ギリシャ神話の地図
ヘラ恨む女神ポセイドン父イアソン宿敵アルゴナウタイの遠征送った一行メデイア仇ネストル甥アドメトス娘婿プリクソス霊

ペリアス

Πελίας人間

「片方だけサンダルをはいた男に気をつけよ」。もし王がこんなお告げを受けていたら、どうするだろう。ギリシャ中の英雄を乗せたアルゴ船の冒険は、このお告げにおびえたひとりの王から始まった。

王の名はペリアス。英雄イアソンを、金の羊毛探しの旅に送り出した王である。

冒険の旅の出発点になったこの王の物語を、生まれからたどってみよう。

ホメロスの『オデュッセイア』によれば、ペリアスの母は、川の神に恋をした王女だった。海の神ポセイドンが、その川の姿を借りて王女と交わり、ペリアスとネレウスという双子の男の子が生まれる。ペリアスはのちに羊の豊かなイオルコスの町に住み、ネレウスは砂の多いピュロスに住んだ。トロイア戦争の老将ネストルは、このネレウスの息子にあたる。

アポロドーロスの神話集は、生まれた双子が捨てられたと語る。通りかかった馬飼いの雌馬が、赤ん坊の一人の顔をひづめで蹴って、黒ずんだあざを残した。馬飼いは二人を拾って育て、あざのある子を、あざを意味する言葉にちなんでペリアスと名づけた。

成長した双子は母を見つけ出し、母をいじめていた継母を殺そうとした。継母は女神ヘラの聖域に逃げこんだが、ペリアスは祭壇の上で彼女を斬り殺した。それからもペリアスは、ずっとヘラを軽んじ続けたという。この女神の恨みが、のちに彼の身に返ってくる。

ペリアスはイオルコスの王となった。ヘシオドスの『神統記』は、彼を「傲慢で、乱暴で、思い上がった」王と呼んでいる。ピンダロスの詩では、ペリアスは王位を力ずくでイアソンの両親から奪い取った。両親は王を恐れ、生まれたばかりのイアソンを死んだことにして、ひそかに隠したという。

そのペリアスに、お告げが下る。片方だけサンダルの男に気をつけよ。アポロドーロスによれば、あるとき王は海辺でポセイドンに犠牲を捧げ、大勢の人を招いた。田舎で畑仕事をしていたイアソンも急いで駆けつけたが、途中で川を渡るときにサンダルを片方流してしまう。

その足元を見た王は、お告げを思い出した。そしてイアソンに尋ねる。もしお前に力があって、町の者の一人に殺されるというお告げを受けたら、どうするか。イアソンは答えた。その者に、金の羊毛を取ってこいと命じます。偶然だったのか、ヘラが言わせたのか。ヘラは、自分を敬わないペリアスに、メデイアという災いをもたらそうとしていたのだ、とアポロドーロスは書く。王はすぐさま、イアソンに羊毛を取ってくるよう命じた。

ピンダロスの詩のペリアスは、別の言い方でイアソンを送り出す。王位を返せと迫るイアソンに、王は答える。自分はもう年老いたが、お前は若い。遠いコルキスで死んだ若者の霊が、自分の魂と金の羊毛を連れ帰ってほしいと夢で求めている。神託も確かめた。これをやりとげたら、王位を譲ると誓おう、と。

イアソンが旅に出ているあいだ、ペリアスは一行はもう帰らないと考え、イアソンの父を殺そうとした。父は自ら命を絶つことを願い出て、牛の血を飲んで死んだ。母はペリアスを呪って首をつり、ペリアスは彼女が残した幼い息子まで殺した。

羊毛を持ち帰ったイアソンは、それを王に渡し、仕返しの時を待った。ローマの詩人オウィディウスは、その仕返しをこう描いている。メデイアはイアソンと仲たがいしたふりをしてペリアスの館に身を寄せ、王の娘たちと親しくなった。そして、自分は魔法でイアソンの父を若返らせたのだと話す。娘たちは、自分たちの年老いた父も若返らせてほしいとせがんだ。

メデイアは群れでいちばん年寄りの雄羊を連れてこさせ、喉を切って、薬草といっしょに青銅の釜で煮た。すると釜の中から、小さな子羊の鳴き声がした。飛び出した子羊は跳ね回り、乳を探しはじめた。

4日目の夜、メデイアは火にかけた釜に、ただの水と効き目のない草を入れた。王と見張りは、彼女の呪文で死んだように眠っている。剣を抜きなさい、古い血を抜いてしまいなさい、とメデイアは娘たちをせきたてた。父思いの娘ほど、先に父に手をかけた。けれども誰も自分の打つ手を見ていられず、顔をそむけたまま剣を振るった。血を流しながら、王はひじをついて身を起こす。娘たちよ、何をしている。誰がお前たちに、父を殺させようとしているのか。娘たちの手と心はくじけた。メデイアは王の喉を切り、煮えたぎる湯に沈めた。

