ギリシャ神話の地図
ゼウス父パトロクロス討ち手グラウコス戦友ヘクトル盟友ヘラ女神アポロン葬り手ヒュプノス運び手タナトス運び手

サルペドン

Σαρπηδών英雄

神々の王ゼウスが、戦場に血の雨を降らせた。死にゆく息子を、救うことができなかったからだ。

その息子の名はサルペドン。トロイア戦争で、遠くからトロイアの加勢に駆けつけた勇将である。『イリアス』の中でこの男がどう戦い、どう死んだのか、見ていこう。

サルペドンは、ゼウスが人間の娘に産ませた子で、小アジアの南の国リュキアの王だった。いとことともにリュキアの軍勢を率いて、トロイアのために戦った。

遠来の同盟者でありながら、戦いぶりは誰よりもまっすぐだった。トロイア方が押されると、トロイアの王子ヘクトルをつかまえて叱りつけている。自分たちは遠くの国から来て、あなたたちのために戦っているのに、当のトロイアの男たちはどこにいるのか、と。

英雄ヘラクレスの息子と一騎打ちになったときは、相手の首を槍で貫いて倒した。自分も左の腿を深く突かれたが、まだ父ゼウスが死から守っていた。

ギリシャ方が船を守るために築いた防壁に、最初に突破口を開いたのもサルペドンだった。攻めかかる前、彼はいとこに語りかけている。なぜ私たちは、リュキアで上座と肉と満たされた杯でもてなされ、神のように仰がれ、広い土地まで与えられているのか。だからこそ、先頭に立って燃えさかる戦に向かわなければならない。もし私たちがこの戦を逃れて、老いも死もなくいられるのなら、私も最前線には立たないし、おまえを戦場へ送り出しもしない。だが死の運命は数えきれず、誰も逃れられない。さあ行こう。人に誉れを与えるか、人から誉れを得るか。

この言葉は、上に立つ者がなぜ先頭で戦うのかを語った一節として、古くから引かれてきた。

最後の戦いの相手は、アキレウスの鎧を着て出陣した親友パトロクロスだった。二人がぶつかり合おうとするのを見て、ゼウスは妻ヘラに打ち明けた。人間の中でいちばんいとしいサルペドンが、パトロクロスに討たれる定めだ。生きたまま戦場から運び出して、リュキアへ帰してやろうか。ヘラは反対した。とうに死ぬと定められた人間を救うのか。そんなことをすれば、ほかの神々も自分の子を救いたがる。いとしいなら、死なせてやりなさい。そのあとで、死と眠りに遺体を故郷まで運ばせればいい。

ゼウスは聞き入れた。ただ、息子に敬意を表して、大地に血の雨を降らせた。

サルペドンは、パトロクロスの槍に胸を貫かれて倒れた。息を引き取る前に、いとこを呼んで、リュキアの将たちを集めて自分の遺体と武具を守ってくれと頼んだ。遺体をめぐって激しい戦いが続き、武具はギリシャ方に奪われた。

そこでゼウスは、アポロンに命じた。遺体を矢の届かないところへ運び出し、川の水で黒い血を洗い清め、神々の香油を塗り、不死の衣を着せよ。そして眠りと死の双子の兄弟に渡し、リュキアへ運ばせよ。故郷で兄弟や身内が塚と石柱を建てて葬るだろう。アポロンは、そのとおりにした。

眠りと死の兄弟が、勇将の遺体を故郷へ運んでいく。
眠りと死の兄弟が、勇将の遺体を故郷へ運んでいく。『サルペドンの亡骸をリュキアへ運ぶ眠りと死』 ジョン・フラクスマン(原画) 1895年(A・J・チャーチ『イリアス物語』の挿絵)Public domain

アポロドーロスは、同じ名のサルペドンをもう一人記している。ゼウスとエウロペのあいだの子で、クレタの王ミノスの兄弟にあたる人物だ。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

同名のサルペドンがもう一人いる。エウロペとゼウスの子でミノスの兄弟とされるクレタのサルペドンである。アポロドーロスは、ゼウスが三世代分の寿命を与えたとして両者を結びつけている。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

グラウコスへの演説で、なぜリュキアで上席と土地を与えられている自分たちが最前線に立つのかを説く。「どうせ死は避けられないのだから、進もう」と結ばれるこの一節は、古代から貴族の義務を語る代表的な言葉として引かれてきた。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ゼウスは我が子を死から救おうかと迷うが、ヘラに「他の神々も同じことをしたがる」と諫められて諦め、血の雨を降らせる。神の力にも定めを超えられないことを示す場面。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ゼウスの命でアポロンが遺体を戦場から運び出して清め、「眠り」と「死」の双子がリュキアの故郷へ送り届ける。ギリシャ壺絵の名高い図像になった。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

残り2件を読む

死に際にグラウコスを呼び、リュキアの長たちを集めて自分の遺体と武具を守るよう頼む。遺体を巡る激戦が第16歌後半の見どころになる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ヘラクレスの子トレポレモスと槍を投げ合い、首を貫いて倒すが、自身も左腿を深く突かれる。父ゼウスがまだ死から守っていた。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

ほかのつながり(4人)

家族・恋愛

  • ベレロポン祖父母

    『イリアス』6.196-199、アポロドーロス 3.1.1 娘ラオダメイアとゼウスの子

出来事・場所・物

次に読む

このページの出典(2件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』