ギリシャ神話の地図
ゼウス敵アテナ敵ヘラクレス宿敵ウラノス父ガイア母エリニュス姉妹テュポン弟ギガントマキア戦い
ユピテル(ゼウス)をはじめとする神々が守るオリュンポスに、巨人たちが攻めかかる場面(王宮の天井画のための下絵)。フランシスコ・バイエウの作。

ギガース

Γίγαντες怪物

ユピテル(ゼウス)をはじめとする神々が守るオリュンポスに、巨人たちが攻めかかる場面(王宮の天井画のための下絵)。フランシスコ・バイエウの作。 『オリュンポス:巨人たちとの戦い』 フランシスコ・バイエウ 1764年 プラド美術館Public domain

大きな人や物を、英語でジャイアントという。この言葉は、ギリシャ神話の巨人族ギガスの名から、ラテン語やフランス語を経て英語に入った。

では、もとの巨人族が神話の中で何をしたのか、見ていこう。

『神統記』によれば、巨人族は、天の神ウラノスの流した血から生まれた。息子クロノスに鎌で傷つけられたとき、飛び散った血を大地の女神ガイアが受け止め、年がめぐると、復讐の女神たちとともに、輝く鎧をまとい長い槍を手にした巨人たちが生まれ出た。ただし『神統記』には、彼らが神々と戦う話は出てこない。

神々との大戦争を詳しく語るのは、後の時代に神話をまとめたアポロドーロスである。ゼウスたちが古い世代の神々ティタンを倒して地の底に閉じ込めると、母なる大地はそれを恨み、天とのあいだに巨人たちを産んだ。体の大きさも力も並ぶ者がなく、頭とあごから長い髪を垂らし、足は竜のうろこでできていた。巨人たちは、岩や燃える樫の木を天に向かって投げつけた。

神々には、一つの神託が下っていた。巨人は神の手だけでは滅びない。人間が味方につけば滅ぼせる。これを知った大地の女神は、人間の手にかかっても死なないための薬草を探し始めた。先回りしたのはゼウスだった。朝焼けにも月にも太陽にも輝くことを禁じ、暗闇の中で自らその草を摘み取った。そしてアテナを通じて、人間の英雄ヘラクレスを呼び寄せた。

戦いが始まる。巨人の中で最も強い一人は、生まれた土地で戦うかぎり死ななかった。ヘラクレスは矢で射倒したが、地に倒れるとまた息を吹き返す。そこでアテナの助言で、生まれた土地の外まで引きずり出して、とどめを刺した。

神々もそれぞれに戦った。アポロンとヘラクレスは一人の巨人の左右の目を射抜き、ディオニュソスは酒神の杖で、鍛冶の神ヘパイストスは真っ赤に焼けた鉄の塊で巨人を倒した。逃げる巨人には、アテナがシチリア島を丸ごと投げつけた。海の神ポセイドンは島の一部を割り取って投げ落とした。残りの巨人はゼウスが雷で打ち、息絶えようとする者すべてに、ヘラクレスが矢を射込んだ。

『オデュッセイア』では、巨人族は神々と戦う敵としては出てこない。傲慢な巨人族の王が、自分の無法な民もろとも滅びた、と語られる。その王の末娘の孫にあたるのが、英雄オデュッセウスを手厚くもてなした航海の民の王だった。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、ピンダロス『祝勝歌集』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

ローマ以後の語り

アポロドロスでは、ギガースは体の大きさも力も並ぶ者がなく、頭と顎から長い髪を垂らし、足は竜の鱗でできている。岩や燃える樫の木を天に投げつけた。中でもポルピュリオンとアルキュオネウスが抜きんでていて、アルキュオネウスは生まれた土地で戦うかぎり不死だった。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

アポロドロスによれば、神々には「ギガースは神の手では滅びず、人間の助けがあれば滅ぼせる」という神託があった。ガイアは人間の手でも死なないための薬草を探したが、ゼウスは曙と月と太陽に輝くことを禁じ、先にその草を摘み取って、アテナを通じてヘラクレスを呼び寄せた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

オウィディウス『変身物語』では、ギガースは天の王座を狙って山々を積み上げ、星に届かせようとした。ユピテルが雷でオリュンポスを砕き、オッサ山の上のペリオン山を払い落とす。流れた血を大地が温めて人の姿を与えたが、その子らも神を侮り殺戮を好んだので、「血から生まれた」とすぐに分かったという。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

