ギリシャ神話の地図
ヘリオス息子セレネ娘エオス娘テイア妻クロノス兄弟ウラノス父ガイア母ヘリオスの牛牛

ヒュペリオン

Ὑπερίων神

太陽と月と夜明け。空を照らす三つの光の神々には、共通の父がいる。それがヒュペリオンだ。ところがこの父親は、神話の中でほとんど何もしていない。そのうえ名前まで、息子に取られてしまっている。

ヒュペリオンは、天と大地のあいだに生まれた古い神々、ティタン族の一柱である。ゼウスの父クロノスとは兄弟にあたる。ヘシオドスの『神統記』によれば、ヒュペリオンは姉妹の女神を妻とし、三人の子をもうけた。大いなる太陽ヘリオス、輝く月セレネ、そして地上のすべてを照らす曙の女神エオス。

語られるのはそれだけだ。ゼウスの一族とティタン族の大戦争で、ヒュペリオンが何をしたのかも、その後どうなったのかも、古い詩は語らない。

一方、『オデュッセイア』は「ヒュペリオン」という名を、太陽神そのものの呼び名として使っている。『オデュッセイア』の冒頭には、英雄の仲間たちが「ヒュペリオンの牛」を食べて滅んだ、とある。牛の持ち主は太陽神ヘリオスだ。別の箇所では「ヒュペリオンの子」とも呼ぶ。どうやら「ヒュペリオン」は、もともと太陽を讃える呼び名のひとつだったらしい。それを独立した父親の神として系図に置いたのが、『神統記』だと読める。

飢えた英雄の仲間たちが、太陽神の牛を屠る。連作版画「オデュッセウスの事績」の一枚(1632〜1633年)。
飢えた英雄の仲間たちが、太陽神の牛を屠る。連作版画「オデュッセウスの事績」の一枚(1632〜1633年)。『ヘリオスの牛』 1632〜1633年 アムステルダム国立美術館CC0

同じ太陽神の讃歌でも、母親の名は違っている。ホメロス風讃歌と呼ばれる讃歌集の『ヘリオス讃歌』では、ヒュペリオンの妻は「広く輝く者」という名の姉妹の女神で、『神統記』の挙げる名とは一致しない。

神話の中でほとんど何もしなかったこの父の名は、いまは空にある。1848年に見つかった土星の衛星のひとつが、ヒペリオンと名づけられた。NASAによれば、土星の衛星にはクロノスの兄弟姉妹の名を付けるという提案があり、それに沿った命名だという。スポンジのような穴だらけの姿で、大きな衛星タイタンの引力に揺さぶられながら、予測できない向きに転がるように回っている。息子に呼び名を取られた父は、遠い土星のまわりで、自分の名前を取り戻したのである。

探査機カッシーニが2005年に撮った土星の衛星ヒペリオン。表面は穴だらけで、スポンジのように見える。
探査機カッシーニが2005年に撮った土星の衛星ヒペリオン。表面は穴だらけで、スポンジのように見える。『土星の衛星ヒペリオン』 NASA/JPL(探査機カッシーニ) 2005年9月26日撮影 NASA/JPL(Photojournal PIA07740)Public domain

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ヒュペリオンの妻テイアは、偉大なヘリオス(太陽)、輝くセレネ(月)、地上のすべてを照らすエオス(曙)を産む。光の神々の父という位置づけ。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

『ホメロス風讃歌』の「ヘリオス讃歌」では、ヒュペリオンが自分の姉妹エウリュパエッサ(「広く輝く者」)を娶ってエオス・セレネ・ヘリオスをもうけたとされ、母の名がヘシオドスと違う。

作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃

ホメロスでは「ヒュペリオン」は太陽そのものの呼び名としても使われる。『オデュッセイア』冒頭の「ヒュペリオン・エエリオス(太陽)の牛」がその例で、別の箇所では「ヒュペリオンの子」という父称でヘリオスを呼ぶ。ヒュペリオンを独立した父神として語るのはヘシオドスからである。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

もっと詳しく

『神統記』でヒュペリオンはウラノスとガイアの子、コイオス・クレイオスと並ぶティタンの一人として名が挙がる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

『デメテル讃歌』でも、ペルセポネの叫びを聞いたのは「ヒュペリオンの輝く子」ヘリオスだったとされ、父の名でヘリオスを指す呼び方が続いている。

作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃

ほかのつながり(5人)

家族・恋愛

仲間・師弟

今の言葉に残る

ヒペリオン(土星の衛星)/ Hyperion土星の衛星ヒペリオンは、スポンジや蜂の巣のような穴だらけの姿で知られる。軌道がゆがんでいるうえに、内側を回る大きな衛星タイタンの引力に揺さぶられて、予測できない向きに転がるように自転している。1848年に見つかり、名は太陽ヘリオス・月セレネ・曙エオスの父にあたるティタンの神ヒュペリオンから。土星の衛星をクロノスの兄弟姉妹の名で呼ぶという提案に沿っている。

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このページの出典(3件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 前7〜6世紀頃作者不詳『ホメロス風讃歌』