出典 · ホメロス
イリアス
ホメロス · 前8世紀頃 · Iliad
巻・行の参照は標準の行番号による(例 3.199 = 第3歌199行)。
日本語訳: 松平千秋訳、岩波文庫、1992 · 原文・参考リンク ↗
この出典が語っていること
アケロン
- 『オデュッセイア』では、キルケが、オケアノスを渡ってペルセポネの森(ポプラと柳)の岸に船をつけ、ハデスの館へ行けと教える。そこではピュリプレゲトンと、ステュクスの水の分かれであるコキュトスがアケロンに流れこみ、二つの川の合流するところに岩がある。オデュッセウスはそこで穴を掘って死者を呼ぶ。『イリアス』にはアケロンの名は出てこない。 (『オデュッセイア』10.508-527、11.20-22。『イリアス』は英訳全文を Acheron で検索して該当なし(2026年9月))
- パウサニアスによれば、オリュンピアでゼウスへの犠牲に白ポプラの木を使うのは、ヘラクレスがテスプロティアのアケロン川の岸に生えていた白ポプラをギリシャに持ち帰ったからで、ホメロスが白ポプラを「アケロンの(アケローイス)」と呼ぶのもそのためだという。『イリアス』では倒れる戦士のたとえにこの木が出てくる。 (パウサニアス5.14.2-3、『イリアス』13.389、16.482(ἀχερωΐς))
アキレウス
- 『イリアス』の最初の一語は「怒り(メーニス)」で、主題はアキレウスの怒りそのもの。アガメムノンにブリセイスを奪われて戦線を離脱し、味方が壊滅しても戻らない。 (1.1-7, 1.318-348)
- 母から二つの運命を告げられている。トロイアに留まれば帰れないが不滅の名声を得る、帰れば長く生きるが名声は消える。彼は前者を選ぶ。 (9.410-416)
- ホメロスにはアキレウスが不死身だという設定も、踵が弱点だという話も無い。『イリアス』21巻ではアステロパイオスの槍が右の前腕をかすめ、黒い血が噴き出す。普通に傷つく人間として描かれている。 (21.166-167)
- ホメロスは二人を「仲間(ヘタイロス)」として描く。アキレウスはパトロクロスを「すべての仲間の中で最も重んじ、自分の命と等しく思っていた」と言うが、恋愛関係だとは書かない。 (18.80-82, 23.65-107)
- 関係: child → peleus (1.1「ペレウスの子アキレウス」)
- 関係: child → thetis (1.351-357, 1.413。海の底から母が現れる)
- 関係: student → chiron (11.830-832。薬草の知識をケイロンから学んだとエウリュピュロスが言う)
- 関係: companion → patroclus (18.80-82「すべての仲間の中で最も重んじ、自分の命と等しく思っていた」)
- 関係: lover → briseis (9.336-343 でアキレウスは彼女を「心から愛している」と言う)
- 関係: enemy → agamemnon (1.148-171。「酒におぼれた犬の目をした男」と罵る)
- 関係: killed → hector (22.312-330。鎖骨と首の間の喉を槍で突く)
- 関係: companion → antilochus (『イリアス』18.1-34 で死の報せを運ぶ。『オデュッセイア』24.76-79 でパトロクロスと並ぶ親友とされる)
- 関係: owner → armor-of-achilles (18.468-617。テティスの依頼でヘファイストスが新造した武具)
- 関係: participated_in → trojan-war (2.681-694。ミュルミドネス勢50隻を率いる)
アクリシオス
- アポロドーロスでは、アクリシオスの妻はラケダイモンの娘エウリュディケで、娘はダナエ一人。パウサニアスは、スパルタのアルゴスのヘラの神殿を、アクリシオスの妻エウリュディケが建てたと記す。ヒュギヌスはダナエの母をアガニッペとする。『イリアス』はダナエを「アクリシオスの娘」と呼ぶ。 (アポロドーロス2.2.2、パウサニアス3.13.8、ヒュギヌス63、『イリアス』14.319)
- 関係: parent → danae (『イリアス』14.319「アクリシオスの娘ダナエ」、アポロドーロス2.2.2(母はラケダイモンの娘エウリュディケ)、ヒュギヌス63(母はアガニッペ))
アドメトス
- ホメロスでのアドメトスは、トロイアへ11隻を率いてきたエウメロスの父として名が出る程度。エウメロスはペリアスの娘たちのうち最も美しいアルケスティスが産んだ子とされ、身代わりの話は語られない。 (2.711-715)
- 関係: spouse → alcestis (『イリアス』2.711-715、エウリピデス『アルケスティス』、アポロドーロス 1.9.15)
アドラストス
- ホメロスでの姿: 『イリアス』の船のカタログでは、シキュオンを「初めにアドラストスが治めた」地として挙げる。戦車競走の場面では、ネストルが「神々の血を引くアドラストスの足の速い馬アレイオン」の名を出す。ディオメデスの妻アイギアレイアは「アドラストスの娘」と呼ばれ、ディオメデスの父テュデウスも「アドラストスの娘の一人」を娶っている。つまりディオメデスは、母の姉妹にあたる女性と結婚していることになる。 (2.572, 23.346-347, 5.410-415, 14.121。「母の姉妹」はアポロドーロス 1.8.5 で母をデイピュレとすることによる)
- ただ一人の生還: 将たちが倒れるなか、アドラストスだけが馬アレイオンに救われた。アポロドーロスは、この馬はデメテルがエリニュスの姿でいたときにポセイドンと交わって生まれたと説明する。ピンダロスは、七つの火葬の火が燃え尽きたあと、アドラストスがアンピアラオスを「わが軍の目」と呼んで嘆いたと歌う。 (3.6.8 /『イリアス』23.346-347 /『オリュンピア祝勝歌』6.12-17)
- 関係: parent_in_law → tydeus (『イリアス』14.121 / 1.8.5, 3.6.1 娘デイピュレを嫁がせる)
- 関係: parent_in_law → diomedes (『イリアス』5.410-415 ディオメデスの妻アイギアレイアは「アドラストスの娘」/ 1.8.6(アイギアレウスの娘とする説も))
アイアコス
- 関係: parent → peleus (アポロドーロス3.12.6、『イリアス』21.189)
- 関係: grandparent → achilles (21.188-189 アキレウス「父ペレウスはアイアコスの子、アイアコスはゼウスの子」)
アイギス
- 『イリアス』のアイギスは、房のついた、肩にかける防具。まわりを「潰走(ポボス)」が冠のように取り巻き、「争い(エリス)」「武勇」「突撃」と、ゴルゴンの首が付いている。 (5.738-742)
- アテナが携えるアイギスは、年老いることも死ぬこともない貴重な防具で、黄金の房が百本、一本ごとに牛百頭の値打ちがあった。 (2.446-449)
- アイギスは、ヘパイストスが人間を敗走させるためにゼウスに与えたものだと『イリアス』は言う。 (15.307-310)
- アイギスは揺さぶって敵を恐れさせる道具として働く。ゼウスはイデ山を雲で包み、稲妻と雷とともにアイギスを振るってアカイア勢を敗走させる。アポロンが動かさずに持つあいだは両軍の飛び道具が当たり続けたが、アカイア勢の顔を見すえて振り、叫ぶと、彼らは戦意を失った。 (17.593-596、15.229-230、15.318-322)
- アテナは素手のアキレウスの肩にアイギスをかけて金の雲と炎で包み、アポロンは引きずられるヘクトルの亡骸を黄金のアイギスで覆って傷から守った。 (18.203-206、24.18-21)
- 関係: owned_by → zeus (『イリアス』15.308-310、17.593。「アイギスを持つ」ゼウス(『神統記』11 など))
- 関係: owned_by → athena (『イリアス』2.446-449、5.738-742、『オデュッセイア』22.297、ヒュギヌス『天文譜』2.13.7 ゼウスがアテナに譲る)
- 関係: created_by → hephaestus (15.308-310)
- 関係: owned_by → apollo (15.229-230 ゼウスがアポロンに持たせる、24.20)
- 関係: protector → achilles (18.203-206)
- 関係: protector → hector (24.18-21)
アイネイアス
- アキレウスに討たれかけたとき、ポセイドンが「彼は死ぬ定めではない。ダルダノスの血を絶やさぬため、今後はアイネイアスとその子孫がトロイア人を治めるのだ」と言って救い出す。ローマ建国伝説との接点とされる一節。 (20.293-317(予言は 20.302-308))
- アキレウスとの対決の前に、自らトロイア王家の系譜を長々と述べる。ダルダノス→エリクトニオス→トロスと下り、トロスの三子イロス・アッサラコス・ガニュメデスで枝分かれして、イロスの系統にラオメドンとプリアモスが、アッサラコスの系統にアンキセスと自分が並ぶ。プリアモス家とは別の王統であることが分かる。 (20.213-241)
- 『イリアス』では二度、神に戦場から連れ出される。ディオメデスに石を投げつけられた時は母アプロディテが、アキレウスとの一騎討ちではポセイドンが救う。 (5.311-317(アプロディテ)、20.318-340(ポセイドン))
- 関係: child → anchises (2.819-821, 20.239-240)
- 関係: child → aphrodite (『イリアス』2.819-821、ホメロス風讃歌5(アプロディテ讃歌)全体)
- 関係: enemy → achilles (20.158-352 の一騎討ち。ポセイドンがアイネイアスを霧で包んで救い出す)
- 関係: enemy → diomedes (5.297-318 で石を投げられ、アプロディテに救われる)
- 関係: participated_in → trojan-war (ダルダニア勢の将 2.819-821)
- 関係: participated_in → troy (20.302-308 「アイネイアスの子孫がトロイア人を治める」)
アイテル
- ホメロスではアイテルは神ではなく、空の上層を指す語。ゼウスは「アイテルに住まう」と呼ばれ、世界を分けたときゼウスは「アイテルと雲のうちに広い天」を受け持ったとポセイドンが語る。 (2.412, 15.190-193)
- ホメロスは下のもやった空気(アエール)と上の澄んだアイテルを区別している。イデ山の高い樅の木は「アエールを抜けてアイテルに届いた」と描かれる。 (14.286-288)
- 『イリアス』14巻で、眠りの神ヒュプノスは、ゼウスに見られないよう、イデ山でいちばん高い樅の木に登った。その木はアエール(もやの空気)を抜けてアイテルにまで届いていた。ヒュプノスは枝に隠れ、神々がカルキス、人間がキュミンディスと呼ぶ甲高い鳴き声の鳥の姿でひそんだ。 (14.286-291)
アガメムノン
- 船の一覧では最大の100隻を率い、「はるかに最も多くの兵を連れ、武具のなかで際立っていた」と書かれる。権威の根拠は徳ではなく規模である。 (2.569-580)
- 王権の象徴である王笏の来歴がわざわざ語られる。ヘファイストスが作り、ゼウス、ヘルメス、ペロプス、アトレウス、テュエステスを経てアガメムノンに渡った。ここではアトレウスとテュエステスが平和に王笏を受け渡しており、後代に有名な兄弟の骨肉の争いはまったく出てこない。 (2.100-108)
- アポロンの神官クリュセスが身代金を持って娘の返還を求めたのを、手荒く追い返す。怒ったアポロンが9日間矢を射かけ、ギリシャ陣は疫病に倒れる。『イリアス』の事件はここから始まる。 (1.8-52)
- クリュセイスを返すよう求められたとき「妻クリュタイムネストラよりも彼女のほうが好きだ」と公言する。のちの顛末を知って読むと相当に強烈な台詞。 (1.113-115)
- クリュセイスを返す代償として、アキレウスの分け前であるブリセイスを取り上げる。これがアキレウスの怒りと戦線離脱を招く。 (1.318-348)
- ホメロスはイピゲネイアの犠牲を知らない。『イリアス』9巻でアガメムノンは「クリュソテミス、ラオディケ、イピアナッサ」という三人の娘の誰でもアキレウスに嫁がせると申し出ており、娘を殺した男の台詞にはなっていない。 (9.144-145(19.287-288 でも繰り返される))
- アポロンの神官が身代金を持って娘を取り戻しに来たとき、他の者はみな受け取るよう声を上げたが、アガメムノンだけは拒み、娘は故郷で機を織り自分の床に仕えるのだと言って老人を追い返した。 (1.22-32)
- ゼウスはネストルの姿をした偽りの夢をアガメムノンに送り、いまトロイアを落とせると告げる。アガメムノンは兵を試すため帰国を呼びかけ、兵が本当に船へ殺到してしまう。 (2.5-36、2.110-154)
- アキレウスへの償いとして、鼎・黄金10タラントン・名馬12頭・レスボスの女7人・ブリセイス(手を触れていないと誓う)・トロイア陥落後の分け前・娘の一人と持参金・七つの町を申し出る。アキレウスは「砂や塵ほどの数の贈り物」でも心を変えないと拒む。 (9.115-161、9.378-392)
- アキレウスとの和解の場で、自分に罪はなく、ゼウスと運命とエリニュス、そして人を惑わす女神アテが心をくらませたのだと弁明する。 (19.85-94)
- 関係: child → atreus (2.105-108(王笏の系譜))
- 関係: sibling → menelaus (2.408-409)
- 関係: spouse → clytemnestra (『イリアス』1.113-115、『オデュッセイア』11.410-411)
- 関係: enemy → achilles (1.121-187)
- 関係: abducted → chryseis (1.8-33。戦利品として手元に置き、父の身代金を拒む)
- 関係: abducted → briseis (1.318-348。アキレウスの分け前を取り上げる)
- 関係: companion → nestor (1.247-284, 2.20-34)
- 関係: enemy → calchas (1.105-108「凶事ばかり告げる占い師」と睨みつける)
- 関係: ruler → mycenae (2.569-580)
- 関係: participated_in → aulis (『イリアス』2.303-330、『キュプリア』要約)
- 関係: participated_in → trojan-war (総大将。100隻(2.569-580))
アガウエ
- ヘシオドスでの姿: 『神統記』は、ハルモニアがカドモスに産んだ子として、イノ、セメレ、「頬の美しい」アガウエ、アウトノエ、ポリュドロスを挙げる。ホメロスにはカドモスの娘としてのアガウエは出てこない。同じ名の海のニンフ(ネレイス)は、ヘシオドスと『イリアス』の両方に名がある。 (『神統記』975-978, 247 /『イリアス』18.42)
アゲノル
- 『イリアス』で、ゼウスはエウロペを「名高いポイニクスの娘」と呼び、ミノスとラダマンテュスを産んだ女として挙げる。ホメロスには、エウロペの父としてのアゲノルは出てこない。アポロドーロスも、エウロペはアゲノルではなくポイニクスの娘だという説を併記する。 (『イリアス』14.321-322、アポロドーロス3.1.1)
- アゲノルという名の人物は神話に何人もいる。よく知られるのは、『イリアス』でアキレウスに立ち向かい、アポロンに霧に包まれて救われるトロイア方の戦士アゲノル(アンテノルの子)。ほかにもアポロドーロスには、アルゴスの王家やアイトリアの王家のアゲノル、予言者ピネウスの父とする説のアゲノルなどが出てくる。 (『イリアス』21.544-598、アポロドーロス1.7.7、1.9.21、2.1.2、ヒュギヌス19(ピネウスはアゲノルの子))
大アイアス
- 『イリアス』は「アキレウスが怒っている間は、アイアスが男たちの中で最も優れていた」と明言する。アキレウス不在の間の実質的な最強である。 (2.768-769)
- 七枚重ねの牛革に青銅を張った「塔のような盾」を持つ。神の助けや特別な武具ではなく、体格と持久力で戦う人間くさい英雄として描かれる。 (7.219-223)
- ヘクトルとの一騎打ちは決着がつかず、日が暮れて引き分けになる。二人は互いを称えて贈り物を交わし、アイアスは帯を贈り、ヘクトルからは銀の鋲を打った剣を受け取る。 (7.181-312(贈り物の交換は 7.299-305))
- トロイア勢が船に迫ると、アイアスは22ペーキュス(10メートル近く)の海戦用の長槍を手に、甲板から甲板へ大股で渡り歩いて防いだ。ヘクトルに槍の穂先を切り落とされると、ゼウスがトロイア方に勝たせようとしていると悟って退き、そこで船に火が放たれた。 (15.674-746、16.114-124)
- パトロクロスの遺体をめぐる戦いで戦場が霧に包まれると、アイアスは「父ゼウスよ、闇から救い、空を晴らしてくれ。殺すなら光の中で殺せ」と祈り、ゼウスは涙する彼を哀れんで霧を払った。 (17.643-650)
- 関係: enemy → hector (7.181-312。一騎打ちが引き分けに終わり、贈り物を交換する)
- 関係: companion → ajax-the-lesser (二人合わせて「アイアンテ(二人のアイアス)」と呼ばれ、並んで戦う(13.46-80, 13.701-708))
- 関係: companion → achilles (9.622-642。使節として説得に赴く)
- 関係: participated_in → trojan-war (サラミスから12隻(2.557-558))
小アイアス
- ロクリス勢40隻を率いる。大アイアスより小柄で亜麻の胸当てを着け、投げ槍の扱いでは全ギリシャ人に勝ると書かれる。重装ではなく軽装の戦士。 (2.527-535)
- パトロクロスの葬礼競技の徒競走で先頭を走るが、アテナに足を取られて牛の糞の中に倒れる。口の中まで糞だらけになり、観衆に笑われる。『イリアス』の彼はほぼ道化である。 (23.773-784)
- 『イリアス』では二人のアイアスがしばしば「アイアンテ(二人のアイアス)」という双数形でひとまとめに呼ばれ、並んで防戦する。ただしヴァッカーナーゲルは、この双数が本来「アイアスとその弟テウクロス」を指す省略双数で、小アイアスと組ませる読みのほうが後から生じたものだと論じた。 (13.46-80, 13.701-708 / ヴァッカーナーゲル「Zum homerischen Dual」(1877))
- 関係: companion → ajax-the-great (13.46-80, 13.701-708。二人組で「アイアンテ」と呼ばれる)
- 関係: participated_in → trojan-war (ロクリス勢40隻(2.527-535))
アルケスティス
- ホメロスでは、トロイアへ出陣したエウメロスの母で、「ペリアスの娘たちのうち容姿の最も優れた」女として名が出るだけ。夫の身代わりに死んだ話はない。 (2.711-715)
- 関係: spouse → admetus (『イリアス』2.711-715、エウリピデス『アルケスティス』、アポロドーロス 1.9.15)
アルクメネ
- ホメロスでは、テバイでヘラクレスを生んだ女性として名が出る。『オデュッセイア』の冥界の女性たちの列にも「アンピトリュオンの妻で、ゼウスの腕に抱かれてヘラクレスを生んだ」アルクメネが現れる。 (『イリアス』19.98-99、『オデュッセイア』11.266-268)
- 『イリアス』でアガメムノンが語る話では、ヘラクレスが生まれる日、ゼウスは「今日わが血を引く男子が生まれ、周りの者すべてを治める」と誓った。ヘラはお産の女神たちを止めてアルクメネの出産を遅らせ、ステネロスの妻に7か月の子エウリュステウスを産ませて、その支配をエウリュステウスのものにした。 (19.95-133(ヘラの行動は 19.114-124))
- 関係: parent → herakles (『神統記』943-944、『オデュッセイア』11.266-268、『イリアス』19.98-99)
- 関係: enemy → hera (19.114-119 ヘラが出産の女神エイレイテュイアたちを止めてアルクメネのお産を遅らせる)
アルタイア
- ホメロスの形: 兄弟を殺された悲しみから、アルタイアは神々に祈り、ひざまずいて胸を涙で濡らしながら手で大地を打ち、ハデスとペルセポネに息子の死を願った。闇を歩くエリニュスがそれを聞いた。薪は出てこない。 (9.565-572)
- 関係: parent → meleager (『イリアス』9.555 / バッキュリデス 5.136-140 / 1.8.2 / Met. 8.451-459)
アマゾン族
- ホメロスでは「男に匹敵する」アマゾンとして2回だけ現れる。プリアモスが若い頃に戦った相手、そしてベレロポンが倒した相手。住む場所や女王の名は語られない。 (3.184-189, 6.186)
- 関係: enemy → bellerophon (『イリアス』6.186、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』13.87-90)
- 関係: enemy → priam (3.184-189 若きプリアモスがプリュギア人の援軍としてサンガリオス河畔でアマゾンと戦った)
アンブロシアとネクタル
- 『イリアス』では、神々はパンを食べず赤いぶどう酒を飲まないので血を持たず、不死と呼ばれる、と説明される。ディオメデスに傷つけられたアプロディテから流れたのは、神々に流れる霊液イコルだった。 (5.335-342)
- 神々の宴でネクタルを注ぐのはヘベで、ある場面ではヘパイストスが注いで回って神々の笑いを誘う。ガニュメデスはゼウスの酒注ぎとして天にさらわれた。アプレイウスでは、ネクタルは「神々のぶどう酒」と呼ばれ、ゼウスには田舎の少年(ガニュメデス)が、他の神々にはリベル(ディオニュソス)が注ぐ。 (『イリアス』4.1-4、1.595-600、20.231-235、アプレイウス6.24)
- ヘラの馬たちのためには、シモエイス川がアンブロシアを生やして食べさせた。アンブロシアは馬の飼い葉にもなる。 (5.775-777)
- アテナは食を断つアキレウスの胸にネクタルとアンブロシアをしたたらせて飢えを防ぎ、テティスはパトロクロスの亡骸の鼻にアンブロシアとネクタルを注いで腐らないようにした。アポロンはゼウスの命でサルペドンの亡骸をアンブロシアで清めた。ヘラはアンブロシアで体の汚れを落とす。 (19.340-354、19.36-39、16.666-683、14.170-172)
アンピトリテ
- 『オデュッセイア』では、アンピトリテは「海」の言い換えとして出てくる。「アンピトリテの波のあいだに」「名高いアンピトリテが育てる海の怪物」「青い目のアンピトリテの大波」のように使われ、ポセイドンの妻としては一度も描かれない。『イリアス』には名が出ない。 (『オデュッセイア』3.91, 5.421-422, 12.60, 12.97。『イリアス』はギリシャ語本文を全文検索して確認)
アナンケ
- ヘシオドス『神統記』の神々の系譜にアナンケは出てこない。言葉としては「強い必然のもとで」アトラスが天を支える(517)、プロメテウスが縛られる(615)のように、逃れられない強制を表す普通の語として使われる。『イリアス』『オデュッセイア』でも同様。 (『神統記』517、615。ホメロスと『神統記』のギリシャ語本文で ἀνάγκη を検索し、系譜・神としての登場がないことを確認(2026年9月))
アンキセス
- 関係: parent → aeneas (2.819-821)
- 関係: participated_in → troy (20.239-240 トロイア王家アッサラコスの系統)
アンドロマケ
- 父エエティオンと七人の兄弟はアキレウスに殺され、母も身代金で戻ったのち死んだ。「あなたが私の父であり母であり兄弟です」とヘクトルに言う。 (6.413-428(一族の死)、6.429-430(この台詞))
- 『イリアス』第6歌で、城壁の外へ出ずイチジクの木のあたりを守るようヘクトルに具体的な戦術まで示して訴えるが、聞き入れられない。 (6.431-439)
- ヘクトルの葬儀での嘆きで、父を失った子の行く末を語り、街が落ちればアカイア勢の誰かが息子を城壁から投げ落とすだろうと予感する。『イリアス』はここまでで、実際に殺される場面は描かない。 (24.723-745(とくに 24.734-739))
- ヘクトルが息子を抱こうとすると、子は兜の馬毛の房飾りを怖がって乳母の胸に泣きついた。父と母は笑い、ヘクトルは兜を脱いで地に置き、息子に口づけしてゼウスに祈った。アンドロマケは涙のうちに笑って子を受け取った。 (6.466-484)
- ヘクトルの死を知らないアンドロマケは館の奥で紫の布に花を織り込み、夫の湯のために鼎を火にかけさせていた。城壁からの悲鳴に杼を取り落とし、駆けつけて亡骸が引きずられるのを見て気を失い、結婚の日にアプロディテから贈られた頭の飾りを落とした。 (22.437-476)
- 関係: spouse → hector (6.390-502)
- 関係: parent → astyanax (6.399-403, 22.500-507)
- 関係: participated_in → trojan-war (6.407-439 夫に城壁の外で戦うなと訴える)
アンティロコス
- パトロクロスの死をアキレウスに伝える役を負う。知らせた後、アキレウスが自害しないよう両手を握って押さえる。『イリアス』で最も重い知らせを運ぶのが、この若者である。 (18.1-34(手を握るのは 18.32-34))
- パトロクロスの葬礼競技の戦車競走で、父の助言どおり狭いところで無理に追い越してメネラオスを抜く。抗議されると、若さを理由に非を認めて賞を譲り、メネラオスも怒りを収める。争いの収め方として、1巻のアガメムノンとアキレウスの対応と正反対に置かれている。 (23.402-441(追い越し)、23.566-611(抗議と和解))
- 徒競走で最下位の賞を取ったアンティロコスは、笑いながら、足でアキレウスにかなう者はいないとほめ、アキレウスは喜んで賞に金を半タラントン加えた。 (23.785-797)
