ギリシャ神話の地図
ゼウス父アポロン交渉した神ニュクス母テミス母テュポンだました相手タナトス兄弟ホーラ姉妹ギガントマキア戦った戦い
命の糸を紡ぐ三人の運命の女神。エッカースベルグの絵。

モイラ

Μοῖραι神

命の糸を紡ぐ三人の運命の女神。エッカースベルグの絵。 『命の糸を紡ぐ三人の運命の女神、クロト、ラケシス、アトロポス』 クリストファー・ヴィルヘルム・エッカスベア 1808年 デンマーク国立美術館CC0

人の一生は、生まれたその日に、一本の糸として紡がれる。どれだけの幸せと不幸せを受け取り、いつ終わるのか。それを割り当てるのが、三人の運命の女神、モイラたちである。英語では「フェイツ」、つまり「運命たち」と呼ばれている。

では、この運命の女神たちが、神話の中でどう語られ、どんな場面に姿を見せたのか見ていこう。

三人の名は、クロト、ラケシス、アトロポス。『神統記』によれば、彼女たちは生まれてくる人間に善い分け前と悪い分け前を割り当て、人や神々が掟を破れば、罰を下すまで決して怒りをやめない。

ところが、その親が誰なのかは、同じ『神統記』の中で食い違っている。前半では、夜の女神が誰とも交わらずに、死の神や眠りの神と並べて産んだ娘たちとされる。ところが後半では、ゼウスが掟の女神を妻にして生まれた娘たちとして、もう一度同じ名前で登場するのだ。

『イリアス』や『オデュッセイア』では、運命の女神はたいてい一人で語られ、人の姿をした女神なのか、運命そのものなのか、はっきりしない。それでも『オデュッセイア』で、海の民の王は言う。この客人は故郷に着いたあと、生まれたときに運命と糸紡ぎの女神たちが紡いだことを、身に受けることになるだろう。運命を糸にたとえる考え方は、すでにここにある。

運命の女神たちは、ときに物語の表舞台にも出てくる。英雄メレアグロスが生まれて7日目、彼女たちは母の前に現れ、炉で燃えているあの薪が燃え尽きるとき、この子の命も尽きる、と告げた。

弓の神アポロンは、世話になった人間の王アドメトスのために、この女神たちと交渉した。王が死ぬ日が来ても、誰かが自ら身代わりになれば、王は死なずに済む。そんな約束を取りつけたのだ。エウリピデスの劇では、アポロンは女神たちをだましてこの約束をさせたことになっている。

意外なことに、戦う女神でもあった。後の時代の神話集によれば、神々と巨人族の戦いでは、青銅の棍棒を振るって二人の巨人を打ち倒した。ゼウスに挑んだ怪物テュポンとの戦いでは、逃げる怪物に、食べれば力がつくと言って、すぐにしおれる果実を食べさせた。

哲学者プラトンは『国家』の終わりで、白い衣をまとった三人の女神が、声をそろえて歌う姿を描いている。ラケシスは過ぎたことを、クロトはいまのことを、アトロポスはこれから起こることを歌っていた。

ローマでは、運命の女神たちはパルカエと呼ばれた。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、エウリピデス『アルケスティス』、プラトン『国家』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

『神統記』では、夜ニュクスが誰とも交わらずに、死の神タナトスや眠りヒュプノスとともにモイラたちを産む。名はクロト、ラケシス、アトロポス。生まれた人間に善と悪を割り当て、人と神の違反を追及し、罪ある者に罰を下すまで怒りをやめない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

同じ『神統記』の後半では、ゼウスがテミスを二番目の妻にして、ホーライ(季節の女神)とモイラたちが生まれる。ゼウスは彼女たちに最大の名誉を与え、名前も役目も前半と同じように書かれる。一つの詩の中で親が二通りに語られている。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

アポロドロスは後者を採り、ゼウスとテミスの娘として、ホーライと並べてクロト、ラケシス、アトロポスを挙げる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

アポロドロスでは、運命の女神たちは戦う女神でもある。ギガースとの戦いでは青銅の棍棒を振るってアグリオスとトアスを倒し、テュポンとの戦いでは逃げる怪物に「はかない果実」を食べさせて弱らせる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマではパルカエ(単数パルカ)と呼ばれ、ギリシャのモイラと重ねられた。オウィディウスは、冥界の食べ物を口にした者は地上に戻れないという掟を「パルカたちの取り決め」と呼ぶ。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

もっと詳しく

ホメロスでは「モイラ」はたいてい単数で、人格とも運命そのものともつかない存在として出てくる。アガメムノンは自分の過ちを「ゼウスとモイラと闇を行くエリニュス」のせいにする。複数の「モイライ」は『イリアス』に一度だけで、「モイラたちは人間に耐える心を与えた」とアポロンが語る。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

『オデュッセイア』では、アルキノオス王が、オデュッセウスは故郷に着いたあと、生まれたときに運命と「重き紡ぎ手たち(クローテス)」が糸に紡いだことを身に受けるだろう、と語る。運命を「紡ぐ糸」とみる考えはホメロスの時代にすでにある。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

プラトン『国家』の結びのエルの物語では、白い衣をまとい頭に飾り紐を巻いた必然の娘モイラたちがセイレンの調べに合わせて歌い、ラケシスは過去を、クロトは現在を、アトロポスは未来を歌う。ここでは三柱が時間の三つの相に割り振られている。

プラトン『国家』 前375年頃

ほかのつながり(2人)

家族・恋愛

仲間・師弟

  • テュケ集団の一員

    7.26.8 ピンダロスはテュケを運命の女神の一人に数え、姉妹より強いとした

今の言葉に残る

アトロピン(atropine)・ベラドンナ目の検査で瞳を開かせる散瞳剤や、鎮痙剤、止汗剤に使われる薬。ベラドンナやチョウセンアサガオ、ハシリドコロなど、ナス科の植物の根や葉に含まれる。名前は、ベラドンナの属名 Atropa から来ていて、英語では1831年から記録がある。その Atropa は、運命の女神たちの一人アトロポスの名から付けられた。アトロポスは「向きを変えられない、曲げられない者」という意味で、人の命の糸を断つ女神である。ベラドンナは、毒性の強い植物として知られている。

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このページの出典(7件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前375年頃プラトン『国家』
  5. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』