惑星の天王星は、英語でウラヌス。ほかの惑星がローマの神の名で呼ばれるなか、この星だけはギリシャの神の名がそのまま付けられた。元素のウランも、この星の名から取られている。もとになったのは、ギリシャ神話で最初に世界を治めた天の神、ウラノスである。
『神統記』によれば、ウラノスを産んだのは大地の女神ガイアだった。伴侶もなしに、自分と同じ大きさの、星をちりばめた天を産み、自分をすっぽり覆わせた。そしてこの天が、大地の夫になった。
天と大地のあいだには、次々に子が生まれた。のちにティタンと呼ばれる12柱の神々。一つ目の巨人たち。50の頭と100の腕を持つ巨人たち。ところがウラノスは、生まれたばかりの子を憎み、光のもとに出さず、大地の奥深くへ押し込めた。そうして悪事を楽しんだ。
子を体の中に押し込められた大地は、苦しんでうめいた。そして灰色の石で大きな鎌をこしらえ、子どもたちに、父に報いを受けさせようと持ちかけた。応じたのは、末っ子のクロノスだけだった。
夜とともに、ウラノスは大地を求めてやって来て、すっぽりと覆いかぶさった。物陰に潜んでいたクロノスは、左手で父をつかみ、右手の大鎌で父の体の一部を切り落とし、後ろへ投げ捨てた。天の神の支配は、こうして終わった。
大鎌を振り上げるクロノスと、倒れた父ウラノス。『サトゥルヌスによるウラノスの去勢』 ジョルジョ・ヴァザーリ、クリストーファノ・ゲラルディ 16世紀Public domain切り落とされた体から飛び散った血は大地に落ち、やがて復讐の女神たちと、鎧をまとった巨人族と、トネリコの精たちが生まれた。海に落ちた体の一部のまわりには白い泡が立ち、その中から愛の女神アプロディテが現れた。ウラノスの敗北から、新しい神々が生まれた。
海の泡から現れた愛の女神。ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』(1485年ごろ)。『ヴィーナスの誕生』 サンドロ・ボッティチェッリ 1485年ごろ ウフィツィ美術館Public domain倒された父は、子どもたちを「ティタン」と呼んでなじった。手を伸ばして大それたことをした者ども、という意味の呼び名で、いつか必ず報いが来ると言い残したという。
その言葉どおり、今度はクロノスが、自分の息子ゼウスに王座を追われる。
それから長い時がたった1781年、イギリスの天文学者ハーシェルが、望遠鏡で新しい惑星を見つけた。NASAによれば、ハーシェルは国王ジョージ3世にちなむ名を付けようとしたが受け入れられず、ドイツの天文学者ボーデが出したウラヌスの名が定着した。そのすぐ内側を回る土星の英語名サターンは、クロノスにあたるローマの神の名である。息子に王座を追われた天の神は、その息子の星のさらに外側に、自分の星を持つことになった。
1986年に探査機ボイジャー2号が撮影した天王星。『探査機ボイジャー2号が撮影した天王星』 NASA/JPL-Caltech 1986年撮影 NASAPublic domainこの物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』