ギリシャ神話の地図
ペガソス愛馬キマイラ倒した怪物アテナ授けた女神アマゾン族戦った相手ポセイドン先祖グラウコス孫サルペドン孫ディオメデス話の聞き手
ペガソスに乗ったベレロポンが、キマイラを槍で討つ場面(ローマ時代のモザイク)。

ベレロポン

Βελλεροφόντης英雄

ペガソスに乗ったベレロポンが、キマイラを槍で討つ場面(ローマ時代のモザイク)。 『ペガソスに乗ってキマイラを討つベレロポン』 2〜3世紀 ロラン美術館(フランス・オータン)Public domain

目を覚ますと、若者の枕もとに黄金の手綱が置かれていた。

夢の中で、女神アテナがこう告げていた。眠っているのか、王よ。起きて、この馬の魔よけを取れ。そして白い牡牛を捧げて、先祖の海の神ポセイドンに見せよ、と。詩人ピンダロスが描くこの場面で、若者は、泉のほとりでどうしても捕まえられずにいた天馬ペガソスを、ついに手に入れる。ペガサスの名でも知られるあの天馬の乗り手、ベレロポンである。

では、天馬にまたがったこの英雄が、どんな運命をたどったのか。はじめから見ていこう。

ベレロポンは、ギリシャのコリントスの王家の生まれ。後の神話集によれば、あるとき誤って兄弟を殺してしまい、罪を清めてもらうために、よその国の王のもとへ身を寄せる。

『イリアス』によると、神々はこの若者に美しさと勇ましさを与えていた。王妃は彼に恋い焦がれ、ひそかに言い寄る。ベレロポンは誠実な心の持ち主で、これをきっぱり断る。すると王妃は、夫に嘘を言いつけた。あの男が私に言い寄ってきたのです、あの男を殺してください、と。

王は怒ったが、自分の手で客人を殺すのははばかられた。そこで、折りたたんだ板に命を奪うしるしをいくつも刻み、それを持たせて、遠いリュキアの国にいる王妃の父のもとへ送り出した。手紙を持たされた本人は、自分の死を命じる中身を知らない。

リュキアの王は、九日のあいだ客をもてなし、十日目に板を開いた。そして手紙の意図どおり、ベレロポンを次々と死地へ送り出す。

最初に命じられたのは、怪物キマイラの退治だった。前は獅子、後ろは大蛇、真ん中は山羊。口から火を吐いて、国を荒らし回る化け物だ。ベレロポンはペガソスにまたがって空高く舞い上がり、上から矢を射かけて怪物を仕留めた。

次は、勇猛な山の民との戦い。その次は、女だけの戦士の国アマゾンとの戦い。どれも生き延びて帰ってきた英雄を、最後はリュキアの精鋭たちが待ち伏せする。ベレロポンは、そのすべてを討ち取ってしまった。

さすがの王も、この若者は神の血を引いているに違いないと悟る。王は娘を妻として与え、王の持つ誉れの半分を分け与えた。ここまでが、英雄として輝いた日々である。

『イリアス』は、その後のベレロポンについて短く語るだけだ。神々に憎まれるようになり、人の通う道を避けて、ひとり野をさまよった、と。ピンダロスは、その理由を書いている。ベレロポンは天馬に乗って、天上の神々の集まりまで昇ろうとした。ペガソスは主人を振り落とし、天馬だけがゼウスの厩に迎え入れられる。

この物語を『イリアス』で語るのは、ベレロポンの孫である。トロイア側で戦うリュキアの武将で、戦場でギリシャの勇将と向き合ったとき、名を問われて祖父の話を始めた。聞き終えた相手は、互いの祖父がかつて客として親しく交わった仲だと気づき、二人は槍を収めて武具を交換した。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

言い寄って拒まれ、逆に夫へ讒言した王妃の名は、『イリアス』ではアンテイア。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

アポロドーロスではステネボイア。同じ役の女性に二つの名がある。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

アポロドーロスでは、ベレロポンは誤って兄弟を殺し、プロイトスのもとへ行って清めを受けた。そこでステネボイアに言い寄られて拒み、讒言される。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

ベレロポンの話を最も早く、まとまった形で語るのは『イリアス』6巻。トロイア側のリュキア人グラウコスが、戦場で向き合ったディオメデスに自分の家系を名乗る場面で、祖父の物語として語られる。聞いたディオメデスは、祖父同士が客友だったと気づいて一騎打ちをやめ、二人は武具を交換する。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

プロイトス王は、妃の訴えを信じてベレロポンをリュキアの義父のもとに送り、「折りたたんだ板に、命を奪うしるしを多く刻んで」持たせた。ホメロスでは珍しい、書き付けによる伝達の場面である。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

リュキア王は、キマイラ退治、ソリュモイ人との戦い、アマゾンとの戦い、さらに精鋭の待ち伏せと、次々に死地へ送ったが、ベレロポンはすべて生き延びた。王は神の血筋だと悟って娘と王国の半分を与えた。『イリアス』には、この間ペガソスは一度も出てこない。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

残り4件を読む

ベレロポンの子ヒッポロコスの子がグラウコス、娘ラオダメイアがゼウスとの間に生んだのがサルペドン。『イリアス』でトロイア側に立つリュキアの二大将は、どちらもベレロポンの孫にあたる。なおアポロドーロスは、サルペドンをエウロペの子(ミノスの兄弟)とする別系譜も伝える。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

『イリアス』は晩年について、神々に憎まれ、人を避けてアレイオンの野をひとりさまよったとだけ語る。ピンダロスは理由を補うように、ペガソスで天の神々の座へ昇ろうとして振り落とされたと歌う。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半

ピンダロスによれば、ベレロポンは泉のほとりでペガソスを捕らえようとして苦労していたが、予言者の勧めでアテナの祭壇に眠ると、夢に女神が現れ黄金の手綱を授け、白い牡牛をポセイドンに捧げよと告げた。目覚めると手綱が傍らにあり、それで天馬を捕らえ、空からアマゾン、キマイラ、ソリュモイ人を討った。ペガソスはのちにオリュンポスのゼウスの厩に迎えられる。

ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半

ピンダロスは、翼あるペガソスが、天の館へ行ってゼウスの集まりに加わろうとした主人ベレロポンを振り落とした、と歌う。

ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半

ほかのつながり(3人)

仲間・師弟

星座になった話

次に読む

このページの出典(5件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』