- 抗議したメネラオスに、アンティロコスは若さゆえの過ちと認め、賞の雌馬を差し出し、家の宝も譲りたいと言う。メネラオスの心は露にぬれる麦の穂のように和み、雌馬を彼に返した。 (23.586-611)
- 関係: child → nestor (23.301-350)
- 関係: companion → achilles (『イリアス』18.1-34 / 『オデュッセイア』24.76-79)
- 関係: companion → menelaus (23.566-611。戦車競走で争い、譲って和解する)
- 関係: participated_in → trojan-war (ピュロス勢の一員として)
アプロディテ
- 『イリアス』ではゼウスとディオネの娘。ディオメデスに傷つけられたアプロディテは母ディオネの膝に泣きつき、ゼウスから「戦はお前の仕事ではない、婚礼のことを受け持て」とたしなめられる。泡の話はホメロスには無い。 (5.370-371(ディオネの娘)、5.426-430(ゼウスの言葉))
- 『神統記』200 はアプロディテを φιλομμηδής「陰部を愛する者」と呼び、生まれ方に引っかけて説明する。ホメロスの定型句 φιλομμειδής「笑みを愛する者」との一字違いを利用した言葉遊び。 (『神統記』200。『イリアス』3.424, 4.10 などが φιλομμειδής)
- 息子アイネイアスを戦場から運び出そうとして、アテナに励まされたディオメデスに手首を突かれる。不死の者の血イコルが流れ、泣きながらオリュンポスへ帰る。 (5.311-354。イコルの説明は 5.339-342)
- 戦場から救い出したパリスのもとへヘレネを行かせる。ヘレネが拒むと「私を怒らせるな、お前を捨てて憎ませることもできる」と脅す。ヘレネは黙って従う。 (3.383-420。脅しは 3.414-417)
- ゼウスを誘って眠らせようとするヘラが、老夫婦の神オケアノスとテテュスを仲直りさせたいと偽って愛と欲望を求めると、アプロディテは愛・欲望・睦言を縫い込んだ刺繍の帯を胸もとから外して渡す。トロイア方の女神の力が、ギリシャ方を助ける計略に使われる。 (14.153-165(ヘラの計略)、14.187-221(帯の受け渡し))
- 関係: child → zeus (5.370-371。傷ついて母ディオネの膝にすがり、ゼウスに「戦のことはお前の仕事ではない」と諭される(5.426-430))
- 関係: parent → aeneas (『アプロディテ讃歌』5.191-201(名の由来を含む予言)。『イリアス』5.311-317 では戦場で息子を救おうとする)
- 関係: companion → paris (3.373-382。メネラオスに首を絞められかけたパリスを霧に包んで寝室へ運ぶ)
- 関係: companion → helen (3.383-420。老婆に化けてヘレネをパリスの寝室へ呼び、拒まれると脅してでも従わせる)
- 関係: enemy → hera (24.25-30。パリスの審判)
- 関係: enemy → athena (5.418-430(負傷を嘲る)、24.25-30)
- 関係: enemy → diomedes (5.330-354。手首を槍で突かれ、不死の血イコルを流して戦場を去る)
アポロン
- 『イリアス』は、アガメムノンに娘を返してもらえなかった神官クリュセスの祈りにアポロンが応え、銀の弓で九日間ギリシャ軍に疫病の矢を射る場面から動き出す。まず騾馬と犬、次に人間が倒れる。 (1.8-52。矢の描写は 1.43-52)
- トロイアの城壁に三度挑むパトロクロスを四度目に叱りつけて退け、霧に隠れて背後から打ち、兜・槍・楯を落とす。エウポルボスが槍を入れ、最後にヘクトルが止めを刺す。実質的に神が殺している。 (16.698-711(城壁)、16.788-806(打撃))
- アキレウスの死は『イリアス』には描かれない。死に際のヘクトルが「パリスとポイボス・アポロンがお前をスカイア門で殺すだろう」と予言するのみで、実際の場面は失われた叙事詩『アイティオピス』や後代の作品で語られる。 (『イリアス』22.358-360(予言)。『アイティオピス』はプロクロスの梗概でアポロンとパリスによる殺害を伝える。クイントゥス 3.30-185)
- カッサンドラに予言の力を与えて言い寄ったが拒まれ、「誰にも信じてもらえない」という呪いを加えた。ホメロスはカッサンドラを美しい王女として挙げるだけで、予言者としては描かない。 (アポロドーロス 3.12.5。『アガメムノン』1202-1212。『イリアス』13.365-366, 24.699-702 では予言への言及が無い)
- 関係: killed → patroclus (16.788-806。背後から打って兜と槍と胸当てを落とし、人間の手による止めを可能にする)
- 関係: companion → hector (15.236-262(力を与える)、22.213(ついに見捨てる))
- 関係: enemy → achilles (22.7-20(アキレウスを欺いて城門から引き離す)。22.359-360 でヘクトルがアポロンとパリスによる死を予言する)
- 関係: companion → poseidon (21.441-457。共にラオメドンに仕えトロイアの城壁を築いた)
- 関係: companion → chryseis (1.8-52。神官クリュセスの娘。彼女の返還を拒んだアガメムノンにアポロンが疫病を送る)
アレス
- 傷ついて訴えるアレスに、父ゼウスは「オリュンポスに住む神々の中で、お前が最も憎い。いつも争いと戦と殺し合いばかり好む」と言い放つ。 (5.888-891)
- アテナが自ら戦車に乗って槍を導き、人間ディオメデスがアレスの下腹を突く。アレスは「一万人の兵が叫ぶような」声をあげて天へ逃げた。 (5.846-863。叫び声は 5.859-861)
- 神々の戦いでは、アテナが野に転がる境界石を投げつけてアレスを倒し、七プレトロン(約200メートル)の広さに倒れ伏させる。アテナに二度打ち負かされている。 (21.391-414)
- 『イリアス』ではトロイア側に立って戦う。アテナとヘラにギリシャ方で戦うと約束していながら寝返った、とアテナに詰られる。 (5.699-710(トロイア側での戦い)、5.831-834(ヘラの非難))
- アロエウスの子オトスとエピアルテスに縛られ、青銅の甕に13か月閉じ込められた。兄弟の継母エエリボイアがヘルメスに知らせ、ヘルメスが盗み出さなければ滅びるところだった。 (5.385-391)
- 息子アスカラポスの戦死を聞いて腿を打って嘆き、ゼウスの雷に撃たれても復讐に行くと言って武装するが、アテナが兜・盾・槍を取り上げて叱り、座らせる。 (15.110-142)
- ゼウスは叱りつけたあと「わが子だから」と、医神パイエオンに傷を治させる。ヘベが湯浴みさせ、アレスはゼウスの隣に座る。 (5.895-906)
- 関係: enemy → athena (5.846-863, 21.391-414。二度打ち倒される)
- 関係: enemy → diomedes (5.846-863。人間に腹を槍で刺され、一万人分の叫びをあげて天へ逃げる)
- 関係: sibling → eris (4.440-441。エリスは「人を殺すアレスの妹にして仲間」と呼ばれる)
アルゴス
- 『イリアス』でヘラは、自分がいちばん愛する町はアルゴス、スパルタ、道の広いミュケナイの三つだと言い、ゼウスがそれらを憎むなら滅ぼしてよい、自分はかばわない、と申し出る。 (4.51-53)
- 『イリアス』の船の目録で、アルゴスと城壁で名高いティリュンスなどの町の兵はディオメデスが率い、80隻の黒い船が従った。 (2.559-568)
- 関係: owned_by → hera (『イリアス』4.51-53、パウサニアス2.15.5)
- 関係: ruled_by → diomedes (2.559-568)
アリアドネ
- 『イリアス』では、ヘパイストスがアキレウスの盾に描いた踊りの場が「かつて広いクノッソスでダイダロスが髪の美しいアリアドネのために造った踊り場」にたとえられる。ホメロスでダイダロスの名が出るのはこの一箇所だけ。 (18.590-592)
アキレウスの武具
- アキレウスの武具は二組ある。一組目は神々がペレウスに贈ったもので、パトロクロスがこれを借りて出撃し、討たれてヘクトルに奪われる。二組目はテティスの依頼でヘファイストスが新たに作ったもの。アイアスとオデュッセウスが争ったのは二組目のほうである。混同されやすいが、詩の中では別物としてはっきり区別されている。 (16.130-144(一組目を貸す)、17.192-197(奪われる)、18.468-617(二組目の製作))
- 新しい楯には、大地と空と海、二つの都市(訴訟の場面と包囲の場面)、耕作、収穫、葡萄の取り入れ、牛の群れ、羊飼い、踊りの場、そして縁を巡るオケアノスの流れまでが描かれる。130行を超えるこの描写は、武具というより世界全体の図になっている。戦争の詩の真ん中に、戦争と無縁の日常がまるごと置かれている。 (18.478-608)
- ヘクトルが奪った武具を身につけるとき、ゼウスが頭を振って「おまえは死を思わず、不死の武具を着ている。この武具の主はまもなくおまえを殺すだろう」と憐れむ。戦利品を着ることが死の予告になる場面。 (17.198-208)
- パトロクロスはアキレウスの剣・盾・兜を身につけたが、槍だけは持っていかなかった。ケイロンがペレウスに贈ったペリオン山のとねりこの槍で、重く大きく、アキレウスのほかは扱えなかった。 (16.130-144)
- テティスが新しい武具をアキレウスの前に置くと、武具は鳴り響き、ミュルミドネスは震えて見ることもできなかったが、アキレウスは目を炎のように燃やして喜んだ。 (19.12-20)
- ヘクトルは奪ったアキレウスの武具に全身を覆われていたが、鎖骨が首と肩を分ける喉元だけが開いており、アキレウスの槍はそこを貫いた。 (22.321-327)
- 関係: owned_by → achilles (18.468-617)
- 関係: created_by → hephaestus (18.468-617。テティスの依頼で一夜のうちに作る)
- 関係: owned_by → peleus (17.194-197。神々がペレウスに贈り、老いた彼から子に渡った(一組目))
- 関係: owned_by → hector (17.192-208。パトロクロスから剥ぎ取って身に着ける(一組目))
アルテミス
- 神々の戦いの場面で、ヘラに「厚かましい牝犬」と罵られ、両手首を掴まれて自分の弓で耳を打たれ、矢をこぼしながら泣いて父ゼウスの膝へ逃げる。後代の峻厳な処女神像とはかけ離れた扱い。 (21.479-496。ゼウスの膝で泣く場面は 21.505-513)
- 子の多さを誇ったニオベに対し、アポロンが息子たちを、アルテミスが娘たちを射殺した。アキレウスがプリアモスに食事を勧める比喩としてホメロスが語る。 (24.602-609)
- 神々の戦いで、ポセイドンとの戦いを避けた兄アポロンを「風のように役に立たない弓を持つ」となじったことが、ヘラの怒りを招く直接のきっかけになる。ヘラは「ゼウスはおまえを女たちに対する獅子にした」と罵る。 (21.470-486)
- カリュドン王オイネウスが収穫の初穂を彼女にだけ供えなかったため、白い牙の大猪を送って果樹園を荒らさせた。猪はメレアグロスが諸国の狩人を集めて仕留めたが、女神は頭と皮をめぐる争いを起こさせた。 (9.533-549)
- 関係: enemy → hera (21.479-496。ヘラに両手を掴まれ、自分の弓で耳を打たれて泣きながら逃げる)
アスカニウス
- ホメロスの『イリアス』にもアスカニオスという名は出てくるが、アイネイアスの子ではない。アスカニエの地から来たプリュギア人の援軍の将として登場する。アイネイアスの息子の名としては使われていない。 (2.862-863、13.792-793)
アスクレピオス
- 『イリアス』でアスクレピオスは神としては登場せず、テッサリアの軍を率いる二人の優れた医者、マカオンとポダレイリオスの父として名が出る。マカオンは「非の打ちどころのない医者アスクレピオスの息子」と呼ばれ、ケイロンがその父に薬の知識を授けた、とも語られる。 (2.729-733, 4.193-194, 4.217-219, 11.518)
- 関係: student → chiron (『イリアス』4.219 ケイロンがアスクレピオスに薬を教えた。ピンダロス『ピュティア』3.1-7, 3.45-46。アポロドロス 3.10.3)
アステュアナクス
- 名が二つある。父ヘクトルはスカマンドリオスと呼び、トロイア市民はアステュアナクス(街の王)と呼んだ。ヘクトルひとりがイリオスを守っていたからだと『イリアス』は説明する。 (6.402-403)
- 父の兜の馬毛の房飾りに怯えて乳母の胸に泣きすがり、ヘクトルとアンドロマケが笑う。『イリアス』でもっとも家庭的な場面として知られる。 (6.466-481)
- 『イリアス』には死は書かれていない。アンドロマケが葬儀の嘆きの中で「城壁から投げ落とされるだろう」と予感するだけで、その先は語られない。 (24.734-739)
- 兜を脱いだヘクトルは息子に口づけしてあやし、ゼウスと神々に「この子も私のようにトロイア人の中で抜きん出て、力強くイリオスを治め、いつか戦から帰ったとき『父よりずっと優れている』と言われますように」と祈る。アンドロマケは涙のうちにほほえんだ。 (6.472-484)
- ヘクトルの死を知ったアンドロマケは、父の膝で髄と脂を食べていた子が、父を失って宴から追い払われ泣いて戻ってくるだろうと嘆く。 (22.487-507)
- 関係: child → hector (6.399-403, 6.466-481)
- 関係: child → andromache (6.399-403, 22.500-507)
- 関係: participated_in → troy (6.402-403 名前そのものが「街の王」で、トロイアの未来を背負わされている)
アタランテ
- ホメロスには登場しない。『イリアス』9歌のカリュドンの猪の話にも、バッキュリデス第5歌(前476年)の猪狩りにも出てこない。猪狩りの英雄としての姿が確かめられるのは、エウリピデス『フェニキアの女たち』(前410年頃)の盾の図柄や、ローマ期のアポロドーロス、オウィディウスから。 (『イリアス』9.529-599 / バッキュリデス 5.93-154 /『フェニキアの女たち』1104-1109。「登場しない」は現存本文の範囲での確認)
アテナ
- 『イリアス』最初の場面で、アガメムノンを斬ろうとしたアキレウスの金髪を後ろから掴んで止める。姿はアキレウスにしか見えない。 (1.193-222)
- ディオメデスに神を見分ける目を与え、アプロディテを傷つけることを許し、後には自ら彼の戦車に乗ってアレスに槍を突き立てさせる。『イリアス』で人間が神を傷つけるこの場面は、アテナの後押しで起きる。 (5.121-132, 5.330-354(アプロディテ), 5.846-863(アレス))
- ヘクトルの弟デイポボスに化けて「共に戦おう」と声をかけ、ヘクトルに踏みとどまらせたうえで姿を消す。ヘクトルは槍を投げ尽くしてから欺かれたと悟る。 (22.226-247, 22.294-305)
- 神々の戦いの場面で、アテナは大きな石をアレスの首に投げつけて倒す。 (21.391-414)
- 関係: companion → diomedes (5.1-8, 5.121-132。力を吹き込み、神を見分ける目を与える)
- 関係: enemy → ares (5.846-863(ディオメデスの槍を導く)、21.391-414(石で打ち倒す))
- 関係: companion → hera (4.20-25, 5.711-792)
- 関係: enemy → aphrodite (5.418-430(アプロディテの負傷を嘲る)、24.25-30(パリスの審判))
- 関係: enemy → paris (24.25-30)
- 関係: enemy → hector (22.226-247。弟デイポボスに化けてヘクトルを引き留め、逃げ場を断つ)
アテナイ
- 『イリアス』の船の名簿では、アテナイは「よく建てられた城塞」で、心大きいエレクテウスの民の町。メネステウスが率いて50隻を出す。 (2.546-556)
- 関係: ruled_by → erechtheus (『イリアス』2.546-551、アポロドーロス 3.15.1)
- 関係: participated_in → trojan-war (2.546-556 メネステウスが50隻を率いる)
アトレウス
- ホメロスのアトレウスはほとんど王笏の系譜にしか出てこない。しかもそこではペロプスから王笏を受け、死に際して弟テュエステスに渡し、テュエステスがアガメムノンに渡すという、ごく穏やかな継承になっている。後代に有名な兄弟の骨肉の争いは影も形もない。 (2.100-108)
- 「アトレウス家(アトレイダイ)」という呼び方自体は『イリアス』からあり、アガメムノンとメネラオスを指す。呪われた一族という含みが加わるのは、悲劇が兄弟の争いを主題にして以降である。 (『イリアス』2.408-409 ほか / 『アガメムノン』全体)
- 関係: child → pelops (2.104-105)
- 関係: parent → agamemnon (2.105-108)
- 関係: parent → menelaus (2.408-409(兄弟がともにアトレイデスと呼ばれる))
- 関係: ruler → mycenae (『イリアス』2.105-108、アポロドーロス摘要 2.11-2.12)
アウゲイアス
- 『イリアス』では、ネストルの昔語りに「人々の王」アウゲイアスが出てくる。ネレウスが鼎を賭けた競走のためにエリスへ送った四頭の勝ち馬と戦車を、アウゲイアスが取り上げ、御者を悲しませて帰した。戦ではネストルが、アウゲイアスの婿で長女アガメデ(大地の育むあらゆる薬草を知る女)の夫ムリオスを討つ。2巻の軍船の目録では、エペイオイの指揮官の一人がアウゲイアスの子アガステネスの子ポリュクセイノスで、ドゥリキオンの軍を率いるメゲスの父ピュレウスは「父への怒りから」ドゥリキオンへ移ったとされる。家畜小屋の話は出てこない。 (11.698-702、11.737-741、2.615-630)
- 関係: enemy → nestor (11.698-702、11.737-741 アウゲイアスがネレウスの競走馬を取り上げ、のちのピュロスとエペイオイ(エリス)の戦でネストルがアウゲイアスの婿ムリオスを討つ)
アウリス
- 『イリアス』2巻で、オデュッセウスが士気を立て直すためにアウリスでの予兆を思い出させる。犠牲を捧げている最中、蛇が現れて雀の雛8羽と母鳥を呑み、そのまま石に変わった。カルカスはこれを「9年戦い、10年目にトロイアは落ちる」と解いた。 (2.303-330)
- ホメロスはアウリスに触れながら、イピゲネイアの犠牲には一言も触れない。逆風も、娘を殺す王も出てこない。アウリスでの出来事として語られるのは、蛇と雀の予兆だけである。 (2.303-330)
- 関係: setting_of → trojan-war (2.303-330。ここから船出した)
ベレロポン
- ベレロポンの話を最も早く、まとまった形で語るのは『イリアス』6巻。トロイア側のリュキア人グラウコスが、戦場で向き合ったディオメデスに自分の家系を名乗る場面で、祖父の物語として語られる。聞いたディオメデスは、祖父同士が客友だったと気づいて一騎打ちをやめ、二人は武具を交換する。 (6.119-236(ベレロポンの話は 6.155-202))
- プロイトス王は、妃の訴えを信じてベレロポンをリュキアの義父のもとに送り、「折りたたんだ板に、命を奪うしるしを多く刻んで」持たせた。ホメロスでは珍しい、書き付けによる伝達の場面である。 (6.167-170)
- 言い寄って拒まれ、逆に夫へ讒言した王妃の名は、『イリアス』ではアンテイア。 (6.160)
- リュキア王は、キマイラ退治、ソリュモイ人との戦い、アマゾンとの戦い、さらに精鋭の待ち伏せと、次々に死地へ送ったが、ベレロポンはすべて生き延びた。王は神の血筋だと悟って娘と王国の半分を与えた。『イリアス』には、この間ペガソスは一度も出てこない。 (6.178-195)
- ベレロポンの子ヒッポロコスの子がグラウコス、娘ラオダメイアがゼウスとの間に生んだのがサルペドン。『イリアス』でトロイア側に立つリュキアの二大将は、どちらもベレロポンの孫にあたる。なおアポロドーロスは、サルペドンをエウロペの子(ミノスの兄弟)とする別系譜も伝える。 (『イリアス』6.196-206、アポロドーロス 3.1.1)
- 『イリアス』は晩年について、神々に憎まれ、人を避けてアレイオンの野をひとりさまよったとだけ語る。ピンダロスは理由を補うように、ペガソスで天の神々の座へ昇ろうとして振り落とされたと歌う。 (『イリアス』6.200-202、『イストミア祝勝歌』7.44-47)
- 関係: killed → chimera (『イリアス』6.179-183、『神統記』325、アポロドーロス 2.3.2(空の上から射落とす))
- 関係: enemy → amazons (『イリアス』6.186、『オリュンピア』13.87-89、アポロドーロス 2.3.2)
- 関係: grandparent → glaucus (『イリアス』6.196-206 子ヒッポロコスの子がグラウコス)
- 関係: grandparent → sarpedon (『イリアス』6.196-199、アポロドーロス 3.1.1 娘ラオダメイアとゼウスの子)
ボイオティア
- 『イリアス』の船の目録はボイオティア勢から始まる。ペネレオスら五人が率い、ヒュリア、岩がちのアウリス、テーバイなど多くの町から50隻が来て、一隻ごとに120人の若者が乗った。 (2.494-510)
- 関係: has_member → aulis (2.496)
ボレアス
- ホメロスでは、ボレアスは黒いたてがみの牡馬に姿を変えて、トロイアのエリクトニオスの牝馬たちと交わった。生まれた12頭の仔馬は、麦の穂先の上を折らずに駆け、海の波頭の上を走ったという。 (20.219-229)
ブリセイス
- アキレウスがリュルネソスを攻めた際の分け前として得た女。アガメムノンがクリュセイスを返す代償に取り上げたことで、『イリアス』の事件全体が始まる。 (1.184-187, 1.318-348, 2.688-693)
- 返還にあたって、アガメムノンは「彼女の床に上ったことも、交わったこともない」と神々にかけて誓う。戦利品の女の価値が名誉の証しとして扱われていることが露骨に見える場面。 (9.131-134, 19.258-268)
- 『イリアス』で彼女が口をきくのは一度だけ。パトロクロスの遺体に取りすがって嘆く場面である。故郷の町が落ち、夫と三人の兄弟が討たれたこと、そのときパトロクロスが「泣くな、アキレウスの正妻にしてやる」と慰めてくれたことを語る。ギリシャ側が滅ぼした側の女の声として置かれている。 (19.282-302)
- ブリセイスという名は「ブリセウスの娘」を意味する父称形で、固有名ではない。クリュセイス(クリュセスの娘)と同じ作りになっており、二人が対の存在として置かれていることが名前の形から分かる。 (1.392(ブリセウスの娘)、1.11(クリュセス))
- 使者たちに引き渡されたブリセイスは、気の進まないままついて行った。アキレウスは泣いて仲間から離れ、海辺に座って母テティスに祈った。 (1.345-351)
- ブリセイスの嘆きに女たちが声を合わせたが、それは表向きパトロクロスのため、実はそれぞれが自分の悲しみを泣いていた、と詩は書く。 (19.301-302)
- プリアモスが陣屋に泊まった夜、アキレウスは陣屋の奥で眠り、その傍らにブリセイスが横たわった。 (24.673-676)
- 関係: lover → achilles (9.336-343。アキレウスは「心から愛している」と言う)
- 関係: abducted_by → agamemnon (1.318-348)
- 関係: companion → patroclus (19.295-300。彼が自分をアキレウスの正妻にすると約束してくれたと語る)
- 関係: participated_in → trojan-war (1.184-187, 2.688-693)
カドゥケウス
- ホメロスでは、ヘルメスの杖は望む者の目を眠らせ、眠る者を目覚めさせる杖として、同じ言い回しで繰り返し描かれる。 (『イリアス』24.343-344、『オデュッセイア』5.47-48、24.2-4)
- ヘルメスはこの杖を手にして、ヘクトルの亡骸を取り戻しに行くプリアモスをアキレウスの陣屋まで導き、途中で番兵たちを眠らせる。 (24.339-345、24.443-445)
- 関係: owned_by → hermes (『ヘルメス讃歌』529-532、『イリアス』24.343、『オデュッセイア』5.47、24.2-5)
- 関係: participated_in → priam (24.339-345、24.443-445 プリアモスを導くとき、番兵を眠らせる)
カルカス
- 疫病の原因はアポロンの神官クリュセスへの侮辱だと言い当てる。ただし口を開く前に「これを言えば強い男を怒らせる」と言い、アキレウスに身の安全を保証させてから話す。占い師が王を恐れる場面として印象的。 (1.68-100(保身の条件は 1.74-83))
- 「今あることも、これからあることも、かつてあったことも知る」と紹介され、アポロンから授かった占いの術でギリシャ船団をイリオスまで導いたとされる。 (1.69-72)
- アウリスで、蛇が雀の雛8羽と母鳥を呑んで石に変わる予兆を解き、「9年戦い、10年目にトロイアは落ちる」と予言した。この場面は『イリアス』本編ではなく、2巻でオデュッセウスが士気を立て直すために回想する形で語られる。 (2.303-330(予言の解釈は 2.322-329))
- 関係: enemy → agamemnon (1.105-108。真実を告げた直後に睨みつけられる)
- 関係: companion → achilles (1.74-91。身の安全を保証させてから口を開く)
