッタのノラ式首つきアンフォラ(壺)』 前470〜前460年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

いちばん哀しいのは、トロイアの王子ティトノスとの恋だ。エオスは彼をさらい、ゼウスに頼んで不死にしてもらった。ところが、若さも一緒に願うのを忘れていた。若いあいだは、ティトノスは大地の果ての大洋のほとりで、エオスと楽しく暮らした。やがて美しい頭とあごに白いものが混じりはじめると、エオスは寝床をともにしなくなったが、館に置いて神々の食べ物と美しい衣を与え続けた。そして、老いが進んで手足を動かすことも持ち上げることもできなくなると、エオスは彼を部屋に寝かせ、輝く扉を閉ざした。部屋の中からは、かつての力を失った体から、声だけがいつまでも流れ続けているという。

曙の女神と、トロイアの王子ティトノス。
曙の女神と、トロイアの王子ティトノス。『アウロラとティトノス』 セバスティアーノ・リッチ 1705年 英国王室コレクションPublic domain

この話を語るのは、人間の男と結ばれた女神アプロディテである。あなたを不死にはしない、ティトノスのようになってしまうから、と。

エオスとティトノスのあいだには、エチオピアの王メムノンが生まれた。メムノンはトロイア戦争でトロイアの援軍に駆けつけ、英雄アキレウスに討たれた。今は失われた叙事詩のあらすじによれば、エオスはゼウスに願って息子に不死を与えた。ローマの詩人オウィディウスは、別の結末を語っている。息子の火葬の灰からは鳥の群れが生まれ、母は今も息子を思って涙を流し続けている。その涙が、世界中に降りる朝露なのだと。

エオスは、風の母でもある。巨神族の神とのあいだに、西風、北風、南風、そして明けの明星と夜空の星々を産んだ。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アルクティノス(伝)『アイティオピス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

ローマ以後の語り

アポロドロスは、エオスが絶えず人間の男に恋をするのは、アレスと寝たことを怒ったアプロディテの仕業だと説明する。オリオンをさらってデロス島へ連れて行った話もここにある。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

オウィディウスでは、息子メムノンを失ったアウロラ(エオス)がユピテルに願い、火葬の灰から鳥の群れ(メムノニデス)を生じさせる。アウロラはいまも涙を流し、それが世界中に朝露となって降りる、と結ばれる。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

ローマの曙の女神アウロラ(Aurora)とギリシャ語の ēōs(曙)は、「輝く」を意味する同じ印欧祖語の語根にさかのぼるとされる。北極光を指す aurora borealis(「北の曙」)という語は、17世紀のフランスの哲学者ガッサンディが作ったと言われる。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

もっと詳しく

『神統記』で、ヒュペリオンの妻テイアがヘリオス・セレネとともに「地上のすべてと天の神々を照らす」エオスを産む。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ホメロスでは夜明けの場面の多くが「早く生まれ、薔薇色の指をもつエオスが現れると」という定型句で始まる。曙そのものが女神として毎朝登場する書き方。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

エオスはトロイアの王子ティトノスをさらい、ゼウスに頼んで不死にしてもらったが、若さを願い忘れた。ティトノスは老いて動けなくなり、エオスは彼を部屋に閉じ込め、声だけがいつまでも続いた。『アプロディテ讃歌』でアプロディテが、アンキセスを不死にしない理由として語る。

作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃

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『オデュッセイア』では、エオスがオリオンを選んだが神々が妬み、アルテミスが矢でオリオンを殺した、とカリュプソが神々の身勝手さの例として語る。エオスが美しさゆえにクレイトスをさらって神々の仲間にした話も出てくる。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

エオスはティタンのアストライオスとのあいだに西風ゼピュロス、北風ボレアス、南風ノトスと、明けの明星、天に輝く星々を産む。ティトノスとのあいだにはエチオピア王メムノンとエマティオン、ケパロスとのあいだにはパエトンをもうける。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

叙事詩『アイティオピス』の梗概では、メムノンがアキレウスに討たれたあと、エオスがゼウスに願って息子に不死を与える。

アルクティノス(伝)『アイティオピス』 前7世紀頃

ほかのつながり(5人)

家族・恋愛

  • ゼピュロス子

    378-380 エオスとアストライオスの子

  • ヒュペリオン親

    『神統記』371-374。『ヘリオス讃歌』(31)4-7

  • テイア親

    『神統記』371-374、アポロドロス 1.2.2

  • キニュラス子孫

    3.14.3 エオスとケパロスの子ティトノス(トロイアのティトノスとは別人)→ パエトン → アステュノオス → サンドコス → キニュラス

  • クレイオス義理の親

    『神統記』378-382 息子アストライオスの妻がエオスで、風と星々を産む

今の言葉に残る

キヤノン EOS(イオス)キヤノンのカメラ「EOS(イオス)」は、1987年3月発売の EOS 650 から始まった。キヤノンは公式に、EOS は「Electro Optical System」(電子光学システム)の頭文字であり、同時にギリシャ神話の「曙の女神」の名でもある、と説明している。技術の略語と女神の名を重ねた名前である。ギリシャ語の eos はそのまま「夜明け」という意味の言葉でもあり、ローマの曙の女神アウロラ(オーロラの語源)とは、名前の根っこが同じだと語源辞典は説明している。

始新世 / Eocene・eo-地質時代の「始新世(Eocene)」は、1831年にウィリアム・ヒューエルがライエルへの手紙で提案した語で、ギリシャ語 ēōs(曙)と kainos(新しい)を組み合わせた「新しい時代の夜明け」の意味。以後、地学で「最初期の」を表す接頭辞 eo- が広まった。ēōs は曙の女神エオスの名でもある。

星座になった話

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このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前7〜6世紀頃作者不詳『ホメロス風讃歌』
  5. 前7世紀頃アルクティノス(伝)『アイティオピス』
  6. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  7. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  8. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』