叙事詩『キュプリア』の断片では、ゴルゴンたちは大洋の中の岩の島サルペドンに住む恐ろしい怪物とされる。
作者不詳(スタシノスに帰される)『キュプリア』 前7世紀頃

Γοργόνες怪物
舌を出し、牙をむき、蛇の髪に囲まれたゴルゴンの顔。前540年ごろの屋根瓦の飾り。 『ゴルゴンの顔の屋根瓦の飾り(アンテフィクス)』 作者不詳(南イタリア、タラス〈タレントゥム〉のギリシャ人) 前540年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)
舌をべろりと突き出し、口の両端から牙がのぞく。まるい顔のまわりでは、髪のかわりに蛇がうねっている。前540年ごろ、南イタリアのギリシャ人の町で作られた屋根瓦の飾りだ。
これがゴルゴンの顔である。ゴルゴンといえばメドゥーサを思い浮かべる人が多いだろう。けれども本来は、三人姉妹の怪物をまとめて呼ぶ名前だ。見た者を石に変えるこの顔は、恐ろしいからこそ魔除けになり、武具や城壁に描かれた。
では、この三姉妹が古い詩や神話集でどう語られてきたのか、順に見ていこう。
ヘシオドスの『神統記』によれば、三姉妹は海の老いた神の夫婦から生まれた。すぐ上の姉には、生まれたときから白髪の老婆だったグライアイがいる。ゴルゴンが住むのは、世界を取り巻く大洋の向こう、夜の国に近い果ての地で、澄んだ声で歌うヘスペリデスのすぐそばだった。姉妹の名はステンノ、エウリュアレ、メドゥーサ。上の二人は死ぬことも年老いることもない。ただ末のメドゥーサだけが、死すべき身に生まれついた。
その姿を詳しく伝えるのは、のちの神話集を書いたアポロドーロスだ。頭には竜のうろこが巻きつき、猪のような大きな牙が生え、手は青銅で、背には空を飛ぶ黄金の翼がある。そして、その顔を見た者は石になった。
この怪物の首を取りに行かされたのが、ゼウスの息子ペルセウスである。母に言い寄る島の王に、ゴルゴンの首を持ってこいと命じられたのだ。ヘルメスとアテナに導かれた若者は、空を飛ぶサンダルと、かぶれば姿が消える帽子を手に入れ、大洋の果てへ飛んだ。三姉妹は眠っていた。殺せるのはメドゥーサだけ。ペルセウスはアテナに手を導かれ、顔を背けて青銅の盾に映る姿だけを見ながら、その首を落とした。首から飛び出したのが、翼のある天馬ペガサスと、のちに怪物ゲリュオンの父となるクリュサオルである。
目を覚ました二人の姉は、すぐにペルセウスを追った。けれども姿の消える帽子のせいで、彼を見つけることはできなかった。
首はそのあとも力を失わなかった。ペルセウスはそれを島の王たちの前で掲げて石に変え、最後に女神アテナに贈った。アテナはその首を盾の真ん中に据えた。ホメロスの『イリアス』でも、アテナが戦いに出るとき肩にかける神の武具アイギスに、恐ろしいゴルゴンの首が付いている。
首を斬られたあとの体からも、まだ力が引き出された。医術の神アスクレピオスは、アテナからゴルゴンの血管を流れていた血をもらい、左の血管の血は人を害するために、右の血は人を救うために使って、死者までよみがえらせたという。英雄ヘラクレスもアテナから、ゴルゴンの髪のひと房を青銅の壺に入れて授かった。城壁の上でそれを掲げれば、攻め寄せる敵が逃げていくというのである。
ゴルゴンの話が、すべてここまでそろっていたわけではない。ホメロスに出てくるのは「ゴルゴンの首」だけで、三姉妹の名前も、ペルセウスの冒険も出てこない。誰がいつ何を語ったのかは、下の注釈にまとめた。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ヘシオドス『神統記』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』
叙事詩『キュプリア』の断片では、ゴルゴンたちは大洋の中の岩の島サルペドンに住む恐ろしい怪物とされる。
作者不詳(スタシノスに帰される)『キュプリア』 前7世紀頃
ヘシオドスは住まいを、大洋の向こうの、夜に近い果ての地でヘスペリデスのそばとする。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アポロドーロスの描く姿は、竜のうろこが巻きついた頭、猪のような大きな牙、青銅の手、空を飛ぶ黄金の翼。見た者を石に変えた。蛇の髪で知られるのはメドゥーサだが、ここでは三人そろってこの姿である。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
首を斬られたメドゥーサの二人の姉は目を覚ましてペルセウスを追ったが、姿を消す帽子のために見つけられなかった。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
アスクレピオスはアテナからゴルゴンの血管の血を授かり、左側の血を人を害するために、右側の血を救うために使って、死者をよみがえらせた。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ヘラクレスはアテナから、青銅の壺に入ったゴルゴンの髪のひと房を授かり、テゲアの王の娘に渡した。城壁から三度掲げれば、前を見ないかぎり敵は逃げる、と言って。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ゴルゴンの頭は、守護の印として武具や城壁などにしばしば描かれた。
小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』 1984-94年刊、随時改訂(2026年9月閲覧)
日本語では「ゴルゴン」のほか「ゴルゴー」(単数形から)、複数形の「ゴルゴネス」の形でも辞典に載る。三姉妹のうち上の二人には目立った神話がないため、ゴルゴンといえばメドゥーサを指すことが多い。
平凡社『改訂新版 世界大百科事典』 2007年改訂(2026年9月閲覧)、小学館『デジタル大辞泉』 随時改訂
ヘシオドスでは、ゴルゴンは海の神ポルキュスとケトの娘たちで、グライアイの妹にあたる。名はステンノ、エウリュアレ、メドゥーサ。大洋オケアノスの向こう、夜に近い果ての地に、ヘスペリデスと並んで住む。上の二人は不死で年も取らないが、メドゥーサだけは死すべき身だった。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
ホメロスの『イリアス』に出てくるのは「ゴルゴンの首」だけで、三姉妹の名もペルセウスの冒険も語られない。アテナのアイギスに付いた首や、アガメムノンの盾に描かれた睨む顔として登場する。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
『ギリシア神話』
アポロドーロス 著/高津春繁 訳(岩波文庫)
世界のはじまりから英雄たちの冒険、トロイア戦争までを順にまとめた神話集。
『神統記』
ヘシオドス 著/廣川洋一 訳(岩波文庫)
世界のはじまりと神々の生まれ、ゼウスが神々の王になるまでを語るヘシオドスの詩。
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