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地図で見るトロイア戦争 どこから誰が来たのか

ギリシャ中の王たちが船を出し、アナトリアの国々がトロイアに味方した。『イリアス』の「船の目録」をもとに、両軍がどこから来たのかを地図で見る。

海の向こうの町

トロイアは、エーゲ海をはさんでギリシャの向かい側、アナトリアの北西の端にあった町だ。ヘレスポントス(いまのダーダネルス海峡)の入口に近い。ギリシャ中の王たちが、この町を攻めるために船を出した。

近現代オックスフォード古典学辞典近現代Pleiades(古代の地名の地名辞典)

船団が集まったのは、ボイオティアの港アウリス。『イリアス』でオデュッセウスは、そこで見た前兆を思い出させる。泉のそばの祭壇で犠牲を捧げていると、背中に赤い斑のある大蛇が祭壇の下から這い出し、プラタナスの梢の雀の巣を襲った。雛が八羽、親鳥を入れて九羽。蛇が食べ終えると、ゼウスはその蛇を石に変えた。予言者カルカスは読み解いた。九年戦って、十年目に町を取る、と。

ホメロスイリアス

船の目録

ギリシャ勢トロイア側アウリスとトロイア『イリアス』2巻の船の目録とトロイア側の目録に出てくる国々。点の位置は地名辞典 Pleiades の代表点(CC BY)、海岸線は Natural Earth(パブリックドメイン)。
  1. 1アウリスギリシャ勢が集まって船出した、ボイオティアの港アウリス
  2. 2トロイアプリアモスの都。総大将はヘクトルトロイアヘクトルプリアモス
  3. 3ボイオティアペネレオス、レイトス、アルケシラオス、プロトエノル、クロニオス。船50隻
  4. 4オルコメノスアレスの子アスカラポスとイアルメノス。船30隻
  5. 5ポキススケディオスとエピストロポス。岩がちのピュト(デルポイ)もこの国。船40隻
  6. 6ロクリス小アイアス。亜麻の胸当ての小柄な男で、槍では誰にも負けない。船40隻小アイアス
  7. 7エウボイアアバンテス人を率いるエレペノル。船50隻
  8. 8アテナイメネステウス。戦車と歩兵の陣立てでは並ぶ者がない。船50隻アテナイ
  9. 9サラミス大アイアス。船12隻を、アテナイ勢のそばに並べた大アイアス
  10. 10アルゴスとティリュンスディオメデス、ステネロス、エウリュアロス。船80隻ディオメデスアルゴス
  11. 11ミュケナイ総大将アガメムノン。コリントスなども含め、船100隻。いちばん多くの兵アガメムノンミュケナイ
  12. 12ラケダイモン(スパルタ)メネラオス。船60隻メネラオススパルタ
  13. 13ピュロス老将ネストル。船90隻。点は「ネストルの宮殿」と呼ばれる遺跡ネストル
  14. 14アルカディアアガペノル。海に縁のない民なので、船60隻はアガメムノンが与えた
  15. 15エリスエペイオイ人。四人の将が10隻ずつ
  16. 16ドゥリキオンとエキナデス諸島メゲス。船40隻。ドゥリキオンの位置は分かっていないので、点は同じ一行に名の出るエキナデス諸島
  17. 17イタケとケパレニア人オデュッセウス。船12隻オデュッセウスイタケ
  18. 18アイトリアトアス。カリュドンもこの国。船40隻カリュドン
  19. 19クレタイドメネウスとメリオネス。「百の町」のクレタから、船80隻イドメネウスクレタ島クノッソス
  20. 20ロドスヘラクレスの子トレポレモス。船9隻
  21. 21シュメニレウス。アキレスの次に美しい男だが、力は弱く、従う者も少ない。船3隻
  22. 22コスと近くの島々ヘラクレスの孫ペイディッポスとアンティポス。船30隻
  23. 23プティアとヘラスアキレスとミュルミドン人。船50隻。点は同じ国の町ハロスアキレスミュルミドン人
  24. 24ピュラケプロテシラオスはすでに討たれ、弟ポダルケスが率いる。船40隻プロテシラオス
  25. 25ペライとイオルコスアドメトスの子エウメロス。船11隻
  26. 26メトネピロクテテスの部隊。本人はレムノス島に置き去りで、メドンが率いる。船7隻ピロクテテス
  27. 27トリッカ医術の神の子ポダレイリオスとマカオン。船30隻
  28. 28オルメニオンとヒュペレイアの泉エウリュピュロス。船40隻。オルメニオンの位置は分かっていないので、点は同じ一行のヒュペレイアの泉
  29. 29ギュルトネとアルギッサペイリトオスの子ポリュポイテスとレオンテウス。船40隻
  30. 30ドドナのまわりグネウス。船22隻
  31. 31ペリオン山のまわり(マグネシア人)プロトオス。船40隻
  32. 32ダルダノイアイネイアス。母はアプロディテ(アフロディーテ)アイネイアス
  33. 33ゼレイア弓をアポロンに教わったパンダロスパンダロス
  34. 34アドラステイアアドレストスとアンピオス。予言者の父に止められたが、聞かずに来た
  35. 35アリスベとアビュドスアシオス
  36. 36トラキアアカマスとペイロオス。ヘレスポントスの向こうからトラキア
  37. 37キコネスエウペモス
  38. 38パイオニアピュライクメス。「地上でいちばん美しい」アクシオス川のほとりから。点は川
  39. 39パプラゴニアピュライメネス。野生の騾馬の群れる国。点は同じ一行のキュトロス
  40. 40ミュシアクロミスと占い師エンノモス
  41. 41プリュギアポルキュスとアスカニオス。遠いアスカニアから。点はアスカニア湖
  42. 42マイオニアメストレスとアンティポス。トモロス山のふもと
  43. 43カリアナステスとアンピマコス。「言葉の違う」カリア人。ミレトスもこの国
  44. 44リュキアサルペドンとグラウコス。遠いクサントス川のほとりからサルペドングラウコスリュキア
  45. 45ペラスゴイ(ラリサ)(地図に点なし)ヒッポトオスとピュライオス。ラリサの位置が定まらないので、点は打っていない
  46. 46ハリゾネス(アリュベ)(地図に点なし)オディオスとエピストロポス。銀の出る遠いアリュベから。位置が分からないので、点は打っていない

