ギリシャ神話の地図
アキレウス嘆いた相手ポセイドン味方した神ムーサともに歌った女神アンドロメダ怒りの犠牲アンピトリテ姉妹テティス姉妹ネレウス父アルゴ船運んだ船
トリトンの背に乗るネレイス。大理石の浮き彫り。

ネレイス

Νηρηΐδες神

トリトンの背に乗るネレイス。大理石の浮き彫り。 『トリトンに乗るネレイスを刻んだ大理石の半円浮彫』 2世紀前半 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

海王星のまわりを回る衛星の一つに、ネレイドという名がある。1949年に見つかったこの星に、発見者は海の女神たちの名を付けた。英語では、海辺の泥に棲むゴカイの仲間も同じ名で呼ばれる。もとになったのは、海の老人ネレウスの娘たち、ネレイスである。

『神統記』によると、「海の老人」と呼ばれる神ネレウスと、大洋の神の娘とのあいだに、50人の娘が生まれた。詩は、その一人ひとりの名を丁寧に並べていく。最後に挙げられる娘は「誤りのない者」を意味する名を持ち、父の心を受け継いでいるという。

姉妹の中には、よく知られた女神もいる。英雄アキレウスの母テティス。海の神ポセイドンの妻となるアンピトリテ。一つ目の巨人に恋されたガラテイア。

姉妹たちは、海の底の父の館でいつも一緒だった。『イリアス』では、親友パトロクロスを討たれたアキレウスが大声で嘆くと、その声が海の底の母テティスに届く。テティスが泣き叫ぶと、海の洞窟に姉妹たちが次々と集まってきて、ともに胸を打って嘆いた。ここでも30人を超える名が並ぶが、『神統記』の一覧とは少しずつ違っている。

やがてアキレウス自身が戦死すると、テティスは姉妹たちを連れて海から上がってきた。そのとき海の上に響いた声はすさまじく、ギリシャ軍の兵たちは震え上がったという。海の娘たちは亡骸を囲んで悲しげに嘆き、不死の衣を着せた。続いて詩の女神ムーサたち9人が、声をかわるがわる合わせて挽歌を歌う。涙を流さない兵は一人もいなかった、と『オデュッセイア』は語る。

姉妹は、英雄たちを助けることもあった。金の羊毛を求める英雄たちの船アルゴ号が、ぶつかり合う岩のあいだを抜けなければならなくなったとき、テティスの呼びかけで姉妹たちが駆けつける。凪の海でイルカが群れになって船のまわりを回るように、娘たちは船を取り囲んだ。そして浜辺で娘たちが裾をからげて毬を投げ合うように、船を波の上へ次々と放り上げ、岩から遠ざけて運んでいった。春の長い一日のあいだ、姉妹は船を押し続けたという。

一方で、姉妹の怒りを買うと恐ろしい。エチオピアの王妃が、自分はネレイスたちの誰よりも美しいと自慢したとき、怒った娘たちに味方して海の神ポセイドンが洪水と怪物を送り込んだ。その怪物の生贄にされかけたのが、王女アンドロメダである。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

『神統記』では、ネレウスとオケアノスの娘ドリスのあいだに五十人の娘が生まれ、プロト、エウクランテ、サオ、アンピトリテ、テティス、ガラテイア、エラトなど全員の名が挙げられる。最後の一人ネメルテス(「誤りのない者」)は父ネレウスの心を受け継ぐとされる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

『イリアス』では、パトロクロスの死を知ったアキレウスの嘆きを聞いて、海の底のネレイスたちがテティスのもとに集まる。ここで三十余りの名が並ぶが、ヘシオドスの一覧と重なる名もあれば、そこにない名(リムノレイア、イアイラ、カッリアネイラなど)もある。数も「五十」とは言われない。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

アポロドロスもネレウスとドリスの娘たちの名を並べるが、その中にはカリュプソやディオネなど、ヘシオドスでは別の系譜(オケアノスの娘)に入っている名も含まれる。どの名がどの一族に属するかは、出典によって揺れている。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

英語 nereid はラテン語を経てギリシャ語 Nēreis(海神ネレウスの娘)から来ていて、14世紀後半から「海のニンフ」の意味で使われる。1840年からは動物学でゴカイの仲間を指す語にもなった。1949年に見つかった海王星の衛星ネレイドも、発見者カイパーがこの海の女神たちにちなんで名づけた。

アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』 1958年〜(2026年9月閲覧)、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

アポロドーロスによれば、エチオピア王ケペウスの妻カッシエペイアが、自分はネレイスたちの誰よりも美しいと誇ったため、ネレイスたちが怒り、ポセイドンもその怒りに加わって洪水と怪物を送った。アンドロメダが怪物に差し出されることになる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

『オデュッセイア』の冥界の場面では、アキレウスの死を知ったテティスが海の女神たちを連れて現れ、「海の老人の娘たち」が遺体を囲んで嘆き、不死の衣を着せる。続いて九人のムーサが挽歌を歌う。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

アポロニオス『アルゴナウティカ』では、ヘラの頼みでテティスが姉妹のネレイスたちを呼び集め、アルゴー船をさまよう岩のあいだから無事に通す。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ネレイスの名には、ほかの女神と同じものが混じる。ヘシオドスの一覧にはムーサと同名のエラトが、『イリアス』の一覧にはムーサ(のちにはカリスとも)と同名のタレイアがいる。同じ名が別の一族にも出てくるので、名前だけで同一人物と決めることはできない。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ヘシオドス『神統記』 前700年頃

アポロニオスでは、プランクタイ(さまよう岩)に差しかかったアルゴ号を、テティスの呼びかけで集まったネレイスたちが、凪の海で船を囲むイルカのように取り巻き、浜辺で娘たちが毬を投げ合うように波の上へ次々と放り上げて岩から遠ざけた。春の一日の長さだけ船を押し続けた。ヘパイストスやヘラが見守っていた。

アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀

ほかのつながり(6人)

家族・恋愛

仲間・師弟

出来事・場所・物

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ネレイド / nereid英語 nereid はラテン語を経て、ギリシャ語 Nēreis(属格 Nēreidos)「海の老神ネレウスの娘」から来ている。英語では14世紀後半から「海のニンフ」の意味で使われ、動物学では1840年からゴカイの仲間を指す。海王星の衛星ネレイドは1949年5月1日にジェラルド・カイパーが地上の望遠鏡で発見し、発見を報告したときに本人がこの名を提案した。

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このページの出典(9件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前4世紀プラトン『クリティアス』
  5. 前3世紀アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 1〜2世紀ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』
  8. 1958年〜(2026年9月閲覧)アメリカ航空宇宙局『NASA公式サイト』
  9. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』