- 関係: participated_in → aulis (『イリアス』2.322-330 の予兆解き、『キュプリア』要約)
- 関係: participated_in → trojan-war (1.68-100)
カリオペ
- ホメロスの二つの叙事詩には、カリオペを含め九柱の個々の名は一つも出てこない。叙事詩の冒頭で呼びかけられるのは、名のない「ムーサ」「女神」。 (『イリアス』1.1、『オデュッセイア』1.1。九柱の名はギリシャ語本文を全文検索して確認)
カリスト
- ホメロスは、大熊座(「車」とも呼ばれる)が同じ所を回り続け、「ただひとつオケアノスの水浴びにあずからない」、つまり水平線の下に沈まない星座だと歌う。ただしカリストの名も、熊になった娘の話も出てこない。 (『イリアス』18.487-489 /『オデュッセイア』5.272-275)
- オウィディウスは、ホメロスが歌った「熊座は海に沈まない」ことの理由を物語で与える。恋敵が星になったことに怒ったユノが、海の神オケアノスとテテュスのもとへ下り、あの星を海の水に浸からせないでほしいと頼んだ、という結末。ユノはこのとき、牝牛に変えられたイオが元の姿に戻された例も引いて嘆いている。 (Met. 2.508-530(イオへの言及 2.524)/『イリアス』18.489)
カリュドン
- ホメロスでは「岩がちの」「急峻な」「愛らしい」カリュドンと呼ばれる。船のカタログでは、アンドライモンの子トアスが、プレウロン、オレノス、カルキスなどとともにカリュドンのアイトリア人を率いて40隻で参戦する。オイネウスの息子たちも、メレアグロスもすでに亡く、トアスが指揮を任された、と添えられている。 (2.638-644, 9.530-532, 14.116)
- 『イリアス』のメレアグロスの話では、猪狩りの後、クレテス人がカリュドンを攻め、城壁を越えて町に火を放ちかけた。守りを固めていたアイトリア人は、籠もっていたメレアグロスに、カリュドンの平野で最も肥えた50ギュエス(ギュエスは耕地の単位)の土地、半分は葡萄畑、半分は畑を報酬として約束する。 (9.529-532, 9.573-589)
- トロイアへ40隻を率いたのはアンドライモンの子トアスで、オイネウスの息子たちも金髪のメレアグロスももはや生きていなかったので、彼にアイトリア人の指揮が託された。 (2.638-644)
- 関係: ruled_by → oeneus (『イリアス』9.533-540, 14.115-117 / 1.8.1)
カリュドンの猪狩り
- ホメロスの形: 『イリアス』9歌で、ポイニクスがアキレウスを説得するために語る昔話として出てくる。オイネウスが初穂をアルテミスにだけ捧げなかったため、女神は白い牙の猪を送り、メレアグロスが「多くの町から狩人と犬を集めて」仕留めた。狩人の名はメレアグロス以外ひとりも挙がらない。アタランテも、燃えさしの薪も出てこない。話の中心は狩りの後で、猪の頭と皮をめぐってクレテス人とアイトリア人の戦争になり、怒ったメレアグロスが戦いから退く。 (9.529-599(狩人の招集 9.543-546、頭と皮の争い 9.547-549))
- 関係: has_episode → oeneus (発端。『イリアス』9.533-537 収穫の初穂をアルテミスにだけ捧げなかった / 1.8.2 / Met. 8.273-283)
- 関係: participant → artemis (猪を送った女神。『イリアス』9.538-542 / バッキュリデス 5.97-110 / 1.8.2 / Met. 8.279-283)
- 関係: has_episode → meleager (猪を仕留める。『イリアス』9.543-546「多くの町から狩人と犬を集めて」/ 1.8.2 脇腹を突いて / Met. 8.414-424)
- 関係: located_at → calydon (舞台の町。『イリアス』9.530-532 / Met. 8.270-272)
カパネウス
- ホメロスでの姿: 『イリアス』でカパネウスは、ディオメデスの戦友ステネロスの父「名高いカパネウス」として名が出るだけで、雷の話は語られない。そのステネロスが「父たちは自らの愚かさで滅んだ」と言い放ち、父の世代の敗北を語る。 (2.563-564, 4.365-367, 4.403-410)
カッサンドラ
- 『イリアス』のカッサンドラには予言の力も呪いも無い。「プリアモスの娘のうち最も美しい」と紹介され、父が運んできたヘクトルの遺体を城壁から最初に見つけて嘆きを上げる役である。 (13.365-366(美貌)、24.699-706(遺体を見つける))
- 関係: child → priam (13.365-366, 24.699-706)
- 関係: sibling → hector (24.699-706 兄の遺体を最初に見つける)
- 関係: participated_in → trojan-war
カストル
- 「馬を御するカストル」と呼ばれる。 (3.237)
- 『イリアス』3巻で、ヘレネは城壁からギリシャ軍を見渡して二人の兄弟を探すが見つけられず、恥ずかしがって来なかったのだろうかと思う。詩人はすぐに「二人はすでに故郷のラケダイモンの地に葬られていた」と付け加える。ヘレネは自分が知らないことを、読者だけが知らされる。 (3.236-244)
- 関係: sibling → polydeuces (『イリアス』3.237、『オデュッセイア』11.300)
- 関係: sibling → helen (3.236-238)
ケンタウロス族
- 『イリアス』でネストルが語る山の敵や、ペイリトオスがペリオン山から追い払った相手は、「獣(ペーレス)」と呼ばれるだけで、半人半馬の姿は描かれない。『イリアス』で「ケンタウロス」の語が出るのは、ケイロンを「最も正しいケンタウロス」と呼ぶ一箇所。 (1.262-268、2.740-744、11.832(ギリシャ語本文を検索して確認))
- 関係: has_member → chiron (『イリアス』11.832「最も正しいケンタウロス」、アポロドーロス1.2.4)
- 関係: enemy → theseus (『イリアス』1.265、『変身物語』12.227-237、パウサニアス5.10.8)
- 関係: enemy → nestor (1.259-272 若いころの戦い)
ケルベロス
- ホメロスは「ハデスの犬」「犬」とだけ呼び、ケルベロスという名も頭の数も出さない。ヘラクレスがそれを連れ出したことは知っている。 (『イリアス』8.366-368、『オデュッセイア』11.623-625)
- 関係: abducted_by → herakles (『オデュッセイア』11.623-625、『イリアス』8.366-368、アポロドーロス 2.5.12)
- 関係: servant → hades (『神統記』311「ハデスの犬」、『イリアス』8.368)
カオス
- ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』にはカオスという語も存在も出てこない。世界の始まりを系譜として語るのはヘシオドスからで、ホメロスでは「神々の起源」とされるのはオケアノスである(『イリアス』14.201)。 (両叙事詩のギリシャ語本文を全文検索して χάος の用例が無いことを確認。14.201 はオケアノスの項を参照)
カリス
- ヘパイストスの妻は伝えによって違う。『イリアス』ではテティスを迎えるのは「輝くヴェールのカリス」でヘパイストスの妻とされ、『神統記』では三人のうち末のアグライアが妻になる。『オデュッセイア』ではヘパイストスの妻はアプロディテである。 (『イリアス』18.382-383。『神統記』945-946。『オデュッセイア』8.266-270)
- 『イリアス』でヘラは眠りの神ヒュプノスに、ゼウスを眠らせてくれたら「カリスたちのうち若い一人」パシテエを妻にやると約束する。ここではカリスは三人より多い集団として扱われ、名前もヘシオドスの三人と重ならない。 (14.267-276)
- カリスたちはアプロディテの身支度に仕える。アプロディテの神々しい衣はカリスたちが織ったもので、アレスとの密通が露見したあとには、パポスで彼女を湯浴みさせ香油を塗る。 (『イリアス』5.338。『オデュッセイア』8.364-366)
- 関係: spouse → hephaestus (『神統記』945-946 末娘アグライアがヘパイストスの妻。『イリアス』18.382-383 では名は「カリス」)
キマイラ
- 『イリアス』は「神の生まれで人の類ではない、前は獅子、後ろは竜、真ん中は山羊(キマイラ)、燃える火の恐ろしい息を吐く」と描く。名前がそのまま「山羊」の意でもあるので、真ん中の部分が名になっている。 (『イリアス』6.179-182、etymonline「chimera」)
- 『イリアス』16巻には、キマイラを育てたのはアミソダロスという人物で、その息子たちがトロイア側で戦ったとある。怪物に「飼い主」がいたという珍しい伝え。 (『イリアス』16.328-329。アポロドーロス 2.3.1 もホメロスを引いてこれに触れる)
- プロイトスの妃アンテイアはベレロポンに拒まれると夫に偽りを告げ、プロイトスは「殺せ」と刻んだ書き板を持たせてリュキアの舅のもとへ送った。リュキア王は9日もてなしたのち書き板を見て、まずキマイラ退治を命じ、次いでソリュモイ人、アマゾンと戦わせ、待ち伏せも仕掛けたが、すべて退けられたので娘と王権の半分を与えた。 (6.155-195)
- 関係: killed_by → bellerophon (『イリアス』6.179-183、『神統記』325、アポロドーロス 2.3.2)
ケイロン
- ホメロスのケイロンは二箇所しか出てこない。「ケンタウロスのうち最も正しい者」としてアキレウスに薬草の知識を教えたこと(11.830-832)と、ペリオンのトネリコからペレウスへの槍を作って贈ったこと(16.143-144, 19.390-391)。英雄たちの養育者という大きな役は、ここから後代に膨らんだものである。 (11.830-832, 16.140-144, 19.390-391)
- 関係: teacher → achilles (11.830-832。薬草の知識をアキレウスに教えた)
- 関係: companion → peleus (16.143-144。ペリオンのトネリコの槍をペレウスに贈った)
クリュセイス
- 父クリュセスが莫大な身代金と神の飾りを掲げて娘の返還を求めたが、アガメムノンは荒々しく追い返す。クリュセスの祈りを聞いたアポロンが9日間にわたって矢を射かけ、軍を疫病が襲う。『イリアス』はここから始まる。 (1.8-52)
- 返還を求められたアガメムノンは「彼女のほうが妻クリュタイムネストラより好ましい。器量でも体つきでも心でも劣らない」と公言して拒む。この台詞は、のちに妻に殺されるという結末を知って読むと相当に重い。 (1.111-115)
- 疫病を止めるため、オデュッセウスが船で父のもとへ送り届け、アポロンに百頭の犠牲を捧げる。この帰還と和解の場面が丁寧に描かれるのに対し、代わりに連れ去られるブリセイスの場面は短い。 (1.430-487)
- クリュセイスも「クリュセスの娘」という父称形で、本人の名ではない。父の名クリュセスは町の名クリュセに由来する。名前の三段重ね(町→父→娘)がそのまま人物の存在の仕方を示している。 (1.11, 1.37, 1.390)
- 父クリュセスは、アガメムノンに追い返されると浜辺でアポロンに「私の涙をダナオイ人に矢で償わせてください」と祈り、娘が戻ると同じ呼びかけで「今度は疫病を遠ざけてください」と祈る。どちらの祈りもアポロンは聞き入れた。 (1.33-43、1.446-457)
- 関係: abducted_by → agamemnon (1.8-33, 1.111-115)
- 関係: companion → apollo (父がアポロンの神官で、その祈りが疫病を招く(1.35-52))
- 関係: companion → odysseus (1.430-487。オデュッセウスが船で父のもとへ送り届ける)
- 関係: participated_in → trojan-war (1.8-52)
キコネス族
- 『イリアス』の軍勢の一覧では、キコネス族はトロイアに味方する側に数えられている。オデュッセウスの最初の略奪は、戦争の延長の相手でもあった。 (2.846-847 率いるのはエウペモス)
- 関係: participated_in → trojan-war (『イリアス』2.846-847 エウペモスが率いるトロイア側の同盟軍)
キニュラス
- ホメロスのキニュラスは、トロイア戦争に直接かかわる。『イリアス』第11巻でアガメムノンが身につける胸当ては、かつてキニュラスが客人への贈り物として贈ったもので、キュプロスまで届いた「アカイア人がトロイアへ船出する」という大きな噂を聞き、王の機嫌をとるために贈ったのだという。のちの変身物語の悲劇の王とは、まったく違う姿で登場する。 (11.19-23)
- キニュラスがアガメムノンに贈った胸当てには、黒青(キュアノス)の帯10本、金の帯12本、錫の帯20本があり、首元に向かって虹のような青い蛇が両側に3匹ずつ伸びていた。 (11.24-28)
- 関係: gave_gift → agamemnon (11.19-23 トロイア遠征の噂を聞いて、客人への贈り物として胸当てを贈った)
クレイオ
- ホメロスの二つの叙事詩にクレイオの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
コイオス
- ホメロスの二つの叙事詩にコイオスの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
クレタ島
- 『イリアス』の船の目録ではクレタは「百の都市をもつ」島。『オデュッセイア』では「葡萄酒色の海の真ん中に九十の都市」とされ、アカイア人、エテオクレタ人(生粋のクレタ人)、キュドネス人、ドーリス人、ペラスゴイ人と、言葉の違う人々が入り混じっていると描かれる。 (『イリアス』2.649、『オデュッセイア』19.172-177)
- 関係: ruled_by → idomeneus (13.449-453 ミノスの孫。トロイア戦争のクレタ軍を率いる(2.645-652))
クレイオス
- ホメロスの二つの叙事詩にクレイオスの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
キュプロス島
- アガメムノンの胸当ては、かつてキニュラスが客への贈り物として与えたもので、ギリシャ軍がトロイアへ船出するという大きなうわさをキュプロスで聞き、王を喜ばせるために贈ったものだった。 (11.19-28)
- 関係: ruled_by → cinyras (11.20-21)
ダイダロス
- ホメロスでダイダロスの名が出るのは一度だけ。アキレウスの盾の踊りの場面が「かつてクノッソスでダイダロスがアリアドネのために造った踊り場」にたとえられる。迷宮も翼も出てこない。 (18.590-592)
- 関係: visited → crete (『イリアス』18.590-592 クノッソスで踊り場を造る。アポロドーロス 3.15.8)
ダナエ
- 『イリアス』では、ゼウスがヘラに向かって過去の恋を数え上げる場面で「くるぶしの美しいアクリシオスの娘ダナエ」として名が出る。黄金の雨や幽閉の話は語られない。 (14.319-320)
- 関係: lover → zeus (『イリアス』14.319-320、アポロドーロス 2.4.1)
- 関係: parent → perseus (『イリアス』14.319-320、アポロドーロス 2.4.1)
デイアネイラ
- デイアネイラの名はホメロスには出てこない。ヘラクレスの死の経緯そのものも、ホメロスは「ヘラの怒りに屈した」とだけ言う。 (18.117-119)
- アポロドーロスでは、父オイネウスの別の子がテバイ攻めの勇士テュデウスで、その子がトロイア戦争のディオメデス。デイアネイラはディオメデスの叔母にあたる。さらにこのオイネウスは、『イリアス』でディオメデスが語る祖父、かつてベレロポンを20日間もてなした客友でもある。 (アポロドーロス 1.8.1, 1.8.4-5、『イリアス』6.215-217, 14.115-117)
デイポボス
- 『イリアス』最大の役どころは本人不在の場面である。アキレウスの前から逃げるヘクトルに、アテナがデイポボスの姿で近づき「一緒に立ち向かおう」と励ます。ヘクトルは弟が来たと信じて踏みとどまり、槍を投げた後に振り返ると誰もいない。 (22.226-247(騙し)、22.294-305(気づく))
- 実際に戦場でも活躍しており、メリオネスと槍を交え、盾で防いだのち反撃される場面などがある。 (13.156-168, 13.402-416, 13.527-539)
- 関係: child → priam (13.156-158 プリアモスの子として)
- 関係: sibling → hector (22.226-247, 13.402-416)
- 関係: participated_in → trojan-war
デルポイ
- ホメロスには「デルポイ」という名は出てこない。『イリアス』『オデュッセイア』では古名の「ピュト」だけが使われ、「岩がちのピュト」「聖なるピュト」と呼ばれる。 (『イリアス』2.519、9.405、『オデュッセイア』8.80、11.581(ギリシャ語本文を検索して確認))
- 『イリアス』でアキレウスは、命と引き換えにならないものの例として、ピュトのアポロンの石の敷居の内に納められた富を挙げる。神殿はすでに富の象徴として扱われている。 (9.401-409)
デメテル
- ホメロスの叙事詩でのデメテルは、麦を風で選り分ける比喩や「デメテルの穀物」といった表現に現れる程度で、娘の誘拐の物語は語られない。デメテル神話の中心はホメロスの外にある。 (5.499-502(麦を選り分ける比喩)、13.322, 21.76(デメテルの穀物))
デウカリオン
- ホメロスにはデウカリオンの洪水が出てこない。『イリアス』に出るデウカリオン(13.449-450)はミノスの子で、クレタの王イドメネウスの父という別人。ピュラの夫のデウカリオンが文献に現れるのはヘシオドスの名で伝わる系譜詩の断片と、前5世紀のピンダロスから。 (『イリアス』13.449-450(ゼウス→ミノス→デウカリオン→イドメネウスの系譜)。ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.41-53)
ディオメデス
- 『イリアス』5巻は彼一人の武勇伝(アリステイア)に充てられる。冒頭でアテナが目から霧を払い、神と人間を見分けられるようにする。そのうえで「アフロディテ以外の神には手を出すな」と釘を刺す。 (5.1-8, 5.127-132)
- 息子アイネイアスを庇おうとしたアフロディテの手首を槍で突く。流れ出たのは血ではなく「イコル」と呼ばれる神々の液で、そのために神々は不死なのだと説明される。 (5.330-354(イコルの説明は 5.339-342))
- アテナが自ら戦車に乗り込み、槍を導いてアレスの下腹を突かせる。アレスは一万の男が叫ぶような声をあげてオリュンポスに逃げ帰る。人間が二柱の神を傷つけるのは『イリアス』でここだけ。 (5.846-863)
- トロイア方のグラウコスと向き合った際、家系を尋ねて祖父同士が客人としてもてなし合った間柄だと分かり、戦わずに武具を交換する。ゼウスがグラウコスの分別を奪ったため、黄金の武具と青銅の武具、牛百頭分と牛九頭分の交換になったと詩は皮肉る。 (6.119-236(交換の値打ちは 6.234-236))
- 『イリアス』10巻ではオデュッセウスと夜の偵察に出て、トロイア方の斥候ドロンを捕らえて情報を得たうえで殺し、寝込みのトラキア勢とその王レソスを討つ。英雄的というより奇襲の話で、この巻を後から入ったものとみる見方は近代に始まったものではない。タウンリー(T)写本の古註は「この歌はホメロスが別に作ったもので『イリアス』の一部ではなく、ペイシストラトスが編入した」と伝えている。 (10.339-579 / T 写本の 10 巻冒頭への古註)
- 傷ついたアプロディテから流れたのは「イコル」で、神々はパンを食べず葡萄酒を飲まないので血を持たず、そのために不死と呼ばれる、と詩は説明する。アプロディテは息子アイネイアスを取り落とし、イリスに連れられてオリュンポスへ逃げる。 (5.339-354)
- 関係: companion → athena (5.1-8, 5.121-132, 5.826-863。アテナが直接に加勢する)
- 関係: enemy → aphrodite (5.330-354。手首を突いて不死の血(イコル)を流させる)
- 関係: enemy → ares (5.855-863)
- 関係: companion → glaucus (6.119-236。祖父の代からの客人の誼を確かめ、戦わずに武具を交換する)
- 関係: companion → odysseus (『イリアス』10巻の夜襲、『小イリアス』要約のパラディオン奪取)
- 関係: participated_in → trojan-war (アルゴスから80隻(2.559-568))
ディオネ
- 『イリアス』では、ディオメデスに手を傷つけられたアプロディテがオリュンポスに逃げ帰り、母ディオネの膝にすがる。ディオネは娘の傷を拭って癒やす。 (5.370-417)
- ディオネは娘を慰めるために、神々も人間からひどい目にあってきたと語る。アレスはオトスとエピアルテスに青銅の壺に13か月閉じ込められ、ヘラとハデスはヘラクレスの矢に射られた。神々の「痛い思い出」がまとめて語られる珍しい場面。 (5.382-404)
- ディオネは、神々と戦う者は長くは生きられず、戦から帰っても子らが膝で「父よ」と呼ぶことはない、とディオメデスの行く末を語り、両手で娘の腕の神血を拭って傷を癒やす。 (5.405-417)
- アテナとヘラは、アプロディテがアカイアの女をトロイア人のもとへ誘おうとして金の留め金で手をひっかいたのだろうとからかい、ゼウスはほほえんで、戦いではなく結婚のことを受け持てと娘に言う。 (5.418-430)
- 関係: parent → aphrodite (『イリアス』5.370-417。アポロドロス 1.3.1)
- 関係: lover → zeus (アポロドロス 1.3.1 ゼウスとのあいだにアプロディテ。『イリアス』5.370-371 でもアプロディテはディオネとゼウスの娘として扱われる)
ディオニュソス
- 『イリアス』でのディオニュソスへのまとまった言及は一箇所だけ。トラキア王リュクルゴスが乳母たちを追い散らし、ディオニュソスは恐れて海に飛び込みテティスに匿われた、という短い挿話にとどまる。 (6.130-140。他は 14.325(セメレの子として名が挙がるのみ))
- 関係: companion → thetis (6.135-137。リュクルゴスに追われて海に飛び込んだディオニュソスを、テティスが胸に抱いて匿った)
エキドナ
- ホメロスにエキドナは出てこない。『イリアス』はキマイラを「前は獅子、後ろは蛇、真ん中は山羊」と描くが、その母は語らない。 (6.179-182。エキドナの名がないことはギリシャ語本文を全文検索して確認)
エイレイテュイア
- ホメロスでは一柱のこともあれば、複数のこともある。『イリアス』は、傷の痛みにうめくアガメムノンを、お産の鋭い痛みを送る「ヘラの娘たち、エイレイテュイアたち」に苦しめられる女にたとえる。別の箇所では一柱の「陣痛を送るエイレイテュイア」が赤子を光のもとへ連れ出す。 (11.269-272, 16.187-188, 19.103)
- 『イリアス』では、ゼウスが「今日生まれる自分の血筋の男が周りを治める」と誓ったのを利用して、ヘラはステネロスの妻の七か月の子エウリュステウスを先に産ませ、アルクメネのお産を止めてエイレイテュイアたちを押しとどめた。こうしてヘラクレスはエウリュステウスに仕える身になる。 (19.95-133)
- 関係: child → hera (『神統記』921-923、『イリアス』11.270-271「ヘラの娘たち」、アポロドロス 1.3.1)
- 関係: enemy → alcmene (『イリアス』19.117-119 ヘラがエイレイテュイアたちを押しとどめてアルクメネのお産を止める。オウィディウス 9.281-323、アポロドロス 2.4.5)
エレクトラ
- ホメロスにエレクトラという名は出てこない。『イリアス』9.144-145 に挙がるアガメムノンの娘は、クリュソテミス、ラオディケ、イピアナッサの三人である。 (9.144-145)
- 『イリアス』9.145 はアガメムノンの娘をクリュソテミス・ラオディケ・イピアナッサの三人とし、エレクトラの名が無い。アイリアノスは、ステシコロスより古い抒情詩人クサントスが彼女をラオディケと呼んでいたと伝え、夫を持たないまま歳を重ねたので「臥所の無い(ア・レクトロス)」からエレクトラと呼ばれるようになったのだと説明する。 (『イリアス』9.144-145 / アイリアノス『ギリシア奇談集』4.26(クサントスの伝え))
エオス
- ホメロスでは夜明けの場面の多くが「早く生まれ、薔薇色の指をもつエオスが現れると」という定型句で始まる。曙そのものが女神として毎朝登場する書き方。 (『イリアス』1.477 など3例。『オデュッセイア』2.1 など20例以上(ギリシャ語本文を全文検索))
- 関係: spouse → tithonus (『イリアス』11.1-2「高貴なティトノスの傍らの床から」。『アプロディテ讃歌』(5)218-238)
エピゴノイのテーバイ攻め
- ホメロスでの扱い: 『イリアス』4歌で、アガメムノンにディオメデスを父テュデウスと比べて貶されたステネロス(カパネウスの子)が反論する。「我々は父たちよりはるかに優れている。より少ない兵で、より強い城壁の七門のテーバイを落とした。父たちは自らの愚かさで滅んだのだから、父たちを我々と同じ名誉に並べるな」。エピゴノイの勝利は、ホメロスの時点ですでに前提として知られていた。 (4.403-410)
- 関係: participant → diomedes (『イリアス』4.405-410(ステネロスの「我々二人」)/ 3.7.2 / 10.10.4)
- 関係: located_at → thebes (攻め落とされた町。『イリアス』4.406 / 3.7.4)
