アポロドーロスではクレタのディクテ洞窟で産み、クレテス(クーレテス)が武具を打ち鳴らして赤子の泣き声を消したとする。ヘシオドスにはこの細部は無い。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ῥέα神
アポロンの神託で名高いデルポイの聖域に、毎日オリーブ油を注がれ、祭りのたびに羊毛をかけられる小さな石があった。2世紀の旅行家パウサニアスが書き残している。土地の人の話では、ゼウスの身代わりとしてクロノスに呑まれ、のちに吐き出された石だという。
その石をわが子の代わりに夫へ差し出したのが、女神レアである。
のちに「神々の母」と呼ばれるこの女神の物語を、はじめからたどってみよう。
レアは、大地の女神ガイアと天空の神ウラノスの娘。ゼウスたちより前の世代の神々、ティタン族の一人で、兄のクロノスと結ばれた。二人のあいだに生まれたのが、ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン、そしてゼウス。のちのオリュンポスの神々の中心が、みなこの母から生まれている。
ところが、子どもたちは母の腕に抱かれることがなかった。クロノスは、自分もいつか息子に王の座を追われると、両親から聞かされていた。自分が父ウラノスにしたのと同じように。だから子が生まれるたびに、見張っていてはすぐに呑み込んだ。レアは、終わりのない悲しみにとらわれた、と『神統記』は書く。
六人目を身ごもったとき、レアは両親に助けを求めた。この子の誕生を隠し、夫に報いを受けさせる手立てを考えてほしい、と。両親は、これから起きることをすべて娘に明かし、クレタ島へ行くよう告げた。レアはそこで末の子ゼウスを産み、赤子は大地の女神の手で山奥の洞窟に隠された。
夫のもとには、産着にくるんだ大きな石を差し出す。クロノスは疑いもせず、それを呑み込んだ。

後の神話集は、この場面にもう少し色をつけている。レアはクレタ島の山の洞窟でゼウスを産み、ニンフたちに育てさせた。武装した若者たちが洞窟の前で槍を盾に打ち鳴らし、赤子の泣き声がクロノスに聞こえないようにしたという。
ゼウスはたちまち成長した。やがてクロノスは、呑み込んだ子どもたちを吐き出す。最初に出てきたのは、最後に呑んだあの石だった。ゼウスはその石をデルポイの地に据え、人間への目印とした。冒頭の石は、その石だと信じられていたのである。
子どもたちを取り戻したゼウスは、父の世代と戦ってこれを倒し、神々の王になる。レアのひそかなすり替えがなければ、ゼウスの時代は始まらなかった。
のちの時代、レアは小アジアの大地母神キュベレと重ねられ、「神々の母」として祀られるようになった。
この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、ストラボン『地理誌』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』
アポロドーロスではクレタのディクテ洞窟で産み、クレテス(クーレテス)が武具を打ち鳴らして赤子の泣き声を消したとする。ヘシオドスにはこの細部は無い。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
後代、小アジアの大母神キュベレーと同一視され「神々の母」として崇拝された。ストラボンはプリュギア人が「レアを崇め、神々の母・アグディスティス・大女神と呼ぶ」と書き、バッコス・キュベレー・キュベベ・ディンデュメネといった名は土地の名から作られたものだと説明する。ヘシオドス・ホメロスにはこの同一視は無い。
ストラボン『地理誌』 1世紀初頭
アポロドーロスでは、クレテスが武装して洞窟の赤子を守り、槍を盾に打ち鳴らしてクロノスに泣き声を聞かせなかった。レアは石を産着にくるんで、生まれた子のように見せかけてクロノスに呑ませた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ガイアとウラノスの娘で、ティタン十二神の一人。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
クロノスとの間にヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン、ゼウスを産んだ。オリュンポスの第一世代がここで揃う。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
産まれた子は生まれるそばからクロノスに呑み込まれ、レアは「尽きせぬ悲しみ」に捕らえられた。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ゼウスを身ごもったとき、両親ガイアとウラノスに助けを求め、クレタ島のリュクトスへ行って夜のうちに産み、ガイアに託した。クロノスには産着に包んだ大石を渡した。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ゼウスの身代わりにクロノスが呑んだ石は、吐き出されたのちゼウスによってピュト(デルポイ)に据えられ、人間への目印とされた。パウサニアスは、デルポイでネオプトレモスの墓の上手にある小さな石に毎日オリーブ油が注がれ、祭りには羊毛がかけられていて、クロノスが吐き出した石だという見方がある、と記す。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃、パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
レア(土星の衛星)/ Rhea土星で2番目に大きい衛星レアは、1672年に天文学者カッシーニが見つけた。名は、クロノスの妻でゼウスの母にあたるティタンの女神レアから。土星の衛星をクロノスの兄弟姉妹の名で呼ぶという、天文学者ジョン・ハーシェルの提案による。表面の地形には、主に世界各地の天地創造の神話に出てくる人物や場所の名が付けられている。