ギリシャ神話の地図
イリス姉妹ケライノ一羽アルゴナウタイの遠征追っ手アイネイアス被害者ゼウス主人テレマコス若者アスカニウス少年
女の顔と鳥の体を持つハルピュイア。

ハルピュイア

Ἅρπυιαι怪物

女の顔と鳥の体を持つハルピュイア。 『翼を広げたハルピュイア』 ジョン・ヴィニコム 1906年Public domain

アイネイアスの漂流3 / 14

中南米の森に、オウギワシという大型の猛禽がすむ。英語の名はハーピー・イーグル。英語で harpy は、ひどく強欲な人のことも指す。どちらの名も、ギリシャ神話の翼ある怪物、ハルピュイアから来ている。もとの意味は「ひったくる者たち」だ。

はじめから怪物だったわけではない。ヘシオドスの『神統記』では、ハルピュイアは虹の女神イリスの姉妹で、美しい髪をもち、速い翼で風の息吹や鳥と並んで飛ぶ、とだけ書かれている。『オデュッセイア』では、人をさらって跡形もなく消してしまう風のような存在として出てくる。行方の知れない父について、オデュッセウスの息子は、ハルピュイアにさらわれてしまったのだ、と嘆いている。

有名になったのは、盲目の予言者ピネウスの話からだった。アポロニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』によれば、ピネウスは神々の怒りを買い、食事のたびにハルピュイアが空から舞い降りて、口や手から食べ物をひったくり、残ったものにはひどい悪臭を残していった。そこへ、金の羊毛を求める英雄たちの船アルゴ号が立ち寄る。乗組員の中に、北風の神の息子である翼をもった兄弟がいた。兄弟は剣を抜いて空へ飛び立ち、ハルピュイアを海の上まで追いかけた。けれども、あと少しで追いつくというとき、イリスが現れて止めた。大いなるゼウスの猟犬を剣で傷つけてはならない。その代わり、もう二度とピネウスに近づかせないと、イリスは誓った。兄弟が引き返した島々は、それ以来「引き返しの島」と呼ばれるようになったという。

盲目の予言者の食卓に舞い降りたハルピュイアを、翼をもつ兄弟が追い払う。
盲目の予言者の食卓に舞い降りたハルピュイアを、翼をもつ兄弟が追い払う。『ゼテスとカライスにピネウス王の食卓から追い払われるハルピュイア』 フランソワ・ヴェルディエ 制作年不明 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

ローマの詩人ウェルギリウスの『アエネイス』では、ハルピュイアはその島に住みついている。姿は、乙女の顔をした鳥。腹からはおぞましい汚物を垂れ流し、手は鉤爪で、顔はいつも飢えで青ざめている。

トロイアを逃れた英雄アイネイアスの一行がこの島に上陸し、見張りのいない牛の群れを屠って宴を開いた。すると山からハルピュイアが羽音を立てて舞い降り、料理をさらい、汚していった。場所を変えても、また来る。三度目に剣で迎え撃ったが、羽は刃を通さず、背中に傷ひとつつかなかった。

宴に舞い降りたハルピュイアに、アイネイアスの一行が剣で斬りかかる。
宴に舞い降りたハルピュイアに、アイネイアスの一行が剣で斬りかかる。『ハルピュイアと戦うアイネイアスと仲間たち』 フランソワ・ペリエ 1646〜1647年Public domain

ハルピュイアの一羽が高い岩の上にとまり、呪いの予言を叫んだ。牛を殺したうえに、罪のない私たちを国から追い払うつもりか。おまえたちはイタリアに着くだろう。だが、ひどい飢えに迫られて、自分たちの食卓までかじり尽くすまでは、町を築くことはできない。

予言は、思わぬ形でかなう。イタリアに上陸した一行が、平たいパンを皿がわりにして食事をし、それまで食べ尽くしたとき、アイネイアスの息子が冗談を言った。なんだ、ぼくたち、食卓まで食べちゃってる。アイネイアスは、この言葉こそ苦難の終わりのしるしだと悟った。ここが、定められた土地だった。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、ウェルギリウス『アエネイス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)『GBIF 生物分類データ(GBIF Backbone Taxonomy)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ヘシオドスでは、ハルピュイアはタウマスとエレクトラの娘で、虹の女神イリスの姉妹。名はアエロとオキュペテ。「美しい髪」を持ち、速い翼で風の息吹や鳥とともに飛ぶ、と書かれるだけで、醜い怪物とはされていない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ウェルギリウスのハルピュイアは、乙女の顔をした鳥で、腹からはひどい汚物を垂れ流し、手は鉤爪で、顔はいつも飢えで青ざめている。冥界の川から現れた神々の怒りの中でも、これほど忌まわしい怪物はいないと言われる。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

ローマ以後の語り

ストロパデス島に上陸したトロイア人は、見張りのいない牛の群れを屠って宴を開く。そこへハルピュイアが山から舞い降りて料理を奪い汚す。場所を変えても同じことが起こり、三度目に剣で迎え撃つが、羽は刃を通さず、背中にも傷がつかない。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

名前はギリシャ語で「ひったくる者たち」の意味で、「ひったくる」を意味する動詞と関係があるとみられる。英語 harpy は14世紀後半から怪物の名として、1400年頃から「強欲な人」の意味でも使われる。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

ケライノの予言(食卓をかじり尽くすまで町は築けない)は、イタリアでパンを皿がわりに食べ尽くしたとき、イウルスが「食卓まで食べている」と冗談を言ったことで成就したとアイネイアスは悟る。

ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

もっと詳しく

ホメロスでは、ハルピュイアは人をさらって消してしまう風のような存在として出てくる。行方の知れないオデュッセウスについて、テレマコスは「ハルピュイアにさらわれた」と言い、ペネロペイアは、パンダレオスの娘たちがハルピュイアにさらわれ、復讐の女神エリニュスたちに召し使いとして渡された話をする。アキレウスの神馬クサントスとバリオスを西風ゼピュロスとの間に産んだのも、ハルピュイアのポダルゲとされる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

アポロニオスの『アルゴナウティカ』では、神の怒りを受けた盲目の予言者ピネウスの食事を、ハルピュイアが空から舞い降りては口や手から奪い、残りを汚していく。アルゴ号に乗っていた北風ボレアスの息子たちが剣を抜いて追いかけるが、イリスが止め、二度とピネウスに近づかないと誓わせる。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

追跡を打ち切って引き返した場所の島々は、それまで「プロタイ(浮き島)」と呼ばれていたが、このことから「ストロパデス(引き返しの島)」と呼ばれるようになった、とアポロニオスは説明する。アポロニオスではハルピュイアはそのあとクレタへ逃げ込むが、ウェルギリウスでは、ピネウスの館を追われたハルピュイアがこのストロパデス島に住みついている。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

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ハーピー / harpy、オウギワシ(Harpy Eagle)英語 harpy は14世紀後半から神話の翼ある怪物の意味で使われ、1400年頃には「ひどく強欲な人」の意味にも広がった。古フランス語、ラテン語を経てギリシャ語 Harpyia(複数形)にさかのぼり、文字どおりには「ひったくる者たち」で、「ひったくる」を意味する harpazein と関係するとみられる。中南米の森にすむ大型の猛禽オウギワシは、英名が Harpy Eagle、学名が Harpia harpyja(属名 Harpia はヴィエイヨ1816年、種はリンネ1758年)で、ドイツ語名は Harpyie。名前にこの怪物の名が入っている。

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このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  5. 前19年頃ウェルギリウス『アエネイス』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  8. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』