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英語 giant は1300年頃から見られ、ギリシャ語 Gigas(複数 Gigantes)がラテン語 gigas、古フランス語 geant を経て入った語。etymonline は、ギリシャ語の Gigas を gēgenēs「大地から生まれた」から導く説は支持できないとしている。形容詞 gigantic は1610年代から。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

アポロドーロスでは、神々もそれぞれ巨人を倒す。アポロンとヘラクレスはエピアルテスの左右の目を射抜き、ディオニュソスはテュルソスでエウリュトスを、ヘカテは松明でクリュティオスを、ヘパイストスは赤熱の鉄塊でミマスを倒す。アテナは逃げるエンケラドスにシチリア島を投げつけ、ポセイドンはコス島の一部を割ってポリュボテスに投げ落とす。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

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『神統記』では、クロノスが父ウラノスを傷つけたとき、飛び散った血の滴を大地ガイアが受け、年が巡ってエリニュスたち、トネリコのニンフたちとともに、輝く鎧をまとい長い槍を手にした大いなるギガースたちが生まれる。ヘシオドスには、彼らが神々と戦う話は出てこない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ホメロスでは、ギガースは神々と戦う敵ではなく、滅んだ一族として出てくる。パイエケス人の王家の祖先エウリュメドンは「傲慢なギガースたちの王」で、自分の無法な民を滅ぼし、自分も滅びた。人食いのライストリュゴネス人は「人間ではなくギガースのよう」とたとえられる。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

『オデュッセイア』のパイエケス人の王家は、じつはギガースの血を引く。ギガースの王エウリュメドンの末娘ペリボイアがポセイドンと交わってナウシトオスを産み、その子がアルキノオス王と、王妃アレテの父レクセノル。アルキノオス王は、自分たちはキュクロプスやギガースの荒々しい一族と同じく神々に近い、とも語る。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ほかのつながり(1人)

家族・恋愛

  • ニンフ兄弟姉妹

    『神統記』187 同じ血の滴からトネリコのニンフ(メリアイ)も生まれる

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エンケラドゥス(土星の衛星)/ Enceladus土星の衛星エンケラドゥスでは、2005年に探査機カッシーニが、表面から氷の粒とガスが噴き出しているのを見つけた。噴き出した粒は土星の環の一つをつくっている。NASAはこの衛星の名を、ギリシャ神話の巨人から取ったと説明する。神々と巨人族の戦いで、逃げるこの巨人に、女神アテナがシチリア島を丸ごと投げつけたと伝えられる。島の下敷きになった巨人の名が、氷を噴き上げる衛星に付いている。

巨人 / giant英語 giant は1300年頃から見られる。ギリシャ語 Gigas(複数 Gigantes)がラテン語 gigas、俗ラテン語、古フランス語 geant / jaiant を経て英語に入った。ギリシャ語では、ガイアとウラノスの子で最後は神々に滅ぼされた荒々しく巨大な一族を指した。Gigas を gēgenēs「大地から生まれた」から説明する説は、etymonline によれば支持できないとされる。形容詞 gigantic は1610年代から。

ギガ(ギガバイト・ギガヘルツ)/ giga-スマートフォンの容量やデータ通信量でおなじみの「ギガ」は、10億倍を表す国際単位系の接頭語で、記号は G。この言葉は、ギリシャ語で「巨人」を意味する gigas から来ている。デジタル大辞泉もそう説明し、ブリタニカ国際大百科事典はさらに、ギリシャ神話の巨人族ギガスに由来すると書いている。大地の女神ガイアから生まれ、オリュンポスの神々と戦って滅ぼされた荒々しい巨人たちである。英語の語源辞典によれば、giga- は1947年に、巨人を意味するこの言葉から、ほぼ思いつきで作られた。ギガバイトという言葉は1982年から使われている。英語では「ジガ」「ジャイガ」と読むことが多い、と百科事典は添えている。

ミマス(土星の衛星)/ Mimas土星の衛星ミマスは、直径の3分の1に及ぶ巨大なクレーターがあるため、映画「スター・ウォーズ」の宇宙要塞デス・スターに似ていると言われる。1789年にウィリアム・ハーシェルが見つけ、名前は息子のジョン・ハーシェルが付けた。名のもとはギリシャ神話の巨人ミマス。アポロドロスの『ビブリオテーケー』では、神々と巨人族の戦いで、鍛冶の神ヘパイストスに真っ赤に焼けた金属の塊を投げつけられて倒れた巨人である。NASAの説明では、倒したのはローマの軍神マルスとされている。

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このページの出典(7件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』
  4. 前420〜前414年頃エウリピデス『ヘラクレス(狂えるヘラクレス)』
  5. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』