作品の元になった神話

映画『オデュッセイア』を観る前に知りたい神話

ノーラン監督の映画『オデュッセイア』を観る前に、元になったホメロスの神話をざっくり押さえる。オデュッセウスはどんな男で、家ではだれが待ち、帰り道で何に出会うのか。映画の結末には触れないが、神話の筋には少し触れるので、まっさらで観たい人は注意。

この記事で触れること

この記事は、映画の展開や結末には触れない。書くのは、元になったホメロスの叙事詩『オデュッセイア』のあらましと、出てくる人物のことだ。映画は神話の筋を大きく変えたところも多いので、神話を知っても映画の結末までは分からない。ただ、神話の筋を一つも知らずに観たい人は、ここで引き返してほしい。

近現代ガーディアン「Sex, beds and grisly executions: what Christopher Nolan’s The Odyssey changed, invented – and left out」ホメロスオデュッセイア

観たあとに「あの場面は神話ではどうだったのか」が気になったら、ネタバレありの記事「映画『オデュッセイア』ネタバレ解説」へどうぞ。

ホメロスオデュッセイア

オデュッセウスは、どんな男か

スペルロンガで見つかったオデュッセウスの頭部の像(1世紀ごろ)
スペルロンガで見つかったオデュッセウスの頭部の像(1世紀ごろ)作者不詳『スペルロンガのオデュッセウスの頭部』1世紀ごろ(コモンズの説明による)・Public domain

オデュッセウスは、ギリシャの西の島イタケの王である。父は老いた王ラエルテス、妻はペネロペ、息子はテレマコス。トロイア戦争に加わったギリシャの英雄の一人だ。

ホメロスオデュッセイア

ホメロスが真っ先に歌うのは、この男の頭の回転である。叙事詩は「ムーサよ、あの知恵の回る男のことを語ってくれ」と始まる。故郷に帰り着いた場面では、女神アテナがこう言う。お前はいつも抜け目がなく、口がうまくて、ずる賢い。だから、わたしはお前を見捨てられないのだ、と。

ホメロスオデュッセイア

ノーラン監督も、オデュッセウスを複雑な人物と語り、「驚くべき策略家で、とても抜け目のない男」と評している。

近現代ウィキペディア英語版「The Odyssey (2026 film)」

トロイア戦争と、木馬

ティエポロが描いた、トロイアの城へ引かれていく木馬
ティエポロが描いた、トロイアの城へ引かれていく木馬ジョヴァンニ・ドメニコ・ティエポロ『トロイアに引き入れられる木馬』1760年ごろ・Public domain

トロイア戦争は、スパルタ王メネラオスの妻ヘレネを、トロイアの王子パリスが連れ去った(駆け落ちしたとも言われる)ことから始まった。メネラオスの兄で、ミュケナイの王アガメムノンが、ギリシャの総大将になった。戦いは十年続いた。

近現代ブリタニカ「Christopher Nolan’s The Odyssey」ホメロスオデュッセイア

戦争を終わらせたのは、オデュッセウスの計略だった。『オデュッセイア』によれば、エペイオスがアテナの助けで大きな木馬を造り、オデュッセウスは中に兵を潜ませたまま、それをトロイアの城の中へ運び込ませた。この兵たちが、のちに町を落とした。

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二十年目の帰郷

戦争に十年、帰り道に十年。オデュッセウスが故郷に帰り着くのは、家を出て二十年目のことだ。帰り道では、仲間を一人残らず失う。

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叙事詩は、旅の初めからは語らない。始まるのは二十年目で、父を探しに出る息子テレマコスと、女神カリュプソの島に引き留められているオデュッセウスの話から入る。帰り道の冒険は、あとからオデュッセウス自身が語って聞かせる。映画も、トロイアの浜の木馬と、カリュプソの島のオデュッセウスを交互に映して始まる。

ホメロスオデュッセイア近現代ガーディアン「Sex, beds and grisly executions: what Christopher Nolan’s The Odyssey changed, invented – and left out」近現代ブリタニカ「Christopher Nolan’s The Odyssey」

家で待つ人々

ピントゥリッキオが描いた、機を織るペネロペと求婚者たち(1509年ごろ)
ピントゥリッキオが描いた、機を織るペネロペと求婚者たち(1509年ごろ)ピントゥリッキオ『ペネロペイアと求婚者たち』1509年ごろ・Public domain

