死に方(1)『オデュッセイア』: 曙の女神エオスが人間の彼を恋人に選んだのを神々が妬み、アルテミスがオルテュギアで「やさしい矢」で射殺した。女神が人間の男を愛することを神々が許さない例として、カリュプソが語る。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

Ὠρίων英雄
棍棒を振り上げる狩人の姿で描かれたオリオン座。バイエルの星図。 『オリオン座(『ウラノメトリア』)』 ヨハン・バイエル 1661年刷(コモンズの説明による)Public domain
夜空の星座の中でも、とりわけよく知られたオリオン座。狩人の姿をした星座である。この星座の名は古く、『イリアス』で英雄アキレウスの盾に刻まれた星々の中に、すでに「力強いオリオン」の名がある。
アポロドーロスによれば、オリオンは大地から生まれた巨人だったとも、海の神ポセイドンの息子だったともいう。父ポセイドンから、海の上を歩く力を授かった。背が高く、美しかった。『オデュッセイア』でも、美しい巨人の兄弟が「名高いオリオンに次いで」美しかった、と言われるほどである。
アポロドーロスは、オリオンの冒険の一つをこう伝える。ある島で、島の王の娘に求婚したオリオンは、王に酒で酔わされ、眠っているあいだに目をえぐられて、浜に捨てられた。目の見えなくなった巨人は、鍛冶の神ヘパイストスの仕事場へ行き、一人の少年をさらって肩に乗せ、日の昇る方角へ案内させた。そして昇ってくる太陽の光を浴びて、ふたたび目が見えるようになった。

オリオンの死に方は、伝える作品によってまるで違う。
『オデュッセイア』では、朝焼けの女神が人間のオリオンを恋人に選んだのを神々が妬み、女神アルテミスが矢を射て殺した。女神が人間の男を愛することを神々は許さない、という例として、女神カリュプソがこの話を持ち出している。アポロドーロスは別の説を並べる。アルテミスに円盤投げの勝負を挑んだから、あるいはアルテミスに仕える乙女に乱暴しようとしたから、女神に射られたという。
いちばん星座らしい話は、サソリである。星座の詩を書いたアラトスによれば、オリオンはアルテミスの衣に手をかけようとして、女神が丘を割って出したサソリに刺されて死んだ。だから今でも、さそり座が昇ってくると、オリオン座は地の果てへ逃げていくのだという。ローマの詩人オウィディウスは、少し違う話を伝える。どんな獣にも負けないと豪語したオリオンに大地がサソリを差し向け、オリオンは、アポロンとアルテミスの母である女神レトを守って刺された。レトはその働きに報いて、彼を星々の仲間に加えた。
『オデュッセイア』で英雄オデュッセウスが冥界を訪れたとき、オリオンはそこでも、かつて山で倒した獣たちを青銅の棍棒で追い続けていた。
ヘシオドスの『仕事と日』では、オリオンは農作業の目印だった。オリオンが初めて姿を見せたら麦を脱穀し、天の中ほどに来たらぶどうを摘む。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『仕事と日』、アラトス『星辰譜(パイノメナ)』、オウィディウス『祭暦』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
死に方(1)『オデュッセイア』: 曙の女神エオスが人間の彼を恋人に選んだのを神々が妬み、アルテミスがオルテュギアで「やさしい矢」で射殺した。女神が人間の男を愛することを神々が許さない例として、カリュプソが語る。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
死に方(2)アポロドーロス: アルテミスに円盤投げの勝負を挑んだために殺されたという説と、ヒュペルボレオイの国から来た乙女オピスに乱暴しようとしてアルテミスに射られたという説を並べる。場所はデロス島。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
死に方(3)サソリ: アラトスは「昔の人の話」として、オリオンがキオス島でオイノピオンのために獣を狩っていたとき、アルテミスの衣に手をかけようとしたので、女神が島の丘を割ってサソリを出し、刺し殺させたと歌う。だからサソリ座が昇るとオリオン座は地の果てへ逃げる、という星の動きの説明になっている。オウィディウス『祭暦』では、どんな獣にも負けないと豪語したオリオンに大地がサソリを差し向け、サソリが双子の母ラトナ(レト)を刺そうとしたところにオリオンが立ちはだかった。ラトナはその功に報いて、彼を星々に加えた。
アラトス『星辰譜(パイノメナ)』 前3世紀前半、オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)
