ヘシオドスの『神統記』では、キュクロプスは大地ガイアと天ウラノスの子で、ブロンテス、ステロペス、アルゲスの三柱。ゼウスに雷を作って与えた鍛冶の神々で、額の真ん中に丸い目が一つだけある。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
Κύκλωπες怪物
ゲームや映画でおなじみの一つ目の巨人「サイクロプス」。ギリシャ語ではキュクロプスといい、ギリシャ神話にはこの一つ目の一族が出てくる。ところが、いちばん古い二つの作品を読み比べると、まるで別の者たちが描かれている。一方は神々の王に雷を作った腕利きの鍛冶の神々。もう一方は、畑も掟も持たずに洞窟で暮らす乱暴な羊飼いたちだ。
ヘシオドスの『神統記』では、キュクロプスは大地の女神ガイアと天空の神ウラノスの子の三兄弟だった。姿はほかの神々とよく似ていたが、額の真ん中に丸い目が一つだけあった。「丸い目」を意味するキュクロプスという名は、そこから来たのだと『神統記』は説明する。力も腕も技もあった。
父のウラノスは、生まれてくる子どもたちを憎み、大地の奥深くに押し込めていた。のちに父を倒したクロノスの時代にも、兄弟たちは縛られたままだった。彼らを解き放ったのは、クロノスの息子ゼウスである。恩を忘れなかった三兄弟は、ゼウスに雷と稲妻を作って贈った。ゼウスはこの雷を武器に、古い神々との戦いに勝ち、神々と人間の王になった。
鍛冶の腕は、悲劇も招いた。アポロンの息子で医術の神のアスクレピオスが、死者まで生き返らせたためにゼウスの雷で打ち殺されると、怒ったアポロンは、その雷を鍛えたキュクロプスたちを殺してしまった。
石を積む腕も語り継がれた。アポロドーロスによれば、アルゴスの王位を双子の兄弟と争った王子がティリュンスに拠ったとき、その城壁を築いてやったのはキュクロプスたちだった。
『オデュッセイア』のキュクロプス族は、まったく違う。彼らは神々まかせで、種もまかず畑も耕さない。麦も葡萄も、ひとりでに育つ。集会も掟もなく、それぞれが山の洞窟に住んで自分の妻子だけを治め、隣人のことなど気にかけない。旅人をもてなす、というギリシャ人の大切な決まりも知らない。英雄オデュッセウスの仲間を食べた一つ目の巨人ポリュペモスは、この一族の一人だった。ある海の民も、もとはこの一族の隣に住んでいたが、いつも略奪されるのに耐えかねて、遠い島へ移り住んだという。

ローマの詩人ウェルギリウスは、二つの姿を重ねるように描いた。『アエネイス』では、シチリア島のエトナ山の下の洞窟で、キュクロプスたちが鍛冶の神の炉のそばで槌を振るい、ゼウスの雷を鍛えている。一方で、目を潰された巨人の叫びを聞いて、エトナの森や山から、天に届くほど背の高い一つ目の兄弟たちが浜へ集まってくる場面もある。
この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、エウリピデス『アルケスティス』、ウェルギリウス『アエネイス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
ヘシオドスの『神統記』では、キュクロプスは大地ガイアと天ウラノスの子で、ブロンテス、ステロペス、アルゲスの三柱。ゼウスに雷を作って与えた鍛冶の神々で、額の真ん中に丸い目が一つだけある。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
『オデュッセイア』のキュクロプス族は、神々まかせで種もまかず畑も耕さず、集会も掟も持たない。山の洞窟に家族ごとに住み、互いのことを気にかけない牧人の一族として描かれる。雷を作る神々の面影はない。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ウェルギリウスでは、リパラ島とエトナ山の下の洞窟がウルカヌスの鍛冶場で、キュクロプスのブロンテス、ステロペス、ピュラグモンがユピテルの雷を鍛えている。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
ウェルギリウスでは、目を潰された巨人の叫びを聞いて、エトナの森や山からキュクロプス族が浜へ押し寄せ、天に届く高い樫や糸杉の森のように立ち並ぶ。
ウェルギリウス『アエネイス』 前19年頃
名前の意味は、ヘシオドス自身が説明している。丸い目が一つ額にあるので「キュクロプス(丸い目)」と呼ばれた。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
パイエケス人はもともとキュクロプス族の隣に住んでいて、略奪に耐えかねて島へ移った。オデュッセウスを最後に助ける民は、かつて同じ相手に苦しめられていた。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
オデュッセウスが洞窟で出会ったポリュペモスは、この一族の一人で、ポセイドンの子。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ゼウスは、父ウラノスが縛めていた兄弟たちを解き放ち、彼らは恩を忘れずゼウスに雷と稲妻を与えた。ゼウスはそれを頼みに神々と人間を治める。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アポロドーロス2.2.1、パウサニアス2.25.8 城壁
1.2.1 キュクロプスがポセイドンに贈る(作ったとは明記されない)
サイクロン / cyclone(キュクロプスの親戚の言葉)中心のまわりを風が渦を巻いて吹く大嵐サイクロン(cyclone)と、ひとつ目の巨人キュクロプス(英語でサイクロプス)は、名前の頭がよく似ている。どちらもギリシャ語で「円」を意味する kyklos から来た言葉で、キュクロプスは字義どおりには「丸い目」、額の真ん中に丸い目がひとつあることからの名である。一方サイクロンは、1789年12月にインドを襲った大嵐を記述するために、イギリス東インド会社の役人が1848年に作った言葉で、「円を描いて回る」という意味のギリシャ語から形を整えた。巨人から取った名ではないが、同じ「円」から生まれた、いわば遠い親戚である。