アポロドーロスは、メドゥサが美しさでアテナと張り合おうとしたため、アテナのために首を斬られたという説を「ある人々の言うところ」として付け加える。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Μέδουσα怪物
蛇の髪を持つメドゥーサ。カラヴァッジョの絵。 『メドゥーサ』 カラヴァッジョ 1595〜1596年Public domain
英語では、クラゲのことを「メドゥーサ」とも呼ぶ。垂れ下がる長い触手を、蛇の髪に見立てた名前だ。
見た者を石に変える、蛇の髪の怪物。その首を斬り落とした英雄でさえ、一度もまともに顔を見ていない。
メドゥサは、ゴルゴンと呼ばれる三姉妹の一人だ。『神統記』によれば、姉妹は大洋の流れの向こう、夜の果てに住んでいた。二人の姉は年も取らず死にもしない。メドゥサだけが、死すべき身に生まれついた。
後の神話集が描く姉妹の姿はすさまじい。頭には竜の鱗が巻きつき、口からは猪のような大きな牙がのぞく。手は青銅、背には空を飛ぶ黄金の翼。その顔を見た者は、みな石になった。

では、なぜメドゥサは怪物になったのか。ローマの詩人オウィディウスはこう語る。メドゥサはもとは求婚者が絶えないほどの美しい娘で、なかでも髪が見事だった。ところが海の神ポセイドンが、アテナの神殿で彼女を汚した。女神は顔を盾で隠して目をそむけ、罰を下す。美しかった髪は、醜い蛇に変えられた。一方で、メドゥサが美しさでアテナと張り合おうとしたからだ、という伝えもある。
きっかけは、島の王の意地悪である。母に言い寄る王は、邪魔な若者を遠ざけるため、ゴルゴンの首を持ってこいと命じた。ペルセウスには、伝令の神ヘルメスとアテナが付き添った。まず訪ねたのは、生まれたときから老婆の三姉妹。三人で一つの目と一つの歯を回し使いしている。ペルセウスはその目と歯を奪い取り、返してほしければ道を教えろと迫った。こうして行き着いたニンフたちから、空飛ぶサンダル、首を入れる袋、かぶると姿が消えるハデスの兜を借りる。ヘルメスからは、鋼の鎌を授かる。
海の果てにたどり着くと、ゴルゴンたちは眠っていた。ペルセウスはメドゥサの上に立ち、青銅の盾に映る姿だけを見ながら、アテナに手を導かれて首を斬る。

