ギリシャ神話の地図
ゼウス育て子レア母クロノス脅威アイギス皮ヘラクレス角を折った者クレタ島土地
山羊アマルテイアの乳を飲む赤子のユピテル(ゼウス)と、それを囲む人々。ジュリオ・ボナゾーネの作。

アマルテイア

Ἀμάλθεια神

山羊アマルテイアの乳を飲む赤子のユピテル(ゼウス)と、それを囲む人々。ジュリオ・ボナゾーネの作。 『山羊アマルテイアの乳を飲むユピテル』 ジュリオ・ボナゾーネ 1531〜1576年 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

果物や花があふれ出る、大きな角。古くから実りと豊かさのしるしとされてきたこの角を、「豊穣の角」、ラテン語でコルヌコピアという。もとをたどると、赤子のゼウスを育てた一匹の山羊、アマルテイアの角に行き着く。

では、ゼウスを育てたこの山羊と、豊かさを生む角の話を見ていこう。

ゼウスの父クロノスは、わが子に王座を奪われるという予言を恐れ、生まれた子を次々に呑み込んでいた。母の女神レアは末の子を身ごもると、クレタ島へ渡り、洞窟でゼウスを産んだ。アポロドーロスによれば、赤子はニンフたちに預けられ、ニンフたちはアマルテイアの乳で赤子を養った。そのあいだ、武装した若者たちが洞窟の前で槍を盾に打ち鳴らし、赤子の泣き声がクロノスの耳に届かないようにした。

ギリシャの詩人カリマコスは、この場面をいっそう愛らしく描いている。ニンフが赤子を金のゆりかごに寝かせ、ゼウスは山羊アマルテイアのたっぷりした乳房に吸いつき、甘い蜂の巣をほおばった。その周りでは若者たちが、盾をがんがん打ち鳴らしながら戦いの踊りを踊っていた。

アマルテイアが山羊だったのか、山羊を飼うニンフだったのかは、語り手によって違う。ローマの詩人オウィディウスは、ニンフのアマルテイアが、クレタのイデ山の森に赤子のゼウスを隠したとする。彼女は一匹の美しい雌山羊を飼っていた。双子の子山羊の母で、空に向かってそり返る角を持ち、ゼウスの乳母にふさわしい乳房をしていた。この山羊が神に乳を与えた。

ある日、山羊が木に角をぶつけて、片方を折ってしまった。ニンフはその角を拾い上げ、摘みたての草で巻き、果物をいっぱいに詰めて、赤子のゼウスの口もとへ運んだという。やがてゼウスが父の王座に就くと、育ての恩を忘れず、乳母の山羊と、実りをもたらしたその角を星に変えた。空に昇る山羊の星がそれだと、オウィディウスは書いている。

ローマ時代の星座の本は、もっと多くの言い伝えを並べる。山羊の名がアマルテイアで、ある王の娘たちが乳の出ないのを補うためにこの山羊をあてがった、という話。ゼウスの乳母は、体は美しいのに顔があまりに恐ろしいため洞窟に隠されていた太陽神の娘で、その名は「山羊」を意味した、という話もある。この乳母の山羊の皮が、のちにゼウスが身を守る防具アイギスになったという。

豊かさの角には、英雄ヘラクレスの話もある。ヘラクレスは妻を得るため、雄牛の姿になった川の神と組み打ちをし、その角を一本へし折った。オウィディウスの『変身物語』では、川の神自身がこう語る。水のニンフたちが、その角に果物と香りのよい花を詰めて神々に捧げた。豊かさの女神は、私の角のおかげで豊かになったのだ、と。アポロドーロスは少し違う結末を書く。川の神は、自分の角を取り戻す代わりにアマルテイアの角を差し出した。望めば食べ物でも飲み物でもいくらでも出てくる角だったという。

この物語の出典: カリマコス『讃歌』、オウィディウス『祭暦』、オウィディウス『変身物語』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

こういう風にも語られている

カリマコスの『ゼウス讃歌』では、アドラステイアが赤子を金のゆりかごに寝かせ、ゼウスは山羊アマルテイアの乳房を吸い、パナクラの蜂の蜜の巣を食べた。クレテスは武具を打ち鳴らして戦いの踊りを踊った。

カリマコス『讃歌』 前3世紀前半

オウィディウス『祭暦』では、アマルテイアはクレタのイデ山で赤子のユピテルを隠したナイアス(水のニンフ)で、双子の子山羊の母である美しい雌山羊を飼っていた。その山羊が神に乳を与えた。

オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)

ヒュギヌス『天文譜』は諸説を並べる。オレノスの娘アイクスとヘリケがゼウスの乳母だったという説、メリッセウス王の娘たちが乳の出ないのを補うためにアマルテイアという雌山羊をあてがったというパルメニスコスの説、テミスとニンフのアマルテイアが育て、アマルテイアの飼う山羊が乳を与えたというムサイオスの説。子山羊たちも星にされたという。

ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』 1〜2世紀

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ヘラクレスはデイアネイラを得るため、雄牛の姿の河神アケロオスと組み打ちして角を折る。オウィディウスでは、ナイアスたちがその角を果物と花で満たして捧げ、「善き豊穣(ボナ・コピア)は私の角で豊かになった」とアケロオス自身が語る。

オウィディウス『変身物語』 8年頃

アポロドーロスでは、アケロオスは自分の角を取り戻すために、代わりにアマルテイアの角を差し出した。このアマルテイアはハイモニオスの娘で、ペレキュデスによれば、その雄牛の角は望む食べ物や飲み物をいくらでも出す力を持っていた。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

アポロドーロスでは、レアはクレタのディクテの洞窟でゼウスを産み、クレテスとメリッセウスの娘のニンフ、アドラステイアとイデに預けた。ニンフたちはアマルテイアの乳で赤子を養い、クレテスは槍を盾に打ち鳴らして泣き声をクロノスから隠した。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

『祭暦』では、山羊が木に角をぶつけて折り、ニンフが角を新しい草で巻いて果物で満たし、ユピテルの口もとへ運んだ。王となったユピテルは乳母と「実りの角」を星にし、角は今もその主の名で呼ばれるという。

オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)

オウィディウスは、5月1日の夜に昇る「オレノスの山羊(カペラ)」の星を、ゼウスに乳を与えた褒美として天を得た山羊だとする。

オウィディウス『祭暦』 8年頃(未完)

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ヒュギヌスが伝える一説では、ゼウスの乳母は太陽神の娘アイクスで、恐ろしい顔のため大地がクレタの洞窟に隠していた。ゼウスはティタンとの戦いで神託に従い、この山羊の皮とゴルゴンの首で身を守って勝ち、その皮(アイギス)をのちにアテナに与えた。

ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』 1〜2世紀

英語 cornucopia(1590年代)は、後期ラテン語 cornucopia、古典ラテン語 cornu copiae「豊かさの角」から。もとは赤子のゼウスを育てた山羊アマルテイアの角を指した。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

今の言葉に残る

アマルテア(木星の衛星)/ Amalthea木星の衛星アマルテアは、1892年9月9日に見つかった。ガリレオが見つけた4つの大きな衛星より内側を回る、いびつな形の小さな衛星で、NASAによれば太陽系でいちばん赤い天体であり、太陽から受け取るより多くの熱を出しているらしい。名前はフランスの天文学者フラマリオンの提案で、生まれたばかりのゼウスを育てた乳母アマルテイアから取られた。神話では、赤ん坊のゼウスに乳を与えた山羊とも、その山羊を飼うニンフとも語られる。木星(ジュピター)はゼウスにあたるので、そのすぐ近くを養い親の名を持つ星が回っていることになる。

コルヌコピア / cornucopia(豊穣の角)果物や花があふれ出る角の飾り、コルヌコピア(豊穣の角)。ラテン語の「豊かさの角」がもとで、実りと豊かさのしるしとして古くから使われ、英語には1590年代に入った。語源辞典によれば、もとは赤ん坊のゼウスを育てたアマルテイアの山羊の角のことだった。オウィディウスの『祭暦』では、アマルテイアはゼウスを隠して育てたニンフで、その飼っていた山羊が乳を与えた。山羊が木にぶつけて角を折ると、ニンフは角に果物を詰めてゼウスの口もとへ運んだ。のちに王となったゼウスは、乳母とその「実りの角」を星にしたという。

星座になった話

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このページの出典(6件)
  1. 前3世紀前半カリマコス『讃歌』
  2. 8年頃(未完)オウィディウス『祭暦』
  3. 8年頃オウィディウス『変身物語』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 1〜2世紀ヒュギヌス(偽ヒュギヌス)『天文譜』
  6. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』