エラト
- ホメロスの二つの叙事詩にエラトの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
エレボス
- ホメロスではエレボスは神ではなく場所として使われる。オデュッセウスが冥界の入口で供犠をするとき羊の頭を「エレボスの方へ」向け、死者の魂は「エレボスから」群がり出てくる。『イリアス』では、ヘラクレスがハデスの犬を「エレボスから」連れ出す遠征に触れる。 (『オデュッセイア』10.528, 11.37, 11.564。『イリアス』8.368)
エレクテウス
- 『イリアス』の船の名簿では、アテナイの人々は「心大きいエレクテウスの民」と呼ばれる。エレクテウスは穀物を与える大地が産み、アテナが育ててアテナイの自分の社に住まわせた王で、アテナイの若者たちが毎年、牡牛と牡羊を捧げて祀る、とされる。 (2.546-551)
- 関係: child → gaia (『イリアス』2.547-548「穀物を与える大地が産んだ」。ヘロドトス 8.55「大地から生まれたと言われるエレクテウス」。後代の系図ではパンディオンの子(アポロドーロス 3.14.8))
- 関係: foster_child → athena (2.547-549 アテナが育て、アテナイの自分の豊かな社に住まわせた)
- 関係: ruler → athens (『イリアス』2.546-547、アポロドーロス 3.15.1、ヒュギヌス 48)
エリクトニオス
- ホメロスには「エリクトニオス」の名でのアテナイ王は出てこない。『イリアス』では、大地が産みアテナが育ててアテナイの自分の社に住まわせたのは「エレクテウス」とされる。後代の系図では、この生まれの話がエリクトニオスに移り、エレクテウスはその孫になる。 (『イリアス』2.546-551、アポロドーロス 3.14.6-8)
- 『イリアス』に出るもう一人のエリクトニオスは、ダルダノスの子でトロイア王家の祖先。3000頭の牝馬をもつ人間一の富者で、北風ボレアスが牡馬の姿でその牝馬と交わり、麦の穂を折らずに走る12頭の仔馬が生まれた。アテナイのエリクトニオスとは同名の別人。 (20.219-229)
エリニュス
- ホメロスでは数も名も定まらず、単数でも複数でも呼ばれる。親の呪いを実行し(フォイニクスの父の呪い、メレアグロスの母の呪い)、年長者の権利を守り、偽りの誓いを罰する。『イリアス』では、アキレウスの馬クサントスが未来を告げたとき、その声を止めたのもエリニュスたち。 (9.453-456, 9.566-572, 15.204, 19.258-260, 19.418)
- 関係: enemy → meleager (9.566-572 母アルタイアが息子の死を祈り、闇を行くエリニュスがエレボスからそれを聞く)
エリス
- 「飽くことを知らぬ怒りの、人を殺すアレスの妹にして仲間」。初めは小さく現れるが、やがて頭が天に届くまで大きくなり、地の上を歩きながら人々の間に憎しみを撒く。 (4.440-445)
- 第11巻の冒頭で、ゼウスはエリスだけをギリシャ軍の船へ送り込む。エリスはオデュッセウスの黒い船の上に立ち、恐ろしい叫びをあげてすべての兵に戦う力を吹き込む。 (11.3-14)
- ゼウスに遣わされたエリスがオデュッセウスの船の上で叫ぶと、アカイア勢の胸に戦う力が吹き込まれ、船で故郷へ帰るより戦うほうが甘く思われるようになった。 (11.10-14)
- 関係: sibling → ares (4.440-441)
- 関係: companion → zeus (11.3-14。ゼウスがエリスをギリシャ軍の船へ遣わし、オデュッセウスの船の上で戦いの叫びをあげさせる)
エロス
- ホメロスでは ἔρος は「欲望」を表す普通名詞としてしか出てこず、翼のある神エロスは登場しない。たとえば『イリアス』でヘラを見たゼウスを「欲望が包んだ」と語る箇所。 (3.442, 14.294, 14.315。全文検索で神としての用例がないことを確認)
エテオクレス
- ホメロスでの姿: 『イリアス』には、使者として来たテュデウスが「力強いエテオクレスの館」で宴を開くカドモスの民に力比べを挑む場面があり、テーバイの王としての名だけが一度出てくる。オイディプスの息子であることも、兄弟との争いも語られない。 (4.384-390)
- 関係: ruler → thebes (『イリアス』4.385-386「力強いエテオクレスの館」/『七将』1-9 / 3.6.1)
- 関係: visited_by → tydeus (『イリアス』4.384-390 使者テュデウスがエテオクレスの館で宴を開くカドモスの民に力比べを挑む / 3.6.5)
エウロペ
- 『イリアス』では、ゼウスが過去の恋を並べる中で「名高いポイニクスの娘」として触れられ、ミノスとラダマンテュスを生んだとされるだけ。名前も牡牛の話も出てこない。 (14.321-322)
- 父親は出典で割れる。ホメロスではポイニクス(フェニキア人の名祖)の娘。アポロドーロスはアゲノルとテレパッサの娘を本筋とし、「ポイニクスの娘だと言う人もいる」と添える。アゲノルの祖先をたどると、牝牛にされたイオとその子エパポスに行き着く。 (『イリアス』14.321 / 3.1.1、2.1.4(エパポス→リビュエ→アゲノル))
- クレタでゼウスとの間にミノス、ラダマンテュス、サルペドンを生んだとアポロドーロスは書く。ただし同時に、ホメロスではサルペドンはゼウスとラオダメイア(ベレロポンテスの娘)の子だと断っており、トロイア戦争で戦うリュキアのサルペドンとの関係は出典によって揺れる。 (3.1.1 /『イリアス』6.197-199)
- 関係: lover → zeus (『イリアス』14.321-322 / 3.1.1)
- 関係: parent → minos (『イリアス』14.321-322(ミノスとラダマンテュス)/ 3.1.1(ミノス、サルペドン、ラダマンテュス))
エウリュステウス
- ゼウスが「今日生まれる自分の血を引く者が周りの者すべてを治める」と誓うと、ヘラはアルゴスに急ぎ、ペルセウスの子ステネロスの妻の七か月の子を先に生ませ、アルクメネのお産を止めた。こうしてゼウスの誓いはエウリュステウスのものになった。 (19.95-124)
- 関係: master → herakles (『イリアス』8.362-363, 19.132-133、『オデュッセイア』11.620-622、アポロドーロス 2.4.12-2.5.12)
- 関係: advisee → hera (19.114-124 ヘラがエウリュステウスを早く生まれさせ、アルゴス人の王とする)
エウテルペ
- ホメロスの二つの叙事詩にエウテルペの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
- 『イリアス』では、トラキア王レソスは「エイオネウスの子」と呼ばれ、母がムーサだという話は出てこない。 (10.434-435)
- 『イリアス』のレソスは、雪より白く風のように速い馬と黄金の鎧を持つトラキアの王で、トロイアに着いた夜、陣に忍び込んだディオメデスに眠ったまま討たれ、馬はオデュッセウスに連れ去られる。 (10.433-502)
ガイア
- ホメロスの叙事詩ではガイアは物語の登場人物としてはほとんど現れず、誓いの証人として天・太陽・川と並べて呼ばれる存在にとどまる。創世の物語はホメロスには無い。 (『イリアス』3.276-280(アガメムノンの誓い)、『オデュッセイア』5.184-186(カリュプソの誓い))
ガラテイア
- ホメロスとヘシオドスのガラテイアは、ネレウスの娘たちの名前の列の一人にすぎない。『イリアス』では、パトロクロスの死を嘆くアキレウスのもとに母テティスとともに姉妹たちが集まる場面で「名高いガラテイア」と呼ばれ、『神統記』のネレイデスの一覧では「姿の美しいガラテイア」とされる。ポリュペモスとの話はどちらにもない。 (『イリアス』18.37-49(ガラテイアは 18.45)/『神統記』240-264(ガラテイアは 250))
- 関係: member_of → nereids (『イリアス』18.45「名高いガラテイア」(テティスの嘆きに集まるネレウスの娘たち)/『神統記』250)
ガニュメデス
- 『イリアス』では「人間の中で最も美しい」と紹介され、その美しさゆえに神々が連れ去り、不死の者たちの間でゼウスの酌をさせたと記される。誰が連れ去ったかも、鷲も出てこない。 (20.231-235)
- ゼウスは代償として、父トロスに不死の名馬を与えた。この馬がトロイア王家の名馬の由来とされ、後にラオメドンがヘラクレスに約束して惜しむ馬にもつながる。 (『イリアス』5.265-273、ホメロス風讃歌5(アプロディテ)202-217)
- 『イリアス』のトロイア王家の系譜では、ガニュメデスはトロスの子で、イロス・アッサラコスの兄弟。ラオメドンはイロスの子、つまりガニュメデスの甥にあたる。兄弟のように並べられることがあるが、一世代ずれている。 (20.230-240。アイネイアスがアキレウスに語る家系。トロス→イロス/アッサラコス/ガニュメデス、イロス→ラオメドン、ラオメドン→ティトノス・プリアモスら)
- 関係: participated_in → troy (20.231-235 トロス王家の一員)
- 関係: uncle_aunt → laomedon (20.230-240 兄イロスの子がラオメドン)
グラウコス
- 戦場で名乗り合ったところ、祖父オイネウスとベレロポンが賓客としてもてなし合った間柄だと分かり、「戦うのはやめよう」と槍を収めて武具を交換する。戦争の只中で客人歓待の掟が働く、『イリアス』で例外的な場面。 (6.119-236)
- その交換で、グラウコスは黄金の武具を青銅の武具と取り替えてしまう。牛百頭分と牛九頭分の差で、語り手は「ゼウスが彼の正気を奪った」と評する。「割に合わない交換」の喩えとして古代から使われた。 (6.232-236)
- この場面で語られる祖父ベレロポンの物語(誣告による使い、キマイラ退治、「殺せ」と書かれた板を持たされる件)は、『イリアス』の中で最も長い挿話の一つで、ギリシャ文学における文字らしきものへの唯一の言及としても議論されてきた。 (6.152-211(「殺意のしるし」は 6.168-170))
- サルペドンの遺体を守るよう頼まれるが、自身も腕に傷を負っており、アポロンに祈って癒やしを得てから戦列へ戻る。 (16.492-531)
- ディオメデスに素性を問われたグラウコスは、「人の世代は木の葉の世代のようなもの。風が散らせば、春に森はまた葉を出す」と答えてから家系を語る。 (6.144-151)
- ベレロポンの子らのうち、ヒッポロコスの子がグラウコス、娘ラオダメイアがゼウスとの間に産んだのがサルペドンで、二人はいとこにあたる。 (6.196-206)
- 関係: companion → sarpedon (2.876-877, 12.309-330, 16.492-501)
- 関係: companion → diomedes (6.119-236 祖父同士の賓客関係(クセニア)を確認して武具を交換する)
- 関係: participated_in → trojan-war (リュキア勢の将)
グラウコス(海の神)
- ホメロスに海の神グラウコスは出てこない。『イリアス』のグラウコスは、トロイア側で戦うリュキアの将で、まったくの別人。 (『イリアス』6.119-236 などのグラウコスはリュキア人。海の神としての用例はギリシャ語本文を全文検索して確認)
グライアイ
- ホメロスの二つの叙事詩にグライアイは出てこない。『イリアス』に出る「グライア」はボイオティアの地名で、別物。 (『イリアス』2.498(地名グライア)。ギリシャ語本文を全文検索して確認)
ハデス
- 三兄弟のくじ引きで「霧と闇」すなわち冥界を得た。ポセイドンの言葉として語られる。 (15.187-193)
- ピュロスでヘラクレスに矢を射られ、耐えがたい痛みを抱えてオリュンポスへ上り、パイエオンに薬を塗ってもらって癒えた、とディオネが語る。ハデスが冥界を離れる珍しい場面。 (5.395-404)
- アテナが「ハデスの兜」をかぶってアレスの目から姿を隠す。姿を消す兜への言及はホメロスではこの一箇所だけで、詳しい由来は語られない。 (5.844-845)
- オリュンポスに住まないため、通常「オリュンポス十二神」には数えられない。ホメロスでも神々の集会にハデスは現れない。プラトン『法律』も、十二神の祭りを毎月行うとしたうえで、地下の神々は天上の神々と分け、プルトンの祭りは十二番目の月に置くとしている。 (『イリアス』20.4-74 の神々の集会にハデスの名は無く、地下で驚いて跳び上がる側(20.61-65)として描かれる。十二神信仰の確かな年代はトゥキュディデス 6.54.6-7 のアテナイのアゴラの十二神の祭壇(前522年頃)まで。名簿の異同は OCD『Twelve Gods』(I. Rutherford)の項。プラトン『法律』828b-d)
- 神々が戦場でぶつかり合い、ポセイドンが大地を揺らしたとき、冥界の王アイドネウス(ハデス)は恐れて玉座から跳び上がり叫んだ。大地が裂けて、神々さえ忌み嫌う湿った暗い館が、人にも神にも見えてしまうことを恐れたのである。 (20.54-65)
- 『イリアス』9巻でアガメムノンは、ハデスはなだめようがなく屈することもない、だから神々の中で人間に最も憎まれる、と言う。 (9.158-159)
- 関係: sibling → zeus (15.187-193)
- 関係: sibling → poseidon (15.187-193)
ハイモン
- ホメロスにもハイモンの名は出てくる。『イリアス』4歌で、使者テュデウスを待ち伏せた50人の伏兵の将の一人が「ハイモンの子マイオン」で、テュデウスはこのマイオンだけを生かして帰した。クレオンの子ハイモンと同一人物かどうかは『イリアス』からは分からない。 (4.391-398)
ハルピュイア
- ホメロスでは、ハルピュイアは人をさらって消してしまう風のような存在として出てくる。行方の知れないオデュッセウスについて、テレマコスは「ハルピュイアにさらわれた」と言い、ペネロペイアは、パンダレオスの娘たちがハルピュイアにさらわれ、復讐の女神エリニュスたちに召し使いとして渡された話をする。アキレウスの神馬クサントスとバリオスを西風ゼピュロスとの間に産んだのも、ハルピュイアのポダルゲとされる。 (『オデュッセイア』1.241-242、20.61-78。『イリアス』16.149-151)
ヘベ
- 『イリアス』では、ヘベはオリュンポスの神々の給仕役。黄金の床に集まった神々に神酒ネクタルを注ぎ、ヘラの戦車に車輪をはめ、ディオメデスに傷つけられたアレスの体を洗って衣を着せる。家の娘らしい細々とした仕事を受け持っている。 (4.2-3, 5.722, 5.905)
ヘカテ
- ホメロスの二つの叙事詩にヘカテは登場しない。まとまった記述はヘシオドスとホメロス風讃歌から始まる。 (ギリシャ語本文を全文検索して Ἑκάτη の用例がないことを確認)
ヘカトンケイル
- ホメロスに出てくるのはブリアレオス一人だけ。『イリアス』でアキレウスが母テティスに思い出させる話では、ヘラとポセイドンとアテナがゼウスを縛ろうとしたとき、テティスが百の手を持つ者をオリュンポスに呼び寄せた。神々は彼を「ブリアレオス」、人間は「アイガイオン」と呼ぶ。父よりも力が強い彼がゼウスの隣に座ると、神々は恐れて縛るのをやめた。 (1.396-406)
- ヘシオドスとホメロスでは、百手の巨人はゼウスを助ける側。ティタンとの戦いを決着させ(ヘシオドス)、神々の反乱からゼウスを救う(ホメロス)。ローマの詩で「ユピテルに逆らった者」とされるのとは正反対。 (『神統記』713-735。『イリアス』1.396-406)
- 関係: companion → thetis (1.396-406 神々がゼウスを縛ろうとしたとき、テティスがブリアレオスをオリュンポスに呼んで救う)
ヘクトル
- スカイア門で妻アンドロマケと幼子に会う場面は『イリアス』の中でも有名な一節。兜の房飾りに怯えた息子を見て兜を脱ぎ、笑いながら抱き上げて「父に勝る者に」と祈る。 (6.390-502(兜を脱ぐのは 6.466-481))
- パトロクロスを討つが、『イリアス』の描写では先にアポロンが武具を叩き落とし、エウポルボスが背を突いた後にとどめを刺す形になっている。 (16.786-857)
- 城壁の外でアキレウスに討たれる。アテナがヘクトルの弟デイポボスに化けて彼を引き止め、独りで立ち向かわせた。死に際に自分の遺体を返すよう乞うが拒まれる。 (アテナの策 22.226-247、討たれるのは 22.326-363)
- アキレウスは遺体の踵に革紐を通して戦車で引きずり、12日間そうし続けるが、アポロンとアプロディテが遺体を守り腐敗させなかった。最後は神々の合議で返還される。 (22.395-404(引きずる)、23.184-191(神々が守る)、24.1-140(神々の決定))
- アンドロマケとの別れで、ヘクトルはイリオスがいつか滅びることを知っていると言い、何よりつらいのは、妻が捕虜として連れ去られて他国で機を織り水を汲まされる日のことだと語る。 (6.447-465)
- アイアスとの一騎打ちは日暮れで引き分けとなり、ヘクトルは銀鋲の剣を、アイアスは緋色の帯を贈って友好のうちに別れた。 (7.299-305)
- ギリシャ方の防壁の門を、二人がかりでも持ち上げられない大石を一人で投げて打ち破り、躍り込む。 (12.445-466)
- アキレウスが迫ると恐れて逃げ、二人はトロイアの城壁のまわりを三周した。 (22.136-166)
- 死にぎわのヘクトルは、パリスとアポロンがスカイア門でアキレウスを討つ日が来ると予言する。 (22.355-360)
- 『イリアス』の最後の行は「こうして彼らは馬を馴らすヘクトルの葬儀を営んだ」である。 (24.804)
- 関係: child → priam (22.25-91 父プリアモスが城壁から呼びかける)
- 関係: child → hecuba (22.79-89)
- 関係: spouse → andromache (6.390-502 スカイア門での別れ)
- 関係: parent → astyanax (6.399-403, 6.466-481 兜に怯える幼児を抱き上げて祈る)
- 関係: sibling → paris (3.38-57 パリスを「災いのパリス」と罵る)
- 関係: killed → patroclus (16.818-857。ただしアポロンとエウポルボスが先に傷つけている)
- 関係: killed_by → achilles (22.326-363)
- 関係: participated_in → trojan-war (トロイア軍の総大将)
- 関係: participated_in → troy (6.402-403 トロイア人は彼が街を守るからと息子をアステュアナクス(街の王)と呼んだ)
ヘカベ
- 『イリアス』ではヘクトルの勧めでトロイアの女たちを率い、最も美しい衣をアテナの神殿に捧げて祈るが、女神は聞き入れない。 (6.269-311)
- アキレウスと戦おうとするヘクトルに、城壁から胸をはだけて「この乳で育てた」と訴えて引き止めようとするが、聞き入れられない。 (22.79-89)
- プリアモスがアキレウスの陣へ行こうとすると、ヘカベは止めようとし、アキレウスの肝に歯を立てて食らいつきたいと叫ぶ。 (24.200-216)
- 戻ったヘクトルの遺体の前で、女たちの哀歌を先導し、子どもたちの中でいちばんいとしい子、死んでもなお神々に守られていると歌う。 (24.747-759)
- 関係: spouse → priam (24.193-227)
- 関係: parent → hector (22.79-89 城壁から胸をはだけてヘクトルに戦うなと乞う)
- 関係: participated_in → trojan-war (トロイア側の王妃として)
ヘレネ
- ゼウスの娘と呼ばれる。 (3.199, 3.418)
- 『イリアス』のヘレネは自分を「犬のような私」と繰り返し責め、来る前に死んでいればよかったと言う。一方でプリアモスも老臣たちも彼女を責めない。最終巻のヘクトルの葬儀では三人目の嘆き手として現れ、トロイアに来て20年、ヘクトルだけは一度も自分に辛く当たらなかったと語る。これが作中で彼女が口にする最後の言葉である。 (3.171-180, 6.344-358(自責)、3.161-170(プリアモスが責めない)、24.762-775(ヘクトルへの嘆き))
- 『イリアス』3巻で、ヘレネは館で大きな紫の布を織り、自分のためにトロイア人とギリシャ人が耐えてきた戦いの数々を縫い取っている。 (3.125-128)
- アプロディテに寝室へ連れて来られたヘレネは、戦場から救い出されたパリスに、あの強い人(かつての夫)に討たれて死ねばよかったのに、と言い放つ。 (3.428-436)
- 関係: spouse → menelaus (3.429 でヘレネはメネラオスを「以前の夫」と呼ぶ)
- 関係: sibling → castor (3.237-238)
- 関係: sibling → polydeuces (3.237-238)
- 関係: child → zeus (3.199, 3.418 「ゼウスの娘ヘレネ」)
- 関係: abducted_by → paris (『イリアス』3.443-446 でパリスが航海を回想。経緯は『キュプリア』要約)
- 関係: participated_in → trojan-war (戦争の原因とされ、城壁の上からギリシャ勢を見わたす(3.121-244))
- 関係: participated_in → troy (3.121-244 トロイアの城壁から戦場を眺める)
ヘレノス
- 『イリアス』では「鳥占いに最も優れた者」と紹介される。神々の相談を聞き取り、ヘクトルに一騎討ちを申し込ませて戦況を動かす。 (6.76(紹介)、7.44-53(神々の意を聞いてヘクトルに助言))
- 予言者であると同時に前線で戦う武将でもあり、メネラオスの矢に手を射抜かれて退く場面がある。 (13.576-600)
- 戦況が悪化したとき、ヘレノスはアイネイアスとヘクトルに兵を立て直させ、ヘクトルには町に戻って母ヘカベに女たちを集めさせ、アテナの神殿に祈らせるよう進言した。 (6.73-101)
- 関係: child → priam (6.76, 7.44-53)
- 関係: sibling → hector (6.75-101, 7.44-53 で兄に助言する)
- 関係: participated_in → trojan-war (予言者かつ戦士として)
ヘリオス
- 「すべてを見、すべてを聞く」太陽として、誓いの場で証人に立てられる。アガメムノンの誓いではゼウスの次に呼ばれる。 (3.276-280。『オデュッセイア』11.109, 12.323 でも同じ性格)
- 関係: companion → gaia (3.276-280。誓いの証人としてゼウス・大地・川とともに並べて呼ばれる)
ヘレ
- ヘレスポントスという地名そのものは『イリアス』にすでに出るが、ホメロスはその名をヘレと結びつけていない。海峡の名を少女ヘレの墜落で説明する話は、現存する文献ではアポロドーロスやヒュギヌスで確かめられる。 (『イリアス』2.844(トラキア勢の土地を「流れの強いヘレスポントス」が囲む)。アポロドーロス 1.9.1、ヒュギヌス 3)
ヘレン
- ホメロスでは「ヘレネス」はギリシャ人全体の呼び名ではなく、アキレウスの率いるプティア周辺の一部族の名にすぎない。全体はダナオイ、アルゴス勢、アカイア勢と呼ばれる。トゥキュディデスはすでにこの点に気づき、ヘレンの子孫の勢力が広がるにつれて名が少しずつ広まったのだと説明している。 (『イリアス』2.681-685(ミュルミドネス、ヘレネス、アカイア勢と呼ばれた者たち)。トゥキュディデス 1.3.2-3)
ヘメラ
- ホメロスでは ἦμαρ・ἡμέρη は「日、昼」を表す普通の語で、女神ヘメラは登場しない。夜明けを告げる女神としての役割は、ホメロスでは曙の女神エオスが担う。 (ギリシャ語本文を全文検索し、固有名詞としての Ἡμέρη がないことを確認)
ヘパイストス
- ヘラをかばったためゼウスに足を掴まれ、天の敷居から投げ落とされた。一日中落ち続け、日没にレムノス島へ落ちてシンティエス人に助けられた、と本人が語る。 (1.590-594)
- 同じ『イリアス』の別の箇所では、足が萎えていることを恥じた母ヘラが自分を隠そうとして投げ落とし、テティスとエウリュノメが海の洞で九年間匿ってくれた、と語る。投げた者も理由も食い違う。 (18.394-405)
- テティスの依頼でアキレウスの武具を鍛える。楯に刻まれた大地・天・海、二つの都市、耕地、婚礼と裁判の場面が描かれる。 (18.468-617。楯の描写は 18.478-608)
- 黄金で作られた侍女たちが、心と声と力を持ち、彼を支えて歩くとホメロスは書く。 (18.417-421)
- 神々の喧嘩をなだめたあと、ヘパイストスは母ヘラに杯を渡し、左から右へ神々に神酒をついで回る。館の中をせわしなく動く彼の姿を見て、神々は尽きることのない笑いを上げた。 (1.571-600(笑いは 1.599-600))
- テティスが訪ねたとき、ヘパイストスは脚に黄金の車輪をつけた鼎を20個作っていた。神々の集まりへひとりでに入っていき、また館へ戻ってくる仕掛けである。 (18.369-377)
- アキレウスが川の神クサントス(スカマンドロス)に呑まれかけたとき、ヘラに呼ばれたヘパイストスが炎を放ち、川岸の木々と流れそのものを焼き立てて川の神を屈服させた。 (21.328-382)
- アガメムノンの王笏はヘパイストスが作ってゼウスに与えたもので、ヘルメス、ペロプス、アトレウス、テュエステスを経てアガメムノンに伝わった。 (2.100-108)
- 関係: child → hera (『神統記』927-929 ではヘラが単独で産んだ。『イリアス』1.571-579 ではヘラを母と呼ぶ)
- 関係: foster_child → thetis (18.394-405。落とされた自分をテティスとエウリュノメが九年間匿ってくれた恩を語り、だからこそ武具の依頼を断らない)
- 関係: creator → achilles (18.468-617。新しい武具一式を一夜で鍛える)
