ヒュペリオンとのあいだに、大いなる太陽ヘリオス、輝く月セレネ、地上と神々を照らす曙エオスを産む。天の光はすべて彼女の子という配置になっている。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
Θεία神
月は、どうやってできたのか。いまの天文学でいちばん広く受け入れられている説では、地球ができて間もないころ、火星ほどの大きさの天体が地球にぶつかり、飛び散ったかけらから月が生まれたと考える。NASAによれば、そのぶつかった天体は「テイア」と名づけられている。月の女神セレネの母の名だ。
ヘシオドスの『神統記』によれば、テイアは、大地の女神ガイアが天の神ウラノスと交わって産んだ子の一人である。兄弟姉妹は、大河の神オケアノス、のちにゼウスの父となるクロノスなど、ティタン神族と呼ばれる古い神々だった。
テイアは、兄弟の一柱と結ばれ、三柱の子を産んだ。大いなる太陽ヘリオス、輝く月セレネ、そして地上の人間にも天の神々にも光を届ける曙の女神エオス。空に輝く光は、ほとんどがテイアの子なのである。のちの時代のアポロドーロスも、同じ系譜をそのまま書き写している。

その一方で、テイア自身の物語は、ほとんど何も残っていない。『イリアス』にも『オデュッセイア』にも、太陽と月と曙は何度も出てくるのに、その母の名は一度も出てこない。『ホメロス風讃歌』の太陽神にささげる歌では、三柱の母は、テイアではない別の名で呼ばれている。
テイアに、ひときわ美しい言葉をささげたのは、前5世紀の詩人ピンダロスだった。太陽の母よ、多くの名をもつテイアよ、と彼は呼びかける。人々が黄金をほかの何よりも力あるものと尊ぶのは、あなたのおかげだ。海で競い合う船も、戦車を引いて駆ける馬も、あなたが与える誉れのために、速い競走の中で称えられるのだ、と。光り輝くものの値打ちそのものの源として、この女神を描いたのである。
物語をほとんど持たない女神が、光の母という位置だけで、後の詩人にも、そして現代の天文学にも名を残した。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、ピンダロス『祝勝歌集』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』
ヒュペリオンとのあいだに、大いなる太陽ヘリオス、輝く月セレネ、地上と神々を照らす曙エオスを産む。天の光はすべて彼女の子という配置になっている。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
『ホメロス風讃歌』のヘリオス讃歌では、三柱の母の名はテイアではなく「エウリュパエッサ」。ヒュペリオンの実の姉妹で、ガイアとウラノスの子という点はヘシオドスと同じだが、名前が違う。
作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃
アポロドロスもティタンの娘たちの一人に数え、ヒュペリオンとのあいだに曙・太陽・月が生まれたと書く。ヘシオドスの系譜がローマ期までそのまま受け継がれている。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
現代の天文学では、原始の地球に衝突して月を生んだとされる火星ほどの天体に「テイア」の名が付けられている。NASA は、月の女神セレネの母にちなむ名だと説明している。
アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』 1958年〜(2026年9月閲覧)
『神統記』では、ガイアが天ウラノスと交わって産んだ子の一人。オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュスと並び、末子がクロノス。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ホメロスの二つの叙事詩にテイアの名は出てこない。ヘリオス、セレネ、エオスは登場するが、その母は語られない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ピンダロスはテイアを「太陽の母、多くの名を持つテイア」と呼びかけ、人が黄金を何より尊ぶのも、競走の船や馬が称えられるのも、この女神のおかげだと歌う。光り輝くものの価値の源として扱われている。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
ピンダロスは、人が黄金を何より力あるものと尊ぶのも、海で競う船や戦車の馬が速い競走の中で称えられるのも、テイアの与える誉れのおかげだと歌う。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
月をつくった天体テイア / Theia月の成り立ちにはいくつかの説があるが、NASAによれば、そのほとんどに共通するのは、太陽系ができたころ、火星ほどの大きさの天体(あるいはいくつもの天体)が若い地球にぶつかり、飛び散った物質から月ができたという考えである。NASA は、この衝突した天体が、月の女神セレネの母であるティタンの女神にちなんで「テイア」と名づけられていると説明している。