アポロドーロスの形: 大地から生まれた巨人とも、ペレキュデスの説ではポセイドンとエウリュアレの子ともいう。最初の妻シデはヘラと美しさを競って冥界に落とされた。キオス島でオイノピオンの娘メロペに求婚したが、オイノピオンに酔わされて目をえぐられ、浜に捨てられる。ヘパイストスの鍛冶場で少年をさらって肩に乗せ、日の出の方へ案内させて、太陽の光で視力を取り戻した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウス『祭暦』の誕生譚: ユピテル、ネプトゥヌス、メルクリウスが、ボイオティアの貧しい老人ヒュリエウスにもてなされ、亡き妻との誓いを守ったまま父になりたいという願いを聞く。三神は犠牲にした牛の皮を使い、語り手自身が「これ以上言うのは恥ずかしい」とぼかすやり方で子を授けた。10か月後に生まれた子を、老人はその生まれ方にちなんでウリオンと呼び、頭の文字が変わってオリオンになった、と言葉遊びで結ぶ。旅の神々をもてなした老人が報われる型は、同じオウィディウスの『変身物語』のバウキスとピレモンと同じ。
オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)
星座名オリオンの語源は分かっていない。アッカド語の「天の光」Uru-anna と結びつける推測もあるが確証はない。英語での初出は14世紀後半。ボイオティアのタナグラにはオリオンの墓があるとパウサニアスは記す。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
ホメロスのオリオンは三つの顔を持つ。空の星座(アキレウスの盾に「プレイアデス、ヒュアデス、力強いオリオン」が刻まれ、熊座が「オリオンをうかがう」)、「オリオンの犬」と呼ばれる星(シリウス)の持ち主、そして物語の人物。『オデュッセイア』では、曙の女神が彼を選んだのを神々が妬み、アルテミスがオルテュギアで矢を射て殺した。冥界では、かつて山で倒した獣を青銅の棍棒で追い続けている。背が高く美しい巨人のアロアダイ兄弟も「名高いオリオンに次いで」美しいと言われる。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ヘシオドス『仕事と日』では、オリオンは農事暦の目印になる星。オリオンが初めて姿を見せたら脱穀を、オリオンとシリウスが天の中ほどに来たらぶどうの収穫を、プレイアデス、ヒュアデス、オリオンが沈んだら耕作を始めよという。プレイアデスがオリオンの力から逃れて霧の海に沈むころには、風が荒れるので船を出すな、とも言う。
ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃
てんびん座 / Libra星占いの12星座を並べてみると、てんびん座(天秤座)だけが、動物でも人でもない道具の星座だと気づく。わけがある。古代ギリシャには、この星座は無かった。語源辞典によれば、ギリシャではこのあたりの星は、となりのサソリの「はさみ」と呼ばれていた。狩人オリオンを刺し殺した、あのさそり座のサソリである。それをローマ人が天秤の星座として独り立ちさせた。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』も、サソリは体が大きすぎるので二つの星座に分けられ、その片方を「われわれは天秤と呼んだ」と書いている。十二の星座の帯を指す英語 zodiac は、もとはギリシャ語で「小さな動物たちの輪」という意味だ。ギリシャ人の数え方ではサソリとそのはさみで一組だったから、天秤が混じっていても困らなかったわけである。英語の Libra はラテン語で「天秤」で、重さの単位「ポンド」も意味した。星座の名としては古英語の終わりごろから使われている。
オリオン座 / Orion星座名はギリシャ語 Ōriōn(ヘシオドスでは Ōariōn)から。語源は分かっておらず、アッカド語の Uru-anna(天の光)と結びつける推測がある程度。英語では14世紀後半から。『イリアス』では、アキレウスの盾にもすでに「オリオンの力」が刻まれている。オウィディウスは「尿」にちなむ元の名ウリオンが変わったものだと言葉遊びで語るが、これは詩の上の由来譚。
さそり座 / Scorpius(Scorpio)さそり座(蠍座)のサソリは、狩人オリオンを刺し殺したサソリである。ヒュギヌスの『天文譜』によれば、狩りの腕に自信を持ったオリオンは、女神アルテミスとその母に向かって、大地から生まれるものなら何でも仕留めてみせると言い放った。怒った大地がサソリを送り、オリオンは殺される。ゼウスはこのサソリを星にした。自分の力を過信するなという、人間への戒めである。オリオンもアルテミスの願いで星になったが、サソリが昇るとオリオンが沈むように置かれた。紀元前3世紀のアラトスの詩『星辰譜』では、話が少し違う。オリオンがアルテミスの衣に手をかけたので、女神が島の丘を裂いてサソリを呼び出したのだという。どちらの話も、サソリが東から昇るころオリオンが西へ逃げるように沈む、という空の動きの説明で終わる。英語の Scorpio はラテン語で「サソリ」の意味で、14世紀後半から。語源辞典によれば、1922年から国際天文学連合の正式な学名は Scorpius になり、Scorpio のほうは星占いの言葉として残った。