ギリシャ神話の地図
ゼウス持ち主アテナ持ち主アポロン使い手アキレウス守られた者ヘパイストス作り手ペルセウス献上者メドゥサ首ヘクトル守られた者

アイギス

αἰγίς物品

ミサイルから艦隊を守る「イージス艦」。艦に積まれた防空システムの名「イージス」は、開発した会社の説明によれば、ゼウスが用いた魔法の盾にちなんで付けられた。英語の aegis は、18世紀の終わりから「庇護」「後ろ盾」の意味でも使われている。ギリシャ語でアイギス。神々の王ゼウスと、その娘の女神アテナが持つ防具である。

ホメロスの詩で、ゼウスはいつも「アイギスを持つ」ゼウスと呼ばれる。けれど、このアイギスは、腕にはめて矢を受け止める盾とは少し違う。『イリアス』のアテナは、戦場に出るとき、房のついたアイギスを肩にかける。そのまわりを冠のように取り巻くのは「潰走」。中には「争い」と「武勇」と「血も凍る突撃」がいて、恐ろしい怪物ゴルゴンの首まで付いている。別の場面でアテナが携えるアイギスには、黄金の房が百本垂れ、その一本一本が牛百頭に値した。年をとることも、死ぬこともない防具だという。作ったのは鍛冶の神ヘパイストスで、ゼウスが人間たちを敗走させるために与えたものだった。

胸をおおう金色の防具の真ん中に、舌を出したゴルゴンの顔が描かれている。
胸をおおう金色の防具の真ん中に、舌を出したゴルゴンの顔が描かれている。『パラス・アテナ』 グスタフ・クリムト 1898年 ウィーン・ミュージアムPublic domain

アイギスは、揺さぶることで力を発揮した。トロイア勢を勝たせようとしたゼウスは、山を雲で包み、稲妻を放って雷を轟かせ、アイギスを振るってギリシャ軍を敗走させた。ゼウスからこれを預かったアポロンが、アイギスを動かさずに持っているあいだは、両軍の矢や槍が互いに当たって兵が倒れていく。ところが、アポロンがギリシャ兵の顔をまっすぐ見すえ、アイギスを揺さぶって大声をあげると、兵たちの心はくじけ、戦う気力を失った。

守るためにも使われた。親友を討たれたアキレウスが武具もなく塹壕のそばに立ったとき、アテナは彼の肩にアイギスをかけ、頭のまわりに金色の雲をまとわせて、体から炎を燃え立たせた。そのアキレウスに討たれ、戦車で引きずられたトロイアの王子ヘクトルの亡骸を、傷つかないよう黄金のアイギスで包んで守ったのはアポロンだった。

『オデュッセイア』のクライマックスにも、アイギスは現れる。帰ってきたオデュッセウスが館の求婚者たちと戦っていると、アテナが天井の高みから、人を滅ぼすアイギスを掲げた。求婚者たちは正気を失い、春の日にアブに追われる牛の群れのように、広間を逃げまどった。

アイギスという名前は、山羊と関係があるという。歴史家ヘロドトスは、アテナ像のまとうアイギスは、北アフリカのリビュアの女たちが着ていた、房のついた山羊革の衣を写したものだと書いている。ギリシャ人は、彼女たちの衣の呼び名を借りて、アイギスと呼ぶようになったのだと。

ローマ時代の星座の本は、この山羊の話を神話に仕立てている。赤子のゼウスを育てた山羊の乳母がいた。成長したゼウスがティタンの神々と戦おうとしたとき、神託が下る。勝ちたければ、山羊の皮とゴルゴンの首で身を守って戦え。そのとおりにして勝利したゼウスは、のちにこのアイギスを娘アテナに譲ったという。アテナがゴルゴンの首を防具の真ん中に据えたのは、英雄ペルセウスが怪物メドゥーサを退治して、その首を女神に捧げたからだとも伝えられる。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘロドトス『歴史』、ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』、ロッキード・マーティン『AEGIS, Shield of the Fleet(ロッキード・マーティン社の沿革記事)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

