ギリシャ神話の地図
ナルキッソス泉の少年カドモス町を建てた英雄テーバイ中心の町ムーサ山の女神たちアウリス港

ボイオティア

Βοιωτία場所

水に映った自分に恋をして死んだ少年、ナルキッソス。ナルシストという言葉のもとになったこの少年の泉が、ギリシャ中部のボイオティアにあった。旅行家パウサニアスは、その泉を見に行ったうえで、こう書いている。恋をする年ごろの若者が、人間と水に映った影の区別もつかないなどと考えるのは、まったく愚かなことだ、と。

水に映る自分の姿を見つめる少年。カラヴァッジョの絵(1600年)。
水に映る自分の姿を見つめる少年。カラヴァッジョの絵(1600年)。『ナルキッソス』 カラヴァッジョ 1600年Public domain

ボイオティアは、アテネの北西に広がる地方。テーバイの町を中心に、神話の舞台がいくつも集まった土地である。

パウサニアスは、もうひとつの話も書きとめている。ナルキッソスには、姿も髪も服もそっくりな双子の妹がいた。その妹が死ぬと、少年は泉へ通い、水に映る自分の姿を妹だと思って心を慰めた。こちらのほうが、まだありそうな話だというのである。

地方の中心の町テーバイの始まりも、この土地を歩いた一頭の牝牛にかかっている。神話集を書いたアポロドーロスによれば、さらわれた妹を探していた王子は、デルポイで神託を受けた。妹のことはもう探さず、一頭の牝牛のあとについて行き、牛が疲れて倒れたところに町を建てよ。王子は群れの中の牛を見つけて後を追い、牛はボイオティアを横切って、いまのテーバイのあるところで倒れたという。

ボイオティアは、ギリシャの神々の系譜を語った詩人ヘシオドスの土地でもある。『神統記』は、ヘリコン山の詩の女神たちから語り始める。女神たちは、聖なるヘリコンのふもとで羊の番をしていたヘシオドスに、詩の技を教えた。そのとき女神たちは言った。わたしたちは本当らしい嘘をいくらでも語れる。その気になれば、本当のことも語れる、と。

詩人に寄り添う詩の女神。モローの絵(1891年)。
詩人に寄り添う詩の女神。モローの絵(1891年)。『ヘシオドスとムーサ』 ギュスターヴ・モロー 1891年Public domain

トロイア戦争のとき、『イリアス』の船の目録で最初に名を挙げられるのも、ボイオティアの兵である。岩がちのアウリスやテーバイなど、多くの町から50隻の船が集まり、一隻ごとに120人の若者が乗りこんだという。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』

この物語の人々

ローマ以後の語り

テスピアイの領地のドナコンという所にナルキッソスの泉があり、ナルキッソスはこの水を覗き込んで自分の影と知らずに恋をし、泉のそばで死んだと伝えられた。パウサニアスは、恋をする年の者が人と影の区別もつかないと考えるのは愚かだとして、双子の妹を失ったナルキッソスが、自分の影と知りつつ妹の面影を見て慰められたという別の話を挙げる。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

カドモスはデルポイで、エウロペのことは気にせず牝牛に導かれ、牛が疲れて倒れた所に町を建てよとの神託を受けた。ペラゴンの群れの牝牛の後を追うと、牛はボイオティアを横切って、いまテーバイのある場所で倒れた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

『神統記』はヘリコンの女神ムーサたちから始まり、女神たちは聖なるヘリコンのふもとで羊を飼っていたヘシオドスに歌を教えた。女神たちは「わたしたちは本当らしい嘘を多く語れるが、望めば真実も語れる」と告げた。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

『イリアス』の船の目録はボイオティア勢から始まる。ペネレオスら五人が率い、ヒュリア、岩がちのアウリス、テーバイなど多くの町から50隻が来て、一隻ごとに120人の若者が乗った。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

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このページの出典(4件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  4. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』