ギリシャ神話の地図
ゼウス父テミス母モイラ姉妹パンドラ最初の女アプロディテ愛の女神ヘラ女神オリュンポス山持ち場
手を取り合って踊る季節の女神たち。ポインターの絵。

ホーラ

Ὧραι神

手を取り合って踊る季節の女神たち。ポインターの絵。 『晴れやかなホーライ(部分)』 エドワード・ポインター 1894年Public domain

英語で1時間のことをアワーという。この言葉をさかのぼると、ギリシャ語で「季節」や「定まった時」を意味する言葉にたどり着く。同じ言葉を名に持つ女神たちがいた。季節と時のめぐりをつかさどる、ホーライである。

では、この女神たちが神話の中でどんな役目を果たしていたのか、見ていこう。

『イリアス』では、ホーライは天の門の番人である。広い天とオリュンポスを任され、門をふさぐ厚い雲を開けたり閉じたりする。女神ヘラとアテナが戦場へ向かって戦車を走らせると、天の門はひとりでに鳴って開いた。戻ってくると、ホーライが馬を戦車から外してやった。ここでは、何人いるのかも、名前も語られない。

『神統記』になると、女神たちには名前と家族ができる。ゼウスが二番目の妻である掟の女神とのあいだにもうけた娘たちで、名は秩序、正義、そして花咲く平和。人間の営みを見守る女神たちだという。同じ両親からは、人の運命を定める女神たちも生まれている。ここでは季節の女神というより、世の中の秩序の女神として描かれていると読める。

ホーライは、美しいものを飾り立てる役も担った。『仕事と日』によれば、神々が最初の女パンドラを作ったとき、優美の女神たちと説得の女神が金の首飾りをかけ、髪の美しいホーライが春の花の冠をかぶせた。

神々をたたえる古代の詩『アプロディテ讃歌』の一つでは、生まれたばかりの愛の女神アプロディテが、西風に運ばれて泡に包まれながら波の上をキュプロス島へやって来る。そこで出迎えたのが、金の髪飾りのホーライだった。女神たちはアプロディテに神々しい衣を着せ、金の冠と首飾りで飾り立ててから、神々のもとへ送り出した。

西風に吹き寄せられて岸に着いた愛の女神に、衣を差し出して迎える季節の女神(右)。
西風に吹き寄せられて岸に着いた愛の女神に、衣を差し出して迎える季節の女神(右)。『ウェヌスの誕生』 サンドロ・ボッティチェッリ 1485年Public domain

『オデュッセイア』でも、同じ言葉は普通の言葉として使われている。季節がめぐって4年目が来た、というように。女神の名と「季節」とは、もともと一つの言葉だった。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、ヘシオドス『仕事と日』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

『イリアス』では、ホーライは天の門を守る女神たち。広い天とオリュンポスを任されていて、厚い雲を開けたり閉じたりする。ヘラとアテナが車で出ていくとき、天の門はひとりでに鳴って開く。数も名前も語られない。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

『神統記』では、ゼウスが二番目の妻テミス(掟)とのあいだにもうけた三柱で、エウノミア(秩序)、ディケ(正義)、花咲くエイレネ(平和)と名づけられる。「人間の営みを見守る」女神とされ、季節というより社会の秩序の女神として描かれる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ローマ以後の語り

アポロドロスもゼウスとテミスの娘として、エイレネ(平和)、エウノミア(秩序)、ディケ(正義)の三柱を挙げる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

英語 hour はラテン語 hora を経てギリシャ語 hōra から来ている。hōra は一年・一月・一日の中の区切られた時を広く指し、「季節」の意味にもなった。英語には1200年頃、教会の定時の祈りの意味で入った。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

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『仕事と日』では、最初の女パンドラが作られたとき、カリスたちと説得の女神ペイトが金の首飾りをかけ、髪の美しいホーライが春の花の冠をかぶせる。

ヘシオドス『仕事と日』 前700年頃

『ホメロス風讃歌』6番では、西風がアプロディテを柔らかな泡に包んで波の上をキュプロスへ運んでくると、金の髪飾りのホーライが迎えて神々しい衣を着せ、金の冠や首飾りで飾り立ててから、神々のもとへ送り出す。

作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃

ホメロスでは ὧραι は普通名詞としても使われ、「季節がめぐって四年目が来た」のような言い回しで年の移り変わりを表す。女神ホーライの名と「季節」という語は同じもの。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

今の言葉に残る

時間 / hour英語 hour はラテン語 hora と古フランス語 ore / hore を経て、ギリシャ語 hōra から来ている。hōra は一年・一月・一日の中の限られた時を広く指す語で、詩では「季節」を意味することもあった。季節の女神ホーライの名はこの語の複数形。英語には1200年頃、教会の「定時課(一日七回の祈りの時)」の意味で入った。

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このページの出典(7件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前700年頃ヘシオドス『仕事と日』
  5. 前7〜6世紀頃作者不詳『ホメロス風讃歌』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』