- 関係: creator → armor-of-achilles (18.468-617)
- 関係: creator → mount-olympus (1.605-608, 20.10-12。神々それぞれの館を築いたのはヘパイストス)
ヘラ
- 一方ホメロスでは、ヘパイストスはゼウスを「父」と呼び、ゼウスとヘラの子として扱われている。単独出産の話はホメロスには無い。 (『オデュッセイア』8.312。『イリアス』1.571-579 ではヘラを「母」と呼ぶ)
- 戦況を変えるため、アプロディテから愛の帯を借り、ヒュプノス(眠り)と結んでゼウスを誘惑し、イデ山で眠らせた。『イリアス』第14巻の「ゼウスの欺き」として有名な場面。 (14.153-353)
- 目を覚ましたゼウスは、かつてヘラの両足に金床を括りつけ両手を黄金の枷で縛って天空から吊るした罰を思い出させて脅す。 (15.18-24)
- 『イリアス』全編でパリスの審判に触れるのはここ一箇所だけで、ヘラとアテナがトロイアを憎む理由として短く言及される。審判の物語そのものは語られない。 (24.25-30。この数行の真正性は古代から疑われてきた)
- 「私が最も愛する三つの町はアルゴス、スパルタ、そして道広きミュケナイだ」と語り、その三つを滅ぼしてもよいとまで言ってトロイアの滅亡をゼウスから引き出す。 (4.51-54)
- ゼウスが「今日生まれる自分の血筋の男が周囲の王になる」と誓わされた日、ヘラはアルゴスへ行ってステネロスの妻の子エウリュステウスを7か月で産ませ、アルクメネの出産はお産の女神たちを引き止めて遅らせた。アガメムノンが「迷妄(アテ)」の例として語る。 (19.95-133)
- トロイアを攻め落として帰るヘラクレスの船に、ヘラは北風を差し向けてコス島へ流した。ゼウスが眠っているあいだの企みで、目覚めたゼウスは激怒した。 (14.249-262、15.24-30)
- テティスとの密談を問い詰めてゼウスに凄まれたヘラを、息子ヘパイストスがなだめ、かつて母をかばって天から投げ落とされた話をする。神々は酒を注いで回るヘパイストスを見て笑った。 (1.536-600)
- アレスがトロイア方で暴れると、ヘラは自ら馬に軛をかけ、ヘベが戦車に車輪を付けた。天の門がひとりでに開き、ヘラはアテナを乗せて出陣し、ゼウスからアレスを追い払う許しを得る。 (5.711-766)
- 川の神スカマンドロス(クサントス)がアキレウスを呑もうとしたとき、ヘラは息子ヘパイストスを呼んで火を放たせ、自らは西風と南風を起こした。 (21.328-345)
- 関係: companion → iris (18.166-202。ゼウスに知られぬよう密かにイリスをアキレウスのもとへ遣わす)
- 関係: foster_parent → thetis (24.59-61。ヘラ自身が「私が彼女を育て、人間ペレウスに嫁がせた」と語る)
- 関係: companion → athena (4.20-25, 5.711-792。トロイア打倒で終始一体となって動く)
- 関係: enemy → aphrodite (24.25-30。パリスの審判で辱められたことへの恨みとして語られる)
- 関係: enemy → paris (24.25-30)
ヘラクレス
- ホメロスはすでに、ヘラクレスがゼウスとアルクメネの子であること、エウリュステウスの課す「難業」に苦しんだこと、冥界の番犬を連れ出したこと、6隻でトロイアを落としたことを知っている。ただし難業の数や一覧、火葬の薪の上での最期は語られず、『イリアス』は「ヘラクレスでさえ死を免れなかった」とする。 (『イリアス』19.95-133, 8.362-369, 5.638-642, 18.117-119、『オデュッセイア』11.601-626)
- ゼウスが「今日生まれる自分の血筋の者が周囲を治める」と宣言すると、ヘラはアルクメネの出産を止め、ペルセウスの孫エウリュステウスを七か月で先に生ませた。このためヘラクレスは、母のいとこにあたるこの男に仕えることになる。 (『イリアス』19.95-124、アポロドーロス 2.4.5)
- 『イリアス』のアキレウスは、ゼウスに最も愛されたヘラクレスでさえ運命とヘラの激しい怒りに屈して死を免れなかった、と言う。 (18.117-119)
- 関係: enemy → hera (19.95-124 ヘラがゼウスを欺いて出産を遅らせる。18.117-119「ヘラの激しい怒り」に屈して死んだ。5.392-394 では逆にヘラを矢で射ている)
- 関係: servant → eurystheus (『イリアス』8.362-363, 19.132-133 エウリュステウスの課す難業(ἄεθλοι)、『オデュッセイア』11.620-622 「はるかに劣る男に従わされ」)
- 関係: advisee → athena (『イリアス』8.362-365 アテナが難業のたびに助けた、『神統記』318 ヒュドラ退治は「アテナの計らいで」、『オデュッセイア』11.626 ケルベロスを連れ出す際にヘルメスとアテナが導いた)
- 関係: enemy → hades (5.395-397 ピュロスで冥王ハデスをも矢で射た)
- 関係: abducted → cerberus (『オデュッセイア』11.623-625、『イリアス』8.366-368、アポロドーロス 2.5.12(エウリュステウスに見せたあと冥界に返す))
- 関係: visited → troy (『イリアス』5.638-642 ラオメドンの馬のために6隻で来てイリオスを攻め落とした、14.250-251。アポロドーロス 2.5.9, 2.6.4)
- 関係: enemy → nestor (11.690-693 ヘラクレスがピュロスを荒らし、ネレウスの12人の息子のうちネストルだけが生き残った)
ヘルメス
- 『イリアス』最終巻で、若者の姿を取って老王プリアモスをアキレウスの陣営まで導き、帰りも送り届ける。敵陣を無事に通す「境を越えさせる神」としての典型。 (24.334-467(往路)、24.677-694(復路))
- 関係: companion → priam (24.334-467。若者の姿でプリアモスをアキレウスの陣営まで導き、見張りを眠らせる)
ヘスティア
- 『イリアス』『オデュッセイア』に神としてのヘスティアは登場しない。『イリアス』にはこの語自体が一度も出ず、『オデュッセイア』では「オデュッセウスの炉にかけて」という誓いの定型句に4回出るだけで、いずれも神ではなく家の炉を指す。オリュンポス十二神の一柱とされながら、ホメロスの物語世界には場所を持たない。 (『オデュッセイア』14.158-159, 17.155-156, 19.303-304, 20.230-231「ἴστω νῦν Ζεὺς πρῶτα θεῶν ... ἱστίη τ᾽ Ὀδυσῆος ἀμύμονος」。ギリシャ語本文を通覧すると『イリアス』に ἱστίη(炉)の用例は無く、ἱστία は別語の「帆」、Ἱστίαια(2.537)は地名)
ホーラ
- 『イリアス』では、ホーライは天の門を守る女神たち。広い天とオリュンポスを任されていて、厚い雲を開けたり閉じたりする。ヘラとアテナが車で出ていくとき、天の門はひとりでに鳴って開く。数も名前も語られない。 (5.749-751, 8.393-395)
- 関係: servant → hera (8.432-435 オリュンポスに戻ったヘラとアテナの馬を車から外す)
ヒュアキントス
- ホメロスには少年ヒュアキントスは出てこない。ὑάκινθος は花の名としてだけ現れ、ゼウスとヘラの寝床に咲く花の一つ(『イリアス』)や、アテナが整えたオデュッセウスの巻き毛のたとえ(『オデュッセイア』)に使われる。 (『イリアス』14.348 /『オデュッセイア』6.231 = 23.158)
ヒュギエイア
- ヒュギエイアはホメロスにもヘシオドスにも登場しない。英雄譚の登場人物ではなく、医術の信仰の中で父アスクレピオスと組になって現れる女神である。 (ギリシャ語本文を全文検索して ὑγίεια の用例がないことを確認)
ヒュプノス
- 『イリアス』14巻でヘラはレムノス島で「死の兄弟である眠り」に会い、ゼウスを眠らせてほしいと頼む。ヒュプノスは、前にヘラの頼みでゼウスを眠らせたとき、目覚めたゼウスに神々を放り投げられ、自分も海に投げ込まれかけたが夜のもとへ逃げて助かった、と渋る。 (14.231-262)
- ヘラが報酬として、カリスたちの中でも若い一人パシテエを妻に与えると約束すると、ヒュプノスはステュクスの水にかけて誓わせてから引き受ける。眠りの神と優美の女神の縁組は、ホメロスにしか出てこない組み合わせ。 (14.267-279)
- ゼウスが眠るまで、ヒュプノスはイダ山の高い樅の木に登って枝に隠れ、鳥の姿でいた。その鳥は「神々はカルキス、人間はキュミンディスと呼ぶ」と説明され、神々の言葉と人間の言葉で名が違うというホメロスの珍しい言い回しが出てくる。 (14.286-291)
- ゼウスの子サルペドンがパトロクロスに討たれると、ゼウスはアポロンに命じて亡骸を清めさせ、「双子の眠りと死」にリュキアへ運ばせて故郷で葬らせる。 (16.453-457, 16.666-683)
- ヒュプノスがかつてヘラの頼みでゼウスを眠らせたのは、ヘラクレスがトロイアを攻め落として船出した日で、ヘラはその間に嵐を起こしてヘラクレスをコス島へ流した。目覚めたゼウスは神々を館じゅうに放り投げ、ヒュプノスは夜(ニュクス)のもとへ逃げて助かった。 (14.249-261)
- 関係: sibling → thanatos (『イリアス』14.231「死の兄弟である眠り」、16.672「双子の眠りと死」。『神統記』756, 759)
- 関係: companion → hera (14.231-291 レムノス島でヘラに頼まれ、ゼウスを眠らせる)
- 関係: enemy → zeus (14.249-261 以前ヘラに頼まれてゼウスを眠らせたとき、目覚めたゼウスに天から放り出されかけた。14.352-360 で再びゼウスを眠らせる)
- 関係: suitor → charites (14.267-276 報酬としてカリスの一人パシテエを妻にもらう約束をヘラから取りつける。「ずっと恋い焦がれてきた」相手)
イアペトス
- 『イリアス』でゼウスはヘラに、たとえお前がイアペトスとクロノスの座す大地と海の最果て、太陽の光も風も届かない深いタルタロスまで行こうと構わない、と突き放す。ホメロスでイアペトスの名が出るのはこの一箇所だけ。 (8.477-481)
- 関係: participated_in → titanomachy (8.478-481 クロノスとともにタルタロスの底にいる。ティタン戦争で敗れた側という理解は『神統記』の筋と合わせたもので、ホメロスは理由を書かない)
イドメネウス
- クノッソスやゴルテュンなど「百の都市」を持つクレタから80隻を率いる。副将はメリオネスで、二人で共同の指揮を執る形になっている。 (2.645-652)
- 13巻に長い活躍の場面がある。すでに髪に白いものが混じっているのに前線で戦い、「歳を取っていても引けは取らない」と自ら言う。老齢が助言役に回る『イリアス』の型(ネストル)に対する例外。 (13.361-363, 13.470-486)
- アガメムノンから、他の将が定量を配られる中で一人だけ「杯を満たしたまま」にしておく待遇を受ける。序列が飲み物の注ぎ方で表される場面。 (4.257-264)
- パトロクロスの葬礼競技の戦車競走で、見物席の高みに座るイドメネウスが先頭の馬に真っ先に気づくと、小アイアスが年のわりに口ばかり達者だと罵り、イドメネウスは鼎か釜を賭けてアガメムノンに判定させようと言い返す。アキレウスが立ち上がって二人を止めた。 (23.448-498)
- 関係: companion → agamemnon (4.257-264。特別に杯を満たされる待遇を受ける)
- 関係: participated_in → trojan-war (クレタから80隻(2.645-652))
イピゲネイア
- ホメロスにイピゲネイアは登場せず、犠牲の話も無い。『イリアス』9巻でアガメムノンは「クリュソテミス、ラオディケ、イピアナッサ」という三人の娘を全員生きているものとして数え上げる。 (9.144-145)
- 『イリアス』9.145 のイピアナッサをイピゲネイアと同じ人物とみる読みは古代からある。ルクレティウスはアウリスで犠牲にされた娘を「イピアナッサ」と呼んでおり、同一視の明確な例として古い。一方ソポクレス『エレクトラ』はイピアナッサを生きている姉妹として別に数える。名前が似ており、どちらも「力(イピ)」を含む。 (『イリアス』9.144-145 / ルクレティウス『事物の本性について』1.80-101(名は 1.85)/ ソポクレス『エレクトラ』157)
イリス
- 『イリアス』における神々の伝令はイリスである。ゼウスの命令を運び、ヘラの密使となり、しばしば人間に姿を変えて現れる。 (2.786-807(プリアモスの子ポリテスに化ける)、8.398-425、24.77-99、24.143-187)
- ホメロスは虹そのものをイリスと呼ぶ比喩も用いる。楯の三色の蛇を「クロノスの子が雲に掛ける虹(イリス)」に喩える箇所がある。 (11.27-28。17.547-552 でも雲に掛かる虹に喩えられる)
- パトロクロスの薪に火が付かず、アキレウスが北風と西風に祈ると、イリスが西風の館へ伝えに行く。宴に誘われても座らず、オケアノスの流れのほとりのエチオピア人の地で神々への犠牲の宴に加わるのだと言って断った。 (23.192-212(断りの言葉は 23.205-207))
- イリスはプリアモスの娘ラオディケに姿を変えてヘレネを呼びに行き、メネラオスとパリスの一騎打ちを見るよう城壁へ誘う。 (3.121-138)
- 関係: companion → zeus (8.398-425, 24.77-99, 24.143-158。ゼウスの命を運ぶ主要な使者)
- 関係: companion → hera (18.166-202。ゼウスに知られぬようヘラが密かに遣わす)
- 関係: companion → thetis (24.77-99。海の底のテティスを呼び出し、ゼウスのもとへ連れて行く)
- 関係: companion → achilles (18.166-202。武具を持たないアキレウスを濠の上に立たせ、叫ばせるよう促す)
- 関係: companion → priam (24.143-187。アキレウスのもとへ行けというゼウスの伝言を老王に届ける)
イクシオン
- 『イリアス』には罰の話はなく、ゼウスが過去の恋を並べる中で「イクシオンの妻」に触れるだけ。彼女がゼウスとの間に生んだのが、神にも劣らぬ知恵のペイリトオスだという。つまりホメロスでは、妻を寝取った側がゼウスで、ピンダロス以降とは立場が逆になっている。 (14.317-318)
イアソン
- ホメロスはアルゴ船の遠征を「万人の知る」話として前提にしている。『オデュッセイア』では、アイエテスのもとから帰るアルゴ船だけが打ち合う岩をすり抜けられた、ヘラがイアソンを愛していたからだ、と語られる。『イリアス』にはイアソンがレムノスの女王ヒュプシピュレに生ませた子エウネオスが登場し、ギリシャ軍に葡萄酒を売っている。 (『オデュッセイア』12.69-72、『イリアス』7.467-469)
パリスの審判
- 『イリアス』での言及は最終巻の一箇所だけ。ヘラとアテナがヘクトルの遺体返還に反対し続ける理由として、「アレクサンドロスの過ち」と、彼が二女神を貶めアプロディテを称えたことが数行で回想される。審判の中身も三つの贈り物も語られない。 (24.25-30(とくに 24.27-30)。この数行は古代の注釈家の間でも真正性が議論された)
- 関係: participant → paris (『イリアス』24.25-30、アポロドーロス摘要 3.2)
- 関係: participated_in → trojan-war (24.25-30 ヘラとアテナがトロイアを憎み続ける理由として置かれる)
クノッソス
- ヘパイストスがアキレウスの盾に刻んだ踊り場は、昔ダイダロスが広いクノッソスで美しい髪のアリアドネのために造ったものに似ていた、と『イリアス』は書く。 (18.590-592)
- 『イリアス』の船の目録で、クノッソスや城壁で名高いゴルテュンなどクレタの兵はイドメネウスとメリオネスが率い、80隻の船が従った。 (2.645-652)
- 関係: ruled_by → idomeneus (2.645-652)
- 関係: visited_by → daedalus (『イリアス』18.590-592、パウサニアス8.53.8)
- 関係: visited_by → ariadne (18.590-592)
ラビュリントス
- ホメロスには迷宮は出てこない。クノッソスとダイダロスとアリアドネが一緒に出てくる『イリアス』の場面でも、造られたのは「踊り場」である。 (18.590-592)
ラエルテス
- 関係: parent → odysseus (2.173 「ラエルテスの子オデュッセウス」)
ラミア
- ラミアの名は、ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス『ビブリオテーケー』、オウィディウス『変身物語』、ヒュギヌス『神話集』には出てこない。まとまった話は、歴史家ディオドロスや辞典『スーダ』、著述家たちのたとえ話のなかに残る。 (手元の英訳全文(『イリアス』『オデュッセイア』『神統記』『ビブリオテーケー』『変身物語』『神話集』)と、『イリアス』『オデュッセイア』『神統記』のギリシャ語本文で Lamia / Λάμια を検索して該当なし(2026年9月))
ラオメドン
- ポセイドンとアポロンが一年の約束で仕え、ポセイドンは城壁を築き、アポロンは牛を飼った。期限が来たとき、ラオメドンは報酬を渡さないばかりか、耳を削ぎ手足を縛って奴隷に売ると脅した。『イリアス』でポセイドン自身が語る回想。 (21.441-457(脅しは 21.451-457)。城壁を築いた件は 7.452-453 でも言及される)
- 怒ったヘラクレスは軍を率いて戻り、トロイアを陥落させてラオメドンと息子たちを殺した。『イリアス』でもトレポレモスが父ヘラクレスの手柄として語る。トロイア戦争より前にトロイアは一度落ちている。 (『イリアス』5.638-651、アポロドーロス 2.6.4)
- この約束破りは『イリアス』において、ポセイドンがトロイアを憎みギリシャ側に立つ理由として機能している。戦争の原因をパリスの審判だけに帰さない、もう一つの因果の筋。 (21.441-460。ただしアポロンは同じ恨みを持ちながらトロイア側につく(21.461-467))
- 関係: parent → priam (20.236-237)
- 関係: parent → tithonus (20.237)
- 関係: ruler → troy (7.452-453, 21.441-457 城壁を築かせた王として)
- 関係: enemy → poseidon (21.441-457 報酬を踏み倒され、ポセイドンはトロイアを憎み続ける)
- 関係: enemy → apollo (21.441-457 同じく牧夫として働かされた)
レダ
- 『イリアス』で城壁からギリシャ勢を見渡すヘレネは、同じ母から生まれたカストルとポリュデウケスの姿が見えないのをいぶかるが、二人はすでに故郷ラケダイモンの土の下にいた。 (3.236-244)
- 関係: parent → helen (『イリアス』3.238 でヘレネはカストルとポリュデウケスを「同じ母から生まれた」と言う。母がレダだと明記されるのはアポロドーロス 3.10.7)
レムノス島
- 『イリアス』でヘパイストスは、母を救おうとしたとき、ゼウスに足をつかまれて天の敷居から投げ落とされ、まる一日落ち続けて日没にレムノスに落ち、わずかに息のあるところをシンティエス人に介抱されたと語る。 (1.590-594)
- 『イリアス』では、イアソンとヒュプシピュレの子エウネオスが、レムノスから多くの船でギリシャ軍にぶどう酒を送り、アガメムノンとメネラオスには別に千杯分を贈った。 (7.467-471)
- ピロクテテスは、恐ろしい水蛇に噛まれたひどい傷のために、ギリシャ兵によって聖なるレムノスの島に苦しむまま残された。詩は、やがてアルゴス勢が彼を思い出すことになると告げる。 (2.721-725)
- 関係: visited_by → philoctetes (2.721-725)
レト
- 神々の戦いでヘルメスと対することになるが、ヘルメスは「ゼウスの妻たちと争って勝ったなどと言いたくない」と辞退する。レトは戦場に散った娘アルテミスの弓と矢を拾い集めて去る。 (21.497-504)
- ニオベが「自分には十二人の子がいるのにレトには二人しかいない」と誇ったため、アポロンとアルテミスがその子らをすべて射殺した。ホメロスはアキレウスの口を通してこの話を語る。 (24.602-609)
- 関係: enemy → hermes (21.497-501。神々の戦いで対戦相手に当てられるが、ヘルメスは「女神と争うのは分が悪い」と戦いを辞退する)
リュキア
- トロイア方の目録で、サルペドンと並びないグラウコスが、遠いリュキアの渦巻くクサントス川のほとりからリュキア人を率いた。 (2.876-877)
- ゼウスはアポロンに、サルペドンの亡骸を運び出して川の水で洗い、アンブロシアを塗って不死の衣を着せ、双子の兄弟である眠りと死に渡すよう命じた。二人はそれを広いリュキアの豊かな地に置き、身内の者が塚と墓標で葬った。 (16.666-683)
- グラウコスによれば、ベレロポンはプロイトスの妃の偽りの訴えで、殺せという合図を書いた板を持たされてリュキアへ送られた。リュキアの王は九日もてなしたあと板を見て、キマイラ退治、ソリュモイ人との戦い、アマゾンとの戦いを命じ、帰りには待ち伏せさせたが、ベレロポンはすべて退けた。王は彼を神の子と悟って娘を与え、王の位の半分を分け、リュキア人は彼に領地を与えた。孫娘ラオダメイアがゼウスとのあいだに産んだのがサルペドンである。 (6.155-199)
- 関係: ruled_by → sarpedon (2.876)
- 関係: ruled_by → glaucus (2.876)
- 関係: visited_by → bellerophon (6.171-195)
マイア
- ホメロスではマイアは物語に登場せず、『オデュッセイア』で豚飼いが供物を分ける場面の「ニンフたちとマイアの子ヘルメスのために」という呼び名に名が出るだけ。『イリアス』に名は無い。 (『オデュッセイア』14.435-436。『イリアス』は英訳全文を検索して名が無いことを確認)
メドゥサ
- ホメロスには「ゴルゴンの首」が何度も出てくる。アテナのアイギスに付いた恐ろしい首、アガメムノンの盾に描かれた睨む顔、ヘクトルの「ゴルゴンの目」、冥界でペルセポネが送ってくるかもしれない首。しかしメドゥサという名も、ペルセウスの物語も出てこない。 (『イリアス』5.741-742, 8.348-349, 11.36-37、『オデュッセイア』11.633-635)
メレアグロス
- ホメロスの形: 『イリアス』9歌でポイニクスが語る。猪の後、皮をめぐるクレテス人との戦争で母の兄弟を殺したメレアグロスは、母アルタイアに呪われ、怒って妻クレオパトラのそばに籠もる。長老、父オイネウス、姉妹、母、仲間が次々に頼んでも出ず、町が焼かれかけてようやく妻の嘆願で出陣した。約束の贈り物は結局もらえなかった。ポイニクスはこれを、贈り物のあるうちに戦いに戻れとアキレウスを説く例え話として語る。 (9.550-599)
- 死に方(1)呪い: 『イリアス』では、兄弟を殺された母が大地を手で打ち、ハデスとペルセポネに息子の死を願い、闇を歩くエリニュスがそれを聞いた。死そのものは語られないが、船のカタログでは「メレアグロスはもういない」とされる。パウサニアスも「ホメロスは、アルタイアの呪いをエリニュスが聞いたことを死の原因とする」とまとめている。 (『イリアス』9.565-572, 2.641-642 / 10.31.3)
- カリュドン王オイネウスが収穫の初物を神々に捧げたとき、アルテミスにだけ捧げなかったため、怒った女神が白い牙の猪を送り、果樹園を荒らさせた。メレアグロスは多くの町から狩人と犬を集めて猪を倒した。 (『イリアス』9.533-546、アポロドーロス 1.8.2)
- 関係: child → oeneus (『イリアス』9.543「オイネウスの子メレアグロス」/ 1.8.2 / バッキュリデス 5.97)
- 関係: child → althaea (『イリアス』9.555 / 1.8.2 / Met. 8.451-459)
- 関係: participated_in → calydonian-boar-hunt (『イリアス』9.543-546 / バッキュリデス 5.93-135 / 1.8.2 / Met. 8.299-444)
メルポメネ
- ホメロスの二つの叙事詩に、ムーサとしてのメルポメネの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認(『イリアス』16.182 の μελπομένῃσιν は「歌い踊る」の意の普通の動詞))
メムノン
- アキレウスとの対決の前に、ゼウスが二人の魂を秤にかける場面(プシュコスタシア)が語られ、壺絵にも描かれた。『イリアス』にもゼウスが黄金の秤で二人の運命を量る場面があり(アカイア勢とトロイア勢、のちにアキレウスとヘクトル)、その型をメムノンとアキレウスに当てはめたものと考えられる。アイスキュロスには『プシュコスタシア(魂の秤量)』と題する失われた悲劇がある。 (『イリアス』8.69-74、22.209-213(黄金の秤で運命を量る場面)を本文で確認。メムノンとの秤量は『アイティオピス』系の伝承で、壺絵と断片の整理はガンツのメムノンの項による。アイスキュロスの同題悲劇はプルタルコスとポリュデウケス『オノマスティコン』4.130 の言及で知られるが、証言本文は未確認)
- 関係: nephew_niece → priam (『神統記』984-985 ティトノスの子、『イリアス』20.237 ティトノスとプリアモスは兄弟)
メネラオス
- ラケダイモン(スパルタ)勢を率いてトロイアに向かった。ヘレネのために報いようと意気込んでいた。 (2.581-590)
