ウェルギリウスによれば、ラティヌスは森の神ファウヌスとニンフのマリカの子。ファウヌスの父はピクス、その父はサトゥルヌスで、ラテン人の王家はローマの古い神々につながる。息子は若くして死に、跡を継ぐのは娘ラウィニアだけだった。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃

Λατῖνος人間
メダルの形で描いたラティヌス王と王妃アマタ。16世紀の本の版画。 『ラティヌスとアマタ(『肖像便覧』)』 ギヨーム・ルイエ(刊) 1553年Public domain
ラテン語の「ラテン」という言葉のもとをたどると、イタリアの一地方ラティウムと、そこを治めた伝説の王ラティヌスに行き着く。英語のラテンは、「ラティウムの」を意味するラテン語から来ており、王の名と同じ言葉だ。
では、この王がローマ建国の伝説の中でどんな役を担ったのか、見ていこう。
ローマの詩人ウェルギリウスの『アエネイス』によれば、ラティヌスは森の神ファウヌスの息子で、そのまた祖先をたどると、農耕の神サトゥルヌスに行き着く。長く平和に国を治めてきた老王には、息子がいなかった。幼くして死んでしまい、跡を継ぐのは一人娘だけだった。
娘には、多くの求婚者がいた。いちばんの有力者は、隣の国の若き王トゥルヌスである。ところが、不思議な前兆が相次ぐ。宮殿の月桂樹に蜂の群れが止まった。祭壇で火をともしていた娘の髪に火が燃え移り、宮殿じゅうに広がった。父の神ファウヌスの神託は告げた。娘をラテン人に嫁がせてはならない。外から来る婿の血筋が、やがて世界を治めるだろう。
そこへ、海の向こうから一団がやって来る。滅びたトロイアを逃れて長い旅を続けてきた英雄アイネイアスと、その仲間たちだった。老王は使者を迎え、神託の婿はこの男だと悟って、娘を与えると約束した。
けれども、老王の力では流れを止められなかった。妃とトゥルヌスは結婚に反対し、女神ユノに焚きつけられた人々が戦を求めた。ラティヌスは戦を止めることができず、宮殿にこもってしまう。
ウェルギリウスの老王は、戦争の最後まで生き残る。アイネイアスは戦の前の誓いで、勝っても義父ラティヌスに軍と王の権威を残すと約束している。一方、ローマの歴史家リウィウスが伝える形では、ラティヌス自身がのちの戦いで命を落とす。
実は、ギリシャのずっと古い詩には、同じ名の人物が別の姿で出てくる。『神統記』の終わり近くによれば、魔女キルケがオデュッセウスとのあいだに産んだ息子の一人が、ラティノスだという。トロイア人アイネイアスの義父になるはずの王が、トロイアを滅ぼした側の英雄の息子として描かれている。
この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、リウィウス『ローマ建国以来の歴史』、ウェルギリウス『アエネイス』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
ウェルギリウスによれば、ラティヌスは森の神ファウヌスとニンフのマリカの子。ファウヌスの父はピクス、その父はサトゥルヌスで、ラテン人の王家はローマの古い神々につながる。息子は若くして死に、跡を継ぐのは娘ラウィニアだけだった。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
ヘシオドス『神統記』の終わり近くには、キルケがオデュッセウスとの間にアグリオスとラティノスを産み、二人が遠い聖なる島々でテュルセノイ人を治めたと書かれている。トロイア人アイネイアスの義父になるはずの王が、ギリシャの古い詩ではトロイアを滅ぼした側のオデュッセウスの息子になっている。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
『アエネイス』のラティヌスは、妃アマタやトゥルヌスに押されて戦争を止められない老王として描かれ、最後まで生き残る。アイネイアスは戦いの前の誓いで、勝てば義父ラティヌスに軍と王権を残すと約束する。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
リウィウスでは、ラティヌスはアイネイアスと戦ったあと和を結んだ(あるいは戦う前に会談して盟約を結んだ)とされ、その後トゥルヌスのルトゥリ族との戦いでラティヌス自身が戦死する。
リウィウス『ローマ建国以来の歴史』 前1世紀末
アイネイアスが来る前、宮殿の月桂樹に蜂の群れが止まり、娘ラウィニアの髪に火がついて燃え広がるという前兆が起きた。父ファウヌスの神託は「娘をラテン人に嫁がせるな、外から来る婿の子孫が世界を治める」と告げていた。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
英語の Latin(ラテン語、ラテンの)は、ラテン語 Latinus「ラティウムの」から来ている。王の名ラティヌスと同じ語。
リウィウス『ローマ建国以来の歴史』 前1世紀末、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)
ラティヌスはアイネイアスの使者を迎え、神託の告げた婿がこの男だと悟って娘を与えると約束する。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