ギリシャ神話の地図
ヘルメス妨げ手オデュッセウス客人ヘリオス父メデイア姪セイレーン難所スキュラ難所テイレシアス予言者エウリュロコス逃れた男
玉座から杯を差し出すキルケ。ウォーターハウスの絵。

キルケ

Κίρκη神

玉座から杯を差し出すキルケ。ウォーターハウスの絵。 『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1891年Public domain

アイネイアスの漂流13 / 14

オデュッセウスの漂流6 / 14

2026年公開のクリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』では、女優サマンサ・モートンが演じた。人を豚に変える魔女キルケである。

原典の『オデュッセイア』のキルケは、ただの魔女ではない。

キルケは太陽神ヘリオスの娘で、れっきとした女神だ。兄弟には、のちに英雄イアソンの物語に出てくる黒海の国の王がいて、その娘が魔女メデイアである。魔女の血筋は、一族のものだった。

住まいは、海に浮かぶ島。トロイア戦争の帰り道、オデュッセウスの一行がこの島に流れ着いた。仲間を半分に分け、くじで偵察に出た組は、森の中に磨いた石で建てた館を見つける。館のまわりには山の狼や獅子がうろついていたが、襲いかかってはこない。飼い主にじゃれつく犬のように、尾を振ってまとわりついてきた。キルケが薬で手なずけた獣たちだった。

館の中からは、美しい歌声が聞こえてくる。女神が大きな機の前を行き来しながら、歌を歌っていた。呼びかけると、キルケは戸口を開けて一行を招き入れた。用心深い隊長だけは、罠を疑って外に残った。

キルケは客を椅子に座らせ、チーズと大麦と蜜をぶどう酒に混ぜ、そこに薬を入れて飲ませた。飲み干したところを杖で打つと、男たちの頭も声も毛も体も豚になった。けれども心だけは、もとのままだった。女神は泣いている豚たちを豚小屋に閉じ込め、どんぐりを投げ与えた。

男たちに杯を差し出すキルケ。足もとには、手なずけられた獣たちがいる。
男たちに杯を差し出すキルケ。足もとには、手なずけられた獣たちがいる。『キルケとオデュッセウスの仲間たち』 16世紀 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

知らせを聞いたオデュッセウスは、一人で館へ向かう。途中で若者の姿をした神ヘルメスが現れ、黒い根と白い花をもつ草を授けた。これを持っていれば、キルケの薬は効かない。薬を飲まされても姿が変わらず、剣を抜いて迫るオデュッセウスを見て、キルケは驚いた。この薬に耐えた者は一人もいない。あなたはきっとオデュッセウスでしょう。トロイアからの帰りに立ち寄ると、ヘルメスがいつも言っていたから、と。

杯を差し出すキルケ。この薬を、オデュッセウスにも飲ませようとする。
杯を差し出すキルケ。この薬を、オデュッセウスにも飲ませようとする。『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1891年 オールダム美術館Public domain

オデュッセウスは、もう害をなさないと誓わせてから、女神の申し出を受けた。キルケは約束どおり仲間を豚から人に戻した。別の薬を塗ると剛毛が抜け落ち、男たちは前より若く、背も高く、ずっと美しくなって戻ってきた。泣きながら主人の手を取る仲間たちに、女神自身も心を動かされた。

一行はそのまま、まる1年、キルケの館で宴を楽しんだ。帰りを思い出させたのはオデュッセウス本人ではない。仲間たちが、そろそろ故郷を思い出してくださいと訴えたのである。

キルケは引き止めなかった。その代わりに、思いがけない道を示す。故郷に帰るには、まず冥界へ行き、名高い予言者の霊に道を尋ねなければならない。黒い雌羊の捧げ方、蜜と乳とぶどう酒の注ぎ方、穴の掘り方まで、儀式の手順をこまかく教えた。出発の朝、仲間の一人が酔って屋根の上で寝込み、寝ぼけて落ちて首を折った。

冥界から戻った一行を、キルケはもう一度迎えた。そして、歌で船乗りを誘う怪物セイレーン、六つの首の怪物スキュラと渦潮カリュブディス、太陽神の牛のいる島と、この先の難所を一つずつ教えた。その後の航海は、この教えのとおりに進んでいく。

二人のあいだに子どもがいたかどうかを、『オデュッセイア』は語らない。『神統記』や、今は失われた叙事詩『テレゴネイア』は、キルケがオデュッセウスの子を産んだと伝えている。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、エウガンモン(伝)『テレゴニア』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、クリストファー・ノーラン監督『映画『オデュッセイア』』

この物語の人々

こういう風にも語られている

異伝: ヘシオドス『神統記』では、キルケがオデュッセウスに産んだ子はアグリオスとラティノス、さらにテレゴノスとされ、テュレニア人(エトルリア人)を治めたと語られる。イタリアの民族の祖に結びつける系譜。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ローマ以後の語り

現代解釈: クリストファー・ノーラン監督の映画『オデュッセイア』(2026年)でサマンサ・モートンが演じる。

クリストファー・ノーラン監督『映画『オデュッセイア』』 2026年7月17日公開

もっと詳しく

チーズ・大麦・蜜を混ぜたぶどう酒に薬を混ぜて飲ませ、杖で打って豚に変える。頭も声も毛も姿も豚になるが「心はもとのまま」だと明記される。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ヘルメスが与えたモーリュの草によってオデュッセウスには薬が効かない。剣を抜かれたキルケは彼を予言されていた者と悟り、害を為さぬ誓いを立てる。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

残り6件を読む

仲間を人に戻したのち、オデュッセウス一行は島に丸1年留まる。出発を促したのは本人ではなく、仲間たちの訴えだった。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

帰路を教える前に、まず冥界へ下ってテイレシアスの霊に問えと命じる。冥界行きの儀式の手順(黒い雌羊、蜜と乳と酒の献酒、穴の掘り方)も彼女が指示する。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

冥界から戻った一行に、セイレーン・スキュラとカリュブディス・ヘリオスの牛という残りの難所を一つずつ説明する。12歌の航海はこの説明の通りに進む。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

館のまわりの山の狼や獅子はキルケが薬で魔法をかけたもので、人に襲いかからず犬のように尾を振ってじゃれついた。館の中でキルケは大きな機を織りながら歌っていた。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

薬が効かないのを見たキルケは、これに耐えた者はいない、あなたはヘルメスが来ると言っていたオデュッセウスに違いない、と悟る。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

豚にされた仲間は、別の薬を塗られて人に戻ると、以前より若く、背が高く、美しくなっていた。泣いて喜ぶ仲間の姿に女神も心を動かされた。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ほかのつながり(7人)

家族・恋愛

仲間・師弟

  • イアソン訪れた側

    アポロドーロス 1.9.24 アプシュルトス殺しの穢れをアイアイエで清めてもらう。アポロニオス 4.659-752

出来事・場所・物

この話が出てくる作品

次に読む

このページの出典(9件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 前6世紀頃エウガンモン(伝)『テレゴニア』
  4. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  5. 前19年頃ウェルギリウス『アエネイス』
  6. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  7. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  8. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』
  9. 2026年7月17日公開クリストファー・ノーラン監督『映画『オデュッセイア』』