切り口からは、二つの命が飛び出した。翼のある天馬ペガソスと、もう一人の息子。どちらも、かつてポセイドンと交わって宿していた子である。

目を覚ました姉たちが追ってきたが、姿の消える兜のおかげで見つからない。首を袋に入れて砂漠の上を飛ぶあいだ、滴った血は地に落ちて蛇になった。リビアの砂漠に毒蛇が多いのはそのためだ、とオウィディウスは言う。
首は、死んでもなお力を失わなかった。ペルセウスは、怪物の生贄にされかけた王女アンドロメダを救い、婚約を横取りしようとした男たちを首で石に変える。島に戻ると、母を苦しめていた王とその取り巻きにも首を向け、一同をその場の姿のまま石にした。
役目を終えた首は、アテナに贈られた。女神はそれを自分の盾の真ん中に据える。『イリアス』でも、アテナの身を守る武具にはゴルゴンの恐ろしい首が付いている。
姉たちが妹の死を嘆いて上げた声を、アテナは笛の調べに写し取った、と詩人ピンダロスは書いている。英雄ヘラクレスが冥界に下ったときには、ほかの亡霊がみな逃げるなか、メドゥサの亡霊だけが立ち止まった。ヘラクレスは思わず剣を抜いたが、ヘルメスに、それはただの影だと教えられたという。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、ピンダロス『祝勝歌集』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
アポロドーロスは、メドゥサが美しさでアテナと張り合おうとしたため、アテナのために首を斬られたという説を「ある人々の言うところ」として付け加える。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウスでは、メドゥサはもとは求婚者が絶えないほどの美女で、特に髪が美しかった。ところが海の支配者(ネプトゥヌス=ポセイドン)にミネルウァ(アテナ)の神殿で汚され、女神は罰としてその髪を醜い蛇に変えた。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アポロドーロスの描くゴルゴンは、竜の鱗が巻きついた頭、猪のような大きな牙、青銅の手、黄金の翼をもち、見た者を石に変える。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
首を持って砂漠の上を飛ぶペルセウスから血が滴り、それが地面で蛇になった。リビュアに蛇が多いのはそのためだ、とオウィディウスは説明する。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
ヘラクレスが冥界に下ったとき、ほかの亡霊は逃げたがメドゥサの亡霊だけは残った。ヘラクレスは生きた相手のつもりで剣を抜き、ヘルメスに「ただの影だ」と教えられる。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
島の王ポリュデクテスはペルセウスの母に言い寄るため、彼を遠ざけようとゴルゴンの首を持ってくるよう命じる。ペルセウスはヘルメスとアテナに導かれ、グライアイ(ポルキスの娘たち)から一つの目と一つの歯を奪ってニンフの居所を聞き出し、翼のサンダル・袋・ハデスの兜を得る。ヘルメスからは鋼の鎌を受け取った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ペルセウスは眠るゴルゴンたちの上に立ち、アテナに手を導かれ、青銅の盾に映る姿を見ながら顔をそむけてメドゥサの首を斬った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
首はアンドロメダの元婚約者ピネウスら、セリポス島のポリュデクテスとその仲間を石に変えたのち、アテナに贈られ、女神はそれを盾の中央に据えた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ホメロスには「ゴルゴンの首」が何度も出てくる。アテナのアイギスに付いた恐ろしい首、アガメムノンの盾に描かれた睨む顔、ヘクトルの「ゴルゴンの目」、冥界でペルセポネが送ってくるかもしれない首。しかしメドゥサという名も、ペルセウスの物語も出てこない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
ヘシオドスでは、ゴルゴンはステンノ、エウリュアレ、メドゥサの三姉妹で、オケアノスの向こうの夜の果てに住む。二人は不老不死だがメドゥサだけが死すべき身で、ポセイドンと交わったのち、ペルセウスに首を斬られた。そこからクリュサオルと天馬ペガソスが飛び出す。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ピンダロスは、メドゥサが殺されたときゴルゴンたちが上げた嘆きの声をアテナが笛(アウロス)の調べに写し取った、と歌う。
ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半
ゴルゴンゾーラ / Gorgonzola(ゴルゴンとは無関係)青かびのチーズ、ゴルゴンゾーラ。頭に「ゴルゴン」が付いているので、見た者を石に変える怪物ゴルゴン(メドゥーサたち三姉妹)を思い浮かべたくなるが、関係はない。辞書は、名前はイタリアの地名ゴルゴンゾーラから来ていると説明している。その土地のチーズ、というだけの名前である。英語に入ったのは1878年。
medusa(クラゲ)英語 medusa は「クラゲ」。1758年にリンネが属名として用いたのが始まりで、垂れ下がる長い触手をメドゥサの蛇の髪に見立てたもの。メドゥサの名自体は「守る者・治める者」の意。
ヴェルサーチェのメドゥーサ / Versace Medusaイタリアのブランド、ヴェルサーチェ(ヴェルサーチ)のブランドの印になっている女性の顔は、見た者を石に変えるギリシャ神話の怪物メドゥーサである。公式サイトはメドゥーサを「ブランドの象徴」「ブランドのミューズ」と呼び、看板のバッグに付く金具は、ミラノの最初の本社の扉にあった飾り板と同じ意匠だと紹介している。看板の柄についても、ギリシャ風の文様と、古代ギリシャ人が南イタリアに築いた植民都市の装飾が、真ん中のメドゥーサを囲む柄だと説明する。ただし、なぜメドゥーサを選んだのかは、この2つの公式ページでは語られていない。