『イリアス』2巻で、詩人は兵の数を言いあらわせないと歌う。十の舌と十の口があり、声が尽きず、胸が青銅でできていても、ムーサたちが語ってくれなければ、すべての名は挙げられない。だから船の長と船を数えよう、と。こうして始まるのが、のちに「船の目録」と呼ばれる長い一覧だ。

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目録は、アウリスのあるボイオティアから始まり、ギリシャ本土を南へ、ペロポネソス半島をめぐって西の島々へ、クレタやロドスの島々へ渡り、最後に北のテッサリアへ上がっていく。地図の青い点が、目録に出てくる国々だ。

ホメロスイリアス近現代Pleiades(古代の地名の地名辞典)

大きな部隊、小さな部隊

いちばんの大部隊は、総大将アガメムノンのミュケナイ勢。コリントスなどの町も合わせて船は100隻、兵の数も、身なりの立派さも群を抜いていた。次に多いのが、老将ネストルのピュロス勢の90隻。ディオメデスのアルゴス勢と、イドメネウスのクレタ勢が80隻で続く。

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知恵者オデュッセウスが率いてきた船は、わずか12隻。シュメの島のニレウスに至っては3隻だった。ニレウスは、アキレスの次に美しい男だと目録はわざわざ言い、続けて、力がなく、従う者も少なかった、と添えている。

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内陸のアルカディアの兵たちは、海の仕事に縁がなかった。60隻の船は、アガメムノンが与えたものだという。

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そこにいない将たち

目録には、いるはずの者がいない部隊がいくつかある。アキレスのミュルミドン人は、総大将にブリセイスを奪われた主人が船のそばにこもっているので、戦に出ない。兵たちは浜で円盤や槍を投げ、弓を射て日を過ごしている。

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弓の名手ピロクテテスの部隊も、本人がいない。水蛇に噛まれた傷のために、レムノス島に置き去りにされていた。目録は、ギリシャ勢はやがて彼を恋しく思うことになる、と先回りして言う。

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ピュラケの部隊を率いていたプロテシラオスは、もう土の下にいる。トロイアの浜に誰より先に跳び下りて、討たれた。故郷には、頬をかきむしって嘆く妻と、建てかけの家が残された。

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トロイアの味方

目録の最後には、トロイア側の顔ぶれが並ぶ。地図の赤い点だ。トロイア勢そのものを率いるのはプリアモスの子ヘクトル。ダルダノイ人を率いるのは、女神アプロディテ(アフロディーテ)が牛飼いアンキセスとのあいだに産んだアイネイアス。イデ山のふもとのゼレイアからは、アポロンに弓を教わったパンダロスが来た。

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味方はアナトリアだけではない。海峡を越えたトラキアや、のちにオデュッセウスが襲うことになるキコネス人、北の遠いアクシオス川のほとりのパイオニア人も加わった。アクシオス川を、目録は地上でいちばん美しい川と呼ぶ。

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東の黒海の岸からは、野生の騾馬が群れるというパプラゴニアの兵。南からは、言葉の違うカリア人。カリアの将の一人は、娘のように金で身を飾って戦に来た、と目録はあざける。いちばん遠くから来たのは、クサントス川のほとりのリュキアのサルペドンとグラウコスだった。

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地図の点について

点の位置は、古代の地名の地名辞典 Pleiades が示す代表点を使った。ホメロスの地名には、場所がはっきりしないものが多い。ドゥリキオンやオルメニオンは、位置が分からないので、目録の同じ一行に出てくる別の場所に点を打った。ペラスゴイ人のラリサと、ハリゾネス人のアリュベは、点を打っていない。

近現代Pleiades(古代の地名の地名辞典)ホメロスイリアス

ネストルのピュロスがどこかも、古代から議論があった。地図の点は、メッセニアで掘り出された「ネストルの宮殿」と呼ばれる遺跡に置いている。イタケの場所にも、いくつかの説がある。海岸線は、パブリックドメインの地図データ Natural Earth から描いた。

近現代Pleiades(古代の地名の地名辞典)近現代Natural Earth(地図データ)

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