ヘロドトスは、アテナ像の衣とアイギスはリビュアの女たちの装いを写したもので、リビュアの女の房つきの山羊革の衣「アイゲア」の名が「アイギス」になったとする。違いは房が蛇ではなく革紐であることだけだという。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

ヒュギヌス『天文譜』が伝える説では、ゼウスの乳母は太陽神の娘アイクス(「山羊」)で、顔が恐ろしいため大地がクレタの洞窟に隠していた。ティタンとの戦いの前に、山羊の皮とゴルゴンの首で身を守れと神託を受けたゼウスは、そうして勝ち、のちにこのアイギスをミネルウァ(アテナ)に与えた。

ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』 1〜2世紀

ローマ以後の語り

アポロドーロスでは、ペルセウスがメドゥーサの首をアテナに与え、アテナはそれを盾の真ん中に据えた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

英語 aegis の「庇護」の意味は1793年から。ギリシャ語 aigis はヘロドトスが山羊(aix)と結びつけた語で、山羊革の盾だったからとされる。アテナのアイギスは、ゴルゴンの首を付け、蛇で縁取った短い山羊革の肩掛けで、正確な使い方は分かっていないという。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

アメリカ海軍の艦載防空システム「イージス」は、もと Advanced Surface Missile System(ASMS)と呼ばれた計画が、ゼウスの魔法の盾にちなんで改名されたもので、1969年に始まった。1981年に巡洋艦タイコンデロガが最初のイージス巡洋艦になった。

ロッキード・マーティン『AEGIS, Shield of the Fleet(ロッキード・マーティン社の沿革記事)』 2026年9月閲覧

もっと詳しく

『イリアス』のアイギスは、房のついた、肩にかける防具。まわりを「潰走(ポボス)」が冠のように取り巻き、「争い(エリス)」「武勇」「突撃」と、ゴルゴンの首が付いている。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

アテナが携えるアイギスは、年老いることも死ぬこともない貴重な防具で、黄金の房が百本、一本ごとに牛百頭の値打ちがあった。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

アイギスは、ヘパイストスが人間を敗走させるためにゼウスに与えたものだと『イリアス』は言う。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

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アイギスは揺さぶって敵を恐れさせる道具として働く。ゼウスはイデ山を雲で包み、稲妻と雷とともにアイギスを振るってアカイア勢を敗走させる。アポロンが動かさずに持つあいだは両軍の飛び道具が当たり続けたが、アカイア勢の顔を見すえて振り、叫ぶと、彼らは戦意を失った。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

アテナは素手のアキレウスの肩にアイギスをかけて金の雲と炎で包み、アポロンは引きずられるヘクトルの亡骸を黄金のアイギスで覆って傷から守った。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

『オデュッセイア』の求婚者殺しの場面で、アテナが天井からアイギスを掲げると、求婚者たちは正気を失ってアブに追われる牛のように逃げまどう。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

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出来事・場所・物

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イージス艦 / Aegisイージス艦は、多数の航空機やミサイルを同時に追いかけて迎え撃てる「イージス・システム」を積んだ軍艦のこと。システムを開発した米ロッキード・マーティン社によれば、艦対空ミサイル・システムの計画は、ゼウスの魔法の盾にちなんで AEGIS と名前を改め、1969年に始まった。ところが日本の百科事典は、イージスを「女神アテナの盾」と書いている。どちらが正しいのか。『イリアス』によれば、アイギスは鍛冶の神ヘパイストスがゼウスに与えた防具で、アテナもこれを肩にかけて戦場に出る。つまり両方とも神話のとおりである。海上自衛隊の最初のイージス艦「こんごう」は1993年に完成した。英語の aegis は1793年から、比喩として「保護」の意味でも使われている。

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このページの出典(8件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前430年頃ヘロドトス『歴史』
  5. 1〜2世紀ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』
  6. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  7. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』
  8. 2026年9月閲覧ロッキード・マーティン『AEGIS, Shield of the Fleet(ロッキード・マーティン社の沿革記事)』