土地をめぐってヘラとポセイドンが争い、川の神イナコス、ケピソス、アステリオンが裁いて土地をヘラのものとした。ポセイドンは川の水を消したので、これらの川は雨の後でなければ水が流れない、とパウサニアスは伝える。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
Ἄργος場所
「わたしがいちばん愛する町は三つある。アルゴス、スパルタ、そして道の広いミュケナイ。あなたがこれらを憎む日が来たら、滅ぼせばいい。わたしは町をかばいはしない」。トロイアを滅ぼしたい女神ヘラは、ホメロスの『イリアス』の中で、夫ゼウスにそう申し出る。その最初に名を挙げた町が、ギリシャ南部、ペロポネソス半島のアルゴスである。
ヘラがこれほど大事にした町には、いくつもの王家の物語が重なっている。
旅行家パウサニアスが聞いた話では、この土地をめぐって、ヘラと海の神ポセイドンが争ったことがある。裁いたのは、土地を流れる川の神たちだった。川はこの土地をヘラのものと決めた。怒ったポセイドンは川の水を消してしまい、それからアルゴスの川は、雨の後でなければ水が流れなくなったという。
神話集を書いたアポロドーロスによれば、この地の王家は、川の神から始まる。その血筋から、女神ヘラに仕える巫女イオが出た。ゼウスに愛されたイオは、ヘラの目をごまかすために白い雌牛に変えられ、各地をさまよった末にエジプトへたどり着く。

何代かのち、イオの子孫が、エジプトから船でこの町へやって来た。五十人の娘を連れた男である。時の王は国を譲り、この男がアルゴスの王になった。ところが、この地には水が乏しかった。あの裁きへの腹いせに、ポセイドンが泉まで干上がらせていたからだ。娘の一人が水を探しに出ると、ポセイドンが現れて、レルネの泉のありかを教えたという。

のちの王家には、英雄ペルセウスの祖父がいる。娘の産む子に殺されるという予言を恐れた王は、孫を遠ざけ続けたが、最後は孫の投げた円盤に当たって死んだ。パウサニアスによれば、ペルセウスはこのことを恥じ、アルゴスの王位を親族の国と取り替えて、新しい町ミュケナイを築いたという。
アポロドーロスによれば、テーバイを追われた王子が逃げこんだ先も、アルゴスの王の館だった。王は王子を娘の婿に迎え、七人の将を率いてテーバイへ攻めこむ。その次の世代、トロイア戦争の時代には、若い王が、アルゴスとまわりの町から80隻の船を率いて出征した。
町の外には、ヘラの大きな聖域があった。パウサニアスによれば、聖域はミュケナイから15スタディオンほどのところにあり、そばを流れる川の神の三人の娘が、幼いヘラの乳母だったと伝えられていた。川岸に生える草はヘラにささげられ、その葉で女神の冠が編まれたという。ヘラの愛した町は、長いあいだ女神の町であり続けた。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』
土地をめぐってヘラとポセイドンが争い、川の神イナコス、ケピソス、アステリオンが裁いて土地をヘラのものとした。ポセイドンは川の水を消したので、これらの川は雨の後でなければ水が流れない、とパウサニアスは伝える。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
アポロドーロスでは、オケアノスとテテュスの子イナコスから王家が始まる(アルゴスの川イナコスはこの名にちなむ)。イオはアルゴスの王イアソスの娘で、ヘラの巫女を務めていたときにゼウスに愛され、白い雌牛に変えられた。イオをイナコスの娘とする人々も多い。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ダナオスは五十人の娘とともにエジプトから船で逃れてアルゴスに来て、王ゲラノルから国を譲られた。土地はポセイドンがイナコスへの怒りから泉まで干上がらせていたため水がなく、水を探しに出た娘アミュモネに、ポセイドンがレルネの泉を示した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アクリシオスはアルゴスに、兄弟プロイトスはティリュンスなどに分かれて治めた。孫ペルセウスの円盤に当たってアクリシオスが死ぬと、ペルセウスは殺人のうわさを恥じ、プロイトスの子メガペンテスと国を取り替えてミュケナイを築いた、とパウサニアスは書く。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
テーバイを追われたポリュネイケスが逃れたアルゴスの王はタラオスの子アドラストスで、予言に従ってポリュネイケスとテュデウスを娘の婿に迎え、七将のテーバイ攻めを率いた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヘラの聖域はミュケナイから15スタディオンほどのところにあった。そばを流れる川アステリオンの三人の娘が幼いヘラの乳母だったとされ、川岸に生える草アステリオンはヘラにささげられ、その葉で女神の冠が編まれた。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
『イリアス』でヘラは、自分がいちばん愛する町はアルゴス、スパルタ、道の広いミュケナイの三つだと言い、ゼウスがそれらを憎むなら滅ぼしてよい、自分はかばわない、と申し出る。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
『イリアス』の船の目録で、アルゴスと城壁で名高いティリュンスなどの町の兵はディオメデスが率い、80隻の黒い船が従った。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
2.2.1 国を二つに分けた相手の町