ギリシャ神話の地図
ポセイドン夫トリトン息子ネレウス父ネレイス姉妹アトラス逃げた先オケアニスもう一つの一族レト付き添った相手
三叉の矛を手に立つ海の女神アンピトリテの小像。

アンピトリテ

Ἀμφιτρίτη神

三叉の矛を手に立つ海の女神アンピトリテの小像。 『アンピトリテ』 アントナン・メルシエ(原型)、クリストフル社 1889〜1900年 ウォルターズ美術館Public domain

夜空の星座の一つに、いるか座がある。ローマ時代の天文の書によれば、このイルカが星にされたのは、海の神ポセイドンの結婚を取り持ったからだという。

ポセイドンが妻にしたいと望んだのは、海の女神アンピトリテだった。ところが女神は、乙女のままでいたいと願って逃げ出し、天を背負う巨神アトラスのもとに身を隠してしまう。一頭のイルカが島から島へと探し回ってついに女神を見つけ、ポセイドンと結婚するよう説き伏せ、婚礼まで取り仕切った。その手柄で、イルカは星座になった。

海の神の妃、海の女王と呼ばれたアンピトリテは、古い詩の中でどんな姿をしていたのか。

『神統記』では、アンピトリテは「海の老人」と呼ばれる神の、50人の娘の一人である。一覧の中で彼女の名はもう一度出てきて、足首の美しいアンピトリテは、姉妹とともに霧深い海の波と風を鎮める、と書かれている。そしてポセイドンとのあいだに、力強い息子トリトンを産む。トリトンは両親とともに、海の底の黄金の館で暮らす。

三叉の矛を手にした海の神と、その妃。馬の引く車で海を行く。
三叉の矛を手にした海の神と、その妃。馬の引く車で海を行く。『ネプトゥヌスとアンピトリテ』 ハンス・ウルリヒ・フランク 1595〜1675年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

後の神話集になると、系図が揺れはじめる。ある箇所では、アンピトリテは大洋の神オケアノスの娘たちの一人に数えられ、ポセイドンが妻にしたのも「オケアノスの娘アンピトリテ」だと書いている。ところが同じ本の、海の老人の娘たちの名の一覧にも、彼女の名が並ぶ。

さらに不思議なのは『オデュッセイア』である。そこでアンピトリテは、ポセイドンの妻としてはまったく出てこない。「アンピトリテの波のあいだに」「名高いアンピトリテが育てる海の怪物」「青い目のアンピトリテの大波」のように、海そのものを言い換える名として使われている。海の女神の名と、海そのものとが、まだはっきり分かれていないかのようだ。

『ホメロス風讃歌』の一篇『アポロン讃歌』では、女神レトがデロス島でアポロンを産もうとして苦しむとき、神々の母レアや掟の女神テミスなど、主だった女神たちが付き添いに集まった。その中に、うめく海の女神アンピトリテの姿もある。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

『神統記』では、ネレウスとドリスの五十人の娘の一人。一覧の中でもう一度名が出て、足首の美しいアンピトリテは、姉妹のキュモドケ、キュマトレゲとともに霧の海の波と風を鎮める、とされる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

アポロドロスは、アンピトリテをオケアノスの娘たち(オケアニス)の一人に数え、ポセイドンの妻になったのも「オケアノスの娘アンピトリテ」だと書く。ところが同じ書のネレイスの名の一覧にも彼女の名があり、一つの本の中で二つの系譜が混ざっている。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

ヒュギヌス『天文詩』によれば、ポセイドン(ネプトゥヌス)がアンピトリテを妻にしようとしたとき、彼女は処女のままでいたくてアトラスのもとへ逃げた。島々を探し回ったイルカが彼女を見つけ、ポセイドンとの結婚を説き伏せて式を取り仕切った。その功績でイルカは星座(いるか座)にされた。

ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』 1〜2世紀

もっと詳しく

『神統記』では、アンピトリテと大地を揺るがすポセイドンのあいだに、力強いトリトンが生まれ、両親とともに海の底の黄金の館に住む。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

『オデュッセイア』では、アンピトリテは「海」の言い換えとして出てくる。「アンピトリテの波のあいだに」「名高いアンピトリテが育てる海の怪物」「青い目のアンピトリテの大波」のように使われ、ポセイドンの妻としては一度も描かれない。『イリアス』には名が出ない。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

『アポロン讃歌』では、デロス島でアポロンを産もうとするレトのもとに、ディオネ、レア、テミス、「うめく海の」アンピトリテなど主だった女神たちが集まって付き添う。

作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃

ほかのつながり(2人)

家族・恋愛

  • オケアノス親

    アポロドロス 1.2.2, 1.4.5 では「オケアノスの娘」(同じ書の 1.2.7 ではネレイスの一覧にも名がある)

  • テティス兄弟姉妹

    『神統記』243-244 同じネレウスの娘として続けて名が挙がる

今の言葉に残る

いるか座 / Delphinus小さな星座いるか座のイルカは、海の神ポセイドンの縁結びをしたイルカである。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、ポセイドンがアンピトリテを妻にしようとしたとき、彼女は結婚を嫌って、アトラスのもとまで逃げてしまった。ポセイドンは大勢に彼女を探させた。その中に「イルカ(デルピン)」という名の者がいて、島々を回った末に彼女を見つけ、ポセイドンの妻になるよう説き伏せて、婚礼まで取り仕切った。そのお礼に、ポセイドンはイルカの姿を星のあいだに置いた。ポセイドンの像を作る人が、神の手や足もとにイルカを添えるのも、それが神のお気に入りだからだという。同じ本は、酒の神ディオニュソスをさらおうとして海に飛び込み、イルカに変えられた船乗りたちの一人だとする説や、海に投げ出された竪琴弾きを背に乗せて岸まで運んだイルカだとする説も伝えている。英語の dolphin はギリシャ語 delphis から来ていて、星座の名としては15世紀初めから使われている。

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このページの出典(6件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前7〜6世紀頃作者不詳『ホメロス風讃歌』
  5. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  6. 1〜2世紀ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』