ペリアスは娘アルケスティスを、獅子と猪を車に繋いだ者に与えると言った。アポロンが二頭を繋いでアドメトスに渡し、アドメトスはそれで妻を得た。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ἄδμητος人間
誰かが代わりに死んでくれれば、お前は死なずに済む。そう約束された王がいた。年老いた父も母も、身代わりを断った。ただ一人、名乗り出たのは若い妻だった。ギリシャ北部テッサリア地方の王、アドメトスの物語である。
では、この奇妙な約束がどうして生まれ、どう決着したのか、見ていこう。
始まりは、神々のあいだの事件だった。アポロンの息子である医術の神アスクレピオスが、死者まで生き返らせたために、ゼウスの雷で打ち殺された。怒ったアポロンは、その雷を鍛えた一つ目の巨人たちを殺してしまう。その罰として、アポロンは1年のあいだ、人間の家で下働きをすることになった。選ばれたのが、アドメトスの家だった。後の時代の神話集によれば、アポロンが世話をすると、牛はみな双子を産んだという。
アドメトスが、ある王の娘アルケスティスに求婚したときも、アポロンが力を貸した。娘の父は、獅子と猪を一つの車につないで来た者に娘をやる、と言っていた。アポロンが二頭をつないでアドメトスに渡し、アドメトスはみごと妻を得た。
ところが婚礼の犠牲のとき、アドメトスは狩りの女神アルテミスに捧げるのを忘れてしまった。寝室の扉を開けると、中はとぐろを巻いた蛇でいっぱいだった。アポロンは、女神の怒りを鎮めるよう彼に教え、さらに運命の女神たちから、一つの約束を取りつけた。アドメトスが死ぬ日が来たとき、誰かが自ら進んで身代わりに死ぬなら、彼は死を免れる。
その日がやって来た。アドメトスは身代わりを探した。けれど年老いた父も母も、代わりに死ぬのを断った。自分が代わりに死ぬと言ったのは、妻のアルケスティスだけだった。
エウリピデスの悲劇『アルケスティス』は、この妻の死の日を描いている。妻が息を引き取り、館が喪に沈んでいるところへ、旅の途中の英雄ヘラクレスが訪ねてきた。アドメトスは客を追い返さなかった。喪中であることを隠して、手厚くもてなした。一方で、年老いた父には、妻を死なせてまで生き延びた、となじられる。
客へのこの礼儀が、すべてを変えた。事情を知ったヘラクレスは墓のそばで待ち伏せし、妻を連れに来た死神タナトスを腕で組み伏せて、アルケスティスを取り戻した。戻ってきた妻は、冥界の神々への清めが済む3日目まで、口をきくことができないとされた。同じ神話集は、別の話も書き添えている。冥界の女王が彼女を地上に送り返したとも、ヘラクレスが冥界の王と戦って連れ戻したともいう。

『イリアス』では、アドメトスとアルケスティスは、トロイアへ出陣した若い将の両親として名前が出てくるだけだ。身代わりの話は、そこにはない。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、エウリピデス『アルケスティス』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
ペリアスは娘アルケスティスを、獅子と猪を車に繋いだ者に与えると言った。アポロンが二頭を繋いでアドメトスに渡し、アドメトスはそれで妻を得た。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロドーロスの名簿では、アルゴ船の乗組員にも、カリュドンの猪狩りの狩人にも「ペライのアドメトス」の名が入っている。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アドメトスは婚礼の犠牲でアルテミスを忘れたため、寝室を開けると蛇がとぐろを巻いて満ちていた。アポロンは女神を宥めるよう命じ、運命の女神たちから身代わりの約束を得た。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ゼウスが息子アスクレピオスを雷で打ち殺したことに怒り、アポロンは雷を鍛えたキュクロプスたちを殺した。その罰としてアポロンは1年間、人間であるアドメトスの家で奉公した。アポロドーロスは、アポロンの世話で牛がみな双子を産んだと伝える。
エウリピデス『アルケスティス』 前438年上演、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロンは運命の女神たちを欺いて、アドメトスの死の日が来たとき誰かが代わりに死ねば助かる、という約束を取りつけた。父も年老いた母も断り、代わりに死ぬと言ったのは妻だけだった。
エウリピデス『アルケスティス』 前438年上演、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ホメロスでのアドメトスは、トロイアへ11隻を率いてきたエウメロスの父として名が出る程度。エウメロスはペリアスの娘たちのうち最も美しいアルケスティスが産んだ子とされ、身代わりの話は語られない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
エウリピデスの劇では、アドメトスは妻の死を嘆きながらも、訪ねてきたヘラクレスを追い返さず、喪中であることを伏せてもてなす。この客人への礼がヘラクレスを動かし、妻が戻る。一方で、父ペレスからは「妻を死なせてまで生き延びた」となじられる。
エウリピデス『アルケスティス』 前438年上演