ギリシャ神話の地図
ヘラ送り主ムーサ師オイディプス解いた男テーバイ標的テュポン父ネメアの獅子兄弟テイレシアス予言者クレオン摂政
翼と女性の顔を持つスフィンクス。デルポイに奉納された像。

スフィンクス

Σφίγξ怪物

翼と女性の顔を持つスフィンクス。デルポイに奉納された像。 『ナクソス人のスフィンクス』 作者不詳 写真は2007年 デルポイ考古学博物館。写真 DagrapplerPublic domain

スフィンクスと聞くと、エジプトの砂漠に横たわる巨大な像を思い浮かべる人が多いだろう。ギリシャ神話のスフィンクスは、それとは別の怪物である。エジプトの像はふつう男の頭で翼がないが、ギリシャの方は翼を持つ雌だった。そして、謎をかけてくる。

一つの声を持ちながら、四つ足にも、二つ足にも、三つ足にもなるものは何か。

テバイの町の近くの山の上に、一匹の怪物が座っていた。顔は女、胸と脚と尾は獅子、背中には鳥の翼。通りかかるテバイの人々に、この謎をかけてくる。

女の顔に、獅子の体と鳥の翼。ギリシャのスフィンクスは、こういう姿で表された。
女の顔に、獅子の体と鳥の翼。ギリシャのスフィンクスは、こういう姿で表された。『スフィンクスをかたどった大理石の柱頭と頂部飾り』 前530年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

アポロドーロスによれば、スフィンクスを送り込んだのは女神ヘラだった。生まれも怪物の一族で、父は神々に逆らった巨大な怪物テュポンだという。謎は、歌と学芸の女神ムーサたちから教わったものだった。

テバイの人々には、一つの神託が下っていた。謎が解ければ、スフィンクスから解放される。人々は何度も集まって答えを話し合ったが、分からない。答えが出ないたびに、スフィンクスは一人をさらって食べた。

犠牲は増え続け、ついには国を預かっていたクレオンの息子まで食われた。先王は、少し前に旅の途中で殺されたばかりだった。追い詰められたクレオンは布告を出す。謎を解いた者には、王の位と、先王の妃を与える。

この布告を聞いてやって来たのが、オイディプスである。彼の答えは「人間」だった。赤ん坊のうちは手足の四本で這い、大人になれば二本の足で立ち、年老いると杖が三本目の足になる。

オイディプスの胸にしがみつくスフィンクス。
オイディプスの胸にしがみつくスフィンクス。『オイディプスとスフィンクス』 ギュスターヴ・モロー 1864年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

謎を解かれたスフィンクスは、城砦から身を投げて死んだ。オイディプスは約束どおり王となり、先王の妃を妻にした。それが自分の母だとは知らないままに。

スフィンクスが出てくるいちばん古い文献は、『神統記』である。ただしそこでは少し違う名で呼ばれ、テバイの民を滅ぼす者とあるだけで、謎かけの話は出てこない。ヘラクレスに退治されたネメアの獅子とは兄弟にあたる。

ソポクレスの悲劇『オイディプス王』は、この怪物を「むごい歌い手」とも「歌う犬」とも呼ぶ。町の人々は、この歌い手に貢ぎ物のように命を差し出していた。ただし、謎の中身は語られない。オイディプスは、名高い予言者にも解けなかった謎を鳥占いにも頼らず自分の知恵で解いた、と誇っている。その知恵が、やがて自分の出生の秘密まで暴いてしまう。

「朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足」。よく知られたこの言い回しは、アポロドーロスの本文には出てこない。

この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、ヘロドトス『歴史』、ソポクレス『オイディプス王』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ヘシオドス『神統記』では、ボイオティア方言形の「ピクス」の名で、エキドナがオルトス(ゲリュオンの番犬)との間に生んだ「カドモスの民を滅ぼす者」とされる。ネメアの獅子はその兄弟。謎かけの話はここにはない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

アポロドーロスの形: 母エキドナ、父テュポン。ヘラがテーバイに送り込み、女の顔、獅子の胸と脚と尾、鳥の翼をもつ。ムーサたちから教わった謎を携えてピキオン山に陣取り、解けないテーバイ人を一人ずつさらって食った。クレオンの息子ハイモンまで犠牲になったため、クレオンは謎を解いた者に王位とライオスの妻を与えると布告した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

謎は「一つの声を持ちながら、四つ足にも二つ足にも三つ足にもなるものは何か」。オイディプスは「人間」と答えた。赤子のうちは四肢で這い、大人になって二本の足で立ち、老いては杖を三本目の足にするから。謎を解かれたスフィンクスは城砦から身を投げた。よく知られる「朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足」という言い回しは、アポロドーロスの本文にはない。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

名前は「締めつける者(絞め殺す者)」と解され、σφίγγειν(締める、縛る)から作られたとされる。同じ動詞から医学用語の sphincter(括約筋)ができた。英語で「謎めいた人」を sphinx と呼ぶのは1600年頃から。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

もっと詳しく

ソポクレス『オイディプス王』では、謎の中身は語られず、スフィンクスは「歌う者」「過酷な歌い手」と呼ばれる。オイディプスは、予言者テイレシアスでさえ解けなかった謎を、鳥占いにも頼らず自分の知恵だけで解いたと誇る。

ソポクレス『オイディプス王』 前429年頃上演(推定)

エジプトの「スフィンクス」はギリシャ語の名を借りた呼び名で、姿は別物。ヘロドトスはサイスの神殿に並ぶエジプトの像を「男の頭のスフィンクス(アンドロスピンクス)」と呼び分けている。語源辞典も、エジプトの形はふつう男性で翼がない、とギリシャの翼ある雌の怪物と区別している。ギザの大スフィンクスを英語で Sphinx と呼ぶ例は1610年代から。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

ほかのつながり(1人)

家族・恋愛

  • エキドナ親

    3.5.8 スピンクスの母はエキドナ、父はテュポン

今の言葉に残る

スフィンクス / sphincter(括約筋)ギリシャ語 Sphinx は「締めつける者」の意と解され、σφίγγειν(締める、縛る)から作られたとされる。同じ動詞から、筋肉の輪で管を締める「括約筋」を指す sphincter ができた。英語 sphinx はテーバイの怪物の意味で15世紀初めから、エジプトの像の意味で1570年代から、ギザの大スフィンクスについては1610年代から使われ、「正体の知れない謎めいた人」の比喩は1600年頃から。

次に読む

このページの出典(5件)
  1. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  2. 前430年頃ヘロドトス『歴史』
  3. 前429年頃上演(推定)ソポクレス『オイディプス王』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』