眠るペリアスに剣を向ける娘たち。16世紀の銅版画。
眠るペリアスに剣を向ける娘たち。16世紀の銅版画。『娘たちに殺されるペリアス(連作「イアソンと金の羊毛」より)』 ルネ・ボワヴァン 1563年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

王の息子は父を葬り、イアソンとメデイアをイオルコスから追い出した。パウサニアスによれば、娘たちは父の死の汚名から逃れてアルカディアに移り住み、そこで墓に葬られた。父の亡骸は、葬るのに足りるほども残っていなかったという。娘たちの一人アルケスティスは、のちに夫の身代わりに死ぬ妻として、悲劇に名を残している。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、ピンダロス『祝勝歌集』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、パウサニアス『ギリシア案内記』

この物語の人々

こういう風にも語られている

アポロドーロスでは、ペリアスは王国について神託を伺い、片方だけサンダルの男に気をつけよと告げられる。海辺でのポセイドンへの犠牲に招かれたイアソンは、アナウロス川を渡るときにサンダルを片方失う。ペリアスが「町の者に殺されるという神託を受けたらどうするか」と尋ねると、イアソンは「金の羊毛を取ってこいと命じる」と答えた。偶然か、ペリアスを憎むヘラが、メデイアを彼への災いにするため言わせたのだという。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ピンダロスでは、神託は大地のへそ(デルポイ)から下り、山の住まいから来る一足履きの男を、よそ者でも町の者でも警戒せよと告げる。ペリアスはイアソンの両親から王権を力ずくで奪っており、両親は赤子のイアソンを死んだことにして隠した。王位を求めるイアソンに、ペリアスは、自分は年老いたが、プリクソスが夢に現れて自分の魂と羊毛を連れ帰るよう求めている、それを果たせば王位を譲ると誓う。

ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半

ローマ以後の語り

アポロドーロスでは、テュロはひそかに産んだ双子を捨て、通りかかった馬飼いの雌馬が一人の顔を蹴って黒ずんだあざ(ペリオン)を残した。馬飼いは二人を育て、あざのある子をペリアス、もう一人をネレウスと名づけた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

成長した双子は母を見つけ、母を虐げていた継母シデロを襲った。シデロはヘラの聖域に逃げこんだが、ペリアスは祭壇の上で斬り殺し、以後もヘラを侮り続けた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

アルゴ船の帰還をあきらめたペリアスはイアソンの父アイソンを殺そうとし、アイソンは自ら死ぬことを願って牛の血を飲んで死んだ。イアソンの母はペリアスを呪って首をつり、ペリアスは彼女の残した幼子プロマコスまで殺した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

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アポロドーロスでは、帰ったイアソンは羊毛をペリアスに渡し、のちにメデイアに復讐の策を頼む。メデイアは雄羊を切り刻んで煮て子羊に変えてみせ、若返らせると約束して、娘たちに父を切り刻んで煮させた。息子アカストスは父を葬り、イアソンとメデイアをイオルコスから追放した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

オウィディウスでは、メデイアはイアソンと不仲を装ってペリアスの館に身を寄せ、アイソンを若返らせた話で娘たちの望みをかき立てる。年老いた雄羊を子羊に変えてみせたあと、4日目の夜に効き目のない草を煮て、眠らせた王を娘たちに刺させる。「父思いの娘ほど先に不孝を働いた」。身を起こした王に「娘たちよ、何をする」と問われて娘たちの手が止まると、メデイアが喉を切って煮え湯に沈めた。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

パウサニアスによれば、ペリアスの娘たちは父の死の汚名を逃れてマンティネイアの人々のもとに移り住み、その近くに墓があった。父の亡骸は葬るに足りるほども残らなかった。詩人は娘たちに名を与えていないが、画家ミコンは絵の中でアステロペイアとアンティノエと書き入れた、とする。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

オリュンピアにあったキュプセロスの箱には、ペリアスの葬送競技の場面が刻まれ、戦車競走にはピソス、アステリオン、ポリュデウケス、アドメトス、エウペモスが出て、ペリアスの娘たちの中ではアルケスティスだけに名が書かれていた。パウサニアスが見たデルポイのポリュグノトスの冥界の絵には、白髪で椅子に座り、オルペウスを見つめるペリアスがいた。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

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『オデュッセイア』では、川の神エニペウスに恋したテュロに、ポセイドンが川の姿で交わり、ペリアスとネレウスが生まれる。二人はゼウスの力強い仕え手となり、ペリアスは羊の多いイオルコスに、ネレウスは砂のピュロスに住んだ。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

『神統記』は、イアソンが「大いなる王、傲慢なペリアス、乱暴で思い上がった暴力の徒」に課された多くのつらい仕事をやり遂げ、メデイアを連れてイオルコスへ帰ったと記す。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

アポロドーロスでは、ペリアスはビアスの娘アナクシビア(一説にアンピオンの娘ピュロマケ)を妻とし、息子アカストスと、娘ペイシディケ、ペロペイア、ヒッポトエ、アルケスティスをもうけた。『イリアス』はアルケスティスを「ペリアスの娘たちの中で最も美しい」と呼ぶ。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

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このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』
  5. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  6. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  7. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  8. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』