ヘラクレスはゼウスとテミスの娘であるニンフたちにネレウスの居場所を教えられ、眠っているところを捕まえた。ネレウスはあらゆる姿に変わったが、ヘラクレスは縛って放さず、ヘスペリデスと黄金の林檎の居場所を聞き出した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Νηρεύς神
英雄アキレウスの母は、海の女神テティスである。その父、つまりアキレウスの祖父にあたるのが、海の老人ネレウスだ。
では、この海の老神がどんな神として語られてきたのか、見ていこう。
『神統記』によれば、ネレウスは海が大地とのあいだにもうけた、いちばん上の子である。『神統記』はこの神を、ほかの神々とは少し違う言葉でほめている。嘘をつかず、本当のことを語る。掟を忘れず、正しく穏やかな考えを知っている。だから人々は彼を「老人」と呼ぶのだ、と。
ネレウスは大洋の神の娘を妻に迎え、50人の娘をもうけた。海の女神ネレイデスと呼ばれる姉妹たちである。『神統記』は50人の名を一人ずつ並べている。その中には、のちにアキレウスの母となるテティスも、海の王ポセイドンの妃となる娘もいる。最後に挙がる娘は、父と同じく偽りを知らない性質を持つとされる。
『イリアス』には、ネレウスという名前が一度も出てこない。テティスが出てくるたびに、その父は名前ではなく「海の老人」とだけ呼ばれる。息子の友の死を知ったアキレウスが叫び声をあげたとき、深い海の底で父のそばに座っていたテティスがそれを聞き、姉妹たちが次々に集まってくる。
後の時代に神話をまとめたアポロドーロスは、英雄ヘラクレスとの力比べを伝えている。ヘラクレスは、世界の果てにある黄金のリンゴのありかを探していた。ニンフたちに居場所を教えられたヘラクレスは、眠っていたネレウスを捕まえた。老人はありとあらゆる姿に変わって逃れようとしたが、英雄は縛り上げて放さなかった。とうとうネレウスは、リンゴと、それを守る娘たちの居場所を白状した。
姿を次々に変えて逃げる海の老人を、英雄が組み伏せて答えを聞き出す。同じ型の話は、『オデュッセイア』にもある。こちらの老人の名は、プロテウスという。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
ヘラクレスはゼウスとテミスの娘であるニンフたちにネレウスの居場所を教えられ、眠っているところを捕まえた。ネレウスはあらゆる姿に変わったが、ヘラクレスは縛って放さず、ヘスペリデスと黄金の林檎の居場所を聞き出した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ポントスが最初に儲けた子。「偽りを言わず真実を語る者。掟を忘れず、正しく穏やかな考えを知っているので人は彼を老人と呼ぶ」とヘシオドスは書く。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
オケアノスの娘ドリスとの間に五十人の娘(ネレイデス)をもうけた。ヘシオドスは全員の名を列挙する。テティスはその一人。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
『イリアス』にはネレウスという名が一度も出てこない。テティスの父は常に「海の老人(ハリオス・ゲロン)」と呼ばれる。名前を持つ神と持たない神の境目が見える例。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
パトロクロスの死を嘆くテティスのもとに集まるネレイデスの名を、『イリアス』も一覧として掲げる。ヘシオドスの一覧と重なる名もあれば異なる名もある。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃
後代の伝承では、姿を次々と変えて逃げるところをヘラクレスに掴まえられ、ヘスペリデスの黄金の林檎のありかを白状させられる。変身して逃げる海の老神という型は『オデュッセイア』のプロテウス(4.383-570)と共通する。
ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヘシオドスの娘たちの一覧の最後に挙がるネメルテスは「不死の父の性質を持つ」とされる。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アポロニオス 1.1311「神なるネレウスの代弁者」、エウリピデス『オレステス』364「ネレウスの予言者」。関係の種類は仮に「仕える者」とした