ギリシャ神話の地図
イアソン船長アテナ造り手アルゴナウタイの遠征乗組員金羊毛目的キルケ魔女メデイア王女ポセイドン捧げた神ヘラ守り神

アルゴ船

Ἀργώ物品

ギリシャ神話には、口をきく船が出てくる。英雄イアソンたちを乗せて、黄金の羊の毛皮を取りに行った船、アルゴである。

では、この不思議な船がどうやって造られ、何を語ったのか、見ていこう。

アポロドーロスによれば、金の羊毛を取ってこいと命じられたイアソンは、一人の職人の助けを借りた。職人は女神アテナの助言を受けて、50本の櫂を持つ船を造り上げた。船の名アルゴは、造った職人の名から取られたという。アテナはさらに、舳先に一本の木材をはめ込んだ。神のお告げを聞く聖地として知られた森の、樫の木から切り出したものだった。この木のおかげで、船は人の声で話すことができた。

櫂を並べ、英雄たちを乗せて進むアルゴ船。
櫂を並べ、英雄たちを乗せて進むアルゴ船。『アルゴ』 コンスタンティノス・ヴォラナキス 19世紀Public domain

この航海を長い詩にまとめたアポロニオスは、少し違う言い方をする。昔の詩人たちは、アテナの指示で職人が造ったと伝えてきた。けれども実際には、女神アテナ自身が船を造り、職人はそれを手伝ったのだ、と。

船はギリシャ中から英雄たちを乗せて、はるか東の果てへ向かった。最大の難所は、海の入口で二つの岩がぶつかり合う場所だった。岩が開いた一瞬に英雄たちが全力で漕ぎ抜け、船は船尾の飾りを削り取られただけで通り抜けた。

帰り道、船は口を開く。王女メデイアが追っ手から逃れるため幼い弟を殺したあと、怒ったゼウスが嵐を送った。そのとき船が人の声で告げた。魔女キルケのもとへ行って罪を清めてもらわなければ、ゼウスの怒りはやまない、と。

故郷に帰り着いたあと、イアソンは英雄たちとともに船を運び、海の神ポセイドンに捧げた。

この船の名は、『オデュッセイア』の中でも、誰もが知る船として出てくる。魔女キルケは、ぶつかり合う岩の間を無事に抜けた船はただ一隻、そのアルゴだけだと、オデュッセウスに語っている。女神ヘラが守ったからだ、と。

一方、悲劇詩人エウリピデスの『メデイア』は、乳母の嘆きで幕を開ける。あのアルゴ船が、コルキスの国へ向かって飛んで行かなければよかったのに。山で松の木が切り倒されて、船にされたりしなければよかったのに。メデイアの悲劇の始まりを、乳母は船が造られた日にまでさかのぼらせている。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、エウリピデス『メデイア』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

アポロドーロスでは、船を造ったのはプリクソスの子アルゴスで、アテナの助言によって50櫂の船を造り、その名を取ってアルゴと名づけた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

アポロニオスでは、造り手はアレストルの子アルゴス。昔の歌い手たちは「アテナの指示でアルゴスが造った」と歌うと断ったうえで、アテナ自身が船を造り、アルゴスがそれを手伝ったとする。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀

ローマ以後の語り

アテナは舳先に、神託で知られるドドネの樫の木を組み込んだ。このため船は口をきき、アプシュルトス殺しのあと「キルケに清めてもらわなければゼウスの怒りは止まない」と告げた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

名の由来は二通りに説明される。造り手アルゴスの名を取ったとするアポロドーロスの説と、形容詞 argos(速い、きらめく)から「速き船」とする説(etymonline)。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

帰国後、イアソンは英雄たちとともに地峡(イストモス)へ船を運び、ポセイドンに奉納した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

『オデュッセイア』でキルケは、打ち合う岩の間を通り抜けた船はただ一隻、アイエテスのもとから帰る「万人の関心の的のアルゴ」だけだった、ヘラが守ったからだ、とオデュッセウスに教える。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

エウリピデス『メデイア』は、乳母の「アルゴ船があの青い岩を越えてコルキスへ飛んで行かなければよかったのに、ペリオンの谷で松が切り倒されなければよかったのに」という嘆きで始まる。悲劇の起点は船の建造にまでさかのぼる。

エウリピデス『メデイア』 前431年

今の言葉に残る

りゅうこつ座・とも座・ほ座・らしんばん座(もとのアルゴ座)南の空にある、りゅうこつ座(竜骨座)・とも座(船尾座)・ほ座(帆座)・らしんばん座(羅針盤座)の四つは、もとは一つの巨大な星座だった。金の羊毛を求めてイアソンと英雄たちが乗り込んだ船、アルゴ船をかたどった「アルゴ座」である。平凡社の世界大百科事典によれば、あまりに広すぎるので、1752年にフランスの天文学者ラカイユが、竜骨・船尾・帆・羅針盤の四つに分けた。いまはアルゴ座という名は使われない。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』は、この船が星になった理由を、海に出た最初の船だったからだと多くの人が言っている、と書く。そして、空には船の全体ではなく、船尾から帆柱までしか描かれていない、それは船が壊れても人々がおびえないように、という意味だ、という説明も添えている。アルゴという船の名は、語源辞典によればギリシャ語で「速いもの」の意味である。

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このページの出典(5件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前431年エウリピデス『メデイア』
  3. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』