クレタは牡牛の物語が重なる島でもある。エウロペを運んだゼウスの牡牛、ミノスがポセイドンから授かり惜しんだ牡牛、その牡牛から生まれたミノタウロス、ヘラクレスが第七の功業で連れ出した「クレタの牡牛」。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Κρήτη場所
エーゲ海の南に浮かぶクレタ島には、青銅器時代に栄えた古い文明の跡が残っている。19世紀の終わりに考古学者アーサー・エヴァンズは、この文明を、神話に出てくるクレタの王ミノスの名をとって「ミノア文明」と名付けた。

クレタは、神々の王ゼウスが隠れて育った島である。わが子を次々に呑み込む夫クロノスから末の子を守るため、母はこの島へ渡って赤子を産んだ。赤子は島の山の洞窟に隠され、クロノスには産着にくるんだ石が渡された。
この島には、牡牛の話がいくつも重なっている。はじめは、ゼウス自身が化けた牡牛。美しい娘エウロペを背に乗せて海を渡り、クレタまで連れてきた。エウロペがゼウスとのあいだに産んだ子のひとりが、のちのクレタ王ミノスである。

王位を継ぐとき、ミノスは自分が神々に選ばれた証しとして、海の神ポセイドンに祈った。海から牡牛を送ってください、その牛を生贄に捧げます。ポセイドンは見事な牡牛を送ったが、ミノスはそれを惜しんで自分の群れに加え、別の牛を捧げた。怒ったポセイドンは牡牛を狂暴にし、ミノスの妃に牡牛への恋心を抱かせた。名工ダイダロスが作った木の牝牛の中に妃が入り、生まれたのが、牛の頭を持つ怪物ミノタウロスである。ミノスはこの怪物を、ダイダロスに造らせた、出口の分からない迷宮に閉じ込めた。のちにアテネの英雄テセウスが迷宮に入り、王女アリアドネの糸を頼りにミノタウロスを倒すことになる。暴れ回る牡牛のほうは、英雄ヘラクレスが七番目の難業として生け捕りにした。

迷宮を造った名工ダイダロスも、やがてこの島を出られなくなった。オウィディウスの『変身物語』によれば、ミノスは陸も海もふさいだが、空までは治めていない。そう考えたダイダロスは、鳥の羽を小さいものから大きいものへ並べ、糸と蝋でつないで翼をこしらえた。息子イカロスには言い聞かせる。低く飛べば波に翼を重くされ、高く飛べば太陽に焼かれる。真ん中を行け、と。ところが息子は、飛べたうれしさに父から離れて高く昇り、太陽の熱で蝋が溶けて、海へ落ちた。その海は、いまも少年の名で呼ばれている。

島の海辺には、青銅の番人もいた。一日に3度島を走って回り、近づく船に岩を投げつける巨人である。首から足首まで一本の血管が通っていて、その端は青銅の釘で留めてあった。神話集を書いたアポロドーロスは、この番人を、青銅の時代の人間の生き残りとも、鍛冶の神ヘパイストスがミノスに贈ったものとも伝えている。金の羊毛を持ち帰るアルゴ号の一行も、この番人に上陸を阻まれた。番人は魔女メデイアの魔術で倒れたとも、英雄の一人に足首を射抜かれて倒れたともいう。
『イリアス』はクレタを「百の町を持つ島」と呼び、『オデュッセイア』は、葡萄酒色の海の真ん中に90の町があり、さまざまな言葉を話す人々が入り混じって住んでいると描く。トロイア戦争には、ミノスの孫がクレタの軍を率いて加わった。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』、小学館『デジタル大辞泉』
クレタは牡牛の物語が重なる島でもある。エウロペを運んだゼウスの牡牛、ミノスがポセイドンから授かり惜しんだ牡牛、その牡牛から生まれたミノタウロス、ヘラクレスが第七の功業で連れ出した「クレタの牡牛」。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
島の青銅器時代の文明は、伝説の王ミノスの名から「ミノア文明」と呼ばれる(クレタ文明とも)。名づけたのは考古学者アーサー・エヴァンズで、英語 Minoan の初出は1894年。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)、小学館『デジタル大辞泉』 随時改訂
ミノスは王位の証しとしてポセイドンに海から牡牛を送るよう祈り、生贄にすると約束したが、送られた見事な牡牛を群れに加えて別の牛を捧げた。怒ったポセイドンは牛を狂暴にし、パシパエに恋心を抱かせた。ダイダロスの木の牝牛によってミノタウロスが生まれ、ミノスは神託に従ってこれを迷宮に閉じ込めた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
『イリアス』の船の目録ではクレタは「百の都市をもつ」島。『オデュッセイア』では「葡萄酒色の海の真ん中に九十の都市」とされ、アカイア人、エテオクレタ人(生粋のクレタ人)、キュドネス人、ドーリス人、ペラスゴイ人と、言葉の違う人々が入り混じっていると描かれる。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ヘシオドスでは、子を呑み込むクロノスから末子ゼウスを守るため、レアはクレタのリュクトスへ送られ、ゼウスは大地(ガイア)に引き取られて島の洞窟に隠された。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アルゴ船がクレタに近づくと、1日に3度島を巡回する青銅の番人タロスが岩を投げて上陸を阻んだ。タロスは首から踝まで一本の血管が通り、端を青銅の釘で留めていた。メデイアの魔術で倒れたとも、ポイアスが踝を射たともいう。アポロドーロスは、タロスは青銅の種族の生き残りとも、ヘパイストスがミノスに贈ったものとも伝える。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロニオス 4.1638-1688、アポロドーロス 1.9.26 クレタの青銅の番人タロスを魔術で倒す
19.172-180 クレタの町の一つ
2.5.7 第七の功業はクレタの牡牛。アクシラオスはエウロペを運んだ牡牛、別説ではポセイドンがミノスのために送った牡牛とする