- アガメムノンの弟。兄の苦労を察して、呼ばれずとも集まりに来る。 (2.408-409)
- 3巻でパリスと一騎打ちを行い、兜の緒を掴んで引きずるところまで追い詰めるが、アフロディテが緒を切り、パリスを霧に包んで寝室へ運び去る。当事者同士で決着をつけて戦争を終わらせる筋書きが、神の介入で潰される。 (3.340-382)
- 一騎打ちの直後、休戦の最中にパンダロスの矢に射られる。これで誓いが破られ、戦争が再開する。彼の負傷そのものが戦争の継続装置になっている。 (4.104-147)
- パトロクロスの遺体をめぐる攻防では、彼が遺体の上に立って守り続ける。17巻はほぼ彼の巻で、『イリアス』における最も長い活躍の場面になっている。 (17.1-139, 17.553-581)
- 関係: sibling → agamemnon (2.408-409)
- 関係: spouse → helen (『イリアス』3.429、『オデュッセイア』4.121-305)
- 関係: child → atreus (アトレイデスの呼称(2.408-409 ほか))
- 関係: enemy → paris (3.340-382。一騎打ち)
- 関係: ruler → sparta (2.581-590)
- 関係: companion → antilochus (23.566-611。戦車競走で争い、和解する)
- 関係: participated_in → trojan-war (60隻(2.581-590)。戦争の当事者)
メティス
- ホメロスでゼウスはしばしば「メーティエタ(知恵に富む)」と呼ばれる。この添え名はメティス(知恵)と同じ語根で、『イリアス』だけで16回使われている。女神メティスそのものはホメロスには登場しない。 (『イリアス』1.175, 1.508, 2.197 など16例、『オデュッセイア』3例(ギリシャ語本文を全文検索))
ミノス
- ホメロスのミノスは、ゼウスの子でクレタの守り手、デウカリオンの父、イドメネウスの祖父。『オデュッセイア』では「9年ごとに(あるいは9歳で)王となった、大いなるゼウスの語らい相手」と呼ばれ、冥界では黄金の笏を持って死者を裁いている。ミノタウロスや迷宮の話は無い。 (『イリアス』13.449-453、『オデュッセイア』19.178-179, 11.568-571)
- アポロドーロスでは、ミノス、サルペドン、ラダマンテュスはエウロペの三兄弟で、美少年ミレトスをめぐって争い、サルペドンはリュキアへ去った。ただしアポロドーロス自身が「ホメロスによればサルペドンはゼウスとベレロポンの娘ラオダメイアの子」と注記しており、『イリアス』のサルペドンとは系譜が合わない。 (アポロドーロス 3.1.1-2、『イリアス』6.198-199)
- 関係: child → zeus (『イリアス』13.449-450, 14.321-322、『オデュッセイア』11.568、アポロドーロス 3.1.1)
- 関係: child → europa (アポロドーロス 3.1.1。『イリアス』14.321-322 は母を「ポイニクスの娘」とだけ呼ぶ)
- 関係: ruler → crete (『オデュッセイア』19.178-179 クノッソスで9年ごとに王であった、『イリアス』13.450「クレタの守り手」、アポロドーロス 3.1.3)
- 関係: grandparent → idomeneus (13.449-453 ミノス→デウカリオン→イドメネウス)
ミノタウロス
- ホメロスにミノタウロスは出てこない。『イリアス』はクノッソスでダイダロスがアリアドネのために踊り場を造ったこと、『オデュッセイア』はテセウスがアリアドネを連れ出したことに触れるが、怪物も迷宮も語られない。 (『イリアス』18.590-592、『オデュッセイア』11.321-325)
ムネモシュネ
- ホメロスの詩人は、戦に来た者たちの名を列挙する前にムーサたちに呼びかけ、「あなたがたはすべてを知っているが、我々は噂を聞くだけだ」と歌う。記憶の娘たちに頼って過去を語る、という叙事詩の構えがよく表れた箇所。ここにムネモシュネの名は出ないが、ヘシオドスの系譜と組み合わせると意味がつながる。 (『イリアス』2.484-492。系譜は『神統記』53-62)
モイラ
- ホメロスでは「モイラ」はたいてい単数で、人格とも運命そのものともつかない存在として出てくる。アガメムノンは自分の過ちを「ゼウスとモイラと闇を行くエリニュス」のせいにする。複数の「モイライ」は『イリアス』に一度だけで、「モイラたちは人間に耐える心を与えた」とアポロンが語る。 (19.86-88, 24.49(複数形はギリシャ語本文を全文検索して確認))
イダ山
- 『イリアス』でゼウスがオリュンポスを離れて座り、戦況を眺める場所。神々の介入を禁じたときも、ヘラに騙されて眠り込むときも、舞台はイダ山の頂ガルガロンである。 (8.47-52(座す)、14.292-353(ヘラの誘惑)、15.4-77(目覚め))
- アプロディテがアンキセスと交わり、アイネイアスが生まれた場所。ホメロス風讃歌第5番では、牛の群れと山中の小屋が具体的に描かれる。 (讃歌5(アプロディテ)53-80、『イリアス』2.819-821)
- ヘラがイダ山頂ガルガロンでゼウスと交わると、大地は二人の下に若草と露にぬれたロートス、クロッカス、ヒヤシンスを生やし、二人は黄金の雲に包まれ、ゼウスは眠り込んだ。 (14.346-353)
- 関係: setting_of → trojan-war (8.47-52 ゼウスがここから戦いを見守る)
- 関係: companion → troy (トロイアを見下ろす山として)
オリュンポス山
- ホメロスはオリュンポスを、実在の山の頂として描くこともあれば、天空そのものと重ねることもある。ゼウスがイデ山の頂からオリュンポスへ帰るなど、地上の山としての扱いも残る。 (8.41-52(イデ山へ降りる)、1.493-497, 1.532-535(オリュンポスへ帰る))
- 天の門は季節の女神ホーライが守り、雲を開け閉めする。神々が地上へ出入りするときはこの門を通る。 (5.749-751, 8.393-396)
- 神々それぞれの館は、ヘパイストスが技を凝らして築いたもの。神々が会議に集まるゼウスの館の回廊も、彼の作である。 (1.605-608, 20.10-12)
- 関係: ruled_by → zeus (1.493-530, 8.1-27。神々の集会を招集し、命令を下すのはゼウス)
- 関係: created_by → hephaestus (1.605-608, 20.10-12。神々それぞれの館を築いたのはヘパイストス)
- 関係: ruled_by → hera (14.153-186。自分の寝所はヘパイストスが造り、秘密の錠を備えていると描写される)
- 関係: ruled_by → iris (8.397-413。ゼウスはイデ山からイリスを遣わし、イリスは「襞多きオリュンポスの門の入口で」ヘラとアテナを引き止める。オリュンポスに住まう神々の伝令として描かれる(支配者ではない))
ムーサ
- ホメロスの詩はムーサへの呼びかけで始まる。『イリアス』の軍勢の一覧では「あなたがたは神で、その場にいてすべてを知っているが、我々は噂を聞くだけで何も知らない」と、過去を語る力を女神に委ねる。ただしホメロスではムーサの数や名前はほとんど語られない。 (『イリアス』1.1, 2.484-492。『オデュッセイア』1.1)
- ムーサは歌を与えもし奪いもする。『イリアス』では、ムーサより上手に歌えると豪語した楽人タミュリスが、怒ったムーサに目を潰され歌を奪われる。『オデュッセイア』の盲目の楽人デモドコスは、ムーサに視力を奪われた代わりに甘美な歌を授かったとされる。 (『イリアス』2.594-600。『オデュッセイア』8.62-64)
ミュケナイ
- アガメムノンの都。「よく築かれた城砦ミュケナイ」として船の一覧の筆頭近くに置かれ、100隻という最大の兵力を出す。 (2.569-580)
- 「黄金に富む(ポリュクリュソス)」という添え名を持つ。『イリアス』の中でこの語が付く都市はごく限られている。 (7.180, 11.46)
- ヘラが「私が最も愛する三つの都市」としてアルゴス、スパルタ、道広きミュケナイを挙げる。トロイア滅亡を望む理由の前置きとして語られるこの一節は、ギリシャ側の三大拠点が誰の庇護下にあるかを示している。 (4.51-54)
- 関係: ruled_by → agamemnon (2.569-580)
- 関係: participated_in → hera (4.51-54。ヘラが最も愛する三都の一つ)
- 関係: participated_in → trojan-war (最大の100隻を送り出した(2.569-580))
ミュルミドン人
- 『イリアス』の軍船の表では、ペラスゴイのアルゴス、アロス、アロペ、トラキス、プティア、ヘラスに住み、ミュルミドン人・ヘレネス・アカイア人と呼ばれる人々の50隻を、アキレウスが率いる。 (2.681-685)
- アキレウスがアガメムノンへの怒りで戦いから退いているあいだ、兵たちは浜で円盤投げ・槍投げ・弓に興じ、主君を恋しがって陣中をうろつき、戦わなかった。 (2.771-779)
- パトロクロスの出陣の際、アキレウスが武装させたミュルミドン人は、大きな角の鹿を仕留め、あごを血に染めて群れで泉の水をなめに行くオオカミにたとえられる。50隻の船にそれぞれ50人、5人の指揮官がいた。 (16.155-197)
- 関係: ruled_by → achilles (2.681-685 プティアとヘラスの、ミュルミドン人・ヘレネス・アカイア人と呼ばれる人々の50隻をアキレウスが率いる)
- 関係: ruled_by → peleus (『イリアス』24.535-536、『オデュッセイア』11.494-496)
- 関係: participated_in → trojan-war (2.681-685、16.155-277)
ネメシス
- ホメロスで νέμεσις は、恥ずべき行いに対して周囲が抱く「憤り・非難」を表す普通名詞で、女神としては登場しない。ヘレネが「人々の非難を気にかける夫が欲しかった」と嘆く場面や、ポセイドンがアカイア勢に「恥と憤りを胸に置け」と励ます場面で使われる。 (6.351, 13.122 など(ギリシャ語本文を全文検索))
ネレイス
- 『イリアス』では、パトロクロスの死を知ったアキレウスの嘆きを聞いて、海の底のネレイスたちがテティスのもとに集まる。ここで三十余りの名が並ぶが、ヘシオドスの一覧と重なる名もあれば、そこにない名(リムノレイア、イアイラ、カッリアネイラなど)もある。数も「五十」とは言われない。 (18.35-51)
- ネレイスの名には、ほかの女神と同じものが混じる。ヘシオドスの一覧にはムーサと同名のエラトが、『イリアス』の一覧にはムーサ(のちにはカリスとも)と同名のタレイアがいる。同じ名が別の一族にも出てくるので、名前だけで同一人物と決めることはできない。 (『神統記』246(ネレイスのエラト)、77-78(ムーサのエラト)、909(カリスのタレイア)。『イリアス』18.39(ネレイスのタレイア))
- 関係: companion → thetis (テティスは姉妹の一人。『神統記』244、『イリアス』18.35-51。関係の種類は仮に「仲間」とした(「一員」を表す種類がない))
- 関係: companion → galatea (ガラテイアも姉妹の一人。『神統記』250、『イリアス』18.45)
- 関係: companion → achilles (『イリアス』18.35-69 テティスとともに嘆く。『オデュッセイア』24.47-59 アキレウスの葬儀に海から現れて弔う)
ネレウス
- 『イリアス』にはネレウスという名が一度も出てこない。テティスの父は常に「海の老人(ハリオス・ゲロン)」と呼ばれる。名前を持つ神と持たない神の境目が見える例。 (1.358, 1.538, 18.36, 18.141 など。いずれも「海の老人の娘」)
- パトロクロスの死を嘆くテティスのもとに集まるネレイデスの名を、『イリアス』も一覧として掲げる。ヘシオドスの一覧と重なる名もあれば異なる名もある。 (『イリアス』18.37-49。『神統記』240-264 と比較すると顔ぶれが一致しない)
ネストル
- すでに二世代の人間が死に絶え、三代目の人々を治めていると書かれる。トロイアにいる誰よりも古い時代を実際に見てきた人物という設定。 (1.250-252)
- 「その舌からは蜜よりも甘い声が流れた」と紹介される。武勇ではなく言葉で場を動かす人物として立てられている。 (1.247-249)
- 冒頭でアガメムノンとアキレウスの間に立って仲裁を試みるが、双方に「昔の英雄たちは私の言うことを聞いた」と説いても、どちらも聞かない。『イリアス』の長老の助言はしばしば失敗する。 (1.247-284)
- アキレウスが動かないなら、せめて武具を借りてパトロクロスが出撃し、トロイア勢を欺けばよい——と持ちかける。この助言がパトロクロスの死、ひいてはヘクトルとアキレウスの死につながっていく。善意の助言が破局の起点になっている。 (11.786-803)
- 話が長い。エペイオイ人との牛争いの昔話は約90行続き、聞き手のパトロクロスは急いでいるのに聞かされ続ける。『イリアス』は老人の饒舌を笑わず、そこから助言を引き出す形にしている。 (11.670-762)
- パトロクロスの葬礼競技では、息子アンティロコスに戦車の操り方を細かく教える。馬の速さで劣るぶん「機略(メーティス)」で勝てと説く助言は、そのまま『オデュッセイア』の知恵の主題につながる。 (23.306-348)
- 関係: parent → antilochus (23.301-350(戦車競走での助言))
- 関係: companion → agamemnon (1.247-284, 2.20-34)
- 関係: companion → patroclus (11.786-803。アキレウスの武具を借りて出よと勧める)
- 関係: participated_in → trojan-war (ピュロスから90隻(2.591-602))
ニケ
- ホメロスの叙事詩には、勝利を人格化した女神ニケは登場しない。勝敗はゼウスの秤や神々の介入で決まる。 (ギリシャ語本文を全文検索して Νίκη の人格化された用例がないことを確認)
ニオベ
- 『イリアス』最終巻で、アキレウスは息子ヘクトルの遺体を引き取りに来たプリアモスに食事をすすめ、ニオベの例を引く。12人の子(息子6人、娘6人)をアポロンとアルテミスに射殺され、9日間埋葬する者もいなかったが、10日目に神々が葬ると、泣き疲れたニオベも食事のことを思った。今はシピュロスの山中で、石となって神々から受けた苦しみを思い続けている、と。 (24.602-617。9日間埋葬されなかったのは、ゼウスが民を石に変えたため(24.610-611))
- 子の数は出典で大きく違う。ホメロスは息子6人・娘6人、アポロドーロスは7人ずつ、ヘシオドスは10人ずつ、ヘロドロスは息子2人・娘3人とする、とアポロドーロスがまとめている。 (3.5.6 /『イリアス』24.603-604)
- 関係: enemy → leto (『イリアス』24.607-609 / Met. 6.170-203 / 3.5.6 自分をレトと比べて誇った)
- 関係: enemy → apollo (『イリアス』24.605-606 息子たちを射殺す / Met. 6.218-266 / 3.5.6)
- 関係: enemy → artemis (『イリアス』24.606 娘たちを射殺す / 3.5.6(オウィディウスは娘たちを射る者の名を出さない))
ニンフ
- ホメロスではニンフたちは「アイギスを持つゼウスの娘たち」と呼ばれる。山のニンフたちは、アキレウスに殺されたエエティオンの墓のまわりに楡の木を植え、ナイアスたちはイタケの洞窟で石の機を織る。 (『イリアス』6.416-420。『オデュッセイア』13.102-112)
- 関係: child → zeus (『イリアス』6.420、『オデュッセイア』6.105, 13.356, 17.240 で「ゼウスの娘たち」と呼ばれる)
ニュクス
- 『イリアス』でヒュプノスは、かつてヘラに頼まれてゼウスを眠らせた結果、目覚めたゼウスに天から放り出されかけ、「神々と人間をも従わせる夜」のもとへ逃げ込んで助かったと語る。ゼウスは素早い夜の気分を害することを恐れて怒りを収めた。ホメロスでゼウスが遠慮する相手はほとんどいない。 (14.256-261(259 Νὺξ δμήτειρα θεῶν))
- 眠りの神がゼウスを眠らせたのは、ヘラがトロイアから帰るヘラクレスの船を嵐でコス島へ流すためだった。怒ったゼウスは神々を館じゅうに放り投げ、眠りの神を天から海へ落とそうとしたが、夜のもとへ逃げ込まれて手を引いた。 (14.249-261)
オケアニス
- ホメロスには「オケアノスの娘たち」という集団は出てこない。ただし『イリアス』では、オケアノスは「神々の生まれのもと」であり、すべての河と海と泉と井戸がそこから流れ出るとされる。 (14.201, 21.195-197。Ὠκεανίνη などの語がないことはギリシャ語本文を全文検索して確認)
オケアノス
- 『イリアス』でヘラは、オケアノスを「神々の起源(γένεσις)」、テテュスを「母」と呼び、別の箇所ではオケアノスを「すべてのものの起源」とする。カオスから始めるヘシオドスとは違う、水から世界が始まるという考え方の痕跡とされる箇所。 (14.201, 14.246, 14.302)
- 『イリアス』では、ゼウスの雷を恐れる存在として「すべての川、すべての海、すべての泉と深い井戸」がそこから流れ出るオケアノスが挙げられる。オケアノスは海そのものではなく、あらゆる水の源の大河である。 (21.195-197)
- 『イリアス』20巻でゼウスがテミスに命じて神々を集会に呼び集めたとき、川の神々で来なかったのはオケアノスだけだった。 (20.4-9(20.7))
- ヘラはゼウスを眠らせる計略のため、アプロディテに「長く仲たがいして床をともにしないオケアノスとテテュスを仲直りさせに行く」と偽って、愛と欲望の力を借りる。 (14.197-213、14.300-306)
- 関係: spouse → tethys (『神統記』337-370。『イリアス』14.201, 14.302)
- 関係: foster_parent → hera (14.200-204 ゼウスがクロノスを地下に落としたとき、レアから幼いヘラを預かって育てた)
オデュッセウス
- ラエルテスの子。「ゼウスの血を引くラエルテスの子、知略に富むオデュッセウス」と呼びかけられる。 (2.173)
- 関係: child → laertes (2.173 「ラエルテスの子」。『オデュッセイア』16.117-120 では代々一人息子と語られる)
- 関係: participated_in → trojan-war (2.631-637 イタケ勢12隻を率いる)
オイディプス
- 最期の場所も出典で違う。『イリアス』には「倒れたオイディポデス」の葬礼の競技がテーバイで行われたとあり、テーバイで死んだ王として扱われている。ソポクレス『コロノスのオイディプス』では、盲目となって娘アンティゴネに手を引かれて放浪し、アテナイ近郊のコロノスでテセウスに迎えられて世を去る。ヘシオドスも、「オイディプスの羊の群れ」をめぐって七つの門のテーバイで戦いがあったと記し、財産を残して死んだ王として語る。 (『イリアス』23.679-680 /『コロノスのオイディプス』/『仕事と日』161-163 / 3.5.9)
オイネウス
- ホメロスでの姿: 『イリアス』では、初穂を他の神々には捧げながらアルテミスにだけ捧げなかった王として出てくる。忘れたのか気づかなかったのか、とにかく心が迷っていたと語られる。ディオメデスは、ポルテウスの三人の息子アグリオス、メラス、オイネウスがプレウロンとカリュドンに住み、オイネウスが最も勇敢で、自分の父テュデウスの父だったと名乗る。トロイア戦争のころには、オイネウスも息子たちもすでに亡くなっていた。 (9.533-537 / 14.113-120 / 2.641-642)
- 『イリアス』6歌で、戦場で出会ったディオメデスとリュキアのグラウコスが、祖父同士に客人の縁があったと知って戦いをやめる。その縁とは、オイネウスがグラウコスの祖父ベレロポンを20日間もてなし、緋色の帯と金の二重杯を贈り合ったこと。ディオメデスはその杯を家に置いてきたと言う。 (6.215-236)
- 関係: ruler → calydon (『イリアス』9.533-540, 14.115-117 / 1.8.1)
- 関係: parent → meleager (『イリアス』9.543 / 1.8.2(アレスの子とする異伝も))
- 関係: parent → tydeus (『イリアス』5.813「オイネウスの子テュデウス」、14.115-118 / 1.8.5(母はペリボイア))
- 関係: grandparent → diomedes (『イリアス』14.115-118「オイネウスは私の父の父」/ 1.8.5-6)
- 関係: enemy → artemis (『イリアス』9.533-540 / バッキュリデス 5.97-104 / 1.8.2 / Met. 8.273-283)
- 関係: visited_by → bellerophon (6.215-217 ベレロポンを館に20日間もてなす)
- 関係: gave_gift → bellerophon (6.219-220 オイネウスは緋色の帯、ベレロポンは金の二重杯を贈り合う)
オリュンピア
- ホメロスはオリュンピアの競技祭に触れていない。『イリアス』でネストルが語る、エリスでの三脚釜を賞品にした戦車競走は、エリスの王アウゲイアスが馬を取り上げた話として出てくるだけで、ストラボンもこれを冠の競技ではないとして、トロイア戦争のころにはオリュンピアの競技は無かったか有名でなかったと論じる。 (『イリアス』11.698-702、ストラボン8.3.30)
オリオン
- ホメロスのオリオンは三つの顔を持つ。空の星座(アキレウスの盾に「プレイアデス、ヒュアデス、力強いオリオン」が刻まれ、熊座が「オリオンをうかがう」)、「オリオンの犬」と呼ばれる星(シリウス)の持ち主、そして物語の人物。『オデュッセイア』では、曙の女神が彼を選んだのを神々が妬み、アルテミスがオルテュギアで矢を射て殺した。冥界では、かつて山で倒した獣を青銅の棍棒で追い続けている。背が高く美しい巨人のアロアダイ兄弟も「名高いオリオンに次いで」美しいと言われる。 (『イリアス』18.486-489、22.29 /『オデュッセイア』5.121-124、5.274、11.309-310、11.572-575)
パン
- パンはホメロスの二つの叙事詩にも、ヘシオドス『神統記』にも登場しない。まとまった姿が現れるのはホメロス風讃歌とヘロドトスから。 (ギリシャ語本文(ホメロス)と英訳(『神統記』)を全文検索して確認)
パンダロス
- トロイア方の一覧では、ゼレイアからアイセポス川のほとりの人々を率いてきた者として紹介され、その弓はアポロン自身から与えられたものだと言われる。 (2.824-827)
- パリスとメネラオスの一騎討ちで戦争が終わりかけたとき、アテナがラオドコスに化けてそそのかし、パンダロスがメネラオスを射る。誓約が破られたことで戦闘が再開し、以後トロイアの滅びは決まったものとして語られる。 (4.86-147)
- ディオメデスの槍が鼻から歯と舌を貫いて死ぬ。『イリアス』でも際立って生々しい死の描写の一つ。 (5.290-296)
- パンダロスの弓は、自ら待ち伏せて射止めた野山羊の角(長さ16掌尺)を職人が合わせて磨き、金の弦掛けをつけたもの。アテナにそそのかされて、仲間に盾で隠してもらいながらアポロンに生贄を誓い、メネラオスを射たが、アテナが母が子から蠅を払うように矢をそらして帯の金具に当てた。 (4.105-140)
- パンダロスは、父リュカオンの館に11台の戦車があり、父に戦車で戦えと言われたのに、飼い葉を惜しんで徒歩で来てしまったと悔やみ、生きて帰れたら弓を折って火に投げると誓う。 (5.192-216)
- 関係: enemy → menelaus (4.104-140 休戦中に矢を射かけて負傷させる)
- 関係: killed_by → diomedes (5.290-296)
- 関係: companion → aeneas (5.166-296 アイネイアスの戦車に同乗して戦う)
- 関係: participated_in → trojan-war (2.824-827 ゼレイア勢の将)
パリス
- 「パリスの審判」は『イリアス』では一箇所しか触れられない。ヘクトルの遺体を巡る神々の場面で、パリスが二女神を侮辱しアプロディテを称えたことが、ヘラとアテナの怒りの理由として短く回想されるだけである。 (24.25-30。この数行の真正性は古代から疑われてきた)
- 『イリアス』では一騎討ちを挑みながら、メネラオスが進み出ると隊列に逃げ戻る。改めて行われた決闘では兜の緒を掴まれて引きずられるが、アプロディテが緒を切って霧に包み、寝室へ運び去る。 (逃げ戻る 3.15-37、決闘とアプロディテの救出 3.340-382)
- 槍ではなく弓で戦う。ディオメデスの足を射抜いて笑う場面があり、ディオメデスは「女のような弓遣い」と罵り返す。 (11.369-395)
- 決闘から寝室に運ばれたパリスを、ヘレネは「前の夫に討たれて死ねばよかった」と責めるが、パリスはスパルタから連れ出したとき以上に今のほうが恋しいと言って床に誘う。 (3.428-447)
- 関係: child → priam (3.314 など。プリアモスの子として一貫)
- 関係: sibling → hector (3.38-57, 6.325-341)
- 関係: abducted → helen (『イリアス』3.443-446 でパリス自身がスパルタから連れ出した航海を回想。経緯は『キュプリア』要約)
- 関係: spouse → helen (3.390-447 トロイアでの夫婦の場面)
- 関係: participated_in → trojan-war (戦争の発端となった当人)
パシパエ
- ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』にパシパエの名は出てこない。『オデュッセイア』の冥界の場面にはミノスの娘アリアドネやパイドラが登場するが、母の名は無い。王妃と牡牛の話が詳しく残るのは、ディオドロスやアポロドーロスなど後代の書き物。 (『オデュッセイア』11.321-325(パイドラ、アリアドネ)。英訳全文を検索して名が無いことを確認)
パトロクロス
- 少年のころ、賭け事の諍いから人を殺してしまい、父メノイティオスに連れられて故郷オプスからペレウスの家へ逃れた。アキレウスとはそこで一緒に育った、いわば居候の兄である。 (23.85-90(幽霊となったパトロクロス自身の回想))
- アキレウスの武具を借りて出撃する。アキレウスは「船から火を追い払ったら戻れ」と釘を刺すが、勢いに乗って城壁まで攻め上がってしまう。 (16.64-100, 16.130-154, 16.684-691)
- 殺され方が三段構えになっている。まずアポロンが背を打って兜も槍も楯も落とさせ、次にエウポルボスが背中を突き、最後にヘクトルが下腹を貫く。ヘクトル一人の手柄ではない、と詩は念を押している。 (16.786-822)
- 息を引き取る間際、ヘクトルに「お前も長くは生きない、アキレウスの手にかかる」と告げる。死者の予言が的中する『イリアス』の型。 (16.844-854)
- 葬礼と葬礼競技が『イリアス』23巻を占める。幽霊となって現れ、自分の骨をアキレウスの骨と同じ壺に納めてくれと頼む。 (23.65-107(幽霊)、23.83-92(同じ壺))
- ホメロスは二人を「仲間」と呼ぶだけで、恋愛関係とは書かない。それを明示するのは古典期以降の読みである。 (『イリアス』18.80-82 / 『饗宴』179e-180b)
- パトロクロスが泣きながら戻ると、アキレウスは、母の後を追って裾をつかみ抱き上げてくれと泣いて見上げる幼い娘のようだ、と言う。 (16.7-11)
- パトロクロスは三度トロイアの城壁に取りつき、三度アポロンに楯を突かれて押し戻される。四度目、アポロンは、トロイアはお前の槍で落ちる定めではなく、お前よりはるかに強いアキレウスの槍でもない、と叫んで退かせる。 (16.698-711)
- パトロクロスの死を聞いたアキレウスは、両手で灰をすくって頭からかぶり、顔と衣を汚し、地に長々と伏して髪をかきむしった。 (18.22-27)
- ブリセイスは亡骸にすがり、夫を殺され町を焼かれた自分に泣くなと言い、アキレウスの正妻としてプティエで婚礼を挙げさせると約束してくれた、いつも優しかったあなたを悼む、と嘆く。 (19.282-300)
- 関係: companion → achilles (18.80-82)
- 関係: foster_child → peleus (23.85-90。少年期に人を殺してオプスから逃れ、ペレウスの家に迎えられた)
- 関係: killed_by → hector (16.818-822。下腹を槍で貫かれる)
- 関係: enemy → apollo (16.788-793。背後から打たれて兜と槍と楯を失う)
- 関係: killed → sarpedon (16.480-505。ゼウスは我が子を救えない)
- 関係: companion → nestor (11.786-803。ネストルの勧めが出撃のきっかけになる)
- 関係: companion → briseis (19.295-299。ブリセイスは彼が自分をアキレウスの正妻にすると約束したと語る)
- 関係: owner → armor-of-achilles (16.130-144。アキレウスの武具を借りて身に着けた。17.192-197 でヘクトルに奪われる)
- 関係: participated_in → trojan-war (16巻)
ペガソス
- 『イリアス』のベレロポンの話にペガソスは出てこない。キマイラを倒したのは「神々のしるしに従って」とだけ語られる。ペガソスとベレロポンを組にするのはヘシオドスから。 (『イリアス』6.179-183、『神統記』325)
ペレウス
- 女神テティスを妻に迎えた人間。『イリアス』はその婚礼を直接描かないが、「神々がペレウスに贈った武具」「神々が列席した婚礼」として何度も前提にする。この婚礼の席の諍いがトロイア戦争の発端(パリスの審判)につながる。 (18.84-87, 24.59-63)
- 神々からの婚礼の贈り物がそのままアキレウスの装備になっている。不死の馬クサントスとバリオス、ヘファイストス作の武具、そしてケイロンが贈ったペリオンのトネリコの槍。ただし槍だけはアキレウス以外には扱えず、パトロクロスは持っていかなかった。 (16.140-144(槍)、16.148-151(馬)、18.84-85(武具))
- 『イリアス』のペレウスは登場しない。彼は常に「故郷で老いていく父」として言及される。24巻でアキレウスはプリアモスに、自分の父も同じように老い、たった一人の息子も帰らないのだと語る。敵の父と自分の父が重なるこの場面が『イリアス』の終わり方を決めている。 (24.534-542)
- 関係: parent → achilles (1.1)
- 関係: spouse → thetis (18.84-87, 24.59-63。神々が列席した婚礼)
- 関係: foster_parent → patroclus (23.85-90。人を殺して逃れてきたパトロクロスを家に迎えて育てた)
- 関係: companion → chiron (16.143-144。ケイロンがペリオンのトネリコの槍を贈った)
- 関係: owner → armor-of-achilles (17.194-197。神々がペレウスに贈った武具が、老いた彼からアキレウスに渡った)
ペリアス
- アポロドーロスでは、ペリアスはビアスの娘アナクシビア(一説にアンピオンの娘ピュロマケ)を妻とし、息子アカストスと、娘ペイシディケ、ペロペイア、ヒッポトエ、アルケスティスをもうけた。『イリアス』はアルケスティスを「ペリアスの娘たちの中で最も美しい」と呼ぶ。 (アポロドーロス1.9.10、『イリアス』2.714-715)
- 関係: parent → alcestis (『イリアス』2.715、アポロドーロス1.9.10)
ペロプス
- ホメロスに出てくるペロプスは、アガメムノンの王笏を受け取った「馬を駆るペロプス」という一行だけ。切り刻まれた話も戦車競走も出てこない。 (2.104-105)
- 関係: parent → atreus (2.104-105)
ペルセウス
- 『イリアス』では、ゼウスが過去の恋を数え上げる場面で「ダナエが生んだ、あらゆる人に抜きん出たペルセウス」と名前が出るだけ。ゴルゴンの首はアテナのアイギスやアガメムノンの盾に描かれるが、ペルセウスの手柄とは結びつけられていない。 (14.319-320。ゴルゴンの首は 5.741-742, 11.36-37)
- ペルセウスとアンドロメダの子エレクトリュオンの娘がアルクメネ、ステネロスの子がエウリュステウス。ヘラクレスを苦しめたエウリュステウスも、ヘラクレス自身も、ペルセウスの子孫である。 (アポロドーロス 2.4.5、『イリアス』19.116, 19.123「ペルセウスの子ステネロス」)
- 関係: child → zeus (『イリアス』14.319-320 ゼウス自身が「ダナエがペルセウスを生んだ」と語る。アポロドーロス 2.4.1)
- 関係: child → danae (『イリアス』14.319-320、ピンダロス『ピュティア』12.17、アポロドーロス 2.4.1)
- 関係: grandparent → eurystheus (アポロドーロス 2.4.5、『イリアス』19.116, 19.123「ペルセウスの子ステネロス」の子)
ピロクテテス
- 『イリアス』が彼に触れるのは船の一覧の一箇所だけ。「弓の扱いに長けた者たち」7隻の将だが、本人は聖なるレムノスで水蛇の悪い傷に苦しんで横たわっている、と書かれる。そのうえで「やがてアルゴス勢は彼のことを思い出すことになる」と予告される。本編には一度も出てこないのに、この予告だけが置かれている。 (2.716-725(予告は 2.724-725))
- 蛇に噛まれた場所は伝承で分かれる。ホメロスは「レムノスに残された」とだけ書き、どこで噛まれたかを言わない。アポロドーロスの摘要はテネドス上陸後、アポロンに犠牲を捧げている最中に祭壇から出た水蛇に噛まれたとし、ソポクレスはクリュセの屋根の無い聖所を守る蛇に噛まれたとする。 (『イリアス』2.716-725 / 摘要 3.26-27(テネドスでの犠牲の場)/ 『ピロクテテス』1326-1328(クリュセの聖所の番蛇))
- 関係: participated_in → trojan-war (7隻を率いたが、レムノスに残された(2.716-725))
ポボスとデイモス
- 『イリアス』では、トロイア勢をアレスが、アカイア勢をアテナがけしかけ、そこにデイモスとポボスと、アレスの姉妹で仲間の、たゆまず荒れ狂うエリスが加わる。 (4.439-441)
- 『イリアス』は、戦に出るアレスに「その愛する息子ポボス」が付き従い、強く恐れを知らず、どんな剛の者も逃げ出させる、と描く。息子アスカラポスの死を聞いたアレスは、デイモスとポボスに馬をつながせて戦場へ向かおうとする。 (13.298-300、15.110-120)
- アガメムノンの盾の中央には恐ろしい目でにらむゴルゴンが飾られ、そのまわりにデイモスとポボスがいた。アテナのアイギスのまわりにはポボスが冠のようにめぐらされている。 (11.36-37、5.738-739)
- ギリシャ語 phobos の原義は「逃げ出すこと」で、ホメロスではこの意味でしか使われない。のちに「恐れ、恐慌、恐怖の対象」の意味になった。動詞 phobein は「敗走させる、おびえさせる」。英訳の『イリアス』(マリー訳)は、神としてのポボスを Rout(敗走)、デイモスを Terror と訳している。 (etymonline「phobia」。英訳は『イリアス』4.440、11.37、15.119 の訳語)
- 関係: child → ares (『神統記』933-937、『イリアス』13.299「その愛する息子ポボス」)
- 関係: companion → eris (4.439-441 デイモスとポボスとエリスが戦場で兵をけしかける)
- 関係: servant → ares (15.119-120 アレスがデイモスとポボスに馬をつなぐよう命じる)
ポイベ
- ホメロスの二つの叙事詩に、女神ポイベの名は出てこない。孫のアポロンは「ポイボス・アポロン」と何度も呼ばれるが、祖母との関係は語られない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
プレイアデス
- ホメロスとヘシオドスでは、プレイアデスは物語の人物ではなく星として現れる。アキレウスの盾には「プレイアデス、ヒュアデス、力強いオリオン」が刻まれ、筏で海を渡るオデュッセウスはプレイアデスを見て進路をとる。ヘシオドス『仕事と日』では「アトラスから生まれたプレイアデス」が昇るころに刈り入れを、沈むころに耕作を始めよと言い、40日間は姿を隠すとも言う。 (『イリアス』18.486 /『オデュッセイア』5.272 /『仕事と日』383-387、615-617)
ポリュデウケス
- 「拳闘に優れたポリュデウケス」と呼ばれる。 (3.237)
- 関係: sibling → castor (『イリアス』3.237、『オデュッセイア』11.300)
- 関係: sibling → helen (3.236-238)
ポリュムニア
- ホメロスの二つの叙事詩にポリュムニアの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
ポリュネイケス
- ホメロスでの姿: 『イリアス』では、テュデウスと共に「神のごときポリュネイケス」がミュケナイへ客として来て、テーバイの城壁を攻める援軍を募ったが、ゼウスが凶兆を示したため得られなかった、と一度だけ語られる。兄弟との争いや相討ちは語られない。 (4.376-381)
- 関係: companion → tydeus (『イリアス』4.376-377 二人でミュケナイへ援軍を求めに行く / 3.6.1 夜の門前で取っ組み合ったのが出会い /『フェニキアの女たち』417-423)
- 関係: participated_in → seven-against-thebes (『イリアス』4.376-381 /『七将』631-652 / 1123-1127 / 3.6.1-8)
ポリュクセネ
- 『イリアス』にも『オデュッセイア』にもポリュクセネの名は一度も出てこない。プリアモスが息子たちを数える場面にも、トロイア落城後の女たちの運命にも現れない。ポリュクセネは叙事詩環以降の伝承で形を得た人物である。 (両叙事詩の全文にこの名が現れないことを確認。最初期の言及は『イリオスの陥落』のプロクロス要約(ギリシャ勢がアキレウスの墓でポリュクセネを犠牲に捧げる)。ホメロス本文での不在についての整理はガンツのポリュクセネの項)
ポントス
- ホメロスでは πόντος は「海」を表すごく普通の語で、系譜を持つ神としてのポントスは出てこない。海を人格化した神としての姿は、ヘシオドスの系譜で初めてはっきりする。 (ホメロスの本文を全文検索し、固有の神として扱う用例がないことを確認。『神統記』131-132, 233)
ポセイドン
- 「我らは三兄弟、くじを引いて私は灰色の海を、ハデスは暗い闇を、ゼウスは天を得た。大地とオリュンポスは共有だ」と語り、ゼウスに従う筋合いは無いと主張する。 (15.185-199)
- かつてアポロンと共に人間の姿でラオメドン王に一年仕え、トロイアの城壁を築いたが報酬を踏み倒された。ポセイドンのトロイア憎悪はここに由来する、とポセイドン自身がアポロンに向かって語る。 (21.441-457)
- ギリシャ側に立ちながら、アキレウスに討たれそうになったトロイアのアイネイアスを救う。「アイネイアスの一族はトロイア人を治めるべく定められている」という定めのため。 (20.288-340。定めの言及は 20.302-308)
- ゼウスが戦場から目を離したすきに、サモトラケ島の山頂から三歩で山を下り、四歩目で海底の宮殿アイガイに着く。黄金の馬に引かせた戦車で波の上を走り、ギリシャ軍を助けに向かう。 (13.10-38)
- 関係: sibling → zeus (15.187-193。三兄弟のくじ引きを自ら語る)
- 関係: sibling → hades (15.187-193)
- 関係: companion → aeneas (20.288-340。敵方であるにもかかわらず、アイネイアスの子孫が生き延びる定めだとして霧に包んで救う)
プリアモス
- 息子は50人いたと自ら語る。宮殿には息子たちのための50の寝室と、娘婿のための12の寝室が並んでいたと描写される。 (24.495-497(50人)、6.242-250(宮殿の構造))
- ヘルメスに導かれて単身アキレウスの陣屋へ行き、我が子を殺した手に口づけして遺体の返還を乞う。アキレウスは心を動かされ、遺体を返して休戦を約束する。 (24.468-676。『イリアス』はヘクトルの葬儀で終わる(24.804))
- 城壁からギリシャ勢を見わたす場面でヘレネを咎めず、「悪いのはお前ではなく神々だ」と語りかける。 (3.161-170。城壁の長老たちがヘレネの美しさを語るのは 3.146-160)
- アキレウスとの一騎打ちを前に、プリアモスは城壁から腕を差し伸べてヘクトルに城内へ入るよう懇願するが、ヘクトルは応じない。 (22.25-78)
- アキレウスの前でプリアモスは「あなたの父を思い出してほしい」と訴え、「誰もしたことのないこと、息子を殺した男の顔に手を差し伸べることをしている」と言う。アキレウスは父を思い、プリアモスはヘクトルを思って、二人でともに泣く。 (24.485-512)
- 関係: spouse → hecuba (24.193-227 で夫婦として語り合う)
- 関係: ruler → troy (『イリアス』全体。24.239-264 で市民に命じる王として描かれる)
- 関係: child → laomedon (20.236-238 アイネイアスが語るトロイア王家の系譜)
- 関係: sibling → tithonus (20.237 ラオメドンの子として並べられる)
- 関係: participated_in → trojan-war (トロイア側の王として)
- 関係: parent_in_law → helen (3.161-170 息子パリスの妻ヘレネを責めず「娘よ」と呼び、責任は神々にあると言う)
プリアポス
- ストラボンは、プリアポスが神とされたのは後の時代の人々によってで、ヘシオドスでさえ彼を知らない、と書く。ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』にも名は出てこない。 (ストラボン13.1.12。ホメロスと『神統記』は英訳全文を Priapus で検索して該当なし(2026年9月))
プロテシラオス
- 船から真っ先に飛び降り、「アカイア勢のうちはるかに先んじて」ダルダニアの男に討たれた。妻は顔をかきむしって嘆き、家は半ば建てかけのまま残された、と書かれる。『イリアス』の船の一覧の中でも特に印象の強い一節。 (2.695-710(死の記述は 2.698-702))
- 殺したのが誰かは出典で違う。『イリアス』は「ダルダニアの男」とだけ言って名を伏せるが、『キュプリア』の要約ではヘクトルが討ったとされる。無名の一兵が後代に最大の英雄に置き換わった例。 (『イリアス』2.701 / 『キュプリア』要約(プロクロス))
- プロテシラオスの兵は、弟ポダルケスが率いた。兵たちは指揮者を欠いてはいなかったが、失った立派な兄を慕い続けた。 (2.703-709)
- ヘクトルが火を放とうとつかんだのは、プロテシラオスをトロイアへ運んできたが故郷へは連れ帰らなかった船だった。 (15.704-706)
- 関係: killed_by → hector (『キュプリア』要約(プロクロス)は、上陸を阻むトロイア勢の中でヘクトルが討ったとする。『イリアス』2.701 は「ダルダニアの男」とだけ言う)
- 関係: participated_in → trojan-war (ピュラケなどから40隻(2.695-710))
ラダマンテュス
- 『イリアス』では、ゼウスがヘラに向かって過去の恋を数え上げる中で、「名高いポイニクスの娘が、ミノスと神のようなラダマンテュスを私に産んだ」と言う。ここでは母エウロペの名は出ず、父はポイニクス。 (14.321-322)
- 関係: child → zeus (『イリアス』14.321-322、アポロドーロス3.1.1)
- 関係: child → europa (『イリアス』14.321-322(ポイニクスの娘)、アポロドーロス3.1.1)
- 関係: sibling → minos (『イリアス』14.322、アポロドーロス3.1.1-2)
トロイア落城
- 『イリアス』は落城を描かない。ヘクトルの葬儀で終わり、その先は読者(聴衆)が既に知っている話として置かれている。落城の場面を語るのは叙事詩環以降の作品である。 (『イリアス』24.804 が最終行)
サルペドン
- グラウコスへの演説で、なぜリュキアで上席と土地を与えられている自分たちが最前線に立つのかを説く。「どうせ死は避けられないのだから、進もう」と結ばれるこの一節は、古代から貴族の義務を語る代表的な言葉として引かれてきた。 (12.310-328)
- ゼウスは我が子を死から救おうかと迷うが、ヘラに「他の神々も同じことをしたがる」と諫められて諦め、血の雨を降らせる。神の力にも定めを超えられないことを示す場面。 (16.431-461(血の雨は 16.459-461))
- ゼウスの命でアポロンが遺体を戦場から運び出して清め、「眠り」と「死」の双子がリュキアの故郷へ送り届ける。ギリシャ壺絵の名高い図像になった。 (16.666-683)
- 死に際にグラウコスを呼び、リュキアの長たちを集めて自分の遺体と武具を守るよう頼む。遺体を巡る激戦が第16歌後半の見どころになる。 (16.492-501)
- ヘラクレスの子トレポレモスと槍を投げ合い、首を貫いて倒すが、自身も左腿を深く突かれる。父ゼウスがまだ死から守っていた。 (5.655-662)
- 関係: child → zeus (6.198-199 ゼウスがラオダメイアと交わって産ませた子)
- 関係: companion → glaucus (2.876-877 二人でリュキア勢を率いる)
- 関係: killed_by → patroclus (16.419-507(死は 16.502-505))
- 関係: companion → hector (5.471-492 遠来の同盟者として、トロイア勢が自国の戦いに怠慢だとヘクトルを叱責する)
- 関係: participated_in → trojan-war (トロイア側の同盟軍の将)
- 関係: participated_in → troy (12.290-399 ギリシャ勢の防壁を最初に突き破る)
セレネ
- ホメロスで σελήνη は夜空の「月」として出てくるだけで、名のある女神として何かをする場面はない。月が女神として系譜に組み込まれるのはヘシオドスと讃歌から。 (『イリアス』8.555, 18.484。『オデュッセイア』9.144 など(ギリシャ語本文を全文検索))
セメレ
- ホメロスとヘシオドス: 『イリアス』14歌で、ゼウスはヘラへの思いの強さを語るために過去の恋を並べ、「テーバイのセメレ、人間の喜びとなるディオニュソスを産んだ女」の名を挙げる。死に方は語られない。ヘシオドス『神統記』は、カドモスの娘セメレが「死すべき身で不死の子を産み、いまは二人とも神である」と記す。ヘシオドスの時点で、すでにセメレ自身も神とされていた。 (『イリアス』14.323-325 /『神統記』940-942)
- 関係: lover → zeus (『イリアス』14.323-325 /『神統記』940-942 / 3.4.3 / Met. 3.260-261)
- 関係: parent → dionysus (『イリアス』14.325 /『神統記』940-942 /『バッコスの信女』1-3 / 3.4.3)
テーバイ攻めの七将
- ホメロスでの扱い: 七人の名簿は無い。『イリアス』では、テュデウスがポリュネイケスとミュケナイへ援軍を求めに来たが、ゼウスの悪い前兆で断られた話や、テュデウスがテーバイに葬られていることが語られる。ディオメデスの仲間ステネロスは「父たちは自らの愚かさで滅んだが、我々は七門のテーバイを落とした」と言い、父の世代の敗北と子の世代の勝利を対比する。『オデュッセイア』は、アンピアラオスが「女の贈り物のために」テーバイで死んだとだけ触れる。 (『イリアス』4.376-381, 4.403-410, 6.222-223, 14.114 /『オデュッセイア』15.244-247)
- 結末: 予言者テイレシアスの言葉に従いクレオンの子メノイケウスが自らを犠牲にし、テーバイは持ちこたえる。カパネウスは雷に打たれ、エテオクレスとポリュネイケスは一騎打ちで相討ち、他の将も倒れて、アドラストスだけが神馬アレイオンに乗って逃げ延びた。ピンダロスは、七つの火葬の薪が若者たちの遺体を焼いたと歌う。『イリアス』でもアレイオンは「アドラストスの足の速い、神々の血を引く馬」として名が出る。 (3.6.7-8 /『フェニキアの女たち』911-1018, 1090-1092 /『ネメア祝勝歌』9.22-24、『オリュンピア祝勝歌』6.15 /『イリアス』23.346-347)
- 関係: has_episode → tydeus (使者としてテーバイに入り、帰り道の伏兵50人を1人を残して倒す。『イリアス』4.382-398 / 3.6.5)
- 関係: participant → polynices (『イリアス』4.376-378 / 『七将』631-652 / 1123-1127 / 3.6.1-3)
シシュポス
- 『イリアス』では、リュキアの武将グラウコスが家系を語る場面に出てくる。アルゴスの奥のエピュラに住んだ「人間の中で最も狡猾な」アイオロスの子で、その子グラウコスの子がベレロポンテスだという。ここでは罰の話はない。 (6.152-155)
スパルタ
- メネラオスの都で、60隻を出す。『イリアス』は町そのものよりも「窪地のラケダイモン」という地域名で呼ぶことが多い。 (2.581-590)
- ヘラが最も愛する三つの都市のひとつとして、アルゴス・ミュケナイと並べて挙げられる。 (4.51-54)
- 軍事国家としての古典期のスパルタのイメージは、ホメロスの描く「窪地のラケダイモン」とは直接つながらない。考古学的にも、古典期のスパルタ市域に人が住みはじめるのは青銅器文明の崩壊後で、青銅器時代の中心はエウロタス川の対岸にあるメネライオンの遺跡とされる。同じ地名でも、神話の時代と歴史時代で指すものの中身が違う。 (『イリアス』2.581-590 / OCD「Sparta」の項(定住の開始と青銅器時代のメネライオン遺跡))
- 関係: ruled_by → menelaus (2.581-590)
- 関係: participated_in → hera (4.51-54。ヘラが最も愛する三都の一つ)
- 関係: participated_in → trojan-war (60隻を送り出した(2.581-590))
ステュクス
- ホメロスでも、神々が最も重く誓うときは「ステュクスの流れ落ちる水」を証人に呼ぶ。ヘラがゼウスに、カリュプソがオデュッセウスに、同じ定型の句で誓う。眠りの神ヒュプノスも、ヘラの約束を確かなものにするためステュクスの水にかけて誓わせる。 (『イリアス』15.36-38, 14.271。『オデュッセイア』5.184-186)
- ホメロスでは、テッサリアのティタレシオス川は「恐ろしい誓いの水ステュクスの支流」とされ、冥界のコキュトス川も「ステュクスの水から分かれた流れ」とされる。地上と冥界の川がステュクスでつながっている。 (『イリアス』2.751-755。『オデュッセイア』10.513-514)
シュリンクス
