巨人の王ポルピュリオンを倒したのは誰か。ピンダロスでは、ギガースの王はアポロンの矢で倒される。アポロドロスでは、ヘラに襲いかかったポルピュリオンをゼウスが雷で撃ち、ヘラクレスが矢でとどめを刺す。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Γιγαντομαχία出来事
神々の敵は、神の力だけでは倒せない。そういう定めのある戦いがあった。オリュンポスの神々と、大地から生まれた巨人族ギガースとの戦い、ギガントマキアである。
意外なことに、ヘシオドスの『神統記』には、巨人族が生まれる場面しか出てこない。天の神ウラノスが切りつけられたとき、流れた血が大地にしたたり、そこから輝く鎧をまとった巨人族が生まれた、というところまでだ。『オデュッセイア』でも、巨人族は、滅んだ傲慢な一族として名が出るだけである。神々との戦いの話が出てくるのは、前5世紀の詩人ピンダロスあたりからだ。
まとまった形で残っているのは、神話の手引き書を残したアポロドーロスの記述である。大地の女神ガイアは、息子たちティタンの神々のことで腹を立て、天とのあいだに巨人族を産んだ。体は並外れて大きく、力は誰にも負けない。頭からもあごからも長い髪を垂らし、足は竜のうろこでおおわれていた。巨人たちは、岩や燃える樫の木を天に向かって投げつけた。
神々には、一つの神託が下っていた。巨人は神々の手では死なない。人間の助けがあってはじめて滅ぼせる。これを知った大地の女神は、人間の手でも巨人が死なないようにする薬草を探しはじめた。ゼウスは先手を打った。曙と月と太陽に光るのを禁じ、暗闇の中で誰よりも先にその薬草を摘み取ると、女神アテナを使いに出して、人間の英雄ヘラクレスを呼び寄せた。
ヘラクレスは、まず一人の巨人を矢で射た。ところが倒れた巨人は、生まれた土地の上にいるかぎり死なない。地面に倒れると息を吹き返しかけた。アテナの助言で、ヘラクレスは巨人をその土地の外まで引きずり出し、ようやく息の根を止めた。
巨人の王は、ヘラクレスと女神ヘラに襲いかかった。ヘラの衣を引き裂いたところで、ゼウスが雷で撃ち、ヘラクレスの矢がとどめを刺した。
あとは、神々がそれぞれの武器で巨人に立ち向かった。アポロンは一人の巨人の左目を射抜き、右目はヘラクレスが射た。酒の神ディオニュソスは杖で、魔術の女神ヘカテは松明で、鍛冶の神ヘパイストスは灼けた金属の塊で、巨人を倒した。逃げ出した巨人には、アテナがシチリア島を投げつけた。海の神ポセイドンは、海を逃げる巨人をある島まで追い、島の一部を割り取って上から投げ落とした。伝令神ヘルメスは冥王の兜をかぶって姿を消して戦い、運命の女神たちまでが青銅の棍棒を振るった。残りの巨人はゼウスが雷で撃ち、息絶えかけた者すべてを、ヘラクレスが矢で射た。

ピンダロスは、予言者の口を借りて、ヘラクレスの矢の雨を浴びた巨人たちの輝く髪が土にまみれる、と書いた。戦場とされた野がどこにあったのかは、伝えによって分かれている。
哲学者プラトンの『国家』は、国を守る若者たちに聞かせる物語から、この戦いの話を外すべきだと説いている。物語にも刺繍の図柄にもするな、というのだから、前4世紀には、この戦いが広く語られ、描かれていたことがうかがえる。
この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、ピンダロス『祝勝歌集』、ヘロドトス『歴史』、プラトン『国家』、ディオドロス(シケリアの)『歴史叢書』、ホラティウス『歌集(カルミナ)』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
巨人の王ポルピュリオンを倒したのは誰か。ピンダロスでは、ギガースの王はアポロンの矢で倒される。アポロドロスでは、ヘラに襲いかかったポルピュリオンをゼウスが雷で撃ち、ヘラクレスが矢でとどめを刺す。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロドロスは戦いを一対一の組み合わせで並べる。アテナはエンケラドスにシチリア島を投げつけ、パラスの皮を剥いで盾にした。ポセイドンはコス島の一部を割り取ってポリュボテスを埋め、ヘルメスは冥王の兜で姿を消してヒッポリュトスを倒し、運命の女神たちも青銅の棍棒で戦った。最後にゼウスが雷で撃ち、死にかけた者すべてをヘラクレスが矢で射た。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウス『変身物語』では、ムーサに歌くらべを挑んだピエロスの娘の一人が、神々の戦いを歌い、ギガースにいわれのない誉れを与えて神々の手柄を小さく語る。テュポエウスに追われた神々は動物に化けてエジプトに隠れた、と。ムーサ側のカリオペが勝ち、ピエロスの娘たちはカササギに変えられる。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ホラティウスは、テュポエウス、ミマス、ポルピュリオン、ロイトス、木を引き抜いて投げるエンケラドスも、アテナのアイギスの前には何もできなかったと歌い、「知恵のない力は自分の重さで崩れる」という教訓にする。
ホラティウス『歌集(カルミナ)』 前23年・前13年
巨人アルキュオネウスは生まれた土地で戦うかぎり不死だった。ヘラクレスの矢に倒れても地上で息を吹き返しかけたので、アテナの助言でパレネの外へ引きずり出して殺した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
神々だけでは巨人を滅ぼせず、人間の助けが要るという神託を知ったガイアは、人間の手でも死なない薬草を探した。ゼウスは曙・月・太陽に光ることを禁じて先に薬草を摘み取り、アテナを通じてヘラクレスを呼んだ。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヘシオドスの『神統記』にギガースは生まれる場面しかなく、神々との戦いは語られない。ホメロスでもギガースは「滅びた傲慢な一族」として名が出るだけ。神々とギガースの戦いの話は、ここで確かめた範囲ではピンダロス以降の作品に出てくる。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃
前5世紀のピンダロスは、予言者テイレシアスの口を借りて、神々がプレグラの野でギガースと戦うとき、ヘラクレスの矢の雨の下で巨人たちの輝く髪が土にまみれる、と歌う。戦いの後、ヘラクレスは永遠の安らぎを得て若さの女神ヘベを妻にするという。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
プラトン『国家』は、国の守護者に聞かせる物語から、神々と英雄の身内どうしの争いと並べて、ギガントマキアを物語ることも刺繍などで飾り立てること(ποικίλλειν)も除くべきだとする。前4世紀には、この戦いが広く語られていたことがうかがえる。
プラトン『国家』 前375年頃
戦場とされた「プレグラ」の場所は二つに分かれる。北ギリシャのパレネ半島とする伝え(ヘロドトスはパレネの旧名がプレグラだと書く)と、イタリアのクマエ近くの平野とする伝え。ディオドロスは、この平野がかつて火を噴いた丘(いまのウェスウィウス山)にちなんで「プレグライオン」と呼ばれたと書く。
ヘロドトス『歴史』 前430年頃、ディオドロス(シケリアの)『歴史叢書』 前1世紀後半、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
1.6.2 グラティオンを倒す