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旅人の姿の神々をもてなす老夫婦。ルーベンスの工房の絵。

バウキスとピレモン

Βαυκίς καὶ Φιλήμων人間

旅人の姿の神々をもてなす老夫婦。ルーベンスの工房の絵。 『ピレモンとバウキスの家のユピテルとメルクリウス』 ルーベンスの工房 1620年ごろPublic domain

ある晩、見知らぬ二人の旅人が村にやって来て、一夜の宿を求めて千軒の家の戸を叩いた。千軒とも、戸を閉ざした。ただ一軒だけ、二人を迎え入れた家があった。

では、この一軒に住んでいた老夫婦バウキスとピレモンに何が起きたのか、ローマの詩人オウィディウスの語りでたどってみよう。

舞台は、今のトルコにあたる地方の丘。旅人の正体は、人間の姿をした神々の王ユピテル、つまりゼウスと、翼を外した伝令の神メルクリウス、つまりヘルメスだった。

二人を迎え入れたのは、麦わらと葦で屋根をふいた小さな小屋だった。住んでいたのは、若いころに結ばれてこの小屋でともに年老いた、信心深い老女バウキスと老人ピレモン。二人は貧しさを隠さず、それを穏やかに受け入れて暮らしていた。

老夫婦は、精いっぱいのもてなしをした。老女は灰の中の残り火を吹き起こして火をおこし、夫は菜園から野菜を摘んできた。梁に吊した燻した豚肉を少し切り分け、オリーブや果物を並べた。脚の長さがそろわない食卓には、欠けた一方の脚の下に土器のかけらを挟んだ。

やがて老夫婦は、不思議なことに気づく。いくら注いでも、酒の器がひとりでにまた満ちるのだ。客が神々だと悟った二人はおびえ、手を合わせて祈った。そして小屋の番をしていたたった一羽のガチョウを、客のために絞めようとした。ガチョウは逃げ回り、神々のそばへ逃げ込んだ。神々は、殺してはならないと止めた。

神々の客をもてなす老夫婦。食卓のそばに、逃げ込んだガチョウが見える。
神々の客をもてなす老夫婦。食卓のそばに、逃げ込んだガチョウが見える。『ピレモンとバウキス』 レンブラント・ファン・レイン 1658年 ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントン)CC0

神々は正体を明かした。不敬な隣人たちは罰を受ける。お前たちは家を離れて、山までついて来なさい。杖にすがって山を登った二人が振り返ると、村はすっかり沼に沈んでいた。自分たちの小屋だけが残り、見る間に黄金の屋根と大理石の床を持つ神殿に変わっていった。

神々の王が望みを尋ねると、ピレモンは妻と短く相談してから答えた。二人でこの神殿の祭司にしてください。そして長く仲良く暮らしてきたのだから、同じ時に死なせてください。妻の墓を見ることも、妻に葬られることもないように。

願いはかなえられた。二人は生きているかぎり神殿を守った。ある日、年老いた二人が神殿の階段の前で昔話をしていると、互いの体から葉が生えはじめた。梢が顔を覆う直前、二人は同時に言い交わした。さようなら。こうして二人は、樫と菩提樹の木になった。今もその地方の人々は、隣り合って立つ二本の幹を見せてくれるという。

この物語の出典: オウィディウス『変身物語』、オウィディウス『祭暦』

この物語の人々

ローマ以後の語り

オウィディウスの形: ユピテルとメルクリウスが人間の姿でプリュギアの村に来て、千軒の家に宿を乞うが、千軒とも門を閉ざした。一軒だけ迎え入れたのが、麦わらと葦で屋根をふいた小さな小屋に住む、若いころに結ばれてともに老いた敬虔な老女バウキスと老人ピレモンだった。二人は火をおこし、菜園の野菜、梁に吊した燻した豚肉、オリーブ、ぶどうなどで精一杯もてなす。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

注いでも注いでも混酒器の酒がひとりでに満ちるのを見て、二人は客が神々だと気づき、おびえて祈る。小屋の番をする一羽きりのガチョウを客のために絞めようとすると、ガチョウは神々のそばへ逃げ込み、神々はそれを止めた。神々は正体を明かし、不敬な隣人たちを罰するので山へついて来るよう命じる。振り返ると村は沼に沈み、二人の小屋だけが残って、黄金の屋根と大理石の床を持つ神殿に変わっていた。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

望みを聞かれたピレモンは、バウキスと短く相談してから、二人でこの神殿の祭司となること、そして仲むつまじく過ごしてきたので同じ時に死に、互いの墓を見ずにすむことを願った。年老いた二人が神殿の階段の前で昔話をしていると、互いの体から葉が出始め、「さようなら」と同時に言い交わしたところで樹皮が顔を覆った。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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二人がなった木は、樫(オーク)と菩提樹(リンデン)。オウィディウスは話の冒頭で「菩提樹と隣り合う樫が、低い壁に囲まれてプリュギアの丘にある」と示すだけで、どちらがバウキスでどちらがピレモンかは書いていない。今もその地方の人が、二つの体から生えた隣り合う幹を見せる、と語り手は結ぶ。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

この話は、河神アケロオスの館での宴の席で語られる。神々が姿を変えさせる話を「作り話だ、神々をそんなに万能だと思うのか」と笑ったイクシオンの子(ペイリトオス)に対し、年長のレレクスが「天の力に限りはない」と、自分がその場所を見たという証言として語る。聞き手のテセウスはとくに感じ入り、アケロオスは続けてエリュシクトンの話を語る。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

オウィディウスは『祭暦』で、よく似た話をもう一つ書いている。ユピテルとネプトゥヌスとメルクリウスが旅の途中、ボイオティアの貧しい老人ヒュリエウスの小屋でもてなされる。酒を注ぐ順番のやりとりで客の一人がユピテルだと知った老人は、青ざめ、畑を耕す牛を犠牲にしてもてなし直す。願いを聞かれた老人は、亡き妻との誓いを守ったまま父になりたいと答え、神々の不思議な計らいで生まれた子がオリオンだった。貧しい老人が神々を知らずにもてなし、望みをかなえられるという同じ型が、片方は変身、片方は星座の由来になっている。

オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)

老夫婦は残り火を吹き起こして火をおこし、菜園の野菜と梁に吊した燻製の豚肉でもてなす。脚の長さがそろわない食卓の下には土器のかけらを挟んだ。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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このページの出典(2件)
  1. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  2. 8年頃(未完)オウィディウス『祭暦』