- 楽器のシュリンクスはニンフの話よりずっと古くから記録がある。『イリアス』のアキレウスの盾には、シュリンクスを吹いて楽しむ牧人が描かれ、トロイア勢の陣の笛と管の音も聞こえる。『ヘルメス讃歌』では、竪琴をアポロンに譲ったヘルメスが、遠くまで響くシュリンクスを新たに作る。ホメロスやホメロス風讃歌にはニンフのシュリンクスは出てこない。現存する資料でニンフの変身譚を語るのは、オウィディウスが古いほうとされる。 (『イリアス』18.525-526、10.13 /『ヘルメス讃歌』(第4番)511-512。「オウィディウス以前の変身譚の有無」は研究書で未確認)
タルタロス
- 『イリアス』で、ゼウスは命令に背く神を「暗いタルタロスへ投げ込む」と脅す。そこは鉄の門と青銅の敷居をもつ深い淵で、ハデスの下にあり、天が地から離れているのと同じだけ地の下にあるという。つまりホメロスのタルタロスは、死んだ人間の行く所ではなく、神々を閉じ込める場所。クロノスとイアペトスもそこにいるとされる。 (8.13-16、8.478-481)
- 関係: visited_by → kronos (『イリアス』8.478-481 イアペトスとクロノスがタルタロスの底にいる /『神統記』851 など)
テルプシコレ
- ホメロスの二つの叙事詩にテルプシコレの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認)
テテュス
- 『イリアス』でヘラはオケアノスを「神々の起源」、テテュスを「母」と呼ぶ。ホメロスではオケアノスとテテュスの夫婦が、神々の始まりに置かれているとも読める。 (14.201, 14.302)
- ヘラは、クロノスが地下に落とされたときにオケアノスとテテュスに預けられて育ったと語り、長く床を共にしていない二人の不和を仲裁しに行くと言ってゼウスを欺く。実際はゼウスを眠らせるための口実。 (14.200-210)
- 関係: foster_parent → hera (14.200-204 レアから預かったヘラを自分たちの館で育てた)
タレイア
- 同じ名が三つの別の女神の一族に出てくる。ヘシオドスは、ゼウスがオケアノスの娘エウリュノメとのあいだにもうけた三柱のカリスの一人を「愛らしいタレイア」と呼び、『イリアス』でテティスのもとに集まるネレイスの最初のほうにもタレイアがいる。アポロドロスは一つの文の中で、カリスのタレイアとムーサのタレイアを続けて挙げている。 (『神統記』77(ムーサ)、907-909(カリス)。『イリアス』18.39(ネレイス)。アポロドロス 1.3.1)
- ホメロスに出てくる「タレイア」はネレイスの一人だけで、ムーサとしてのタレイアの名は出てこない。 (『イリアス』18.39。ムーサとしての用例がないことはギリシャ語本文を全文検索して確認)
タナトス
- 『イリアス』でゼウスの子サルペドンが倒れると、ゼウスは亡骸を「双子の眠りと死」に託し、故郷リュキアへ運ばせる。ホメロスでタナトスが人格的に動くのはこの場面ぐらいで、多くの箇所では θάνατος は「死」という普通名詞として出てくる。 (16.453-457, 16.666-683)
- 関係: sibling → hypnos (『イリアス』14.231, 16.672「双子の眠りと死」。『神統記』756-759)
テーバイ
- ホメロスはテーバイを「七つの門の」と呼ぶ。『イリアス』では、ディオメデスの仲間ステネロスが「父たちは愚かさゆえに滅んだが、我々はより少ない兵で、より強い城壁の七門のテーバイを落とした」と言い、父の世代の「七将」の失敗と、子の世代(エピゴノイ)の攻略に触れている。ヘシオドスも、「オイディプスの羊の群れ」をめぐって七門のテーバイで英雄たちが戦って滅んだと書く。 (『イリアス』4.403-410 /『仕事と日』161-163)
- 同名注意: 『イリアス』にはエジプトのテーバイも出てくる。アキレウスが「財宝の最も多いエジプトのテーバイ、百の門があり、門ごとに二百人が馬と戦車で出撃する町」と言うのがそれで、エジプトの都市を指す。ボイオティアの「七門の」テーバイと、エジプトの「百門の」テーバイは別の町である。 (9.381-384)
テイア
- ホメロスの二つの叙事詩にテイアの名は出てこない。ヘリオス、セレネ、エオスは登場するが、その母は語られない。 (ギリシャ語本文を全文検索して、女神テイアを指す用例がないことを確認)
テミス
- ホメロスのテミスは神々の集会を取り仕切る女神で、『イリアス』ではゼウスの命で神々を集会に呼び集め、『オデュッセイア』ではテレマコスが「集会を解きもし開きもするテミス」の名にかけて民に訴える。 (『イリアス』15.87-95, 20.4-6。『オデュッセイア』2.68-69)
- 関係: companion → hera (15.87-95 オリュンポスに戻ったヘラを最初に迎え、杯を差し出して何があったか尋ねる)
テセウス
- ホメロスでのテセウスはごくわずか。『イリアス』でネストルが昔の英雄の一人に名を挙げ、『オデュッセイア』ではアリアドネをクレタから連れ出したこと、冥界で会いたかった英雄としてペイリトオスと並んで名が出る程度。ミノタウロス退治は語られない。 (『イリアス』1.265、『オデュッセイア』11.321-325, 11.631)
- テセウスが冥界にいるあいだに、ディオスクロイがアテナイを攻めてヘレネを取り戻し、テセウスの母アイトラも捕虜として連れ去った。『イリアス』でトロイアのヘレネに付き従う侍女に「ピッテウスの娘アイトラ」の名がある。 (アポロドーロス摘要1.23、『イリアス』3.143-144)
- 関係: companion → nestor (1.262-265 ネストルが、昔ともに戦った英雄の一人にテセウスを挙げる)
テッサリア
- 『イリアス』では、ペイリトオスが毛深いケンタウロスたちに報復してペリオンから追い払い、アイティケス人のもとへ追いやった。 (2.742-744)
- アキレウスの父の重い槍は、ケイロンがペリオンの頂のトネリコで作ってペレウスに贈ったもので、アキレウスのほかには誰も振るえなかった。 (16.140-144、19.387-391)
- 関係: visited_by → centaurs (2.742-744 ペリオン)
テティス
- 海の老人ネレウスの五十人の娘(ネレイデス)の一人。『イリアス』18巻では姉妹たちが名を連ねて嘆きに加わる。 (『神統記』244(名の列挙)、『イリアス』18.37-49(姉妹の一覧))
- アキレウスの頼みでオリュンポスに上り、ゼウスの膝を抱き顎に手を触れる嘆願の姿勢で、トロイア勢を勝たせて息子の名誉を回復するよう求めた。ゼウスは頷き、オリュンポスが揺れる。『イリアス』の筋はここから動く。 (1.493-530。頷きの場面は 1.524-530)
- アキレウスは母への頼みの根拠として、かつてヘラとポセイドンとアテナがゼウスを縛ろうとしたときテティスが百手のブリアレオスを呼んで助けた、という事件を持ち出す。この反乱未遂は『イリアス』のこの箇所でしか語られない。 (1.396-406)
- 『イリアス』のテティスは自分の結婚を嘆く。「神々の中で私だけが耐えがたい苦しみを与えられた。人間の男に嫁がされ、その人は今や老いて床にいる」と語る。 (18.429-434)
- パトロクロスと共にアキレウスの武具が奪われたため、ヘパイストスに新しい武具一式を依頼する。かつて自分が匿った恩から、ヘパイストスは断らない。 (18.369-467(依頼)、18.394-405(恩の回想))
- アキレウスを不死にしようとして火にかざした(あるいは冥界の川に浸した)という話は、ホメロスには無い。ホメロスのアキレウスは普通に傷つき、踵の弱点も語られない。 (アポロドーロス 3.13.6 は夜ごと火にかざす話を伝える。『イリアス』21.166-167 ではアキレウスは実際に負傷する)
- パトロクロスの死を嘆くアキレウスの声を聞き、テティスは姉妹たちと嘆く。「ああ、最も優れた子を産んだ不幸な私」と言い、育てて送り出した息子を二度と家に迎えられないと嘆く。『イリアス』1巻でも、命の短い息子をなぜ育てたのかと泣く。 (18.54-60、1.414-418)
- 関係: child → nereus (『神統記』244。『イリアス』1.358, 18.35-36 では父は名を挙げられず「海の老人」と呼ばれる)
- 関係: spouse → peleus (18.429-434。自ら「神々は私を人間の男に、意に染まぬまま嫁がせた」と嘆く)
- 関係: parent → achilles (1.351-357 ほか全編。アキレウスが呼べば海の底から立ち上る)
- 関係: companion → zeus (1.396-406。かつて神々がゼウスを縛ろうとしたとき、百手のブリアレオスを呼んで助けた恩がある)
- 関係: foster_parent → hephaestus (18.394-405。天から落とされたヘパイストスを九年間匿った)
- 関係: companion → dionysus (6.135-137。リュクルゴスに追われて海に飛び込んだディオニュソスを胸に抱いて匿った)
- 関係: foster_child → hera (24.59-61。ヘラが「私が育て、ペレウスに嫁がせた」と語る)
トラキア
- 『イリアス』は、アレスが息子の潰走(ポボス)を連れてトラキアから武装して出陣するさまを、メリオネスとイドメネウスの出陣のたとえに使う。『オデュッセイア』では、ヘパイストスの網から放たれたアレスはトラキアへ去った。 (『イリアス』13.298-303、『オデュッセイア』8.360-361)
- 『イリアス』は、ギリシャ軍の動揺を、トラキアから吹く北風と西風が突然魚の多い海をかき立てるさまにたとえる。 (9.4-7)
- 捕らえられたドロンは、陣の外れにいる新来のトラキア勢と、エイオネウスの子である王レソスの馬のことを語る。馬はこれまで見た中で最も美しく大きく、雪より白く、風のように速い。戦車は金銀で飾られ、黄金の鎧は神々にこそふさわしいという。ディオメデスとオデュッセウスはその夜レソスと仲間を討ち、馬を奪った。 (10.434-441、10.474-502)
- 関係: visited_by → ares (『イリアス』13.301、『オデュッセイア』8.361)
- 関係: visited_by → boreas (9.5 トラキアから吹く北風)
ティリュンス
- 『イリアス』の船の目録では、アルゴスと「城壁で名高いティリュンス」などの兵をディオメデスが率いた。 (2.559)
ティタノマキア
- ティタンたちは、天から落とした青銅の金床が九日九夜かかって地上に着き、さらに九日九夜かかって届くほど深いタルタロスに閉じ込められる。ポセイドンが青銅の門を据え、百手の巨人たちが番をする。『イリアス』でもティタンたちは「タルタロスの下にいる者たち」と呼ばれる。 (『神統記』713-735。『イリアス』14.279, 8.478-481)
- 戦いのあと世界がどう分けられたかは伝えによって違う。『神統記』では神々がガイアの勧めでゼウスに王になるよう求め、ゼウスが神々に役目を割り振る。『イリアス』のポセイドンとアポロドロスでは、ゼウス・ポセイドン・ハデスの三兄弟がくじを引き、天・海・冥界を分けたとされ、大地とオリュンポスは共有とされる。 (『神統記』881-885。『イリアス』15.187-193。アポロドロス 1.2.1)
ティタン族
- ホメロスでは、ティタンはタルタロスの下にいる神々として、ヘラの誓いの証人に呼び出される。ゼウスは、イアペトスとクロノスが太陽の光も風も知らず、深いタルタロスに囲まれて大地と海の果てにいると言う。パウサニアスは、ティタンを詩に最初に登場させたのはホメロスだとする。 (『イリアス』14.271-279、8.477-481、パウサニアス8.37.5)
ティトノス
- ホメロスの定型句「曙(エオス)はティトノスの臥所から起き上がり」は『イリアス』と『オデュッセイア』の双方に現れ、毎朝の夜明けそのものがこの夫婦の情景として語られている。 (『イリアス』11.1-2、『オデュッセイア』5.1-2)
- 関係: child → laomedon (20.237)
- 関係: sibling → priam (20.237 ラオメドンの子として並記される)
- 関係: participated_in → troy (20.230-240 トロイア王家の系譜)
三叉の槍(トライデント)
- 『イリアス』では、トロイア落城後、ポセイドンが三叉の槍を手に、アポロンが向けた川の流れを率いて、アカイア勢の防壁の土台を海へ押し流す。 (12.24-33)
- 『アエネイス』で、ウェヌスに目を開かれたアイネイアスは、ネプトゥヌスが大きな三叉の槍でトロイアの城壁と土台を揺さぶり、町を根こそぎ崩す姿を見る。『イリアス』では、この城壁はポセイドンとアポロンがラオメドンのために築いたものだった。 (『アエネイス』2.604-612、『イリアス』7.452-453)
- 関係: owned_by → poseidon (『イリアス』12.27、『オデュッセイア』4.506、5.292、アポロドーロス1.2.1)
トリトン
- ホメロスの二つの叙事詩にトリトンは出てこない。アテナの添え名「トリトゲネイア」は出てくるが、この名とトリトン(神やトリトン川・湖)との関係ははっきりしない。 (ギリシャ語本文を全文検索して、神トリトンの用例がないことを確認。「トリトゲネイア」は『イリアス』4.515, 8.39, 22.183、『オデュッセイア』3.378、『神統記』895, 924)
トロイロス
- 『イリアス』での登場は一箇所だけ。プリアモスが生き残った息子たちを罵る場面で、失った優れた子として「馬を駆る戦いを好んだトロイロス」の名が挙がる。死の経緯も人物像も語られない。 (24.257)
- 関係: child → priam (24.257 プリアモスが失った息子たちを数え上げる中に名がある)
- 関係: sibling → hector (24.251-259 同じ列挙の中で並べられる)
- 関係: participated_in → trojan-war
トロイアの木馬
- 『イリアス』に木馬は出てこない。『イリアス』はヘクトルの葬儀で終わっており、落城までは描かれない。「トロイア戦争といえば木馬」という印象は『イリアス』以外の伝承から来ている。 (24.804 が最終行)
トロイア戦争
- 『イリアス』が描くのは10年目のごく一部、およそ50日間だけである。木馬も、落城も、アキレウスの死も、ヘレネの連れ去りも本編には無い。詩はヘクトルの葬礼で終わり、戦争はまだ続いている。 (1.1-2(主題の宣言)、24.804(結びの一行))
- 発端はパリスの審判とヘレネの連れ去りとされるが、『イリアス』が審判に触れるのは24.25-30 の一箇所だけで、それも「パリスが自分の館で三女神に判定を下した」と短く回想されるにすぎない。有名な発端のほとんどは『キュプリア』以降の詩が担っている。 (『イリアス』24.25-30 / 『キュプリア』要約)
- 9年戦って10年目に落ちる、というのはアウリスの予兆の解釈として最初から決まっている。『イリアス』の登場人物は自分たちが10年目にいることを知っている。 (2.322-330)
- 『キュプリア』の断片は、戦争の起こりをゼウスの計画として語る。数えきれない人間が大地にのしかかっているのを哀れんだゼウスが、イリオスの大戦を起こして大地を軽くしようと決めた、という。『イリアス』冒頭の「ゼウスの計画が遂げられていった」(1.5)にこの話を当てる古註が伝える。 (『キュプリア』断片3(『イリアス』1.5への古註が引用、エヴリン=ホワイト訳))
- 関係: located_at → troy (攻められた側の都市)
- 関係: located_at → aulis (2.303-330。集結地)
- 関係: participant → helen (3.156-160。トロイアの長老たちが「この女のためなら戦うのも無理はない」と言う)
- 関係: participant → judgment-of-paris (24.25-30。『イリアス』が審判に触れる唯一の箇所)
トロイア
- ホメロスはこの街をイリオスとトロイエの二つの名で呼ぶ。『イリアス』という題名は前者から、「トロイア戦争」という呼び名は後者から来ており、同じ街の二つの名が別々の言葉として日本語にも入っている。 (両方の名が作中で併用される(例 1.71 Ἴλιον, 1.129 Τροίην))
- 城壁はポセイドンがラオメドンのために築いたものとされる。 (7.452-453(ポセイドンとアポロンの労役)、21.441-457(ポセイドンの回想))
- スカイア門とそのそばのイチジクの木は、ヘクトルとアンドロマケの別れ、ヘクトルの最期など、作中の重要な場面が繰り返し置かれる場所として機能している。 (6.392-393(別れ)、6.433(イチジクの木)、22.145-147(城壁を巡る追走))
- プリアモスの宮殿は、磨いた石の柱廊の中に息子たちのための50の寝室が並び、向かいに娘婿たちのための12の寝室がある、という具体的な建築として描かれる。 (6.242-250)
- トロイアが落ちるのは一度ではない。ラオメドンの約束破りに怒ったヘラクレスが先に一度落としており、その時の生き残りがプリアモスである。 (『イリアス』5.638-651、アポロドーロス 2.6.4)
- 予言者カルカスは、蛇が雀の雛8羽と母鳥を食った前兆から、戦いは9年続き10年目に街が落ちると告げた。 (2.322-329)
- 関係: ruled_by → priam (『イリアス』全体)
- 関係: ruled_by → laomedon (7.452-453, 21.441-457 プリアモスの前の王)
- 関係: setting_of → trojan-war (攻囲される側の城市)
- 関係: companion → mount-ida (8.47-52 など、トロイアを見下ろす山として一貫して背景に置かれる)
ヘラクレスの十二の功業
- ホメロスは「エウリュステウスの難業」という言い方をし、冥界の犬を連れ出したことにだけ具体的に触れる。数は示さず、12という枠はまだ見えない。 (『イリアス』8.362-369, 19.133、『オデュッセイア』11.620-626)
- 関係: participant → eurystheus (課した側。『イリアス』19.133、アポロドーロス 2.5.1 使者コプレウスを通じて命じる)
オリュンポス十二神
- ホメロスとヘシオドスには「十二の神々」という名簿は出てこない。『イリアス』の神々はオリュンポスのゼウスの館に集まるが、その数は決まっていない。 (『イリアス』1.493-533、8.1-27 など)
- 関係: located_at → mount-olympus (1.493-533 神々はオリュンポスのゼウスの館に集まる)
テュデウス
- 『イリアス』4歌: アガメムノンは戦いをためらって見えるディオメデスを叱り、父テュデウスの話をする。テュデウスはただ一人、使者としてテーバイのエテオクレスの館に入り、宴の席のカドモスの民に力比べを挑んで、アテナの助けで全員を負かした。怒ったテーバイ人が帰り道に50人の伏兵を置くと、彼はハイモンの子マイオンだけを神々の前兆に従って帰し、残りを皆殺しにした。アガメムノンは「その息子は戦では父に劣り、弁舌では勝る」と締めくくる。 (4.370-400)
- 『イリアス』5歌: アテナ自身がディオメデスに「テュデウスは体は小さかったが戦士だった」と語り、自分が宴でおとなしくしているよう言ったのに、テーバイの若者に挑んで全員に勝った、と思い出す。10歌ではディオメデスが夜襲の前に、父がアソポス河畔から使者としてテーバイへ行ったときのように自分にも付き添ってほしいとアテナに祈る。ホメロスのテュデウスは、アテナに愛された勇者として描かれている。 (5.800-813, 10.284-294)
- 墓: ディオメデスは『イリアス』で、父テュデウスは「テーバイで盛り土に覆われている」と語る。2世紀のパウサニアスは、テーバイのプロイトスの門からカルキスへ向かう道沿いに、メラニッポスの墓と、その近くのテュデウスの墓とされる三つの粗石を見ている。テーバイの郷土史家は、テュデウスを葬ったのは伏兵のなかで一人生かされたマイオンだと言い、その根拠にこの『イリアス』の一行を引いたという。 (『イリアス』14.114 / 9.18.1-2)
- 関係: child → oeneus (『イリアス』5.813, 14.115-118 / 1.8.5)
- 関係: parent → diomedes (『イリアス』4.365-370, 14.113-114 / 1.8.5 アドラストスの娘デイピュレとの子)
- 関係: child_in_law → adrastus (『イリアス』14.121「アドラストスの娘の一人を娶った」/ 1.8.5, 3.6.1 デイピュレ /『フェニキアの女たち』423)
- 関係: companion → polynices (『イリアス』4.376-381 / 3.6.1)
- 関係: companion → athena (4.390, 5.800-808, 10.284-291 アテナが常に助け手として付き添った)
- 関係: visited → eteocles (『イリアス』4.384-390 使者としてエテオクレスの館へ / 3.6.5)
- 関係: participated_in → seven-against-thebes (『イリアス』4.376-398, 14.114 /『七将』377-394 / 1119-1122 / 3.6.3-8)
テュポン
- 『イリアス』は、行軍するギリシャ勢の足音を、ゼウスが「アリモイの地でテュポエウスの寝床のまわりの大地を鞭打つ」ときのように大地がうめいた、とたとえる。ホメロスではこの一回しか出てこない。 (2.781-783)
冥界
- ホメロスでは冥界は「ハデスの館」と呼ばれ、ハデスはもともと神の名で、場所の名ではなかった。『イリアス』では、クロノスの三人の息子がくじを引き、ゼウスが天、ポセイドンが海、ハデスが「暗い闇」を得て、大地とオリュンポスは共有とされた。 (15.187-193)
- 関係: ruled_by → hades (『イリアス』15.187-193 くじでハデスが「暗い闇」を得る /『神統記』767-774)
ウラニア
- ホメロスの二つの叙事詩に女神ウラニアの名は出てこない。 (ギリシャ語本文を全文検索して確認(οὐρανίωνες「天の神々」などの語はある))
ペレウスとテティスの婚礼
- 『イリアス』もこの婚礼を知っている。ヘラが「私が育てたテティスをペレウスに嫁がせ、神々はこぞって宴に集まった」と語る。ただしエリスの妨害も林檎も出てこない。 (24.59-63)
- この婚礼で神々がペレウスに贈った品が、後の物語の道具になる。アキレウスが着る神造りの武具も、不死の馬クサントスとバリオスも、神々の結婚祝いとして語られる。 (18.84-85(武具)、16.866-867, 23.276-278(馬))
- この婚礼から生まれた子がアキレウスである。戦争の発端(エリスの争い)と、その戦争最強の戦士が、同じ一つの宴に由来していることになる。 (1.1「ペレウスの子アキレウス」、24.59-63(婚礼))
- 関係: participant → peleus (24.59-63 ヘラがテティスをペレウスに嫁がせたと語る)
- 関係: participant → thetis (24.59-63)
- 関係: participant → zeus (24.59-63 神々がこぞって婚宴に列席した)
ゼピュロス
- ホメロスの西風は荒い風としても描かれる。『イリアス』では西風に追われた波が岸で砕ける比喩に、『オデュッセイア』では南風と並び、神々の意に反してでも最も多く船を砕く風として出てくる。 (『イリアス』4.422-426、『オデュッセイア』12.286-290)
- アキレウスの神馬クサントスとバリオスは、オケアノスの流れのほとりの牧場で草を食んでいたハルピュイアのポダルゲが、西風とのあいだに産んだ馬。 (16.148-151)
- パトロクロスの火葬の薪が燃えないため、アキレウスは北風と西風に供物を約束して祈る。イリスが伝えに行くと、風たちは西風の館で宴会中だった。風たちは雲を追い立てて海を渡り、一晩じゅう薪を燃やし続けた。 (23.192-225)
- 関係: lover → harpies (16.148-151 ハルピュイアのポダルゲが西風とのあいだにクサントスとバリオスを産む)
- 関係: visited_by → iris (23.198-211 イリスが西風の館の宴に来てアキレウスの祈りを伝える)
ゼウス
- ポセイドンの言葉によれば、クロノスの三兄弟はくじを引いて世界を分け、ゼウスが天、ポセイドンが海、ハデスが冥界を得た。大地とオリュンポスは共有とされる。それでも使者イリスは、ゼウスのほうが年長で、力もはるかに上だと言ってポセイドンをいさめている。 (15.187-193。ポセイドンは自分をゼウスと「同格」と主張する(15.185-199))
- 神々に向かって「黄金の綱を天から垂らせ、全員でぶら下がっても私を引き下ろせない。私が引けば大地も海もろとも引き上げられる」と力を誇示する。 (8.18-27)
- 『イリアス』では、テティスに膝を抱かれて嘆願され、アキレウスの名誉のためにトロイア勢を勝たせると頷く。物語全体がこの一つの約束から動き出す。 (1.493-530)
- 黄金の秤でアキレウスとヘクトルの運命を量り、我が子サルペドンさえ救おうとして他の神に諫められる。全能でありながら運命(モイラ)には従うものとして描かれる。 (22.208-213(運命の秤)、16.431-461(サルペドン))
- ヘレネの父。『イリアス』ではヘレネは繰り返し「ゼウスの娘」と呼ばれるが、どのようにして生まれたかは語られない。 (3.199, 3.418)
- 息子サルペドンがパトロクロスに討たれる運命を嘆き、救い出そうか迷うが、ヘラに諫められて従う。代わりに大地に血の雨を降らせて息子に敬意を示した。 (16.431-461)
- 関係: spouse → hera (『神統記』921-923。『イリアス』1.536-611, 14.153-353 では夫婦喧嘩が繰り返し描かれる)
- 関係: sibling → poseidon (15.187-193。同じ両親から生まれた三兄弟のくじ引き)
- 関係: sibling → hades (15.187-193)
- 関係: parent → helen (『イリアス』3.199 でヘレネは「ゼウスの娘」と呼ばれる)