母カシオペイアがネレイス(海のニンフ)たちと美しさを競い、自分が誰よりも美しいと誇った。怒ったネレイスたちにポセイドンが加勢して洪水と怪物を送り、アンモンの神託が「娘を差し出せば救われる」と告げたため、ケペウスは民に迫られて娘を岩に縛った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Ἀνδρομέδα人間
海の怪物への生贄として、岩につながれたアンドロメダ。 『アンドロメダ』 エドワード・ポインター 1869年Public domain
晴れた暗い夜には、肉眼でも見える銀河がある。約230万光年のかなたにあるアンドロメダ銀河だ。この銀河を抱く星座アンドロメダは、神話の王女の名をとっている。王女だけではない。縛られていた岩を除いて、一家そろって天に上げられた、と言われる。

アンドロメダは、アフリカの国エチオピアの王女だった。災いのもとは、母である王妃の自慢話である。王妃は、海に住む美しい女神たちと美しさを競い、自分が誰よりも美しいと言い放った。女神たちは怒り、海の神ポセイドンもその怒りに加わって、国に洪水と海の怪物を送り込んだ。

神託は告げた。王妃の娘を怪物の餌として差し出せば、国は救われる。父の王は民に迫られ、娘を海辺の岩に縛りつけた。
そこへ空から通りかかったのが、ゼウスの息子の英雄ペルセウスである。怪物メドゥーサの首を取った帰り道で、翼の生えたサンダルで空を飛んでいた。ローマの詩人オウィディウスは、このときの様子をこう描く。風に髪がなびき、目から温かい涙が流れていなかったら、大理石の像だと思っただろう。ペルセウスは見とれて、羽ばたくのを忘れそうになった。
名を尋ねられても、娘ははじめ黙っていた。両手が自由なら、恥ずかしさで顔を覆っていただろう。何度も問われ、ようやく自分の名と国の名、母が美しさを誇ったことを打ち明ける。言い終わらないうちに海が鳴り、怪物が迫ってきた。
嘆くばかりの両親に、ペルセウスは言った。泣いている暇はない。娘を私が救ったら、妻にもらいたい。両親は即座に承知し、国まで持参金につけると約束した。
ペルセウスは空へ舞い上がった。怪物が水面に映った影に襲いかかった隙に、その背に降りて剣を突き立てる。暴れる怪物の血しぶきで翼のサンダルが重く濡れると、岩場に足をかけて、何度も剣を刺した。浜は歓声に包まれ、娘は鎖を解かれた。

戦いのあと、ペルセウスは海の水で手を洗った。メドゥーサの首を砂で傷めないよう、海藻を敷いてその上に置くと、海藻は首の力を吸って石のように固くなった。海の女神たちが面白がって同じことを繰り返し、その種を海にまいた。これが珊瑚の始まりだと、オウィディウスは書いている。
ところが婚礼の席に、邪魔が入る。アンドロメダには、もともと父の兄弟という婚約者がいた。その男は仲間を集めてペルセウスを陥れようとしたが、ペルセウスがメドゥーサの首を掲げると、全員その場で石になった。
アンドロメダは夫とともにギリシャへ渡り、ギリシャの王家の母になった。その血筋から、やがて英雄ヘラクレスが生まれる。
この物語の出典: ヘロドトス『歴史』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』、小学館『デジタル大辞泉』
母カシオペイアがネレイス(海のニンフ)たちと美しさを競い、自分が誰よりも美しいと誇った。怒ったネレイスたちにポセイドンが加勢して洪水と怪物を送り、アンモンの神託が「娘を差し出せば救われる」と告げたため、ケペウスは民に迫られて娘を岩に縛った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウスでは、空から見たペルセウスは、風に髪がなびき涙が流れていなければ大理石の像だと思ったほどだった。罪は「母の舌」にあり、罰は不当だとはっきり書かれる。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アンドロメダにはもともとケペウスの兄弟ピネウスという婚約者がいた。ピネウスは救出後にペルセウスを陥れようとし、ゴルゴンの首で仲間もろとも石にされた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アンドロメダは北天の星座の名で、英語での記録は1667年から。etymonline は「(縛られた)岩を除いて一家そろって天に移された」とまとめている。アンドロメダ座にある渦巻銀河が、肉眼でも見えるアンドロメダ銀河。
ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)、小学館『デジタル大辞泉』 随時改訂
オウィディウスでは、ペルセウスは嘆く両親に「泣くのは後でもできる」と言い、自分の力で救えば妻にもらうと取り決める。両親は承知し、王国まで持参金に加えると約束した。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
怪物を倒したペルセウスが手を洗うあいだ、メドゥーサの首を海藻の上に置くと、海藻が首の力を吸って固くなった。海のニンフたちが面白がって繰り返し、その種を海にまいた。珊瑚が空気に触れると固くなるのはこのためだ、とオウィディウスは語る。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
名を問われたアンドロメダは初め黙り、手が自由なら恥じらって顔を覆っただろう、と書かれる。問い重ねられてようやく名と国と、母が美貌を誇ったことを打ち明ける。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ギリシャに来る前に生まれた長子ペルセスはケペウスのもとに残され、ペルシア人の祖とされる。ミュケナイではアルカイオス、ステネロス、エレクトリュオンらを生み、この系統からアルクメネ、そしてヘラクレスが出る。
ヘロドトス『歴史』 前430年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アポロドーロス2.4.3、『変身物語』4.738、ヒュギヌス64
アンドロメダ銀河アンドロメダ座にある渦巻銀河で、晴れた暗い夜には肉眼でも見える。デジタル大辞泉によれば距離は約230万光年、規模は銀河系と同等(アンドロメダ星雲とも)。星座アンドロメダの英語での記録は1667年からで、名は「夫を思う者」と説明される。
ケフェウス座 / ケフェイド変光星北の空のケフェウス座は、エチオピアの王の姿で、王妃カシオペイアの夫、王女アンドロメダの父にあたる。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、娘アンドロメダが英雄ペルセウスに救われて妻になったので、一家がそろっていつまでも残るように、父の王も星のあいだに数えられた。英語では15世紀半ばから星座の名として見える。語源辞典が「暗い」と書く目立たない星座だが、その名は天文学の用語に残っている。明るさが変わる星(変光星)の一種を、英語で Cepheid(ケフェイド)と呼ぶ。この種の星で最初に見つかったのが、ケフェウス座のデルタ星だったからで、1904年からの言葉である。
くじら座 / Cetusくじら座(鯨座)は日本語では「くじら」だが、もとは鯨ではなく海の怪物である。ローマ時代のヒュギヌスの『天文譜』によれば、海の神ポセイドンが王女アンドロメダを殺させるために送り込んだ怪物で、英雄ペルセウスに退治されたあと、その体の途方もない大きさと、倒したペルセウスの勇気をたたえて星にされた。同じ空には、岩につながれたアンドロメダも、救ったペルセウスも、王女の両親も、みな星座になっている。学名の Cetus はギリシャ語の kētos から来ていて、語源辞典によれば「鯨」とも「海の怪物」とも訳される、由来の分からない言葉である。この言葉は生物学にも残っていて、鯨の仲間をまとめた分類の学名 Cetacea(1795年から)は、ラテン語 cetus「大きな海の生き物」を経て、この kētos から作られた。怪物の名が、いまは鯨の仲間全体の名前になっているわけだ。