『神統記』では、ケトがポルキュスとのあいだに、生まれつき白髪の頬の美しい娘たちを産み、神々も人間も「グライアイ(老婆たち)」と呼ぶ。名はペンプレド(よい衣の)とエニュオ(サフラン色の衣の)の二人だけ。一つ目の話も歯の話も出てこない。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃

Γραῖαι怪物
ペルセウスとグライアイの姉妹。エドワード・バーン=ジョーンズの作。 『ペルセウスとグライアイ』 エドワード・バーン=ジョーンズ 1892年Public domain
三人で、目がひとつ。歯もひとつ。それを順番に手渡しながら使っている老婆の姉妹がいる。生まれたときから白髪で、名前もそのまま「老婆たち」を意味するグライアイと呼ばれた。
では、目と歯を回し使いする姉妹グライアイが、どう語られてきたのか、見ていこう。
グライアイは、海の老神と海の怪物の女神のあいだに生まれた娘たちである。同じ両親から生まれた姉妹には、怪物ゴルゴンたちがいる。その一人が、見る者を石に変えるメドゥーサだ。
この姉妹がいちばん活躍するのは、英雄ペルセウスの物語である。メドゥーサの首を取るよう命じられたペルセウスは、まず、ゴルゴン退治に必要な道具を持つニンフたちの居場所を知らなければならなかった。それを知っているのが、グライアイである。アポロドーロスの伝えでは、ペルセウスは神々に導かれて姉妹のもとへ行き、その目と歯を奪い取った。ローマの詩人オウィディウスは、目が手から手へ渡される隙に手を差し入れた、と描いている。返してほしければ、ニンフたちの居場所を教えよ。姉妹が道を教えると、ペルセウスは目と歯を返した。ニンフたちのもとで、彼は空を飛ぶサンダルと、首を入れる袋と、姿を消す兜を手に入れる。
ところが、いちばん古い伝えであるヘシオドスの『神統記』には、目の話も歯の話も出てこない。そこでは姉妹は二人だけで、生まれつき白髪だが頬の美しい娘たちとされている。名前も、「よい衣の」と「サフラン色の衣の」という、美しい響きのものだった。
アテネの悲劇作家アイスキュロスの劇では、姉妹は三人になる。白鳥の姿をした古い乙女たちで、ひとつの目を共有し、歯も一本しか持たず、太陽も月も照らさない土地に住んでいるという。ローマの詩人オウィディウスでは、また「ひとつの目を分け合う二人の姉妹」に戻っている。
目と歯を回して使う奇妙な老婆の姿は、少しずつ付け加えられて、今の形になっていったのである。
この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
『神統記』では、ケトがポルキュスとのあいだに、生まれつき白髪の頬の美しい娘たちを産み、神々も人間も「グライアイ(老婆たち)」と呼ぶ。名はペンプレド(よい衣の)とエニュオ(サフラン色の衣の)の二人だけ。一つ目の話も歯の話も出てこない。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃
アイスキュロス『縛られたプロメテウス』では、ポルキュスの娘たちは三人になり、白鳥の姿の古い乙女たちで、一つの目を共有し、歯も一本しかない。太陽も月も見下ろすことのない土地に住むとされる。
アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』 前5世紀
アポロドロスでは、三人の名はエニュオ、ペンプレド、デイノ。生まれたときから老婆で、一つの目と一つの歯を順番に回して使っていた。ペルセウスは目と歯を奪い、有翼のサンダル・キビシス(袋)・冥王の兜を持つニンフたちの居場所を教えれば返すと迫った。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
オウィディウス『変身物語』では、ペルセウス自身が語る話として、アトラス山のふもとの入口に「一つの目を分け合う双子の姉妹」ポルキスたちが住み、目が手渡される隙に手を差し入れて奪ったとされる。ここでは二人に戻っている。
オウィディウス『変身物語』 8年頃
アポロドーロスでは、ペルセウスはグライアイの目と歯を奪い、ニンフたちへの道を教えれば返すと迫った。教わると目と歯を返し、ニンフたちから有翼のサンダル、袋(キビシス)、ハデスの兜を得た。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ホメロスの二つの叙事詩にグライアイは出てこない。『イリアス』に出る「グライア」はボイオティアの地名で、別物。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃
グライアイとゴルゴンは同じ両親から生まれた姉妹。ヘシオドスでは、グライアイの名を挙げたすぐ後に、オケアノスの向こうの夜の果てに住むゴルゴンたち、ステンノ、エウリュアレ、そして不死でないメドゥーサが続く。
ヘシオドス『神統記』 前700年頃