イタケの館には、王の帰りを待つ人々がいる。妻ペネロペのもとには、夫は死んだと決めつけた求婚者たちが押しかけ、館に居座って毎日の宴で王の財産を食いつぶしている。数は百八人にのぼる。その中心にいるのが、アンティノオスだ。

ホメロスオデュッセイア近現代ブリタニカ「Christopher Nolan’s The Odyssey」

ペネロペは、義父ラエルテスの死に装束を織り上げたら再婚相手を選ぶと約束し、昼に織った分を夜にほどいて、三年のあいだ求婚者たちを待たせた。四年目に、召し使いの女の一人が秘密を漏らしてしまう。

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息子テレマコスは、父の顔を知らずに育った若者である。ほかにも、主人の帰りを信じる忠実な豚飼いエウマイオス、乳母エウリュクレイア、そしてオデュッセウスがトロイアへ発つ前に育てた犬アルゴスが、館で待っている。

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帰り道で出会う、有名な相手

ウォーターハウスが描いた、帆柱に縛られてセイレーンの歌を聞くオデュッセウス
ウォーターハウスが描いた、帆柱に縛られてセイレーンの歌を聞くオデュッセウスジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『オデュッセウスとセイレーン』1891年・Public domain

神話の帰り道には、よく知られた場面がいくつもある。まず、一つ目の巨人キュクロプス族のポリュペモス。海の神ポセイドンの息子で、オデュッセウスに目をつぶされる。ポセイドンがオデュッセウスを恨み、帰り道を阻むのはこのためだ。

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人を動物に変える魔女キルケ。死者の国で、帰り方を予言する老予言者テイレシアス。歌声で船乗りを誘い寄せるセイレーン。六つの首の怪物スキュラと、海の水を飲み込む渦巻きカリュブディス。そして、決して手を出してはいけない太陽神ヘリオスの牛。

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最後に流れ着くのが、女神カリュプソの島だ。カリュプソはオデュッセウスを夫にしようと引き留め、オデュッセウスはここで七年を過ごす。

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知っておくと効く、「ゼウスの掟」

古代のギリシャでは、旅人や助けを求めてきた人をもてなすことが、神の定めた大事な決まりだった。『オデュッセイア』でオデュッセウスは、ゼウスは身を寄せる旅人を守り、その恨みを晴らす神だ、と巨人に向かって言う。客は主人を敬い、主人は客を手厚くもてなす。

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この決まりを知っていると、物語がぐっと分かりやすくなる。客を食べてしまう巨人も、主人のいない館で好き放題する求婚者たちも、この掟を踏みにじる者として描かれているからだ。映画でも、テレマコスが、居座る求婚者たちは「ゼウスの掟」を破っていると責める。

ホメロスオデュッセイア近現代ブリタニカ「Christopher Nolan’s The Odyssey」

神々は、どう出てくるか

マッテイのアテナと呼ばれる像(ローマ時代の写し)
マッテイのアテナと呼ばれる像(ローマ時代の写し)作者不詳『マッテイのアテナ』前1世紀〜後1世紀のローマの写し(元は前4世紀のギリシャの像。コモンズの説明による)・Public domain

ホメロスの叙事詩は、オリュンポスでゼウスとアテナが話し合う場面から始まる。アテナは姿を変えて何度も現れ、オデュッセウスと息子を助ける。ポセイドンは帰り道を阻み、伝令の神ヘルメスは大事な使いに走る。

ホメロスオデュッセイア近現代ガーディアン「Sex, beds and grisly executions: what Christopher Nolan’s The Odyssey changed, invented – and left out」

ノーラン監督は、オリュンポスの神々に俳優を当てず、自然の力と、人々の信仰を通して神々を表したと語っている。その時代の人々にとって、神々のしるしはいたるところにあった、という。そのなかで女神アテナだけは、ゼンデイヤが演じている。

近現代米国映画協会(MPA)「Christopher Nolan Reveals Lupita Nyong'o's Powerful Dual Role in 'The Odyssey'」近現代ガーディアン「Sex, beds and grisly executions: what Christopher Nolan’s The Odyssey changed, invented – and left out」

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